ディレクター「いいぞ! もっとやれ!」
AD「俺にはどちらも良純さんに見えます」
マネージャー「俺も、長年一緒にやってきてるが見当もつかない……」
律「わかるか?」
澪「何言ってるんだ! 軽音部の仲間だろ?」
梓「わかるに決まってます!」
律「だよな!」
律「じゃあ、せーので言おう」
律「せーのっ!」
「左!」 「右!」 「右の人!」
澪「……」
梓「……」
律「バラバラじゃん……」
紬(やっぱり……私なんて……)
紬(何年かしたら皆の中では『ケーキとお茶の人』くらいの認識でしかなくなるんだわ、きっと……)
唯「それでは、正解の発表です!」
紬(唯ちゃんだって……、わかるはずないわ……)
唯「正解は……」
紬「……」
唯「こっちが、ムギちゃんだよね」
紬「あっ」
唯「でしょ?」
紬「うん、正解」
唯「えへへ~」
紬「でも、どうせあてずっぽうでしょ?」
紬「結局は二分の一の確率なんだから……」
唯「違うよ、ムギちゃん」
紬「えっ?」
唯「見間違えるわけないよ」
唯「だって、大切な軽音部の仲間なんだもん」
唯「何千回、何万回やったってムギちゃんを当ててみせるよ」ニコッ
紬「唯ちゃん……」キュン
律「なぁ」
澪「ん?」
律「唯も私たちと一緒に石原良純をムギだって勘違いしてたよな」
梓「それは黙ってた方が……」
紬「でも、なんで唯ちゃんには見分けがつくの?」
唯「眉毛だよ」
紬「眉毛?」
唯「私ね、夢のなかで何度かムギちゃんの眉毛にお世話になってるんだ」
紬「そうだったの」
唯「ムギちゃんの眉毛を見てると白いご飯が欲しくなるんだ!」
唯「でも、良純さんの眉毛からは伝わってこない……」
良純「ほっとけよ! 別にいいだろ、たかが眉毛なんだから」
紬「じゃあ、親の事とか家の事とか関係なしに、個人として唯ちゃんは私を認識してくれてるのね」
唯「親? 家? そんなもの関係ないよ。ムギちゃんはムギちゃんだよ!」
紬「嬉しい……、唯ちゃんありがとう!」
良純「よくわからないけど、なんか良かったね」
紬「はい、良純さんもご迷惑をおかけしました」
良純「ああ、いいよいいよ」
紬「あの、私、さっき勝手に天気予報しちゃって……」
良純「そうなんだ。じゃあ、俺が本物ってやつを見せてあげるよ!」
良純「どうも、私が本物の気象予報士の石原良純です」
良純「明日は南から暖かく湿った空気が流れこんできますので
全国的に昼から夜にかけて雨になるでしょう。お出かけの際は傘をお忘れなく!」
良純「こちらからは以上です!」
律「ムギ、ごめんな、気づいてやれなくて」
紬「ううん、いいのよ」
澪「でも……」
紬「昔からコンプレックスでしかなかったこの眉毛が私の存在を示すものだってわかったから」
紬「それに、気づかせてもらったから。もう気にしてないわ」
梓「ムギ先輩……」
律「だけど、それじゃあ、私たちの気が済まないんだ!」
澪「そうだ! 何か罪滅しをさせてくれないか?」
紬「えっ? でも……」
梓「いいから、何でも言って下さい!」
紬「そう? じゃあ……」
翌日 平沢家
唯「そりゃ! りっちゃんくらえ!」ピュッ
律「うわっ!? 冷てっ! 水鉄砲とは卑怯な!」
唯「あはははは~」
澪「ムギ、こんなことで良かったのか?」
紬「うん! 私、一度でいいから庶民の狭苦しい家の庭で
しょぼいビニールプールを広げて水浴びするのが夢だったの~♪」
梓「そうなんですか……」
唯「でも、ごめんね。庭じゃなくてウッドデッキで」
紬「いいのよ、唯ちゃん。この狭さがぴったりなんだから」
律「庶民の感覚からいったら、このスペースでも充分過ぎる広さだと思うけどな」
澪「それに、柵が目隠しになって外から覗かれる心配もないからちょうど良いかもな」
律「うちの庭じゃあ、前の道通る人から丸見えだからな~」
梓「さすがにこの歳でビニールプールは世間体が気になりますよね」
紬「そういうものなの?」
梓「はい、小学校低学年までって感じですかね」
澪「でも、ビニールプールなんかよく持ってたな、唯」
唯「え? 私、今でも良く使うよ」
澪「え゛っ!?」
憂「皆さん、スイカ切りましたよ」
唯「わーい! 皆、食べよう」
澪「あのさぁ、憂ちゃん」
憂「なんですか?」
澪「唯っていまだにこのビニールプールで遊んでるのか?」
