律「キャベツうめー!」

梓「つまみ食いしないでください!っていうかキャベツ焼きそばにも入ってましたよね!?」

律「焼きそばのキャベツとBBQのキャベツとは違うんだよ!」

梓「どう違うんですか?」

律「BBQのキャベツは主役になりうる!」

梓「あー・・・」

かくして本日二度目の愉快な調理の時間は過ぎてゆく・・・

梓「出来ましたね」

律「といっても野菜と肉切って串に刺しただけだけどな」

梓「炭はムギ先輩が用意してくれましたし」

梓「・・・ってあれ、火種はどこですか?」

そう、さっきからそれが気になってたんだ。
炭火はいいんだけど、肝心の火が・・・

律「ひょっとして・・・無い?」



紬「あら?このチャッ○マン・・・まさか!?」


梓「あ、電話」

梓「もしもし?」


律「つまりムギが忘れたってことか・・・」

梓「うう・・・せっかく準備したのに・・・」

律「でもまあ、こうやって場所を提供してくれてるわけだし責めることはできないよな」

梓「そうでなくても、ムギ先輩のシュンとした顔を見たら許さざるを得なくなりそうです」

律「一理あるな」

梓「でもどうしましょう?」

律「んー・・・正直昼の焼きそばがまだ消化できてないんだけど。梓は?」

梓「実は私もなんです・・・でもそれが何か?」

律「なら話は早い。とりあえずこいつら冷蔵庫にしまって、散歩がてら火種を買いに行こうぜ!」

梓「それは名案です!」


梓と二人、夕暮れの下を歩く。
こいつは唯ほど明るいわけでもなく。
澪ほどおとなしいわけでもなく。
ムギほどズレてるわけでもなく。
恐らく我が軽音部の中では一番「普通」なんだと思う。

梓「ねえ律先輩」

だから、

梓「晩御飯食べたら、一時間くらい別行動にしましょう」

そんな「普通」な梓が、

梓「二人で合奏しようと思うんです」

こうして私を旅行に誘ったのには、

梓「楽譜渡しておきますから、練習してて下さい」

ちゃんと理由があったからなんだ。

梓「一時間経ったら外に出てきて下さい・・・」

私は、ただ梓と一緒に遊んでいたかったのにな・・・


それから、別荘に帰るまで二人に会話はなかった。


律「楽譜って・・・これふわふわ時間じゃん」

食後、ドラムの前に座りながら楽譜を確認すると、それは私のよく知る曲だった。
これならちょっと練習するだけで何とでもなる。

律「でも何で今更二人で合奏?」

何か目的があるんだろうけど、聞きに行くわけにもいかない。
とりあえず言われた通りにすることにした。

律「普段からそうやって真面目に練習して下さい!」

律「なーんちゃってな」

律「・・・練習しよ」

雑念を振り切るべく、いつにも増して激しく叩く。
今ばかりは走りすぎと注意する人もいないのだから・・・

そろそろ一時間かという頃、梓からメールが来た。

『そろそろ出てきて下さい』

律「時間か・・・」

わかるのだろうか、梓が私を誘った意味が。
そう、これからすることは合奏ではありえない。何故なら・・・

律「本当に合奏するんならここに呼び出すはずだからな」

呟き、別荘にある唯一のドラムから立ち上がり、部屋を後にした。


律「これ・・・は」

外に出ると、強烈なデジャヴに襲われる。立ち並ぶ筒、筒、筒・・・
そしてその中心に立ちギターを構える少女。そう、これは去年の。

梓「中野梓オンステージへようこそ、律先輩」

律「あず・・・さ?」

梓「いきなりで申し訳ないんですが・・・最後の曲、いっくぜー!です」

そう言いながら何やら足元のスイッチを操作する梓。
どうやら一斉に背後の筒に点火する装置だったらしく、梓の背後から無数の火の柱が立ち上る。
光の粒子の舞う中でギターを奏で始める梓。
それはどこまでも幻想的な光景で、私はただただ見蕩れるばかりだった。

やがて火は消え、演奏が止まり。
夢のような時間は終わりを告げる。

梓「あの、先輩」

梓「お話があります」

夢から覚めた先は・・・そう、現実なのだ。


梓「律先輩・・・ずっとあなたが好きでした」

梓「まだ出会って半年も経ってませんけど・・・先輩はずっと輝いていて」

梓「さっきの花火なんて比較にならないくらい輝いていて」

梓「気づいたら惹きつけられていました」

梓「ずっと目で追うようになって・・・それに気づいたら次は胸が苦しくなって」

梓「好きなんだって自覚してからはもう駄目でした」

梓「隠してたつもりでもムギ先輩にはバレてたみたいで・・・今回の旅行を勧めてくれたんです」

律「梓」

梓「でも、私こっちに来てから失敗ばっかりで・・・」

律「あずさ」

梓「お腹鳴らしちゃったり、途中で寝ちゃったり・・・」グスッ

律「あずさっ!」ギュッ

梓「こんな駄目な私に、律先輩を好きでいる資格なんて・・・」

律「それはこっちのセリフだろ・・・!」

律「普段あんなに駄目駄目な私なんか、梓に好きになってもらえるわけない!」

梓「そんな!」

律「・・・そう思って諦めてたんだ、ずっと」

梓「え・・・?」

律「私だってな、梓のことがずっと好きだったんだぞ」

律「最初はちんまいのが入ってきたなーと思ってたんだけど」

律「そいつは誰より一生懸命でさ」

律「やる気のない私たちの背中をこれでもかと押してくるんだ」

律「ごめんな、だらしない部長で」

梓「りつ・・・せんぱい・・・」

律「本当にこんな私でもいいのか?」

梓「先輩じゃないと嫌ですっ!」

梓「誰より明るくて、本当は誰より思いやりのある律先輩が大好きなんです!」

律「ありがとう、梓」

律「私も、頑張り屋で意外に恥ずかしがりな梓が大好きだ!」

梓「律せんぱ・・・うわあああああああああああん!」

律「よしよし」

私はそばにいるよ―言葉にしなくても伝わるように、ぎゅっと抱きしめた。

律「しかしあの花火にはびっくりしたぞ」

梓「澪先輩達が前に惚気てたんですよ」

澪『あの時の唯は最高に綺麗だった。まあだいたいいつも綺麗だけどな』

唯『やだ澪ちゃん、澪ちゃんの方が綺麗に決まってるよ!』

梓「・・・って」

律「駄目だあいつら・・・早くなんとかしないと」

梓「それを聞いて、私もやるしかないと思ったんです」

つまりその惚気がなければあの再現はなかったと・・・?


律「一応感謝した方がいいのか・・・?」

梓「少なくとも私は感謝してますよ」

律「んじゃ私もそれでいっか」

梓「それでいいと思います」

二人肩を寄せて笑い合う。隣で笑う梓の顔は、花火よりも輝いて見えた。

律「ならさ、帰ったらムギだけじゃなく二人にもお礼をしようか」

梓「はい!」

なにがいいか・・・並んで考えつつ。
互いに横顔をチラチラと盗み見ては頬を染める私たち。

律「ま、お礼は帰ってから考えればいいか」

今はそう、ただ二人で・・・


終わり



最終更新:2010年07月29日 21:44