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次の日も憂はわたしを起こした後、すぐにご飯をすませて学校へ行ってしまいました。

「…なにしてるんだろ…わたし」

自分の愚かさを憎みながら、ひとり学校へと向かいます。
すると後ろから聞き覚えのある声がわたしを呼びました。

「唯ー?どうした暗い顔して」

「…りっちゃん」

軽音部の親友がわたしをわたしを心配してくれます。

「なんでも…ないよ…」

「あれ?憂ちゃんは?」

「さき、行っちゃった…」

「唯?なにかあったのか?」

わたしはなにもいうことができませんでした。


その日、授業のないようはまったく頭に入ってきませんでした。
どうすれば許してもらえるのか、そんなことばかりを考えていつの間にか放課後になっていました。

ムギちゃんや澪ちゃんも心配してくれましたが、とても言えるようなことではありません。
ただ、なんともないよ、とだけ言っておきました。

「唯ちゃん、ケーキ食べないの?」

「あっ…うん!食べるよ、ありがと」

「…?」

その時、遅れてあずにゃんがやってきました。

「唯先輩!」

「え?なあに?」

「憂になにかしたんですか!?」

「っ!」

体が固まってしまいました。
なにも答えないわたしをあずにゃんが揺さぶります。

「ちょ、ちょっと梓おちつきなよ。憂ちゃんがどうかしたのか?」

「どうもこうも…今日ずっと上の空で…何聞いてもなんでもないって…」

「それで唯先輩の名前を出したら明らかに様子がちがって…」

「せんぱい!なにしたんですか!」

わたしはまだ何もいうことができませんでした。
わたしがずっとがんがえていたのは自分のことだけでした。

とたんに涙が頬を伝います。
自分はとんでもなくバカでした。

「…っご、ごめんねぇ…ごめんね…」

「謝ってるだけじゃわかりませんよ!」

「梓落ち着け!唯、ちょっと話してくれるか…?」

ここまできたら白状するしかありません。
懺悔をするように昨日のことを打ち明けました。

「はあ!?何考えてるんですか!憂が傷つくことは考えなかったんですか!」

「おい梓…」

「先輩見損ないました!」

「っ!」

予想外の言葉にさらに涙が零れてしまいました。
ああ、わたしはこれからどうすればいいんだろう、そんなことも考えていました。

「な、なあ唯。なんでそんなことしたんだ?」

「それは…その…」

「憂ちゃんに許してほしいだろ?教えてくれないか、わたしも手伝うから…」

澪ちゃんがやさしくわたしに語りかけてくれました。

「わたしたちだって…仲直りしてほしいし…いい?」

「…」

でも憂がかわいくて我慢できなかった、そんな理由でやってしまったなんていったらみんなにどんな顔されるかわかりません。
いまだに口が開けないでいました。

「せんぱい!憂のほうが辛いんですよ!」

「…唯ちゃん。唯ちゃんも辛いかもしれないけど…お願い。おしえて」

憂のほうが辛かった、そんなことを改めて言われてわたしは気付かされました。
みんながわたしの言葉を待っています。
わたしは思い口を開きました。

「その…前から憂のことが…」

「聞こえませんよ」

「…!…憂が好きで…我慢できなくて…」

「そんな理由でやったんですか!?」

「うう…ごめんなさい…」

わたしに謝ってもしょうがないですよ」

そのあと、みんながあれこれ考えてくれました。
わたしはなにも言えず、ただ話を聞いていました。
結局、謝るのが第一だろう、ということでみんなにそうするよう言われました。

