澪「律、早くしろよ。今日こそ練習するんだからな」

律「えぇー、掃除が長引いたから疲れてやる気でねー」

澪「お前が真面目にやらないからだろ!」

律「とか言ってる間に到着っと。おいーっす! ムギー、今日のお菓子は何――」

澪「部室に入るなりお菓子の催促するなっ!」ボカッ

律「――あだーっ! ん、なんだこの竹。机も何か組み替えてるし」

澪「上にゴムホース、下にザルを被せたバケツ……?」

唯「あ、りっちゃん澪ちゃん。二人も手伝ってよ~」

律「おう唯。この竹なんなんだ?」

唯「なんか今日のお茶請けはそうめんなんだって」

紬「それで折角だから流しそうめんにしようと思って。これはその台なの~」ニコニコ

澪「あ、ムギ。流しそうめんの台って……部室でやるのか!?」

紬「私、部室でみんなと流しそうめんするのが夢だったの~♪」

律「まぁ夏の風物詩だな。たまには大掛かりなのもいいか! ムギ、何手伝えばいい?」

紬「じゃありっちゃんは薬味を用意してくれる?」

澪「ああぁ、楽器が隅っこにぃ……今日も練習できないのか……」グスッ

唯「まーまー、澪ちゃん。明日は明日の風が吹くよ」

紬「唯ちゃん、フォローになってないわ。あ、澪ちゃんは食器の用意お願いできる?」

澪「もう何でもいいです……」サメザメ


梓「こんにちは! 相も変わらずのスーパー美少女、中野あずにゃん到着しました!」

唯「あ、あずにゃん。過剰な自己主張はいいから座りなよ。もうすぐそうめんが茹で上がるから」

梓「え、そうめんですか? ってこんなに部室改造しちゃって、流しそうめんでもする気ですか!?」

紬「じゃーん、できましたぁ~。梓ちゃんもどうぞ」

律「おー待ってましたーっ!」

澪「でもこれ凄い量だぞ。私らだけにしては多すぎないか?」

唯「大丈夫だよ。憂や和ちゃんも呼んであるから」

梓「これはもうちょっとしたパーティーですね」

紬「じゃあ先に頂きましょう。最初は私が流すから、バケツが水で一杯になったら順番に交代していきましょう」

唯律澪梓『は~~い』


梓「うわぁ……凄い薬味の種類ですね。唯先輩は何入れてるんですか?」

唯「えーっとね、錦糸玉子、干し椎茸、ハム、胡瓜だよ!」

梓「冷やし中華みたいですね。でも美味しそうです」

唯「でへへ~、あずにゃんは何入れてるの?」

梓「私はシソ、梅干、胡麻です。さっぱりしてていいですよ」

紬「その組み合わせは便通がよくなる組み合わせね~」

梓「な、なななななななななな」

唯「ふーん、あずにゃん便秘なんだ!」

梓「わー! わーわーわー!! 大きい声で言わないで下さいっ!」ブンブン

澪「律? それ何入れてるんだ?」

律「ん? 卵と納豆とワサビ」グッチャグッチャ

澪「何か見てると食欲が失せてくる……」

律「あー、バカにすんなよな。美味い上にスタミナ付くんだぞ。澪なんて何も入れてないじゃんかよ」

澪「え、あ、私はいいんだよ。ダイエット中だし」

紬「確かにそうめんは低カロリーだけど、それだけだと栄養が偏っちゃって痩せる前に身体を壊しちゃうわ」

澪「え、じゃあ何か入れたほうがいいのか?」


紬「そうね、定番のネギは血流を良くして身体を温めて、代謝を良くしてくれるわね。

  ショウガも同じく脂肪の燃焼を手伝ってくれるわ。さっぱりしているのも嬉しいわ。

  納豆が好きなら、たんぱく質や脂質・糖質の代謝を促進してくれるからオススメよ。

  貧血気味なら鶏肉もいいわね。ささみならカロリーも低いし。

  ワカメとか海藻類も食物繊維豊富で不足がちになるミネラルを補えるわ。

  他には柑橘類も面白いわね。身体を元気にしてくれるクエン酸が多くて、脂質の吸収を抑えてくれる成分も含まれてるのよ。

  りっちゃんが入れてる卵、とろろも凄い効果的よ。シソの葉もいいわ~。

  私も色々組み合わせてるの」


律「まるで検索したみたいに詳しいな」

澪「じゃ、じゃあ私も適当に薬味もらうよ!」

紬「まいどありぃ~~♪」

和憂純『こんにちはー!』

唯「おお、みんないらっしゃい!」

紬「適当に座ってちょうだい。今、お箸とつゆ持ってくるわね~」

梓「あ、じゃあバケツの水あけてきますから、ムギ先輩交代しましょう」

紬「そう? じゃあ、梓ちゃんお願いね」

唯「うい~、こっちおいでよ~」ブンブン

憂「口いっぱいにそうめん頬張ってるお姉ちゃん可愛いっ♪」

律「いや、そこは口の中の物無くしてから喋ろう、とか注意するとこだろ……」

澪「うめー!」モグモグ

和「相変わらず軽音部はフリーダムね。部室中に竹が渦巻いて……あっ、ここループになってる」

律「はい、めんつゆ。薬味は適当に使ってくれ」

和「ありがとう、律。澪、結構食べてるみたいだけど……ダイエット中じゃなかったの?」

澪「うっ……栄養は考えてるぞ」

和「それでも食べ過ぎると一緒じゃない?」

澪「……明日から頑張る」

律「堕落者の定型文がきたぞー!」

澪「うるさいっ!」ガツン

律「たらばっ!」プクー

和「やれやれね」


澪「梓、そろそろ代わろうか」

梓「え? でも今ムギ先輩から代わったばっかりですけど」

澪「ああ、いいんだ。私はもうお腹一杯だからな」

律「梓ー、察してやれよ」

梓「ええ? あ、ああ! すみません、空気読めなくって……!」アセアセ

澪「いや、改まって言われると悲しくなってくるから……いいよ……」

和「これはしばらく復帰は厳しそうね」

梓「はわわ……!」

憂「お姉ちゃん、ハムがほっぺに付いてるよ」

唯「え~、取って取って~」

憂「もー、それ位自分でやった方がいいよ?」ササッ

唯「でへへ、ごめんねー」

憂「(ああ、これがお姉ちゃんの愛らしい頬にへばり付いていたハム……! どうみても普通のハムだけど、私には金華ハムに見えるよぉ!)」ハァハァ

梓「何か邪悪な波動が」

紬「姉妹ってのもいいわね~」ハァハァ

憂「(どうしよう持ち帰ってホルマリン漬けにするか、この場で咀嚼を繰り返し、排泄物もウサギのように戴くか……どうしようどうしようどうしよう!)」

梓「ちょ、ちょっと憂大丈夫?」ユサユサ

憂「えっ、あっ!」ポロッ ベチャッ!

