――決選投票 当日

律「ついにきたな」

澪「ああ」

紬「そうね」

梓「はい」

唯「……」

律「大丈夫だよ唯。緊張するなって」

澪「この日のために選挙活動もしっかりやってきたし」

紬「和ちゃんに負けない為に一生懸命特訓したでしょ?」

梓「そうですよ。もう唯先輩は誰にも負けないです!」

憂「そうだよお姉ちゃん」

唯「う、うん」

和「あら。みなさんおそろいで」

唯「和ちゃん……」

律「きやがったなこんのやろう!」

澪「和! 今日で決着をつけるぞ!」

紬「負けないんだから!」

梓「絶対勝ってやるです!」

和「いい度胸してるじゃない」

憂「和さん……」

和「なによ、裏切り者」

憂「! 和ちゃんのばーか! お姉ちゃんに負けちゃえ!」

唯「ああ……」オロオロ

和「唯、あんたには絶対に負けないわ。この壇上で大恥かかせてあげる」

唯「……」

和「それじゃ、またあとで」

律「く~~っ! やっぱあいつムカつく!」

紬「あんな人、もう友達でも何でもないわ」

澪「和はもっと優しい人だと思ってたけど……最低だな」

唯「みんな……」

唯(こんなんじゃダメだよ……。こんなんじゃ和ちゃんとみんなが友達じゃなくなっちゃう……)

唯(私はどうしたらいいの……?)


司会「それでは、ただいまより生徒会長候補者2名による紹介と抱負を述べてもらいます」

司会「まずは、2年1組、真鍋和さん」

和「私はこのたび生徒会長に立候補した真鍋和です」

和「私の目標とする清く正しい桜高を実現するために、さまざまな改革を行いたいと思います」

和「よろしくお願いします」

パチパチパチパチ

律「けっ! なーにが清く正しい桜高だ! あんなひんまがった性格のやつが出来るかよ!」

梓「そうですよ!」

紬「次は唯ちゃんね」

澪「がんばれ、唯……!」

司会「続きまして、2年2組、平沢唯さん」

アースイミンガクシュウノヒトダー ウケルー

唯「あっ……私はこのたび生徒会長に立候補した平沢唯です」

唯「先の選挙でも述べたように、私はこのままの桜高でいいと思っています」

唯「生徒会長になったら、この楽しい桜高をいつまでも続かせるよう努力したいと思います」

唯「よろしくお願いします」

パチパチ…

律「なんか元気ないよなあ」

紬「うん。最近、ずっとああだったよね」

憂「お姉ちゃん……」

司会「それでは、ただいまより生徒会長候補2名によるディベートを行います」

律「よし! こっからが本番だ!」

梓「唯先輩がんばって……!」

司会「では、始めてください」

和「では……平沢さんに質問です。あなたはこのままの桜高でいいとおっしゃっていましたが、
  先週の桜高における無断欠席や遅刻をした生徒がどれだけいるかご存知ですか?」

唯「えと……わ、わかんないです……」

和「無断欠席だけでも30名、遅刻した生徒は100名以上です」

ざわ… ざわ…

和「これだけの生徒が無断で休んだり遅刻したりするんです。あなたがおっしゃる通りに
  そのままにするのであれば、この怠けた人たちは無視してもいいんですか?」

唯「そ、それは、その人たちも何か事情があって休んだり、遅刻したりしてるんです」

和「事情があるならなんで無断で休むんでしょうか? 普通は報告するでしょう?」

唯「あっそうか」

アハハハハハハハ… サスガハアカテンマスターダナー

律「おいおい、押されっぱなしだぞ」

紬「だ、大丈夫! まだチャンスはある!」

梓「ここでやらなきゃ負け確定です!」

和「このままでいけば、桜高は楽しい高校じゃなくてふ抜けた、つまらない高校になりますよ」

唯「そ、そんなことないです」

和「じゃあ、どうすればいいんですか?」

唯「それは……その……」

和「……」

唯「……」

和「……じゃあ次の質問です。あなたの部活、軽音部は練習もしないでお茶ばっかりしているんですよね?」

唯「!!」

和「ですよね?」

唯「は、はい」


和「本来、部活というものは練習するものです。それなのに練習もしないでだらだらとお茶をしながら部室を占領している……。これでいいんですか?」

唯「そ、それは……」

律「あ、あいつ……!」

紬「……」

梓「ムギ先輩……」

澪(頼む唯……お前なら言い返せるだろ……!)

