ピンポーン

律「はいはーい!」

ガチャッ

澪「やあ」

律「待ってたぜ~!澪~!」

澪「それじゃ、人事面接の対策をするか…」

律「私はもうこれ一本のつもりで挑むぜ!」

澪「一本のつもりか…まぁ良いんじゃないか?」

澪「(律にも…私が初めて感じた内定の喜びを味わってほしい…!)」

澪「人事面接と言えど、面接のやり方は変わらないんだ。社長面接や役員面接の方が対策いるかもな」

律「へ~人事の人ってそこまで気にする必要はないんだ~」

澪「強いて言えば、採用責任者としての自負心を持つ人が多いからな。前の面接よりしっかり答えないとダメだぞ」

律「しっかりか…練習でやっていけば大丈夫だろうな~」

澪「とは言え、採用のプロが多い。仲間としての人を見る経験を多くする人だからその場で思いついた嘘なんてすぐバレる。律は嘘が下手だからつかない方がいいな」

律「わ…分かった…」

澪「いいな?嘘はつくなよ?」

律「そこまで念を押さなくても…」


澪「…これで良いんじゃないか?律」

律「ほ、本当か澪?」

澪「まあ、絶対とは言わないが、後は考えて発言することだな…」

律「うぅ…考えてか…」

澪「まあ面接官と会話ができることが大事なんだよ」

律「分かった…明後日頑張るぜ!」

澪「(そうか…明後日だったな…)」

律「それじゃあ、澪ありがとな。遅くまで付き合わせて悪いな。澪も就活中で忙しい身なのに」

澪「…いいよそんなの…」

澪「(これで律が選考に進めてくれれば良いんだけど…)」

律「駅まで送ろうか?コンビニに寄る必要が私にはあるから…」

澪「…律…酒か?」

律「違うわい!糊だよ糊!中身なくなったんだよ!」

澪「そうか…」

律「…」

澪「…」

律「なぁ、澪…」

澪「ん?」

律「澪さ…私に何か隠し事しているんじゃないか?」

澪「え?」

律「いや…なんとなくだけどさ…最強の澪にしては何か引っかかる気がしてよ…」

澪「…」

律「なんだかさ…昔の澪じゃないような気がしてよ…いや、私の気のせいなのかもしれないな…」

澪「…」

律「あ…悪い…気にしないでくれよ?澪…澪?」

澪「…」

澪「ごめん…律…」タタタ

律「おい!澪!待てよ!」

澪「来るな!私は…私は…う、う…」

律「澪、いきなりどうしたんだよ…悩み事でもあるのか?」

澪「う…うぐ…私は…私は…」

律「澪…」


律「澪…落ち着いたか?」

澪「うん…ごめん…」

律「話したくないなら話さなくても良い。だけど、話さないと澪はずっと苦しいままだと思う…澪に私は何もできないしよ…」

澪「…」


澪「実は…私…内定もらってないなんて嘘だったんだ…」

律「え?もうもらっているのかよ?いつ?」

澪「4月終わり…」

律「ああ…和みたいにもっと行きたい企業を狙っているんだろ?」

澪「いや…そこは…本命の企業なんだ…」

律「ならなんでまだ就活なんて続けているなんて…」

澪「自分が分からなくなったんだ…」

律「…は?」

澪「実感がわかなくて…◆◆商事なんて夢物語だと思っていたのに…私の人柄を認めて内定を出してくれたのだと思う…だけど…だけど…」

律「…」

澪「本当に私は認めてくれたのか…確かめたくて…いろんな企業を再び受けてみた…自分は本当に認められる存在なのかと…」

律「澪…自信を持てよ!そこにお前が必要だと思ったから採用したんだろ!澪は◆◆商事に必要な人間なんだよ!」

澪「怖い…怖いんだよ!あんな有名な企業…私に…私なんかに合うはずがないんだよ!」

律「…」スッ

バチンッ

澪「え?」

ひりひり…

澪「いたい…頬が…いたい…」

律「澪!お前はなんでいつも自分から逃げるんだよ!」

澪「律…」

律「お前は…澪は…私にとっちゃあ…すげー自慢できる奴なんだよ!私には出来ないことをやれて、今もこうして私を助けてくれている!これほど自慢できる奴ぜってーいねーよ!」

