~公園~

摩季「……」ヒュオ……

ドン! ドン! ドン!

紬「くぅ……!」

屋敷(やっぱりケタ違いの強さや、エアマスター……)

唯「飛んでる……」

梓「<エア>……マスター……」

坂本「やっぱりマキは素敵だ……」

みちる「うわ! 復活してる!」

摩季「もっと本気で私にぶつかってきな……」

紬「……あなたは本当に私の中の<怪物>を消してしまえるの?」

摩季「たぶんね」

紬「私に……また……幸せな時がやってくるっていうの……?」

摩季「あの娘達……唯ちゃんと梓ちゃんが――<放課後ティータイム>のみんなが待っていてくれてるんでしょ?」

唯・梓『……』

紬「みんなが……」

摩季「だから出しちゃいなよ、あなたの<怪物>……。<エアマスター>も会ってみたいってさ」

紬「……ありがとう、マキちゃん。いえ――<エアマスター>。どうか……<私>を……受け止めて!」

グォン!

摩季(重――!)

ズドォン! ガラガラ……

屋敷(パンチ一発で壁に叩きつけおった――!)

美奈「マキちゃああん!」

独歩「――心配いらねえよ」

美奈「え!?」

独歩「あのでかい姉ちゃん、自分で後ろに飛んでダメージを逃がしたのさ」

唯「おじさん誰?」

独歩「あの可愛らしいお嬢ちゃんにのされた只のオヤジさ。……ったく、最近の女子高生ってのはみんなあんなに強いんかい」

坂本「マキは特別だ」

独歩「ほ……。らしいな」

ガラガラガラ……シュタッ!

摩季「……効ぃたあ」

紬「やああああ!!!」

シュン!

紬(いない――! どこ!? 前!? 後!? いったい――)

独歩「――真上だ」

紬「――!?」

摩季「これで終わりよ……!」

ドンッッッ!!!

紬「……」ドサ……

唯「ムギちゃん!」

梓「ムギ先輩!」

屋敷(顔面モロやん……。えげつな……)

摩季「はぁ……はぁ……――!?」

紬「……」スッ

独歩「こいつぁ驚いた……!」

屋敷(そのまま寝とったほうが楽やろうに……。何があの娘をそこまでさせんねん!)

紬「<痛い>……<痛い>わ……。ありがとう、マキちゃん。私――」

摩季「感謝の言葉はいらないよ。その代わりもう一度……全てを出し切って……」

紬「……!」ダッ!

摩季「――きな!」ザッ!

ドオオオオオン……

――――――。

紬(不思議な感覚……身体が空っぽになったみたい)

紬(でもなんでだろう……気持ちいいな)

紬(お茶――お茶が飲みたいな。部室でみんなといっしょに)

紬(唯ちゃん――)

紬(澪ちゃん――)

紬(梓ちゃん――)

紬(そして――りっちゃん)

紬(みんなといっしょにあの温かくて幸せな時間をもう一度――)

ポツ……

紬(温かい……。雨……? あんなに月のキレイな夜だったのに……)


???「……ギ……ちゃん」

???「……ムギ……せ……い」

紬(誰かしら……とても懐かしくて……温かい……)

???「ムギ……ゃん!」

???「ムギ……輩!」

紬(ああ、そうよ。二人は――みんなはずっと私を待っていてくれていたのね)

紬「唯ちゃん、梓ちゃん……」

唯「ムギちゃん! よかった……よかったよ~」ガシッ!

梓「ムギ先輩……先輩……!」バッ!

屋敷「こらこら、あんまり動かすなや! 治療できんやろ!」ポゥ……

紬「温かい……。これは……?」

屋敷「<集気>で怪我を治しとるんや。気休め程度やけどな」

紬「ありがとうございます。えーと……」

屋敷「屋敷。屋敷俊や」

紬「ありがとう、屋敷さん」にこっ!

屋敷(す……好きや//////)

みちる「ちょっと、どさくさに紛れて変なとこ触るんじゃないわよ」

屋敷「さ、触らんわ! アホぉ//////」

ユウ「怪しい……」

紬「あ……摩季ちゃん……」

摩季「気分はどう?」

紬「凄く……凄くスッキリしてるわ……」

摩季「そっか、よかった。……あなたの全て、受け止められたかな?」

紬「ええ……。ありがとう、<エアマスター>……」


坂本「マキ……俺といっしょに夜を過ごしてくれ」ヌッ

摩季「ひっ……! く、来るなあああああ!!!」タッタッタッタッタ……!

