澪「んっ……!」
律「うわ、なんだこりゃ。こんなに柔らかいのか」
澪「……律のも柔らかいよ。ていうか、知らなかったの?」
律「え?」
澪「感触。自分の触った事なかった?」
律「……あるけど、他人のは初めてだし。自分のだと特になんとも思わなかったけど、澪のだと、なんていうか……触ってて嬉しくなる」
澪が顔を赤らめた。
その顔はいつもの澪で、律を困惑させたあの顔ではなくなっていた。
それは律の不安を和らげ、良心を欺いた。
澪「ちょっと動かすから……」
澪の指が律の性器をなぞる。
律「んくっ……あ、これ、やっばい……あっ、あっ……!」
律の割れ目をいじっていると、硬く丸い部分がある事に澪は気づいた。
律「あっ!あ、んっ……あっああっ!」
律は咄嗟に自分の口を手で塞いだ。
なんつー声出してんだ私。
歌い方やドラムの叩き方と違って、この声って誰かに教わらなくても出ちゃうんだな。
澪「ここが気持ちいいの?」
澪はそう言って、その部分を摘む。
律「やっ……ああっ、ま、待って!声出る!声出ちゃうからっ!」
澪は嬉しそうに触り続けた。
澪「出せばいいじゃん」
律「おまっ……これ、けっこう、ん、んっ……は、恥ずかしいんだぞ!」
律も澪の下着の中で手を動かし、すぐに自分が今触られているのと同じ場所を見つけた。
澪「あっ、ああんっ……!」
律「……ここ、気持ちよくなるトコなんだな」
澪「あ、はぁ……そう……みたい……。すご、い……な、ココ」
それから、二人はお互いのその場所を触りあい、身体を震わせて声を上げ続けた。
向き合った二人の顔はくしゃくしゃになり、その顔がさらにお互いを刺激した。
澪「り、つ……汗かきす……ぎ……っ」
律「澪も……あっ!ああっ!おま、えも……だろっ……」
律が澪の肩に顔を埋めて言った。
律「そろそろ……入れよっ……か……?」
澪「うん……」
律はぐちゃぐちゃになった澪の性器をなぞり、指の感覚を頼りに、穴の位置を確かめた。
律「ここ、だよな?」
澪「うん。多分……」
澪も律の穴に指先を当てた。
律「変だよな……。私たち、身体に穴が開いてんだぜ?」
澪「言われてみれば変かも……」
律「痛いんだよな?ここに入れると」
澪「らしいな」
律「怖くない?」
澪「ちょっと怖い」
律は、ふうっと息を吐くと、澪に身体をくっつけた。
柔らかさと、温かさと、それから汗のべたつきが、二人を安心させた。
向き合って座ったまま、二人は片手でお互いの身体を抱いた。
まず、澪が律の穴の中へ指を入れていった。
律「っ……たぁ……!」
人差し指のちょうど第二関節まで入れたところで、律が眉間にしわを寄せてた。
澪の指が止まる。
澪「だ、大丈夫……?」
律は無理矢理笑顔を作って答えた。
律「だい……じょうぶ、だから……そのまま……入れて……。私も、入れる……からっ」
澪の指が、さらに律の奥へと潜る。
律も、澪の穴へ指を入れていく。
澪「いっ……たっ……!」
律「っ……く……」
指は互いの身体の中に沈む。
深海に潜るように、ゆっくりと。
身体の真ん中を刃物で両断されるような痛みの中で、澪は今まで感じたことのない幸福感に包まれた。
同じ痛みを共有する事で、律との関係がさらに深まり、神聖なものに昇華されていくような気がした。
律「はいっ……た?」
澪「う、うん……ゆ、び……全部、入ったよ……」
泣きながら澪は答えた。
律「いって……ぇ。なんだよこれっ……想像してたのより、ずっと痛い……」
澪「で、も……これで、私たち、変わった……よね?」
律「そう、かな……」
指を入れたまま、痛みが引くのを二人は待った。
澪「不思議な感じ……。私の指、包まれてるのに、包んでるような気がする」
律「あ、わかるかもそれ」
