※誌面

こうして俺たちは、Death Devilの皆さんに毎週末しごかれて、着実に力を伸ばしていった。

月日はあっという間に過ぎていき、気が付けば、TRF本番が翌日に迫っていた。

憂「いよいよ明日だね、お兄ちゃん」

唯「なんか今から緊張するよ……」

憂「お兄ちゃんなら、きっと大丈夫。今夜は早く寝て、体調バッチリで本番に臨んでね」

ピンポ-ン

唯「誰だろう、こんな時間に?」


和「こんばんは、唯」

唯「和……。こんな時間にどうしたの?」

和「緊張してガクガクしてるアンタの顔を笑いに来たのよ」

唯「あぁ、そう。じゃあ気が済むまでバカみたいに笑って、さっさと帰れ」

和「ふふっ、冗談よ。でも唯が緊張してるのは本当みたいね」

唯「……初めてだよ、こんな気分」

和「唯はこれまで、部活の試合みたいなものを経験した事がないから」

唯「……軽音部に入らなかったら、このドキドキする感じ、ずっと知らなかっただろうな」

和「そうかもね」クスッ

唯「……軽音部に入って、本当によかった」

和「明日は私も見に行くから、頑張ってね」

唯「ありがとう、楽しみにしといて。出演するバンドの中で、俺たちが一番すごいライブをやってやるから」

和「どこから来るのよ、その自信は……」

唯「うるせぇ、それだけ練習したんだよ!」



そして、TRFの本番当日がやって来る。
俺たちの夢、武道館に辿り着くための、最初のステージが幕を開ける。



次号最終回!




