憂「紬さんのキャラクターになりきるなら、髪型だけじゃなく、あの眉毛も再現しなきゃね」

和「それ、本当に必要あるの!?」

憂「似合うようだったら、明日から眉毛を付けて学校に行くのもいいと思うよ」

和「そんな斬新なファッション、聞いた事もないわよ。ペンシルで書けばいいじゃない」

憂「私が毎日、和ちゃんのメイクをしてあげられるなら、それもいいんだけどね」

和「どういう事よ?」

憂「紬さんの眉毛は独創的すぎて、お化粧の苦手な人には書きづらいよ。それで付け眉毛を用意したんだから」

憂「……うん、眉毛も付けた事だし」

和「一応付けてみたけど、これって本当に必要なのかしら」

憂「和ちゃんはわかってないよ!」

和「わかってないって、何が?」

憂「眉毛のない紬さんなんて、紬さんじゃないよ!」

和「いや、だから、それを私が再現する必要があるのかって」

憂「……」

和「……」

憂「それで、紬さんのキャラクターになるために、あの独特の口調をマスターしてみようよ。特に間の取り方を意識して」

和「また流された!?」

憂「はい。じゃあ紬さんをお手本に、真似してみようか」

和「うーん、今回はちょっと難しいわね」

憂「自分は紬さんで、私はお姉ちゃんだと、思い込むんだよ」

和「……やってみるわ」



憂「ムギちゃん、おはよう~」

和「唯ちゃん、おはよう~」

憂「今日は暑すぎて何もやる気が出ないよ~」

和「うん、とっても暑いの~」

憂「どうしてこんなに暑いのかな?」

和「はっ、わかったわ!」

憂「おぉ、何?」

和「きっと夏だからよ!」


憂「……えーと、一旦ストップ」

和「また何か変なところがあった?」

憂「確かに紬さんの天然っぽいところは再現できてたよ」

和「うん、ありがとう」

憂「でもね、これじゃお姉ちゃんとダブルボケ合戦してるみたいで、会話が発展しないよ」

和「……確かにそうね」

憂「紬さんは、おっとりぽわぽわお嬢様だけど、時々ものすごい積極性と意志の強さを見せるんだよ」

和「言われてみれば。ていうか憂、軽音部の先輩をよく観察してるわね」

憂「ついでに言うと、強いのは気持ちだけじゃなくて、力も強いんだよ」

和「あのキーボード、軽々と持ち歩いてるもんね」


憂「以上を踏まえて、もう一度」

和「どんとこいです」

憂「いや、まだ始まってなかったんだけど、まぁいいや始めます」

和「お願いしますっ!」



憂「ムギちゃん、おはよう~」

和「唯ちゃん、おはよう~」

憂「今日は暑すぎて何もやる気が出ないよ~」

和「まだ朝礼まで時間もあるし、学校を抜け出して、コンビニまでアイス食べに行っちゃおうか?」

憂「おぉ、ムギちゃんさすがだよ!」

和「私、一度でいいから、唯ちゃんと朝から学校抜け出してみたかったの♪」

憂「そうと決まれば、早速レッツゴー!」

和「唯ちゃん、ちょっと待って」

憂「ほえ?」

和「暑いなか外を歩くの、大変でしょ?」

憂「うーん、そうだね」

和「だから私が唯ちゃんをお姫様抱っこで連れて行ってあげる!」

憂「……えぇ!?」

和「私、唯ちゃんをお姫様抱っこして歩くのが夢だったの♪」ハァハァ

憂「ちょっ、ちょっと待ってよムギちゃん!?」

和「では、失礼しますっ!」ハァハァ


ガラガラガシャーン

憂「……痛いよぅ」

和「ごめんね、大丈夫!?」

憂「うん、何とか。和ちゃんの筋力じゃ、お姫様抱っこはちょっと厳しいよ」

和「そうね」

憂「紬さんのキャラクターになりきっても、紬さんの怪力が手に入る訳じゃないんだから」

和「……反省するわ」

憂「ところで和ちゃん」

和「うん」

憂「さっきから和ちゃんの身体が、私の上に乗っかってるんだ」

和「あっ、転んだ拍子に!?」

憂「……押し倒されたみたいな格好だよ」

和「へ、変な事を言わないでよっ!?」

憂「……」ドキドキ

和「……」ドキドキ

憂「と、とりあえず、下りてくれる?」

和「あっ、ご、ごめんね」ササッ

憂「えーと、和ちゃん。顔が真っ赤だよ?」

和「いや、その、だって」

憂「だって?」

和「……憂、唯みたいな格好してるし」

憂「じゃあ、お姉ちゃんを押し倒したみたいだから、そんな風に恥ずかしくなったの?」

和「あっ、でも、唯だから、って訳でもなくて、唯じゃなくても、あの体勢は」