澪「けっこう締め付けられるんだな」
律「うん。こんなところに、男の人のって本当に入るのかな」
澪「ムリだよな……」
律「うん、絶対ムリ。死ぬだろそれ」
そう言って、二人はまるで音楽準備室のティータイムの時の様に笑いあった。
澪「あ、これ何?」
澪は指先を動かして訊ねた。
律「いっ……た!ま、まだ動かすなよ!」
澪「あ、ゴメン。いや、指先になんか当たるんだけど」
律「えぇ?私のほうは当たってないぞ?」
澪「でもほら、ここ、一番奥になんかぷるぷるしたのがある」
澪はまた指先を動かし、感触を確かめた。
律「っ、あ……わ、わかんないけど……子宮の入り口かなんかじゃ……ない……?」
澪「でも、律の指には私の当たってないんだろ?」
律「人によって穴の深さが違うんじゃないの……?」
澪「あ、なるほど。不思議だな……」
そう言ってから、澪は律の口に舌を入れた。
ひとしきり口の中の感触を楽しんだあと、澪は律の額におでこをくっつけて、言った。
澪「……そろそろ動かしてみる?」
律は黙って頷いた。
どちらからともなく、性器に埋まった指を動かし始めた。
律「うぁっ……!い、いって……」
澪「痛っい……いった……ぁ」
涙ぐみながら、律が言った。
律「や、やめよっか……?」
澪は大粒の涙を流しながら、首を振って言った。
澪「やめない……。やめないで……」
指を動かし続けると、律の身体に絡めた澪の右手が律の肌に爪を立てた。
律も痛みを耐えるために、澪の身体を引っかいた。
歯を食いしばりながら、二人はお互いを痛めつけ合った。
少しして、澪の声色が変わった。
澪「ん、あ……は……ああっ……」
律「どう……したの……?」
澪の呼吸が不規則になる。
澪「ああ……あっ……き、気持ちよくなってきたかも……」
律「うそ?私っ……ま、まだ痛いんだけど……」
澪「あっ、あっ、あっ……」
澪の口から声が漏れる。
二人は指を動かし続けた。
澪「あっ!り、律っ!ああっ……んっ、んぁっ」
律「み……お……」
快感の波に飲み込まれた澪に、幼い律との記憶の映像が断片的に蘇った。
律。
律。
りっちゃん。
大好きなりっちゃん。
もっと動いて、もっと掻き回して。
怖がらないから。
頑張るから。
澪「り……つ、……りっちゃん……私、痛いんだよ……。
でも、ちゃんと我慢してるんだよ……。それをわかってね……」
子供と大人の間で、澪の「女」は揺れた。
律と過ごした時間の繭の中で育った「女」が、今まさに孵化しようとしていた。
澪の髪の一本一本がしなやかに揺れ、飛び散る汗と重なって部屋の照明の光を乱反射する。
その光景は律の目に、どこか非現実的なものとして映った。
律「は……あっ……」
澪に少し遅れて、律の身体にも快感が走り始めた。
小波のようにゆっくりと、しかし確実に、それは律の身体に広がっていく。
澪「あっ!あっ!あっ!うぁ……っ!」
次第に澪の声が大きくなっていく。
律「んっ……そ、そんなに気持ちいいの?」
澪「あっ、ああぁっ!は、ぁん……ふあっ……あああっ!りっちゃん!りっちゃん……っ」
澪は答えなかった。答えられなかった。
澪は快感に耐え切れず、律の中に埋もれた指を動かすのも忘れ、喘ぎ続けた。
律は激しくなる澪の嬌声に合わせて、指を動かし続けた。
澪「あっ、ああああっ!んんっ!あっ……ん、はっ、あっ!」
快感は肉体を越え、声となって外界に溢れ出した。
澪の右手が、律の身体を強く抱く。
律「す、ご……すっげぇ濡れてる……」
澪の愛液は溢れ、律が指を動かすたびに、ぐちゅぐちゅと音を立てた。
澪「はぁ……あ……りっちゃ……あっ、あっ、ああああっ!!」
一際大きく澪は鳴き、身体を震わせた。
律「み……お?」
澪の身体は力を失い、重心を律の身体に預けた。