※読者

唯「ああああああああああああああああ」

律「ああああああああああああああああ」

澪「ふ、二人とも、落ち着いてくれ!」

唯「だってだって、次号最終回って!」

律「ジャンプに載るのが最後だなんて!」

梓「やっぱり中盤以降は、10週打ち切りに向けた急展開だったんですね……」

紬「そしてまた、まんがタイムきららに戻って、私たちの素敵な日々が始まるのね……」


……

唯「大好き~♪ 大好き~♪ 大好き~を~あ・り・が・とう♪」

澪「その曲のラスト、いかにも最終回っぽいからやめろ」

律「本当に……最終回、なんだな……」

梓「短い間でしたが、ジャンプで連載された事で、たくさんの夢と妄想をもらいました」

紬「思えば、けいおん!を少年誌で連載しようというのが間違いだったのかもしれないわね」

唯「という訳で、第十話にして最終回です」

梓「ページ数が若干増量されてるのは、編集部のせめてもの情けですか」

律「それじゃ、どうぞ」



※誌面

律「よう、昨日はちゃんと眠れたか?」

澪「緊張のせいか、よく眠れなかったよ」

唯「実は、俺も……」

律「おいおい、そんなんで大丈夫かよ?」

紬「そう言ってる律君も、目の下にクマが出来ているみたいだよ?」キラリンッ

律「うっ、バレた……」

唯「ムギだけは普段とまったく変わらないな……」

律「まぁ、泣いても笑っても」

唯「……」ジッ

澪「……」ジッ

紬「……」ファサッ

律「今日がTRF本番だ!」


唯「今日のプログラムは、どうなってるのかな。全部で何組出演するとか、俺たちの演奏は何番目とか」

澪「あっ、この紙に書いてあるみたい」ピラッ

紬「今日は中高生バンドが8組登場。僕たちの出番は最後にしてもらったよ」ファサッ

澪「してもらった、って……」

律「何にせよ、大トリを飾れる訳だ。観客の度肝を抜いてやろうぜ!」

唯「……じゃあ、この『HTT』って書いてあるのが俺たちなの?」

澪「バンド名なんて決めてなかったよね、確か?」

律「ごめん、エントリーの時に俺が勝手に決めた」

澪「また律はそういう事をする!」

唯「それで、HTTってどういう意味?」

律「『ハイブリッド・トレース・タイム』の略だ。ものすごいコピーバンド、って意味」

唯「……」

澪「……」

紬「……正直に言わせてもらうと、あまりセンスを感じないね」ファサッ

律「な、何だと!?」

唯「アルファベットだけで書かれてるから、まだ助かったよ」

澪「後で話し合って、こじつけでHTTの意味を考えようか」

律「……」イジイジ

唯「涙目になるなよ、律……」


和「あっ、唯たちがいたわよ」

憂「本当だ。お兄ちゃん!」

唯「和、憂。来てくれたんだ」

憂「当然だよ。観客席から見てるからね!」

和「せいぜい、ミスしないようにね」

律「いいなぁ、唯は見に来てくれるような妹がいて」

澪「聡君は律の勇姿を見に来たりしないの?」

律「そんなの、あいつが来る訳が……」

聡「あれっ、兄ちゃん?」

律「……なんで聡が来てるの!?」

澪「まさか、本当に見に来てくれたなんて……」

聡「澪姉さんもいるって事は、兄ちゃんたちも今日出演するの?」

澪「私たち『も』って、まさか……」

聡「俺のバンド『MUSTANG』も、今日はエントリーしてるからね!」

唯「MUSTANGって、HTTのひとつ前に出るバンドだ……」

純「おーい、聡。早く行くぞ?」

聡「わかった! あれがMUSTANGのベースの純。その隣にいるのがギターの……」

唯「……中野梓!?」

梓「聡、置いて行っちゃうよー?」

聡「今行くってば! じゃあ兄ちゃん、また後でな」

律「お、おう……」


唯「中野梓のバンドが、俺たちのひとつ前に出演する……」

唯「……勝負だな。俺が中野梓をコピーできるか、中野梓を超えられるか」

律「そのバンドのドラムが、よりによって弟の聡……」

律「……勝負だな。聡の倍速リズムを刻めるかどうか」

澪「私たちだって、負けられないよ」

紬「その通りだね」ファサッ



さわ太「よう、お前ら。調子はどうだ!?」

唯「あっ、さわちゃん!」

澪「Death Devilの皆さんも!」

さわ太「まさか、緊張して眠れませんでしたなんて言わないだろうな」

律「」ギクッ

さわ太「あれだけの特訓を乗り越えてきたんだ。お前らなら、絶対に一番すごいパフォーマンスが出来るさ」

紬「ありがとうございます、先生」キラリンッ

さわ太「ほら、もう時間だ。そろそろ楽屋に移動しろよ?」



ガヤガヤ...

「間もなく、本日のイベントを開演いたします……」




※読者

唯「これまでの話に出てきたキャラクターが、勢揃いだね!」

律「いかにもジャンプの最終回前半らしい展開じゃないか」

梓「10話打ち切りだから、勢揃いと言っても、そこまで数が多い訳じゃ……」

紬「私としては憂和分を補給できたから少し満足だわ」

澪「誰も聞いてないぞ、ムギ……。ところで、律のネーミングセンスはどうなんだ」

唯「ハイブリッド・トレース・タイム……」

律「確かにそう思うけど、澪にネーミングセンスを批判されるのは複雑な心境だな」



※誌面

律「こうやって他のバンドの演奏を聴いてみると、どれも上手だな」

唯「中高生限定のイベントとはいえ、適当な覚悟で来てるヤツは誰もいない」

律「その中でも、俺たちが一番だけどな!」

澪「……次のバンドはMUSTANGだよ」

紬「唯君、しっかり聴いておくんだよ」キリッ

唯「任せてよ……」ゴクリ



ザワザワ...

「あれ、中野梓だよな……」

「あいつもこのイベントに参加してたのか……」

梓「……最初の曲、いきます」


ジャジャ-ン
ブォ-ン
ドコドコドコ

唯(す、すごい!!)

唯(この重厚なサウンド、本当に3ピースバンドか!?)

