唯「もうこんな時間だよー」
律「知らない間に時間って過ぎてくもんだよな~」
澪「なんか思い返すと、今日っていったい何だったんだろうって気がするけどな」
唯「とりあえず帰ろーよ! 私お腹へっちゃった……」
律「よーし、アイスでも食うか?」
澪「もうご飯の時間だろ。食べきれなくなるぞ」
律「ぶーぶー!」
唯「りっちゃん豚さんだねー!」
律「ぶーぶー! 唯も豚になるぶー!」
唯「のーせんきゅーですぶー!」
バタン
唯「あつまるだけでわーらえるなんてー、うたうだけでしーあわせーなんてー」
澪「cagayakeか」
律「あ、あたしもそこんところ好きだぞ!」
唯「おお、りっちゃん分かってるねぇ」
律「褒めるでない褒めるでないぞ」
澪「なんだそりゃ」
唯「でもホントに、集まるだけで笑えるのが軽音部じゃない?」
澪「気兼ねしないからな。沸点が下がっちゃうというか」
律「でも歌って幸せになれるのは唯と澪だけじゃんかー!」
唯「じゃありっちゃんもヴォーカルやる?」
律「あ、いや。無理です、はい」
―――
――
―
澪「あれ? ムギは?」
律「そーじ当番。遅れるって」
唯「あずにゃんもまだみたいだねー」
律(梓、来るよな……?)
澪「律、分かってるな? ちゃんと――」
律「わーかってるよ! ここは部長にまかせときなしゃいって澪ちゃん」
澪「そこまで言うなら……。まあ律に、任せるけど……」
ガチャ
梓「こんにちはです」
唯「あ、あずにゃーんっ」
梓「わわっ、唯先輩……」
唯「今日もあずにゃんは柔らかいねぇ」ダキ
梓「――離して、ください唯先輩」
唯「あずにゃん……」
律「梓っ」
梓「……なんですか? 律先輩」
律「昨日は悪かった。この通りだ」
梓「……」
律「あたしさ、空回りしてたんだ。よく考えればあんな言い方しようなんて思わない。確かに客観的にみて子供なんだろうな」
律「軽音部をまとめなきゃいけない存在なのにな。梓。あんなこと言って、ごめんなさい」
梓「……知ってます」
律「え?」
梓「律先輩が空回りしやすいことなんて知ってます。子どもっぽいことも、熱くなりやすことも。全部知ってますから」
唯「あずにゃん……」
梓「ほんと幻滅しますよ」
律「え、えと……」
梓「ちょっとくらいの口論で、律先輩に『幻滅しました』なんて言っちゃう自分をです」
律「梓……。っあずさぁ!」
梓「ちょっ、抱きつかないでくださいってばー!」
唯「私も入れてよ~」
梓「にゃ、に゛ゃあああっ」
ガチャ
紬「……こんにちは」
律「――よう、ムギ」
紬「りっちゃん、私考えたの。一昨日も凄く考えたけど、昨日もそれ以上に考えたわ」
律「知ったのは一昨日なんだよな?」
紬「うん、そうよ。でもね、やっぱり私の考えは変わらなかったの。ごめんなさい……」
唯「ムギちゃん! いつまでそんな――」
律「いいんだ。唯、あたしに話しをさせてくれ」
唯「りっちゃん……」
紬「き、キーボードなんて居なくたってバンドは組めるわ! ベースとかドラムスだったら死活問題になるだろうけど」
紬「だからいいじゃない! 私なんて居なくても放課後ティータイムには支障がないもん!」
律「大ありだよ」
紬「え……?」
律「まず作曲が居なくなる。美味しいお茶が飲めない。お菓子が食べられない。しかも――」
律「ムギがいない。これは充分、死活問題だよ」
紬「なに、なにを言って――!」
律「だってそうじゃん。ムギ以上に友達思いの奴なんていないんだからさ」
澪「ふふ。たまにはいいこと言うじゃないか律」
律「冒頭だけが余分だぞ」
唯「それに案外さ、ムギちゃんが一番軽音したがってるんじゃない?」
律「どういう意味だ?」
唯「ちっちっち。さて問題です。今年の学祭で、私がふわふわを歌い終わったあと、誰がどうしたでしょうか!」
梓「……すんごい楽しそうな顔でキーボードにコード刻み始めた人が居ましたね」
澪「その次に合わせ始めたのが律だったよな」
律「なんだよー。その次は澪じゃんかー」
唯「きっとそういうことなんだよ、ムギちゃん」
