*



携帯の操作にも慣れ始めた数日後、部室に行けば唯と律が互いの携帯を見せ合っていた。

「何してるんだ?」
「あ、澪ちゃん!」
「おいーっす」

「澪ちゃん、見てみて!」


黒いタイツを履いた足でこちらへ近づいてきた唯。
ほらほら、と近すぎる程近づけてきた唯のピンク色の携帯電話には、やたらとジャラジャラ大きなストラップがついている。
なんか…大きな熊の人形に、リボンやら何やらがくっついていて、携帯本体よりも絶対に重たいであろうストラップ。

「なんじゃこりゃ」
「ストラップだよ!」
「見れば分かるけど…重たくないか?これ」
「かわいくない?」
「…うぅーん…」
「あ、やっぱり澪ちゃんの趣味じゃないかぁ」
「だから言ったろ?澪はそういうゴテゴテしたの嫌いなんだよ」

私の話をしている筈なのに、律は唯しか見ていない。
こんなに近くにいるのに絡まない視線が、少しだけ歯がゆいと思った。


「で?それがどうかしたのか?」
「あ、昨日ね、りっちゃんと駅近くのお店で見つけたの」
「うん」
「せっかく携帯お揃いにしたから、ストラップもお揃いにしようか!って、りっちゃんが」
「…へぇ」

ちらり、と見えた机の上。律の携帯にも、同じストラップがついている。

「ムギちゃんと澪ちゃんの分も買おうって言ったら、りっちゃんがね」
「『澪はこういうの嫌いだから、買っても付けないかもしれないぞ』って言うから」

「…それで見せてきたのか」

「うん。やっぱり嫌い?これ」

「……」

「絶対付けたくない??」

「……」

唯の大きく垂れた目が、暗に“一緒に付けよう”と言っていた。


唯と一緒に遊んでた事なんか知らなかった。
唯とお揃いのストラップを買おうとしてた事も知らなかった。
きっと、「今日暇だから遊ぼうか」なんてメールをして、二人で遊んだのかもしれない。

胸の中がまたモヤモヤした。
小学生並みの、くだらない嫉妬だと気付いてしまう。


「…澪ちゃん?」


唯の心配そうな声が聞こえてきて、少しだけ泣いていた自分に気付いた。

「…、ごめん、何でもないから」
「澪ちゃん!」

発作的に飛び出した部室。
走り出した私を追いかけようとした唯を静止して、律も部室を飛び出してきた事なんか、後ろを振り返らない私には分からない。


「ムギちゃん、どうしよう」
「……」
「私も行った方がいいかなぁ、りっちゃんだけで大丈夫かなぁ」
「大丈夫よ」
「でも…」
「夫婦喧嘩は二人で解決しなきゃ」
「ふーふげんか?」
「そう、子供の出る幕じゃないの」

部室に残された唯とムギのそんなやりとりも、私は知らない。




*


屋上に近い、階段の踊り場。
上履きが床を擦る音がよく響くここで、私は、私以外の足音に初めて気付いた。
振り返るのと、律が私の腕を掴んだのはほとんど同時だと思う。

「律…」

随分久しぶりに律の顔を近くで見た気がした。
痛みを感じるほど、ぎゅうと握り込まれている腕から伝わってくる律の体温が、温かい。

こういう時の律は、何も言わない。
普段うるさいくらい喋るくせに、じっと黙ったまま私の目を見つめて動かない。
子供みたいな嫉妬で泣きだして、部室を飛び出した私は、律の視線を受け取る事が出来ない。恥ずかしい。
だから、口を開けば、自分でもよく分からない言葉ばかりが出てくる

「…り、律がいけないんだ!唯とばっかり遊んで…練習だって、全然しないし…」
「口ばっかりで、お菓子ばっかり食べて…」
「唯と遊んでた事だって知らなかったし、遊ぶ時間あるなら、私を誘って練習すればいいじゃん」

様子を伺うように律を見たら、何だか少しだけ呆れたような顔をしてた。
はぁ、と盛大にこぼされたため息に、頭へ血が一気に流れた気がした。


「律なんか嫌い!いっつもそうやって、私を馬鹿にして!」
「……」
「嘘ばっかり吐くじゃない!携帯だって、お揃いだねって言ってたのに!」
「……」
「唯とストラップだってお揃いにしちゃうし!メールだって、電話だって私にはくれないし!」
「……」
「子供だなぁって思ってるんでしょ、分かってるよ、どうせ私は子供だよ」
「……」
「律はズルイ!いつだって…」
「……」

自分でも訳が分からなかった。
頭に血が上り過ぎて、少しだけ、呼吸も苦しい。
ぼろぼろ涙がこぼれてるのは、悲しいからじゃなくて、息が苦しいからだと思う。

「…私ばっかり、私ばっかり好きなのってズルイ」

「……」

「ズルイよ」

掴まれていない方の腕で、目元を隠し覆った。
律の顔を見るのが怖いし、恥ずかしい。きっと、困った表情をしているから。



ふいに、顔を隠している腕を掴まれた。
強引に腕を取られて、律が私を覗きこむ。律は、眉を下げて笑っていた。

「…り、」

両腕を律に取られたまま、引き寄せられた腕。
一瞬バランスを崩しそうになったけど、すぐに律が支えてくれた。

ちゅ、という可愛い音はしなかったけど、少しだけの時間、律の唇が私の唇に触れる。
一瞬何が何だか分からなくて、キスが終わった後、なんとも間抜けな顔で律を見つめてしまった。

「なんちゅう間抜け面してんだよ」

ぶっさいくな顔、とふざけたように律が言う。

「ほら、行くよ。澪」
「……」
「練習しなきゃ、時間がもったいないだろ?」

ぎゅう、と片手を繋がれて、階段を降りるように促される。促されたまま、まるで宙を歩くように階段を下った。







何か書きたい場面全部書いたらすっきりしちゃったね
もうこれで強制終了するね



最終更新:2010年07月11日 22:48