唯「そしたらねー、りっちゃんがね……」

和「律らしいわね……」

唯「それだけじゃなくってムギちゃんが……」

和「えっ、ムギがそんなことを?ち、ちょっとイメージ出来ないかも」

久しぶりの唯と二人っきりの帰り道。
そのせいか話のタネは尽きることなく、ずっと話し込んでいる。
……私は主に聞き役だけどね。

憂「あっ、お姉ちゃん!おかえり~!」

和「あら……」

唯「うい~!ただいま~!」

憂「和さんもお帰りなさい」

和「ええ、ただいま」

話に夢中になっていたせいか、唯の家の前まで来ていたことに気が付かなかった。
下手すると通り過ぎちゃってたかもしれない……危ない危ない。
私までぼけぼけになってはいけない。


和「それじゃあ私は帰るわね」

もう少し唯と話していたかったけど、仕方ない。

唯「え~、もっと和ちゃんと一緒にいたいよお……。そうだ!和ちゃん、今日はウチに泊まって行きなよ!」

和「ええっ?」

唯「うん、それがいいよ!ね~ね~、いいでしょ~?」

和「でも……」

正直唯の提案は嬉しい。
でもいきなりだと迷惑をかけてしまうだろう。


憂「和さんならいつでも大歓迎ですよ!今日はカレーなので夕飯の心配もいりませんし、ぜひいらして下さい!」ニコッ

和「う……」

唯「ほら、憂も喜んでるよ!お泊りけって~い♪」

和「はあ……分かった、お言葉に甘えさせてもらうわ」

仕方ないなあ、と困った風を装う。
本当はすごく嬉しいんだけど、ね。
……私も素直じゃないなあ。


……

唯「ごちそうさま~♪」

和「ごちそうさま。相変わらず料理が上手いわね、憂は」

唯「でしょ~?えっへん!」

和「なんであんたが威張るのよ」

憂「えへへ……お粗末様です」

唯が憂を巻き込んでのゲーム対決を行ったため、遅めの夕食。
甘いカレーにポテトサラダ、野菜スープといった憂の手料理に舌鼓を打った。
私も料理覚えようかなあ。
出来ないってことはないんだけど、憂と比べちゃうとやっぱりね……


