―翌日。
唯「どうやらいちばん下の引き出しだけみたいだね」
唯「まだこんなにある…」ゴッソリ
唯「…とりあえずなにか着よう」
唯「『おちゃづけ』Tシャツ…」
唯「まさかお茶漬けが食べたくなるだけなんてことは…」
唯「…」ゴソ
―
憂「おねえちゃーん。お昼どうするー?」
唯「…お茶漬け」
憂「え?」
―
唯「もう!なにひとついいものがないよ!」
唯「お茶漬けなんてなにもしなくてもたまに食べたくなるよ!」
唯「…」
唯「そうだ。明日は家でみんなとお勉強だ」
唯「なにかつかえそうなのがあるかもしれない」
唯「よーし!探そう!」
―
唯「ふ~んふふ~」ガサゴソ
唯「!」
唯「こ、これは…!」
―翌日。
ガチャ
律「こんちはー!」
澪「おーい唯ーきたぞー」
憂「あ、こんにちは。あがってくださーい」
紬「ありがとね。憂ちゃん」
憂「いえ。おねーちゃーん!みなさんきたよー!」
唯「うーん!中に呼んでー!」
憂「じゃあどうぞー」
澪律紬「おじゃましまーす」
唯「やあやあ」
律「おーす…って」
紬「あいかわらず面白いTシャツねー」
澪「『ビースト』…いいかも…」
律「…なにいってんだ」
唯「えへへーかっこいいでしょー」
唯(きっとこのTシャツなら…)
唯(獣のようにただひたすら勉強に集中できるはず!)
唯(ワイルドだよ!)
―
澪「こら唯。寝てないで勉強するぞ」
唯「だって暑いんだもーん」ブー
紬「まあまあ。もうちょっとやったらお菓子たべましょ?」
唯「ほんと?」
紬「うん。だからもう少しがんばろう!」
唯「うん…」ググ
澪「…律もだぞ」
律「…わ、わたしのことは…放っておけ…」バタ
澪「ふざけてないで…」グイッ
唯(くそー全然集中できないじゃんかー)
唯(お肉が食べたくなる一方だよお)
唯(憂はあずにゃん家いっちゃったし)
唯(うわーんお肉ー!)ジタバタ
律「なにしてんだー唯」
唯(りっちゃん…)
律「どうした?」
唯「…」
律「?」
唯「…」ガシ
律「へっ?」
唯「…」アーン
律「わわわわあ!なにすんだ!」グイッ
唯「…がぶっ」スカッ
律「なななんだ唯!おまえ人を食うのか!?」ドキドキ
唯「はっ!つ、つい…」
律「つい人を食べようとしたりするわけないだろ!」
唯「ごめんね~」
律「ま、まあ暑さのせいってことにしとこう…」
唯「あっ!りっちゃんコーラあるよ!飲む?」
律「ほんとか?飲む飲む!」
唯「こないだ買ったんだ~持ってくるね」ドタドタ
澪「おまえら…勉強は…」
律「まあまて」
唯「持ってきたよーじゃあ開けるねー」ググ
律「うひょーコーラだあ…ん?」
唯「よいしょ!」
紬「なんか…パンパンになってない…?」
澪「まて唯!それは…」
唯「開いた!」プシュ
―
唯「うぅ…みんなごめん…」
澪「まったく…」
紬「でもみんなでお着替えってなんだか楽しいね!」
律「ムギ…服高いんだろ…?」
紬「ううん。服はいいの」
紬「でもみんな唯ちゃんのおもしろいTシャツを着られるのよ!ワクワクしない?」
澪「…まあそうだな。前向きに考えよう!」
唯(あ!この間脱ぎ散らかしたからいちばん下の引き出しのTシャツしかない!)
唯(どうしよう…)
唯(でも…大丈夫だよね)
唯「じゃあみんな…好きなの選んで」
唯(自己責任でお願いします!)
―
唯(わたしは無難に『ばれいしょ』Tシャツを選んだよ!食べ物なら大丈夫…なはず!)