律「あたしたちはさ、ムギに無理に残って欲しいとは思ってないよ。いやあたしはできる事なら残っては欲しいとは思ってるけど」
紬「――わ、私は! 早く忘れて、欲しくて。どうせ居なくなるなら、いなくなった後まで迷惑かけたくないから!」
律「それが無理だって言うなら、せめて『放課後ティータイムで死ぬまでバンドやりたい』ってそんな言葉が聞きたいだけなんだ」
紬「忘れてよ! わたしのことなんか忘れて!」
律「やだよ。絶対忘れるもんか。武道館まで行ったら、ウチのバンドには
琴吹紬って最高のキーボードがいましたって自慢してやる」
紬「そんなの……誰も得しないじゃない……」
律「確かに、それはあたしの勝手な自己満かもしれないけど。それでも、それはあたしらができるささやかな抵抗じゃん」
律「……ムギの気持ちも教えてよ。どうなの? ここでバンドしたいの? したくないの?」
紬「そんなの……」
紬「したいに決まってるじゃない! わたしもりっちゃん達とずっとバンド組んでいたいもん!」
律「――ありがとな。多分それだけが、聞きたかったんだと思う」
唯「ムギちゃーんっ!」ギュ
紬「唯ちゃん……」
唯「ムギちゃん、転校しても友達だよ? どこかで会ったらお菓子食べに行こうね?」
紬「うん。うん、うん!」
梓「唯先輩はなんというか、食いっけが半端じゃないですね」
唯「ち、ちがうんもん! 美味しいスウィーツがあるなら食べない訳にはいかないだけだもん!」
紬「くすっ、唯ちゃんらしいわ」
唯「あーん、ムギちゃんまでぇ」
律「それじゃお別れまであとちょっとしかないけど、それまでちゃんと練習して、ティータイムもして、そんで……」
澪「まあいつも通りって訳だな」
梓「ちゃんと、ですからね! 唯先輩とかサボらないでくださいよ」
唯「ぶう。ちょっとくらい信用してよ~」
紬「それじゃまずはお茶にしましょ? 今日はフランスからマカロンが届いたの」
唯「マカロンってなになに? 栗の親戚?」
律「ばーか。マロンって英語じゃん。マカロンはフランスのお菓子だぞー」
梓「栗は英語でチェスナットですよ、りつせんぱーい?」
律「ぎくっ」
紬「ふふ。りっちゃんったらおもしろーい」
―――
――
―
律「さて、諸君。我々も遂にここまで来たわけだが」
梓「ほんとに武道館でワンマンライブ出来るなんて……」
澪「地道にやってきた成果だな。本心から思うよ」
唯「でもムギちゃんとお別れしてからすんごい真面目になったよねー」
梓「ですねぇ。でも元々みなさん遊び半分の練習であそこまで上手かったんですから、真面目に練習したらどうなるかは分かってましたけどね」
律「おお梓。やっと先輩のことを敬えるようになったのか。いやぁ、やっぱり人間って年を取ると進歩するもんだ」
梓「もう……元から尊敬してますってば」
唯「あずにゃんたらお世辞まで使ってるよ!」
梓「だから唯先輩までー!」
律「ふっふっふ。せっかくだからサポートメンバーとか、募集してみるか」
澪「せっかくだからって……。今までの曲に全部キーボードパートを作ってた癖によく言うよ」
唯「やっとりっちゃんの密かな努力が実るときが来るんだね~」
梓「じゃあ募集条件は……。高校のとき2年間キーボードやってた人、とか?」
律「髪の色はペールイエローチックなクリーム色だろ、もちろん」
澪「眼の色は青だな。カラコン禁止」
唯「天然のゆるゆるパーマじゃないと認めないよー?」
律「おっけーおっけー。ブログで募集してみる。当然、今の条件をクリアしてる人限定だけど」
梓「応募、来ますかね?」
澪「……来るさ」
唯「必ず来るよ。空はどこまでも繋がってるんだよ? おまけにこの日本はすんごく狭いときたもんだ」
~♪
律「新着メールいっけーん。中身はー、履歴書と顔写真か」
澪「速いな……。って顔、全然変わってないじゃないか」
梓「カラコンじゃありません、なんて律儀に書き込んであるのも。らしいですね」
唯「返信早く早くー! 合格通知送らなきゃ!」
律「そうだな」
律「宛先、琴吹紬様、と」
fin.
最終更新:2010年07月29日 21:06