梓「ん? ハム、落ちちゃったね。捨てておくよ?」

憂「あああ……マイスウィートハム……! いいの梓ちゃん。私が責任を持って供養するからぁ」ヨヨヨ

梓「そ、そうなんだ(何か凄い落ち込んでる!?)」

憂「」ずーーーーん

唯「ういー、元気だしなよ。よくわかんないけど」

憂「お姉ちゃん……でも、お姉ちゃんハムが……こうなった以上は私がハムになって市場にドナドナされるしか……」ブツブツ

唯「ますますわかんないけどハムが欲しかったの? じゃあ私の分けてあげるよ!」ヒョイッ

憂「あ……!」パアァ

梓「ゆ、唯先輩のエキスが詰まっためんつゆ、いやさ唯汁に浸かったハムが……なんと羨ましい……!」

唯「あずにゃんも欲しかったの? 言えばいつでもあげますよ~」ヒョイッ

梓「あ……!」パアァ

憂「梓ちゃん!」バッ

梓「憂!」ガシッ

唯「なんで二人とも泣きながら握手してるの?」

紬「なるほどなるほどこういうのもあるわけね~。ヤンデレ展開と違って誰も損をしないわ~」ボタボタ

律「お、おいムギ! 鼻血がつゆの中に入るって!」


純「……」ポーッ

梓「ぼーっとしちゃって、どうしたの純? 間抜けな顔が際立ってるよ」

純「え、あ、うんちょっと。ってサラッと酷いこと言わなかった?」

梓「気のせいでしょ。で、そうめん食べないの? 伸びちゃうよ」

純「う、うん。何かもったいないなぁって」

梓「? まだ一杯あるから気にしなくていいよ?」ズルズル

純「いや、だってあの澪先輩が流してくれてるそうめんなんだよ!? これはあだや疎かにはできないんだよ!」

梓「ふーん。変態の生態はちょっと理解できないけど。取らないならそれもらうよ」ヒョイッ ズルズル

純「あ、コラ、梓! もっと御神体を扱うかのようにしなさいよ!」

梓「最前列に陣取ってて、食べないで溜め込んでる純に言われたくないよ。ですよね、澪先輩?」

澪「え、うん。えーっと、純ちゃんもいっぱい食べていってくれよな」

純「あ……!」パアァ

 「食べます! 食べさせていただきますぅ!!」ズルズルズールズル

紬「あらあらあらあらあらあら」ボタボタボタボタ

律「おおい、ムギいぃぃぃ!」


さわ子「やっほー! 今日のお菓子は何かしら……って、なにこの竹ぇ!?」

唯「あ、さわちゃんだぁ」

憂「お邪魔してまーす」

さわ子「ちょっと、これどういうことなの?」

唯「えーっとね、今日はムギちゃんが流しそうめんしたいって言うからさぁ」

律「そそ。折角なんでみんな呼んで食べてたんだよ」

さわ子「はぁ。ま、もうあんた達のやることには慣れっこだけどね……でもこれは少しやり過ぎじゃない?」

唯「えー、さわちゃんノリ悪いー」ブー

律「別にいいよー。私らだけで食べちゃうからさー」ブー

さわ子「何言ってるの。折角なんで私もいただきます!」

梓「(この展開も慣れっこになっちゃったなぁ)」

唯「じゃあ私が流す番だね! ん? あずにゃん、キョロキョロしてどったの?」

梓「あ、いえ、こうしてみるとそうめん一つ取っても色々な食べ方があるんだなぁ、と思いまして」

唯「そうだねぇ。私はさっき言った通りだけど、憂はそこにショウガも入るんだよね」

梓「唯先輩は入れないんですか?」