憂「う~ん、遊ぶっていうか、暑さをしのぐためって感じですかね」
憂「お姉ちゃん、冷房とか苦手だし。でも、どうしても我慢できなくなったら
こうやってビニールプールに水溜めて、水浴びするんです」
澪「なるほど」
憂「それに、濡れたTシャツって、とても官能的で良いものですよ♪
張り付いて透けたりするのがもう最高ですよね!」
澪「あ、あはは……、そうだね」
唯「澪ちゃん、スイカいらないの~?」
律「もう、今年もこれで食べ納めになるかもしれないぞ~」
澪「食べるよ、ちゃんと残しとけよな~」
梓「もう二学期も始まったっていうのに先輩たちの夏は終わりそうもありませんね」
唯「え~、まだこんなに暑いからまだ夏だよ~」
紬「そうね、それに残り物には福があるって言うでしょ? 梓ちゃん」
梓「どういう意味です?」
澪「もしかして、残暑、だからか?」
紬「うふふ、そう」
唯「お~、上手いね~、ムギちゃん」
律「座布団一枚!」
唯「ほいほい!」
憂「お姉ちゃん! 座布団濡れちゃう!」
澪「やれやれ……」
律「でも残暑なんてもんじゃないほど暑いよな。今日もめちゃくちゃいい天気だし」
澪「どこかで、今日は雨だって聞いた記憶があるような……」
紬「でも、夏の終りにこうやって皆で遊ぶことができて本当に良かったわ」
紬「だって、高校3年の夏ってなんだか特別な感じがするもの」
澪「そうだな」
律「うん」
唯「だよね~」
紬「夏フェス行って、お祭りの屋台で沢山遊んだり食べたりして、花火も見て」
紬「そして、こうやって初ビニールプールも体験できた」
紬「こんな楽しい夏を過ごすことができたのも、全部皆のおかげよ」
澪「うん。私にとっても皆と過ごしたこの夏は特別な思い出でいっぱいだよ」
律「私も、ムギの意外な一面も見ることができたからな~」
唯「楽しかったけど、高校生の最後の夏って思ったらなんだか寂しくなっちゃうね」
梓「先輩……」
梓「来年も、こうやって皆で集まればいいじゃないですか」
梓「夏は黙ってたって来ますよ、また」
唯「あずにゃん……」
梓「私は、来年も高校生として夏を迎えますけど」
梓「大学生になった、先輩たちと一緒に過ごす夏ってのも、楽しみにしています」
澪「うん、そうだな。私も、梓とまた夏を共にしたいよ」
紬「私もよ、梓ちゃん」
梓「はい、また思いっきりはしゃぎましょう!」
律「私もさ……、夏になると、なんだか梓のことが気になってくるんだよ……」
梓「えっ……、それって、どういう……」
律「梓のこと……、ずっと見ていたくなるんだ……」
澪「そういえば、律は今日、梓のことしょちゅうチラチラと見てたよな」
梓「そ、そんな……、律先輩……」ドキドキ
律「だってさ……私、梓のさ……」
梓(えっ!? どういうこと!?)ドキドキ
律「梓の体の色が変わる瞬間ってのを見てみたいんだよ!」
梓「へっ?」
唯「あずにゃん、また真っ黒だね~」
律「今日こそは肌の色が黒くなる瞬間ってやつを拝めると思ったのに
いつの間にかもう黒くなってやがるんだよな~」
澪「私も、不思議に思ってたんだ」
紬「ほんと、突然変異って感じよね」
梓「私、今日もそんなに肌焼けてますか?」
憂「真っ黒だよ、梓ちゃん」
唯「でも、そんなあずにゃんも可愛いよ~」
梓「とほほ……」
翌日
梓「まさか二学期が始まってから肌がコンガリ状態になるなんて思ってもみなかった……」
梓「案の定クラスの皆からは『誰?』のオンパレードだったし」
梓「まぁ、三日もあれば元通りになるんだけどね」
梓「……」
梓「これって皮膚の病気か何かかな……」
梓「って、考えたってしょうがないか」
梓「学祭も近いことだし、練習に身を入れないと!」
梓「先輩たちと一緒にやる最後の学祭、絶対に成功させてやるんだから!」
\ わぁ~! あずにゃんスゴイね! /
梓「ん? 部室がやけに騒がしい?」
ガチャ
梓「こんにち……」
松崎しげる「美しい人生よ~♪ かぎりない喜びよ~♪」
唯「あずにゃん歌うま~い!」
澪「悔しいけど、負けたよ。まさか梓にここまでの歌唱力があったなんて」
紬「なんで今までそんな素晴らしい才能を隠していたの?」
律「今度の学祭のボーカルは梓で決定だな!」
梓「えっ?」
おしまい
最終更新:2010年07月24日 20:50