憂「うんうん、それで?」ニコニコ

和「もうっ!! そ、それよりさっきの、ムギの真似はどうだったのよ、憂から見て!?」

憂「そうだね、すごく良かったよ」

和「うん、ありがとう」

憂「ぽわぽわっとしているようで、いざやると決めたら強引にでも実行するところなんか」

和「そんな感じだったわね」

憂「まさに、和ちゃんに無いものを、紬さんは持ってると思うの」

和「確かに私は、強引に物事を進めるような性格じゃないわね」

憂「そうそう。軽音部のみんなのいいところを、ちょっとずつ吸収していけば、いいイメチェンが出来るはずだよ」

和「……みんなのいいところ、か」

憂「和ちゃん?」

和「何でもないわ。さぁ、次に行ってみましょうか」


憂「最後は梓ちゃんだよ」

和「このツインテールのウィッグを被ればいいのね」ファサッ

憂「うん」

和「……どうかしら?」

憂「……えーと」

和「正直に言ってよ」

憂「うん。なんかコスプレっぽいかも」

和「コスプレ!?」

憂「ツインテールにメガネって、深夜のアニメに出てきそうな、狙いすぎ感がするよ」

和「深夜のアニメって、私たちも……。いや、そこには突っ込まない事にするわ」

憂「見た目はとりあえず置いておこう。中身のキャラクターの方が大切だよ」

和「そ、そうよね」

憂「梓ちゃんのキャラクターのポイントは、ずばり『後輩力』だと思うの」

和「後輩力?」

憂「お姉ちゃんから見て、梓ちゃんは、本当に可愛い後輩なんだよ」

和「うん」

憂「真面目で、生意気で、なのに手懐けるとすごく甘えてくる」

和「そうね、梓ちゃんの魅力はそこにあるのかも」

憂「なんだかんだ言ってお姉ちゃんに甘えてしまう、あのキャラクターは……」

和「私には無いもの、って事か……」

憂「だからこそ、真似して見習うべきなんだよ」

和「そうね、やってみるわ!」


憂「じゃあ、いきます」

和「うん」



憂「あずにゃん、おはよう~」

和「唯先輩、おはようございます」

憂「えーい、今日のあずにゃん分を補給!」ダキッ

和「へっ、はわっ、やめてください!」

憂「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ!」スリスリ

和「うぅっ、もう、すぐ終わりにしてくださいね?///」

憂「あずにゃんがそう言うなら、終わりにします」パッ

和「えっ……」

憂「どうしたの、あずにゃん?」ニヤニヤ

和「いや、その……」

憂「もしかして、まだ抱き締めてほしいのかな?」ニヤニヤ

和「そ、そんな事ないですっ!」

憂「じゃあ今日は終わり。今日のあずにゃん分はチャージ完了したし」

和「そ、そんな……」


憂「ねぇ、あずにゃん?」

和「……はい」

憂「言いたい事があるなら、素直に言わなくちゃ」

和「……もう一回、ギュッってしても、いいですよ///」カアッ

憂「してください、の間違いじゃないの?」

和「……してください///」カアッ

憂「むふふ。じゃあオプションで猫耳を付けて、っと!」スチャ

和「な、何ですかこれ!?」

憂「あずにゃーん!」ダキッ

和「はうぅ」ドキドキ

憂「ニャーって鳴いてみてよ、ニャーって!」スリスリ

和「にゃ、にゃあ……」


憂「……和ちゃん、どうだった?」

和「えーと、正直に言うとね」

憂「うん」

和「幸せだったわ」

憂「そっか~」ニコニコ

和「いきなり唯から、それも毎日のように、抱きつかれるなんて」

憂「お姉ちゃん、女の子だったら誰にでも抱きつく癖があるからね」

和「でも私には、あんなに毎日抱きついてくれないのよ。どうやったら、梓ちゃんになれるのかしら」ハァ

憂「私なら、毎日でもいいんだけどなぁ」ボソッ

和「……えっ?」

憂「ううん、何でもないよ」

和「そ、そう」

憂「これで軽音部のメンバー全員分、一通り終わったね」

和「色々とヒントになるところがあったわね」

憂「あっ、でも最後にもう一人、物真似してみようよ」

和「えっ、誰?」

憂「私です!」

和「……憂?」

憂「お姉ちゃんと一緒にいる時間だったら、私が一番長いし。私とお姉ちゃんの関係を再現してみるのも、ヒントになると思うよ?」

和「まぁ、一理あるわね」

憂「今回も私がお姉ちゃん役をやるから、和ちゃんは私になりきってみて」

和「わかったわ」