澪「それは…私を評価しすぎだよ…」

律「お前が評価しなさすぎなんだよ!」

律「確かに◆◆商事は超エリートの世界さ!だけどな?その素質が澪にあったんだとなぜ気づけないんだ?」

澪「そんなの…分かるわけないだろ!」

律「じゃあ◆◆商事の面接官は澪を誤って採用したってことなのか?世界に名を知らしめす◆◆商事の人事がそんなヘマをすると言うのか?」

澪「そ…それは…」

澪「…」

律「悪い…私もつい怒鳴っちゃった…でも、自分のすごいことを認めないところは許せなかったんだ…」

律「自慢の澪をダメにしたくないからさ…」

澪「律…」

律「あ、電車来るぞ」

澪「…うん」

律「そうだ!明日暇なもう一回練習に付き合ってくれよ!うおー!〇×生命頑張るぞー!」

澪「…分かった…夕方には訪れるよ」

律「サンキュ!お願いしやす!」

澪「それじゃあ」

律「おう!またな!」

ガタンタタン

澪「(律を助けるつもりが逆に助けられたな…)」

澪「(律も私にとっては自慢の存在だよ…)」

プシュー…ガタンタタン…



……


人事「では三次選考を行わせて頂きます」

律「はい!よろしくお願いします!」

人事「君は確か元気な子だったね。説明会の時から覚えていたよ」

律「え?そうですか?いやぁ」ポリポリ

人事「それでは早速質問に入るけど、最近怒ったことは何かな?ニュースでも友人について何でもいいけど」

律「はい!私の幼なじみについてですが、この前…」



澪「…」

澪「(律の奴、上手くいっているかな?)」

澪「(結局、私はここや選考中の企業を全て辞退した…律のためでもあるけど、もう私が就活を続ける理由はなくなったのだから…)」

澪「(バカなNNTともう会うことがないと思うと清々しい気分になるな…)」

澪「(和はどうしているんだろう…?)」

ブー…ブー…ブー…

澪「和からだ…」

澪「もしもし?和?」

和『澪?私やったわ!ついにやったわ!』

澪「やったって…もしかして内定出たの?」

和『そうなの!先物取引の企業から今さっきもらえたの!』

澪「和やったじゃないか!おめでとう!」

和『ありがとう!頑張った甲斐があったわ!うちの親や唯にも連絡しないといけないから、詳しいことはまた今度ね!』

澪「うん!また」ピッ

澪「和も内定取れたか…残りは律だけだな…」



律「失礼しました!」

バタン

律「うぅ~緊張した~!役員の人達ってあんなに話しかけにくいおっちゃんばっかだったとは…」

澪「…」

律「お!澪~!」

澪「律…どうだったんだ?」

律「う~ん…微妙かな?受け答えと気持ちをしっかり伝えることはやれたよ」

澪「そっか…」

律「というかなぜ澪がここに?もしかして私のことを気にかけ…」

澪「た…たまたまだ!」

律「たまたまって…ここオフィス街だぞ?寄る場所なんてないのに…」

澪「いいから帰るぞ!バカ律…」

律「…はいはい…」

澪「律…最終面接の結果はいつなんだ?」

律「う~ん…一週間以内かな?」

澪「かな?って…おい!」

律「まあいいじゃん!」

澪「ホント律は楽天的だよな…」

律「いやはや…」

澪「まったく…」

ブー…ブー…ブー…

律「ん?非通知からだ!」

澪「おい!早く出ろよ!もしかしたらさっきの〇×生命からかもしれないぞ!」

律「あわわわ!」ピッ

律「はい…田井中です…はい…はい!ありがとうございます!…はい!頑張ってまいります!」

澪「これは…もしや…」

律「…はい!…はい!失礼しました~!」ピッ

澪「り…律…いけたのか?」

律「…ふふふ!澪!私も社会人になれるぜ~!」

澪「…は…はは…律も…律も…うぐ…社会人になれるんだ…」

律「おいおいなんで澪が泣くんだよ!普通こういうのは私だろ?」