その日は、そのまま部活は終わりました。

「じゃあな唯。元気だせよ」

「唯ちゃん。がんばってね」

「…うん。ありがと…」

重い足をなんとか動かし、家に向かいます。
ほんとうは帰りたくありません。
憂にどんな顔をして会えばいいのかわかりませんでした。

そんなことを思っているうち、あっという間に家についてしまいました。
気づかれずに家に入って、すぐに寝ちゃおう、そんなふうに考えてゆっくりと扉を開きました。

「あ…お姉ちゃん…おかえり…」

「!」

「あっお姉ちゃん!まって!」

謝らなきゃ、そう思っていたのに目の前に憂がきて途端に逃げ出してしまいました。
憂が呼び止める声も振りきって部屋へ駆け込み、ベッドに潜りました。

「…うう…わたしなんか…いなくなっちゃえばいいんだ…」

いつまでもぐずぐずと泣いていたら、部屋をたたく音がしました。

「お姉ちゃん…?入るよ…」

入ってきたのは憂でした。
怖くなったわたしは布団を強く引っ張り、涙を必死に堪えていました。

「お姉ちゃん…起きてるでしょ…?」

「…っ」

「お姉ちゃん…ねえ…返事してよ…」

憂が一生懸命わたしに話しかけてくれてるのに、わたしは声を出す勇気さえありませんでした。

「ねえ…お姉ちゃん…」

「…」

「答えてよお…」

憂の声が泣いてるように変わりました。
わたしはそこでやっと、ふとんからでました。

「…お姉ちゃん…」

「…っ!ごめんね…」

怖くて憂の目が見れません。
でも憂はわたしのことをずっと見ているようでした。

「お姉ちゃん…ごめんね…わたしあんな…」

憂はずっとわたしに悪いと思っていたようです。
胸が苦しくなって…なんとか声を絞り出します。

「…う…憂は…悪くないよ…」

「ううん!わたしが悪かったの!ごめんね…だから…」

憂が謝るのを止めなきゃいけないのに口は開きません。

「だから…許して…」

「…!」

憂がそういってわたしを背中から抱きしめました。
わたしは罪悪感でいっぱいでした。

「…うっ…憂…」

「…?」

「わたしが悪いのに…なんで謝るの…?」

震えながらなんとか声を出します。

「…ううん、悪いのは…わたしだよ…」

「ごめんね…あんなにつよくどついちゃって…」

「憂!憂は悪くないの!全部わたしが悪いの!」

被っていた布団を剥がし、勢いに任せて憂を責めるように自分のことを謝罪します。

「ごめんね…ごめんね憂!わたしが悪かったからあ…」

「謝らないで…」

「お姉ちゃん…」

「わたしは…怒ってないよ…」

「でも…」

「いいの。お姉ちゃんと仲直りしたかったから…」

そういって憂はまたわたしを抱きしめ、体を預けてきました。

「お姉ちゃん…仲直りしてくれる…?」

「う、憂が…そんな…」

「だめ?」

「…うん…ありがと…」

「えへへ」

最初から最後まで憂に頼ってしまいました。
憂のおかげでわたしは心につまってものがとれたような感じがしました。

ふと、目が熱くなりました。
気づくと、涙がたくさんあふれてきました。

「うわああああん!ごめんねえええ憂いいい!」

「わっ!…ふふ、よしよーし」

大泣きしながら憂に抱きつきました。
憂はあいかわらずやさしくて、わたしの頭をやさしく撫でてくれます。

「ごめんねえ…ごめんなさいいいい!」

「お、お姉ちゃんそんなに泣かないで…」

涙が止まりませんでした。
憂のあたたかさが心地良くて、憂の服を濡らしてしまっているけれど離れられませんでした。

「ほんとに…ごめんなさい…ううっ…」

「もういいよ。だから…泣かないで」

「…っうん!…もうちょっと待って…」

なんとか目をぬぐい、頑張って涙を零さないよう、こらえます。

「よかった。お姉ちゃんと仲直りできて」

「わたしも…」

その間もずっと憂は抱きしめていてくれます。
その安心感にもっと浸っていたくて、憂の胸に顔をうずめます。

「く、苦しいよお…お姉ちゃん」

「お願い…もうちょっとこのままで…」

「…うん」

しばらくの間そのまま静かに時が過ぎるのをまっていました。
どのくらい経ったでしょうか、わたしが離れるまで憂はじっと黙っていてくれました。

「ありがと…憂」

「んーん。…じゃあお姉ちゃん…ひとつだけ聞かせて」

「え?」

「昨日のことでごめんね…でも知りたいから…どうしてあんなことをしたの?」

ふいに聞かれた質問に言葉がつまります。
あんな理由、言えるはずが…。

「お姉ちゃん…いいでしょ?」

「…」

「わたしは怒ってないから…だから教えて」

ここで教えなければ憂がここまでがんばってくれたものを無駄にしてしまうことになります。
意を決して、答えることにしました。

「…う、憂が…かわいかったから…」

「だからからかおうと思ったの?」

「違うの!憂のことが好きで…だから…」

「憂のこと見てて…我慢できなくて…」

「ごめんなさい!もうしないから…許して…」

「…」

憂はまたわたしの肩を引き寄せ、やさしく抱きしめてくれます。

「怒ってないよ…」

「ありがと…言ってくれて…」

「わたしも…お姉ちゃんのこと…すきだよ」

「…!」

「ありがとね…そんなにお姉ちゃんに好きだって思われてて嬉しいよ」

「…うい…」

憂はわたしを傷つけないようにやさしく語りかけてくれます。
わたしは憂のそのやさしさに浸っているようにその声を聞いていました。

「お姉ちゃん、今日一緒に寝てくれる?」

「えっ…でも…」

「いや?」

「…ううん。一緒に寝よ…えへへ」

もうわたしはあんな安易なことはしないと誓えます。
憂がどれほど大切かわかったからわかったからです。

「あ!お姉ちゃんやっと笑ったね!よかった」

「あ…えへへ…憂のおかげだよ。ありがと」

「どういたしまして。お姉ちゃんもありがとね」

「んーん」

「…じゃあ寝よっか」

「うん」

「…」

ふたりとも何もしゃべらずに天井を見上げていました。
横をみると憂も同時にこちらに顔を向けました。

「あ…」

「えへへ」

「ふふっ…」

「…」

また見つめ合ったまま、静かに時計の音を聞いていました。
ふと、今日のことが思い返されます。

「ねえ憂…」

「…なあに?」

「もう一回謝らせてね。ごめんなさい」

「許しました!」

にっこりと笑ってくれる憂の手を握りました。

「このままで…いい?」

「もちろんだよ」

右手にあたたかさを感じ、目を瞑ります。
なんだかふわふわと浮いているような間隔です。

「…お姉ちゃん」

「…ん?」

「キスくらいなら…ううん…もっと大人になってからだね」

「え?なあに?」

「なんでもなーいよ!」

「あっ教えてよー!」

わたしたちはいつだって一緒。
そんなことも今なら胸をはって言えます。
憂が自信をつけてくれたから。

「ねえ憂…」

「…なーに?」

「…大好き」

「えへへ。…わたしもだよ」

世界で一番大切なその人を、わたしはちからいっぱい抱きしめました。
ずっと大好きだからね、憂。

                                              おしまい。



最終更新:2010年08月10日 23:08