律「『私は遠慮する。馴れ合うと、人間強度が下がるから』」
澪「……」
律「いやあ、私には澪が言った言葉の意味が全くわからなかったな。これ、どういう意味?」
澪「いや……だから、何かこう、何て言うか……」
律(ヤベー、澪イジメるの超楽しい)
律「中三の頃は、やたら『やれやれ』って口にしてたよな」
澪「そ、そうか?あれれ?」
律「肩竦めて、両手広げて、やれやれって。なに、あれはアメリカ人のマネ?」
澪「あれはアニメのキャラの……いや、何でもない」
律「まだまだあるぞ」
澪「あの、悪いけどそろそろ、話を変えないか?」
律「おいおい、さっき約束しただろ?私が澪の話聞く分、澪も私の話聞いてくれるって」
澪「……ハイ」
律(りっちゃん隊員、続投です!)
律「覚えてないっていうか、思い出したくないだろうけど中三の頃の自分の口癖、覚えてる?」
澪「……」
律「教えてさしあげよう」
律「『やっぱり私には人の気持ちが理解できない』」
澪「ぐはっ……!」
律「いやあ、よくわからん心理学の本を見ながら事あるごとに真顔で澪が言うからさ」
律「いやあ、真面目に澪の考えてることが理解できないからさ」
律「あの頃はどう対応すればいいのか全然わからなかったよ」
澪「り、律……待ってくれ、私が……私がなにをしたと……」
律「特に一番私が困ったのは澪と私の二人で喫茶店行った時」
律「注文したブラックコーヒー眺めながら」
律「『このコーヒーのように深い闇をまとった私の
心を知ることのできる人間なんて、この世には一人もいないのだろうな』」
律「澪……カッコよすぎたよ」
澪「古傷をえぐるなああああああああ」
澪「はあはあはあはあはあ、はあはあ」
律「どう?落ち着いた?」
澪「……何とか」
律「そいつはよかった」
澪「……」
律「……」
澪「……」
律「何か言えよ」
澪「あ」
律「『あ』はムカつくんだろ?」
澪「うん。でもそれ以上にもっとヒドイことに気がついた」
澪「そうなんだよ。私は唯の存在がかすむほどのイタい女子だったんだ」
律「うん、そうだよ」
澪「思い出すだけで死に至る病っていうのが、この世の中にはあるんだな」
律「おいコラ、私の部屋のベランダから飛び降りようとするな」
澪「いけない、いけない。昔を思い出して死ぬところだった」
律「今だって、メルヘン乙女歌詞をファンクラブの前で
疲労したりしてるし、イタさについては中学時代とそう変わらないよ」
澪「うぅ……律がいじめる」
律「人のふり見て我が身をうんたんって言うだろ?
唯のことの前に自分のことをどうにかするべきだと思うよ」
澪「……おっしゃる通りです」
律「そうしょげるなよ。百年もしたら忘れるよ」
澪「死なないと忘れられないんだな」
律「それに、最近家の弟もよく、『クッ……右腕が……!』
とか悶えてるし、そんなに珍しいことでもないんじゃない?」
澪「そ、そうか。それなら安心だな」
律「まあ、三年くらい経ってからまた死にたくなるかもしれないけど、ガンバれよ」
澪「高校では別にイタいことしてないし、イタいことも言ってないだろ、私」
律「……」
律(澪は痛いの苦手と言いつつ、イタいのは得意なんだよなあ)
律(しかも自覚無し)
律「うん?ところでさっきから何読んでるんだ?」
澪「これか?はい」
律「……これか」
澪「『猿でも面白いほどよくわかる!心理学』って本」
澪「詞の参考になるかと思って持ってきたんだけど……」
律「この本って澪が歩く黒歴史って呼ばれてた時に持ち歩いてた本だよな?」
澪「かげで私はそんなふうに呼ばれていたのか?」
律「うんにゃ、みんな堂々と言ってたぞ」
澪「律、来世では私がイタい行動をしそうになったら止めてくれ」
律「だから、ベランダから落ちようとするな。ていうかどこからそのロープは用意したんだよ」
律「まあなに……中学生ってさ、一番多感な時期じゃん」
律「だから、澪みたいに多少愉快な性格になっちゃう人は、私はたくさんいると思う。」
澪「本当?本当にか?私はイタくないのか!?」
律「多分。……そうだ。この心理学の本に書いてないか調べてみようぜ」
澪「頭いいな、律」
律「ペラペラペラペロ」
律「……残念ながら、澪や私の弟みたいな症状については書かれてないみたい」
澪「……そうか。ははは、私はこの先もイタい人間としての十字架を背負っていくのか」
律「おーい、また例の症状が出てるぞー」
澪「あ、何か詞が浮かびそう」
律「やめろ。ビジュアル系みたいな歌詞になりそうだから、今の状態で詞を書いちゃダメだ」
律「……ん?」
律「あ、すごくいいことが書いてあるページがある」
澪「心理学の本に何が書いてあったんだ?」
律「はい、読んでみなよ」
澪「……」
澪「適度なコンプレックスが人を成長させる……」
律「過ぎちゃったことは仕方ないしさ、イタい中学生時代を胸にガンバろうぜ、澪」
澪「……そうだな、よし!今日からは今まで以上に勉強も部活も作詞もガンバるぞ!」
おしまい!
おまけ!
紬「はーい、今日の紅茶よ」
律「おお、相変わらずムギの煎れた紅茶はいい香だな」
梓「本当ですね」
紬「ふふ、ありがとう」
澪「……唯、紅茶をずーっと眺めてるけど、どうした?」
唯「……紅茶を見てるとね、血を思い出してね。
身体の疼きが抑えられないんだよ……ククク」
完
最終更新:2010年07月24日 23:40