唯「んー。私ちょっとショウガはピリピリして苦手なんだぁ」

梓「あはは。私もそんなに好きじゃないですね」

唯「りっちゃんは何か違う食べ物になってるね」

梓「そうですね……夏バテ防止で精のつくもの勢揃いらしいですけど、見てるこっちが参りそうです」

唯「澪ちゃんはなんかブツブツ言いながら食べてるね」

梓「理想と現実とのせめぎ合いでしょうか?」

唯「ふーん? 和ちゃんはワサビ入れてるんだ。大人!」

梓「他には刻み海苔、ミョウガ、ネギ……中々良さそうですね。バランスの良さが伝わってきます」

唯「和ちゃんって海苔好きなのかな? 昔、クリスマス会のプレゼントにも海苔持ってきた記憶があるよ」

梓「……こ、個性的でいいんじゃないですか? 実用性を重視したんですよ、きっと!」

唯「あーそうだね、海苔美味しいよね~。でももらったのりっちゃんなんだけど、あんまり嬉しそうにしてなかったかも」

梓「その時の律先輩の心情が目に浮かびますよ……」


唯「さわちゃん先生は何かな?」

梓「えーっと、ネギ、ミョウガ、ショウガ……意外と普通ですね」

唯「でもなんかお魚入れてるよ。つゆも皆と違うの使ってるし」

梓「あ……あれは鯛そうめん! 目ざといというか、それを用意してあるムギ先輩が凄いというか……」

唯「あのお魚鯛なんだ。美味しそうだね」

梓「そうですね。鯛を丸ごと一匹煮て、その身も入れつつメインの煮汁をつゆとして加えることで完成するみたいですよ」

唯「へ~、あずにゃんググったみたいに詳しいんだね!」

梓「う、受け売りですよ」

梓「――唯先輩、唯先輩!」ユサユサ

唯「ふぇ? あぁ、あずにゃんおはよー。あれ? 誰もいない」

梓「おはよう、じゃないですよ。唯先輩、後片付けの最中に寝ちゃってそのままだったんですよ」

唯「これはご迷惑をば。憂も帰っちゃったの?」

梓「はい。晩御飯の支度があるって。だから私が唯先輩のこと任されたんですよ」

唯「そうなんだ、ごめんね~? お詫びに抱きついてあげよう」ギュッ

梓「ちょちょ、ちょっと! 誰もいなくてもやめて下さい!」

唯「照れ屋さんだね、あずにゃんは」

梓「誰でも同じですよ! もう、早く帰りましょう」

唯「あ、待ってよあずにゃ~ん」



唯「今日は楽しかったねー」テクテク

梓「そうですね。部室が竹まみれだった時は焦りましたけど。ところで唯先輩」テクテク

唯「ん、なに?」

梓「今日は私たち特に何もなくそうめん食べてただけでしたけど、この話ってどうオチるんですか?」

唯「えっ?」

梓「日常風景にもほどがあると思うんですよ」

唯「うーん。でも特にオチはないよ?」

梓「ああ、そうですよね……そうめんから奇抜な展開なんてそうそうありませんよね」

唯「いいじゃん、そうめん美味しかったし!」

梓「まぁ……そうですね! でも明日は絶対練習しますから!」

唯「う、敢えて触れなかったのに。あずにゃんクソ真面目~」ブー

梓「部活で練習するのは普通なんですよ……あ、私こっちなんで失礼しますね」

唯「おお、もうここまで来てたかー。あ、明日はちゃんと練習するよ!」

梓「はい。それじゃあ――」

唯梓『また明日!』




おしまい!



最終更新:2010年07月28日 22:15