澪「な…泣いてなんかない!」

律「もう澪ちゅわんったら正直じゃないんだから~」

澪「だ~ま~れ~!」ぐいぐい

律「痛い痛い痛い!痛いです澪さん!」


こうして彼女達の就活戦線は終わりを告げたのである。



……


唯「あ!澪ちゃん。こっちこっち!」

律「おっそ~い!卒業式始まるぞ~!」

紬「あら澪ちゃんってば決まっちゃって」

澪「ハァ…ハァ…もうダメ…キツッ…」

律「おいおい」

澪「あれ?みんな振袖?卒業式って振袖じゃないといけないの?」

紬「服装は自由だけど、振袖の方が澪ちゃん似合うと思っていたのに…」

唯「あ、私もそう思う。でもスーツ姿もかっこいいよ~」

澪「う…うん…ありがとう…」

律「和が先に席取っといてくれてるしよ!早く入ろうぜ!」

澪「うぅ…なんで私が学生代表の挨拶なんて…」

律「とても◆◆商事から内定を得た奴の発言じゃないな」

澪「うるさいだまれバカ律」

唯「澪ちゃん、毒づくようになったね」

澪「いや…そ、そういうわけじゃ…」

紬「(今さらだけど、◆◆商事って私のところとライバル関係なのよね…澪ちゃん知っているのかしら?黙っておいた方が良いわね)」

律「ま、頑張れよ!お前はやれるんだからよ!」

澪「うぅ…分かったよ…」

和「あら?澪到着したのね。こっちの席よ!」

澪「和まで振袖…振袖にしておけば良かった…」

和「へ…?」


『〇〇大学〇〇学部学士代表、秋山澪さんから挨拶』

澪「…はい!」

和「(澪頑張って…)」

かつかつかつ

澪「本日、私達は四年の学び屋である〇〇大学から巣立つことになりました…」



パチパチ…

澪「(い…言えた…!学部長よりも噛まずに言えた…!)」

和「お疲れさま」

澪「ふぅ…」

澪「(本当に今日でみんなと離ればなれになるのか…)」


唯「澪ちゃ~ん!写真一緒に撮ろうよ!」

澪「ちょっと待ってよ!ハァ…ハァ…」

律「ホント澪の体力って落ちたよなぁ」

紬「写真誰かに撮ってもらいたいけど…」

梓「あ、いたいた…先輩達!そこにいたのですね!」

律「お!ちょうど良いところに梓と憂ちゃんが来てくれたな!おーい!」

憂「みなさんおめでとうございます!」

唯「あずにゃ~ん!」

梓「だからいきなり抱きつかないでください!」

律「こいつらは高校の時から変わらんな…」

和「まだ唯は大人になれないわね…」

澪「そういえば和、結局は就職先はどうしたの?先物取引の企業じゃないと聞いたのだけど…」

和「やっぱり★○製薬にしたわ…福利厚生はやっぱりこっちの方が良かったからね」

澪「そうなんだ…良かった…そっちの方が和に合っていると思うよ」

和「ありがとう。澪も◆◆商事の配属は決まったの?」

澪「新人研修の後で決まるんだ…志望している部署に配属されると良いのだけど…」

和「頑張れば出来るわよ。きっと」

澪「うん。ありがとう…!」

律「お二人さ~ん!早く早くぅ~!」

和「はいはい。ほら行きましょ」

澪「うん。分かった」




卒業式から3ヶ月後…

人事「なるほどね。秋山さんはエネルギー部門を志望しているわけですね」

澪「はい!」

人事「海外転勤多い…というか、海外で働く方が多い部署だけど大丈夫かな?」

澪「大丈夫です!」

人事「分かりました」

澪「ありがとうございました」

バタン

澪「(配属面談ってあんな感じで良かったのかな?)」



配属発表日

澪「…」

『辞令
 秋山澪をエネルギー部門 油田開発部に配属することを命ずる』

澪「や…やった!志望していた部門だ!」

澪「あれ?でもどこの国に行ったりするんだろう…」

『アラスカ』

澪「」


おわり



最終更新:2010年08月01日 22:29