唯「うい~、あいす~」

憂「はいはい、ちょっと待ってね」

和「あっ、ダメよ。夕方に食べたでしょ?お腹壊しちゃうから、せめてもう少し時間を空けなさい」

唯「え~、大丈夫だよ~」

和「いいから。ほら、今から宿題してお風呂に入ればちょうどいいくらいだから……」

唯「宿題!?……って、あったの……?」

和「はあ……」

本日何度目か分からないため息。
あったわよ、数学と英語……おまけに古典もね。
この子、私がいなかったら間違いなくやらなかったわね……


和「さて唯、私も付き合うから勉強するわよ」ガシッ

唯「えええ~!?」

和「後片付けくらいは手伝いたかったけど……ごめんね、憂」

憂「いえ、気にしないで下さい。それと……お手柔らかにお願いしますね?」

和「うふふ……善処するわ」

唯「ふえええ~ん……」

ズルズル、と。
苦笑いを浮かべた憂に見送られながら唯を連行する。
もうすぐテストだし、みっちり鍛えてやろう。


……

唯「お、終わったあ……」

和「お疲れ様、唯」

唯「あうう~、こんなに頭使ったの久しぶりだよ~……」

時刻は午後11時は少し回ったところ。
宿題を自力で(私が色々と教えてあげたりはしたけど)やり遂げた唯は、力を使い果たしてテーブルに突っ伏してしまっている。

和「ほら唯、そのままだと寝ちゃうわよ。早くお風呂に入らないと……」

唯「もう動けないよ~」

和「何言ってるの、汗かいてるでしょ?」

唯「和ちゃん、私をお風呂場まで連れてって~。そして一緒に入ろうよ~」

和「それはダメ」

唯「え~、何で?」

和「二人で入ると狭いし、あんたがはしゃぐから無駄に長くなっちゃうのよ。私は後でいいから、早く行って来なさい」

唯「ちぇ~、和ちゃんのけち~!」ブー

和「駄々こねないの」

分かりやすいふくれっ面をしたまま着替えを用意し、お風呂場へ向かう唯。
ホント変わらないわね、昔っから。

唯「……ねえ、今度時間がある時は一緒に入ってくれる?」

出て行ったと思ったら、戻って来てヒョイッと顔だけ覗かせて問いかける唯。
まったくこの子は……


和「はいはい、今度ね」

唯「えへへえ、約束だよ!」

にぱっと笑い、先ほどとは打って変わって機嫌良く駆け出していく。
何がそんなに嬉しいのやら。

……まあ私は、そんな唯の姿を見れるのが嬉しいんだけど、ね。


……

和「さあ寝るわよ。明日も学校あるんだから」

時は過ぎて午前1時。
お風呂から上がった後も三人で話していたら、こんな時間になってしまった。

唯「じゃあ和ちゃん、」

和「嫌よ、暑い」

唯「一緒に寝よ……って早あっ!?」

当り前よ。
何年一緒にいると思ってんの。
分かるわよ、あんたが言い出しそうなことくらい。


唯「たまには一緒に寝ようよ~!和ちゃ~ん……」グイグイ

和「引っ張らないで。え~と、私はリビング辺りで眠らせてもらうわ。憂、布団ある?」

憂「ありますけど……その……」

和「どうしたの?」

憂「私も和ちゃんと一緒に寝たいかな~、なんて……」

和「……」

まさか憂までとは。
呼び方も昔のに戻っちゃってるし……
いや、そういえばこの姉妹は基本的にスキンシップ大好きの似た者同士だったわね……


唯「わ~い!じゃあリビングで三人で寝ようよ!」

憂「うん、すぐ準備するね!」

和「あ、ちょっ……もうっ」

唯「えへへへ~♪」

和「はあ……」

脱兎の如く駆け出す憂。
満面の笑顔を浮かべる唯。
……私には、この二人を悲しませるようなことは出来そうもない。

和「……唯?」

唯「な~に、和ちゃん?」

和「……せめてくっついて来ないでね、暑いから」

唯「えへへ、りょ~かいですっ」

和「その言葉、一応は信用させてもらうわ……」

憂「持って来ました~」

和「おっと、手伝うわ。ほら、唯も」


……

憂「こうやって三人で寝るの久しぶりだね~」

唯「そうだね~」

電気を消した真っ暗なリビング。
私が真ん中で右側に唯、左側に憂が横になっている。

和「二人とも、早く寝なさいよ?」

憂「は~い」

唯「分かってるよ和ちゃ~ん♪」

和「きゃっ!?こ、こら抱きつかないで!」

憂「きゃっ、だって!和ちゃん可愛い~♪」

和「もう……からかわないの!ほら唯も離れて!」

唯「ふぁ~い、おやすみ~」

憂「ごめんなさ~い♪おやすみ、和ちゃん」

和「はいはい、おやすみ」



憂「……」

和「……」

コッチ、コッチと時計の針の音だけが静寂に包まれた部屋の中を響き渡る。
もう二人とも寝ちゃったかな?

唯「すう……すう……」

憂「ん……」

チラッと唯、それから憂の様子を伺う。
二人とも微かな寝息を漏らしているし、眠ってしまったようだ。
まったく、寝付きいいんだから……


和「……」

時計の音、唯と憂の寝息。
それらが混ざり合い、独特のハーモニーを奏でる。
それを聞いているうちに、私も何だか……

和「……ん」

おやすみ、二人とも。
明日は今日やり残した生徒会の仕事、やっちゃわないと、ね……

和「……」


……

……暑い。
暑すぎる。
燃えるような暑さだ。
いや、熱いと言ったほうが正確だろうか?

和「んん……っ!」

おまけに身動きも取れない。
何かに体が圧迫され、熱気が逃げていかない。
熱い、熱い、熱い……!

和「……はっ!?」


唯「うう~ん……暑いよお……」ギュー

憂「むにゅ……和ちゃ~ん……」ギュー

和「……」

……熱いと思ったら。
私の体は唯と憂によってサンドイッチにされていた。

和「はあ、こうなるのが分かっていたから一緒に寝るのは遠慮したかったのに……」

というか体温高すぎなのよ、この子たち。


和「ふう……」

起き上がるのは無理そうなので、予め用意しておいたタオルで汗を拭い、水分を補給する。
ついでに唯と憂も。
まあこの二人は私みたいに両側から抱きつかれてたわけじゃないから、私ほど汗はかいていないけど。

憂「すう、すう……えへへ」

唯「ん……和ちゃ~ん」

汗が引いてすっきりしたからなのか、さらに強く抱きしめてくる二人。
それにしても、唯だけじゃなく憂までこんなに甘えてくるなんてね……


和「……」ピッ

扇風機を強に変える。
唯がクーラーを苦手としている以上、これに頼る他はない。

唯「ん……♪」

憂「あ……♪」

涼しい風が届いたのか、眠ったまま笑顔になる。
……でも、私はもう眠れそうにない。


和「目も覚めちゃったし、今から寝たら寝坊しそうね……」

夜明けも近い午前6時前。
二人の寝顔でも眺めながら、時間を潰そう。
唯と憂の、可愛い寝顔を。
その対価として、抱き枕になることや汗を拭いてあげることくらいは引き受けよう。
二人が目を覚ます、少しの間だけだけどね。

和「ふふ……。まったく、唯だけかと思ってたのに……」

そっと二人の頭を撫でる。
ふわふわの髪ね、気持ちいい……


唯「すう、すう……」

憂「んにゅ……くう……」

和「……」

昨日一日のことを思い出す。
唯とのお茶、梓ちゃんとの会話、憂の手料理、唯との勉強……
そして、今の二人の寝顔。
……うん、楽しかった。
それにしても……

和「手のかかる妹たちね、まったく……」


終わり♪



最終更新:2010年07月21日 22:21