唯(いや、今は余計な事を考えるな。覚える事に集中するんだ……)

律(聡のヤツ、いつの間にあんな上手くなったんだ)

律(軽音部に入る前の俺だったら、実力で追い越されてたな)

律(けど、今の俺は負けないぞ。死ぬほど特訓したんだから……)



ワァァ...

梓「みんな、ありがとう!」

澪「……出番だね」


ザワザワ...

「次のバンドで最後だな」

「もう今日は俺、MUSTANGを見られて満足しちゃったわ」

「このHTTってバンドは、何を演奏するんだろうな?」

「曲の難易度でいったら、さっきのMUSTANGが一番すごかったか?」

「あっ、ボーカルが女の子なんだ」



唯「……」コクリ

澪「……」コクリ

紬「……」キリッ

律「ワン、ツー、スリー、フォー!」


梓「次のバンド、聡のお兄さんがドラムなんだっけ?」

聡「そうだよ。何の曲をやるんだろう?」

純「あれ、このイントロは……」

聡「えっ、嘘、だろ……」

梓「あり得ない……。だってこの曲は、今日初めて披露した新曲だよ!?」



ワアアァァァ...

「これ、さっきと同じ曲だよな!?」

「しかもアレンジが全然違う。キーボードのアドリブなのか……」

「まさかボーカル、即興で歌ってるのか?」

「あのドラム、滅茶苦茶な細かさでリズムを刻むな!!」

「すげぇ、ギターソロも完璧だぞ!!」


ジャッ!

律「はぁ、はぁ、はぁ……」

唯「はぁ、はぁ、はぁ……」

紬「ふぅ……」ファサッ

澪「みんなー、ありがとー!!」

ワアアアアアアアアアッッッ

律「すごい……」

唯「歓声が、止まらない……」

紬「ステージから見えるこの風景、最高だね……」キラキラ

唯「バンドって、最高だな!!」

澪「本当に、本当に、ありがとー!!」

ワアアアアアアアアアッッッ

聡「……まだまだ敵わないな、兄ちゃんには」

梓「……こんなすごいバンド、見たことない!!」


TRFでは、HTTが観客の話題を独占した。

律の作戦通り、俺たちのパフォーマンスにみんな度肝を抜かれたのだ。

それは観客席にいた人たちに限った話ではなく、出演したバンドの面々も同じだった。

その衝撃が、一人のギタリストに、ある決断をさせた。それは……



梓「新入生の中野梓です」

梓「桜ヶ丘高校に入学したら、軽音部の皆さんと一緒にバンドをやりたいと、ずっと思ってました」

梓「これから、よろしくお願いします」ペコリ



新しいメンバーを加えて、俺たちはまた一歩、武道館という夢に近付いた気がする。

いつか、夢を叶える日まで。軽音部のみんなと、ロケットで突き抜けていきたい。



けいおん! 終





※読者

唯「終わった!!」

律「あぁ、終わってしまった……」

澪「思いのほか、いい最終回だったな」

紬「確かに、いい話だったわ」

唯「イイハナシダナ-」

梓「小出しにする予定だったネタを、全部詰め込んだ結果ですかね」

律「短期で打ち切られたマンガにありがちな事だな」

梓「最後のまとめ方も、いかにも、って感じですね」



律「つまり、けいおん!をジャンプで連載したらこうなるって訳だな」

澪「編集部の方針に合わせて、色々おかしな展開になったあげく、打ち切りか……」

紬「特に女の子が少なくなっちゃうのは致命的よ!」

梓「私としては、カップリングできそうな男キャラが増えて嬉しかったんですが……」

律「それでも打ち切られたら意味がないだろ?」

唯「そうだね。けいおん!はジャンプで連載しない方がいいって事が、よくわかったよ」

唯「でもなんで掲載誌がまんがタイムきららなんだろーね?」



おわり



最終更新:2010年07月16日 22:25