坂本「マキぃぃぃぃ……!」コッコッコッコッコ……!

美奈「待ってマキちゃーん!」

ユウ「じゃあね、唯、梓!」

みちる「今度いっしょに遊ぼうね!」

レンゲ「バイバーイ!」

タッタッタッタッタッタ……

唯「うん! また会おうねー!」

梓「色々ありがとうございましたー!」

紬(マキちゃん……あなたに会えてよかった)


独歩「――いやぁ、世間は広いねぇ。あんな強え奴らに一晩でこんなに会えるなんてな」

屋敷「せやね……って、おっさんもうこの娘に用無いやろ。さっさとこいつ連れて帰り」

加藤「うう……」

独歩「まあそう言うなって。……なあ、お嬢ちゃん。さっき君のお友達から聞いたんだけどよ」

紬「はい……?」

独歩「お友達が交通事故に遭って意識不明らしいじゃねえか」

紬「……! ええ……。もうそのまま戻らないだろうってお医者さんが……」

独歩「そこでだ」

紬「?」

独歩「おじさんに一人医者を紹介させちゃくれんかね? 今夜色々と面白いもん見せてくれたお礼だ」

紬「でもお医者さんは無理だろうって……」

独歩「なぁに、心配すんなぃ。そいつの腕は超一流だ。いいからおじさんに任せておきな❤」



~数日後、某喫茶店~

深道「――つまり琴吹紬は普通の女子高生に戻り、なんの脅威でもなくなった、と……」

屋敷「そうや。あんたのことやから、どうせ一部始終見てたやろ」

深道「まあね。あの公園での一件以来、確かに彼女の力は失われてしまったようだ。残念だがね」

屋敷「いや、それでよかったんや。あの娘にとってはな……」

深道「……惚れたのか?」

屋敷「惚れたわ! 好きや! 大好きやっちゅうねん! ああ~、なんで連絡先訊いておかんかってん、ワイのアホ~」

深道「そ、そうか……。とにかく、ご苦労だったな。これは約束の報酬だ」スッ

屋敷「……おおきに。ああ~、ワイのアホ~……」スタッ

カランカラン……(またおこしくだしませー)

深道(彼女の<怪物>は同じ<怪物>をもつ<エアマスター>によって取り除かれたか……)

深道(彼女も<エアマスター>のようになればと思ったが、無理だったか……)

深道(だが別にいい……。人間の可能性というものをまた一つ垣間見ることができた)

深道(人間の可能性……。それこそがきっとあの男を――渺茫を倒すのだから……」



~神心会~

独歩「――え~と、術後の経過はどうですか、っと……」

夏恵「あら独歩ちゃん、メールなんて珍しい。誰と?」

独歩「~~~!! きゅ、急に声かけるない!」

夏恵「……怪しい。誰とかしら?」

独歩「と、友達だよ、友達!」

克己「女子高生とだってさ!」

独歩「あ、馬鹿!」

夏恵「じょ……!」

独歩「違うんだよ夏恵、これは――」

夏恵「……独歩ちゃんなんてもう知らない!」スタスタスタスタ……

独歩「~~~!!!」

克己「あーらら……」

独歩「克己……お前ぇ、なんで知ってやがる……」

克己「さぁ~♪」スタスタスタ……

加藤「……」そろ~……

独歩「加藤!!!」

加藤「お、押忍!!!」ビクッ!