律「なに?ど、どうしたの?」
澪「はぁ……はぁ……はぁ……っく……」
澪は荒く呼吸をするだけで、何も答えない。
律が澪の穴から指を抜くと、指先は血と愛液で滑った。
澪の下着はずぶ濡れになっていて、その下のベッドにも染みが広がっていた。
律「澪?」
澪はゆっくりと律の顔を見た。
澪「す……ご……かった……。気持ち……よかったよ……」
涙を拭い、鼻をすすり、澪は言った。
生温かい澪の吐息が、律の顔にかかった。
精魂尽きた澪は、律の手を握ると、ベッドに身体を横たえ、快感の残滓に浸りながら、目を閉じた。
それは浅い眠り。
夢と呼ぶには意図的で、現実と呼ぶには不可避なもの。
澪『りっちゃん』
幼い澪が、律を呼ぶ。
律は、その澪の長い黒髪に鋏を入れ、泣きながら切り落とす。
澪は笑顔とも泣き顔ともつかない表情で嗚咽を漏らす律を眺めている。
律が澪の頬に触れる。
澪の顔が変わる。
中学生の澪、高校生の澪。
律は刻一刻と変わる澪の顔に恐怖して、顔を逸らす。
澪『律』
すると今度は澪の声がするりと律の中に入ってくる。
律は血まみれの両手で耳を塞ぎ、この世界を消し飛ばそうと、叫んだ。
律が目を覚ますと、下腹部に鈍い痛みが走った。
律「あぁ。くそ……やっぱ夢じゃないのか」
律は隣で寝息を立てる澪の穏やかな顔を眺めた。
かつて見た、かわいい顔でも、綺麗な顔でも、かっこいい顔でもない。
女の顔がそこにあった。
最悪だ。
私は澪とセックスをした。
友達なのに。
私が止めなきゃいけなかったのに、勢いと快楽に私は負けた。
こんな嘘っぽい、可笑しくて、タチの悪い現実は初めてだ。
律が澪の脇腹に目をやると、赤い腫れはもう引いていた。
繋いだままの手を、律はそっと離した。
律は身体を起こし、両手で顔を覆った。
私たちの関係はまるっきり変わってしまった。
もう親友でも、幼馴染でもない。
恋人でもない。
それ以外の何か、わけのわからない関係になってしまった。
唯やムギや梓にも隠さなきゃいけない。
これからどうすんだ。
律は澪を起こさないようにゆっくりベッドから起き上がると、窓の外を見た。
まだ暗かったが、朝の気配は忌々しくもすぐそこまで来ていた。
もう、澪とただ一緒にいるだけでは満足できない。
寝転んでマンガを読んでいればいいだけの関係じゃない。
私も澪も、会うたびにお互いの身体が欲しくなる。
私の部屋、澪の部屋、もしかしたら部室でも。
律は服を着ると、静かに部屋を出た。
洗面所に入り、鏡に映る自分を見た。
誰だよこいつは。
一丁前に前髪を垂らして、首筋に赤い痕をいっぱいつけて、これじゃまるで……。
律「まるで女じゃん……」
律は洗面台に並んだ自分の化粧品の中身を、全てぶちまけた。
置きっぱなしで湿気を含んだゴムで、前髪を束ねた。
律は、澪の渇いた血と愛液のついた指の匂いを嗅ぐと、顔をしかめた。
それから蛇口を捻り、何度も何度も洗い流したが、律の心には鉄錆のような罪の意識がこびり付いたままだった。
律は家を出ると、深く息を吸った。
午前四時の半端な匂いが、肺を満たし、血球に乗って身体を巡り、子宮に至る。
ちょっとだけ、ここを離れよう。
夜が夢の幕を下ろす前に。
朝が現実を引き連れてくる前に。
律はポケットの中のiPodを取り出し、イヤホンを耳にはめた。
再生ボタンを押すと、澪に会う前まで聴いていた曲の続きが流れた。
フィルだらけの長いアウトロ。
帰ってきた時の、澪への言い訳は……友達に呼ばれてたとかそんなんでいいかな。
律「はっ。他に言いようがあるだろ」
律は自嘲気味に笑うと、不浄の罪を携えた左手をポケットに隠して、歩き出した。
始発。
始発のバスは何時だっけ。
律澪編 完
最終更新:2010年07月19日 22:54