憂「髪型は、ひとつに結ぶだけだから、和ちゃんの地毛で足りるよ」

和「うん。こうするのね」ギュッ


憂「じゃあ、いくよ?」

和「うん」



憂「憂、おはよう~」

和「お姉ちゃん、おはよう」

憂「朝のチューしよ~」

和「うん、わかった……」



和「って、ちょっと待って!!」

憂「和ちゃん、どうしたの?」

和「朝のチューって何よ!?」

憂「私とお姉ちゃん、海外に住んでた時期もあったし、挨拶はキスとハグだよ?」

和「えっ、本当に?」


憂「だから、私とお姉ちゃんの関係を再現するためには、これは欠かせない要素なの」

和「そ、そんな」

憂「……もしかして、和ちゃん」

和「な、何よ?」

憂「キスした事ないの?」

和「そ、そんな訳ないじゃない!」ガタッ

憂(本当はキスした事ないんだな……)

和(本当はキスした事ないけどね……)

憂「それなら何も問題はないね」

和「で、でも、キスってのは、好きな人とするもので」

憂「私の事、和ちゃんは好きじゃないの?」

和「い、いや、別に、好き、だけど」

憂「じゃあオッケーだね!」ニッコリ

和「うぅっ……」


憂「それじゃ、始めるよ」

和(私のファーストキスが、こんな形で奪われるなんて……)



憂「憂、おはよう~」

和「お姉ちゃん、おはよう」ドキドキ

憂「朝のチューしよ~」

和「う、うん、わかった」ドキドキ

憂「じゃあ、いただきます」ギュッ

和(もう、どうにでもなれ!)ギュッ

チュッ



ガタッ

唯「ただいま~、遅くなっちゃった」

憂「えっ」

和「えっ」

唯「……えーと、あれ?」

憂「お、お姉ちゃん」

和「ゆ、唯」


憂「……」

和「……」

唯「お、お邪魔しました~」

バタン

和「ちょっと待って、唯!?」




こんにちは、平沢唯です。

今日も部活が終わって家に帰ったら、私と妹が抱き合ってキスしていました。

いや、正確に言うと、私の格好をした妹の憂と、妹の格好をした幼馴染みの和ちゃんです。

何を言っているかわからないと思いますが、私にも訳がわかりません。

ただ一つ確かな事は、私はあのタイミングで家に帰るべきではなかったという事です。

軽音部の誰かに電話して、今夜だけ泊めてもらおうと思います。

……明日から、どんな顔で二人に会えばいいのかな?

きっと、何も見なかった事にするのが、一番いいのかな?



こんにちは、真鍋和です。

幼馴染みの唯にもっと構ってほしくて、その妹の憂に相談しに行きました。

……と思ったら、何故か憂の格好にさせられ、唯の格好をした憂にファーストキスを奪われました。

おまけにその姿を、帰ってきた唯に目撃されてしまいました。

何を言っているかわからないと思いますが、私にも訳がわかりません。

ただ一つ確かな事は、憂に相談する前よりも、状況が悪化したという事です。

明日から私はどうすればいいのか、まったくわかりません。

本当に困っています。助けてください。



こんにちは、平沢憂です。

今日、お姉ちゃんの事が大好きな和ちゃんが、どうすればお姉ちゃんに振り向いてもらえるか、相談に来ました。

正直に言うと、私は和ちゃんの事が大好きなので、ムッとしてしまいました。

なので、和ちゃんの相談に乗るふりをしながら、あの手この手で和ちゃんとイチャイチャする事にしました。

律さんの格好で、スカートをめくってもらったり。

澪さんの格好で、痛い話で怖がってもらったり。

紬さんの格好で、お姫様抱っこしてもらったり。

梓ちゃんの格好で、私から抱きついてみたり。

想像以上に和ちゃんが天然だったので、私が狙っていた以上に、色々とおいしい思いをする事ができました。

そして最後には、私がお姉ちゃんの格好をして、和ちゃんが私の格好をして、チューしました。

お互い、これがファーストキスだったみたいです。へへへっ///

ちなみに、我が家の挨拶がキスとハグだなんて、真っ赤な嘘ですからね。

何を言っているかわからないと思いますが、すべて私の計算通りです。

ただ一つ誤算だったのは、その姿をお姉ちゃんに見られちゃった事です。

明日から、お姉ちゃんと和ちゃんに、どうやって接していこうかな?

今夜のうちに、幸せな気分でベッドに入って、じっくり考えようと思います。



おわり



最終更新:2010年07月25日 22:38