独歩「ちょっとこっち来いやぁ……。てめぇには訊きてぇことがある……」

加藤「……押忍」

克己(スマン、加藤……)



~河川敷~

板垣「いや~、この間はエライ目に遭いましたねぇ」

一歩「なんだったんだろうあの女の子。まさか幽霊……」

板垣「そうとしか思えませんよね……。うう、くわばらくわばら……」

一歩「――!! い、板垣くん……!」

板垣「どうしました先輩?」

一歩「ま……前のほうに女の人が……!」」

板垣「ほ、ホントだ……!!!」

一歩「ダッシュだ……ダッシュで駆け抜けよう!」

板垣「はい!」

一歩・板垣『うわああああああ!!!!!!!!!』ドドドドドド……

久美「ふふ……がんばってるなあ。差し入れ渡しそびれたけど……いっか♪」



~街~

摩季「……」

美奈「どうしたの摩季ちゃん?」

摩季「あの娘達どうしてるかな、って……」

みちる「あ~、唯ちゃん達?」

ユウ「結局連絡先交換せず別れちゃったしなー」

レンゲ「また会いたいなー」

摩季(――あの娘は……ムギちゃんは私だった)

摩季(ムギちゃんは……<エアマスター>が育たなかった場合の私)

摩季(もしかしたら――)

摩季(私もムギちゃんも<怪物>に喰われて壊れていたかもしれない……)

摩季(そう、みんなに――)

摩季(<友達>に出会ってなかったら、きっと私は――)

レンゲ「ねー、牛丼食べいこ!」

ユウ「おーし、一番遅かった人がおごりだかんね!」

みちる「おっけい! 負けないわよ!」

美奈「え~……私自信ない」

摩季(みんながいるから私は――)

レンゲ「マキちゃん、いこ!」

摩季「……うん!」にこっ!




~病院~

鎬紅葉「――さあ、もう面会しても大丈夫だよ」

澪「ほんとに……ほんとに律はもう大丈夫なんですか!」

紅葉「ああ、しばらくすれば普通の生活に戻れる」

梓「ほんとのほんとですよね……?」

紅葉「おいおい……これでも私はスーパードクターで通ってるんだよ。安心しなさい。ほんとのほんとだ」

唯「ドラムも叩けるの……?」

紅葉「当たり前さ」

唯「よかった……! よかったねムギちゃん!」

紬「……」

梓「どうしたんですか?」

紬「私に……りっちゃんに会う資格があるのかしら……」

梓「まだそんな……!」

澪「……なあ、ムギ」

紬「澪ちゃん……」

澪「私は早く律に会いたい。律の笑顔がみたい。そのためにはさ……」

ギュッ……

澪「お前が必要なんだ。お前が泣いてたら律が笑えない。放課後ティータイムは――私たちは誰一人でも欠けたらだめなんだよ」

紬「私は……りっちゃんに会っていいの……?」

唯「当たり前だよ! さあ、ムギちゃんいこう。りっちゃんの笑顔を見に――!」

ギィ……

律「……」

紬「りっちゃん……」

律「……」

澪「おい、律……」

律「……」

唯「りっちゃん……返事してよ……」

律「……」

梓「先生! やっぱり手術は失敗だったんじゃ!?」

紅葉「……ふざけるのはやめなさい、田井中さん」ベシ!

律「あいたぁ! なにすんだよセンセー! せっかくみんなを驚かせようと思ったのにー……」

紅葉「大切なお友達を心配させた罰だ。――さて、私はこれで失礼するよ。それじゃあお大事に、田井中さん」

ギィ……

律「は……はは……みんなおはよー」

唯・澪・紬・梓『……』

律「みんな久しぶりー……。あれ? 背伸びた? なあんて……」

唯・澪・紬・梓『……』

律「あの~、みなさんやっぱり怒って――」

澪「律!」

唯・紬『りっちゃん!』

梓「律先輩!」

ギュッ……!

律「みんな……。グスッ……ごべん……心配がげて……ごべんね……!」


紅葉「……バカンスは台無しになったが――」

紅葉「まあよしとするか……」サッ……


紬「りっちゃん……りっちゃん……! ごめんなさい、私――!」

こつん!

紬「いたっ!」

律「……ムギが謝ることなんてなにもねーよ。それよりもさ、みんなそろったことだし――」

律「お茶にしよーぜ!」

唯・澪・梓『さんせーい!』

律「ほらムギ、ぼーっとしてないでお茶淹れてくれよ! もちろん紅茶な!」

紬「うん……。うん……!」

紬(また……幸せになっていいのね。みんなといっしょに)

律「ムギー、お菓子もー!」

紬「はーい!」

――私たちは今日も元気にお茶してます!――

おしまい。



最終更新:2010年08月10日 21:20