唯(…澪ちゃんは…『チェーン』)
唯(ムギちゃんは…『ニヒル』…)
唯(そしてりっちゃんは…『シャイン』…)
唯(…)
唯(やな予感しかしないよ!)
澪「…」モジモジ
唯「澪ちゃん?どうしたの?」
澪「そ、その…」
澪「…みっみんな!」
澪「自転車のチェーン外れてないか!?」ドキドキ
律「…はあ?なにいって…」ピカーン
唯「うわ!りっちゃん眩しい!」
律「なに?もっぺん言ってみろー!」ピカピカ
律「ムギ!わたし眩しいか?」ピッカピカ
唯「…ムギちゃん?」
澪「それよりおまえたちチェーンは…」
紬「…自分の欲望のままに生きることほど…醜いことはない」
律「大丈夫かムギ?」ピッカーン
唯「うわっ眩しい!」
律「なんだとー!だいたいばれいしょってなんだー!わけわからん!」
唯「!」
唯「馬鈴薯はじゃがいものことだよ!一般にはじゃがいもってのが多く使われてるけどそれは馬鈴薯が日本に齎された当時、ジャカルタがジャガタラと呼ばれていたから
それが変化して現在のじゃがいもという名が定着しただけであって、馬鈴薯って名前だって中国での表記を音読みしただけで本質は変わらないよ!馬鈴薯という名の由来は
馬鈴薯の形が馬につける鈴に似ているから、とも言われてるんだよ!どこの国の言葉かわからないカタカナ文字よりこっちの方がよっぽどわかりやすいよ!
第一スナック菓子だって原材料名のところにはじゃがいもという表記より馬鈴薯と書かれているほうか多いんだよ!それに…」
―夕方。
律「じゃあ…帰るな…」ピカー
唯「うん…」
紬「…」
澪「もう暗いな…自転車見えるかな…」
律「暗いか?明るいぞ!」ピカー
唯「うん…」
澪「まあとりあえず服は明日返すよ、じゃあな」
律「じゃなー」ピカッ
唯「うわっ!」
紬「…」スタスタ
唯(今日はすっごくつかれたよお)
唯(もう休もう…)
―
唯(お風呂入ったし…)
唯(憂まだ帰ってきてないけど)
唯(寝よ…)ノソノソ
―
ガチャ
憂「おねーちゃん?…寝てるんだ」
憂(あ!やっぱりわたしの服着てる!)
憂(もう…代わりにお姉ちゃんの部屋着かりよう)
憂(いっぱいあるし…大丈夫だよね)
―
ガタタン
唯「…ん?」
唯「むぅ…なんの音だろ…」ムクッ
唯「ういー?いるのー?」トントントン
唯「うい…うわっ!」
唯(お酒臭いよ!なにこれ!)
憂「ウイ~~~」
憂「あーおねーちゃんだあ。ちょっとお酒買ってきて~」ムワーン
唯「うっ!う、ういお酒飲んでるの!?」
憂「うふふ~飲んでないよー」グデン
唯「あ!…そのTシャツ…」
唯(『のんべえ』…わたしのだ!)
憂「はやく~!」
唯(うわあああん眠れないよおおおお)
―
――ひと月後。
唯「…ふう!」
唯「よし!これで全部着終わったよ」
唯「…ん?引き出しが…」ピカー
その時光ったように見えたのは、もしかしたら気のせいだったかもしれません。
それ以来、Tシャツたちはもとにもどってしまいましたが、
でもわたしは信じています。Tシャツたちもたまには着てほしいんじゃないかって。
わたしのTシャツがあんなことになったのも、Tシャツたちが寂しかったからかもしれません。
最後の『ぬるぬるアンアンぺろぺろ』Tシャツも、それ以外のTシャツも、
根底にあるのはみんな一緒でしょう。
みなさん。たまにはタンスの奥を探ってみてください。
きっと洋服たちが待っていますよ。
それでは、ごきげんよう。また会う日まで。
おわりでーす。
最終更新:2010年08月06日 00:47