ピッピッピッピッピッ
「起きて」
唯「う……んん…」
「ほら、起きて」
唯「…………は!」
「やっと起きたね」
唯「ひぃ……お化け!!」
「お化けなんて酷いよぉ…」
唯「ち、近付かないで!」
「酷いよ……」
唯「だって……だって……」
「気持ち悪いでしょ?この姿」
唯「…………………」
「ねぇ…夢はね無意識が生み出す見たいって思ったイメージなんだよ」
唯「え…………?」
「アナタは長い夢を見ている…凄く長い夢、今も見てる」
「…その長い夢を見て行く内にアナタは無意識にこう思い始めた」
唯「な、何言ってるの?」
「私を知りたい」
「アナタは無意識の内に自分を知りたいと思っていた」
「私に何が起こったのか?私は何故こんなにも長い夢を見ているのか?」
唯「だから…何を言ってるの!」
「無意識の内にアナタは考えていた…そしてアナタは夢を見た」
「今までの楽しい夢とは違う夢を」
「目が見えなくなった夢、手足が動かなくなった夢、ギー太が黒焦げになった夢、体がまるで火で焼かれてるように熱いくなった夢」
唯「………………」
「そして…アナタのお家が火事になる夢」
「アナタは見たいと思った…自分の事を」
「……ずっと楽しい夢を見てた方がよかったのにね」
唯「…これも夢なの?」
「夢だよ……でもこの私の姿は現実」
唯「…………え?」
「ほら、アナタの左手で私の体を触って…」
唯「………………」
「右手や両足が無い私の体を触って」
「私の見えない目をそっと撫でて焼けた皮膚を優しく包みこむように触って」
唯「………………」
「ねぇ…アナタは私なんだよ」
唯「………う、嘘だよ」
「私はアナタだから怖がらずに触れられるはずでしょ?」
唯「嘘だよ!こんな……こんな姿……お前は私なんかじゃない!」
「酷いよ……」
唯「嘘だよ……私がアナタだなんて」
「嘘じゃないよ……信じて」
唯「嫌だよ……嫌だよっ!」
「………………綺麗なアゲハ蝶だね」
唯「…………え?」
「ほら、上に沢山いるよ」
「アナタの病室にも一匹迷い込んでるアゲハ蝶がいる」
唯「病室……?」
「私はアゲハ蝶を逃がす事が出来ないから…きっと憂が逃がしてくれると思う」
唯「憂が…?憂は生きてるの?」
「うん、私達の大切な妹だもんね」
唯「…………」
「耳をすまして見て」
唯「……え?」
「聞こえるからみんなの声が」
唯「みんなの声?」
「そう、みんなの声…耳をすましてみて」
唯「…………………」
紬「唯ちゃん…なの?」
澪「うぅ…………」
律「澪!…おい澪が気絶したぞ!」
梓「こんなの……唯先輩じゃないです……」
紬「この人は…唯ちゃんじゃないわ……唯ちゃんじゃないわ……」
律「あ、あぁ……」
「聞こえた…?」
唯「………………」
「アナタを始めて見た時のみんなの声だよ」
唯「………………」
「私を始めて見た時のアナタみたいな反応をみんながしてた」
唯「もう……やめて」
「まるでお化けを見るみたいな顔をしてたと思う」
唯「もうやめてよ!」
「あれから一度もお見舞いに来て無いよ……憂が話してた」
唯「もうアナタの話しは聞きたくない……聞きたくないよぉ……」
「そっか……じゃあまた夢を見るといいよ」
唯「…………………」
「いい夢…見られるといいね」
「バイバイ私」
……
今日もお姉ちゃんの夢を見た。
私の目を見てニッコリと笑って私に抱き着いて来る夢。
両足を動かして私に近付いて両手で力強くギュッて抱きしめてくれたね。
お姉ちゃんのふっくらした綺麗な肌がとっても気持ち良かった。
この夢が現実になればいいな。
叶わないって分かってるんだけどね。
病室のベットに寝ているお姉ちゃん。
残ってる左手だけを強く握る。
目を覚まして欲しい。
例えこんな姿でも私はお姉ちゃんの事が大好きだ。
真っ黒に焼かれたギー太もまだ大切に取ってある。
憂「…………蝶々だ」
綺麗な赤と黒の模様をしたアゲハ蝶。
何度も何度も窓に体当たりして外に出ようと頑張っている。
何度も何度も窓は閉まっているのに何度も何度も体当たりしている。
私は見取れていた。
綺麗な羽の蝶々に私はただただ見取れていた。
私がアゲハ蝶を外に出してやろうと席を立つと、アゲハ蝶の羽はちぎれてしまった。
下へ落ちて行く蝶々を見ていた。
片方の羽がちぎれた蝶々はもう片方の羽をパタパタと動かしながら落ちて行く。
私は何も出来なかった……。
蝶々は床に落ちる。
長い間もがいていたけど…蝶々はやがて動かなくなった。
私は何も出来なかった……。
END
最終更新:2010年07月11日 21:17