唯「確かに練習はあまりしてません」

ざわ… ざわ…

唯「でも、このティータイムがあったから、私たちは今までやってこれたんです」

和「他の部活はティータイムなしでもやっていますよ?」

唯「それは……その……」

和「そうやって我が物顔で部室を占領して、練習もしないで、紅茶やお菓子を食べる……それが部活なんですか?」

唯「練習はしてます!」

和「いえ、あなた方はやっていません」

唯「なぜ言い切れるんですか?」

和「先週、私たちの独自の調査で、あなたたち軽音部の練習時間と休憩時間を計りました」

唯「!」

和「その結果、練習時間が30分なのに対し、休憩時間は9時間30分でした」

ざわ… ざわ…

和「さらに、先々週に至っては全く練習せずにお茶会を開いていたそうです」

オイオイ… フザケンナヨー ブーブー!

律「あっちゃー、これはやばい」

紬「やっぱりダメなのね……」

梓「そ、そんなことないですよ! きっとみんなは嫉妬してるんです!」

澪(うぅ……、まさか和がここまでしてくるなんて……)

澪「……ん?」

唯「……」

和「どうですか。これでもまだあなたはこの活動を部活と言うんですか?」

唯「……」

和「……」ニヤッ

和(勝った! もうこれで唯はもう何も言えない)

和(あとはじっくり攻めて終わらせて……)

唯「……どうして」

和「はい?」

唯「どうしてウソをつくんですか?」

和「はあ?」

ざわ… ざわ…

唯「あなたはさっき、『先々週に至っては練習をしていない』と言っていましたね』

和「え、ええ。なにが違うって言うんですか」

唯「全然違います。先々週、私たちはちゃんと練習してました」

ざわ… ざわ…

和「ウ、ウソだ!」

唯「いいえ、本当です」

唯「証拠はこれです!」ガチャ

ふわふわタ~イム♪ ふわふわタ~イム♪

和「それは……?」

唯「これは先々週録音した私たちの練習風景です」

和「なっ!?」

ざわ… ざわ…

和「そ、それだけで証拠だとは言えない! いつ録音したのかもわからないじゃない!」

唯「いやいや、ちゃんと、よーく聞いてください」ガチャ

……シュウノ… ふわふわタ~イム♪ セイ…… ふわふわタ~イム♪ …ナイマス…

和(後ろから何か音が……?)

唯「もう一度!」ガチャ

…ライシュウノ… ふわふわタ~イム♪ …セイ…カイチョ… ふわふわタ~イム♪ …ヲオコナイマス…

和「! ま、まさか……!」

唯「最後にもう一度!」ガチャ

…ライシュウノスイヨウ… ふわふわタ~イム♪ …セイトカイチョウセンキョ… ふわふわタ~イム♪ …チュウカントウヒョウヲオコナイマス…

和「バックから放送が……」

唯「そうです! この放送は生徒会長選挙の中間投票を来週の水曜日に行うという内容です。つまり先々週のことなのです!」

和「う、うそ……」

オー! スゲー 

澪「そうだよ! 先々週はみんなでいっぱい練習してたじゃないか!」

律「そうだっけ? 忘れてたや」

紬「そういえば澪ちゃんがたまには私たちの曲を録音しようってラジカセを持ってきてたわね」

梓「そうでした……。私としたことが恥ずかしいです」

澪「いや、それよりも唯はすごいよ! ああやって和のウソを見破るなんて!」

唯「どうですか? これでもまだウソだと言いますか?」

和「わ、わかりました。それはウソでした」

フザケンナー シャザイシロー

和「しかし! それでも先週の練習内容のことは言い返せないでしょう!」

ソウイエバソウダー アヤマレー

唯「言い訳っぽくなりますが、それは私たちが選挙活動で忙しかったからです」

ナンダー ソウダッタノカー

和「くっ……」

唯「……たしかに、私たちはあまり練習をしない部活なのかもしれません」

唯「でも、それでも私たちは毎日が楽しいんです!」

唯「りっちゃんがふざけて、澪ちゃんがつっこんで、ムギちゃんがそれを笑って、あずにゃんが早く練習しようって言って……」

唯「その時のみんなは本当に楽しそうなんです!」

唯「たしかに部活は練習して、汗を流して、がんばるものだと思います」

唯「でも、部活は……部活を楽しく過ごすことが本当の部活だと私は思います!」

和「!!」

律「ひっく…ちくしょー! いいこと言うじゃん!」

紬「私、唯ちゃんになら抱かれてもいい!」

梓「な、何言ってんですか!?」

澪「唯……」

澪(いつも何も考えてなさそうだけど、ずっとそう思ってたんだな)

和「……」

唯「真鍋さん。確かに桜高はだらしのない、ふ抜けた学校かもしれないです」

唯「でも、つまんない高校だとは私は思わない!」

唯「真鍋さんが言っていた改革をするのではなくて、桜高は楽しい高校だよって伝えることが出来たら……」

唯「そうすれば、きっと休んでる人とか、遅れてくる人もちゃんと来てくれるようになります!」

唯「だから、楽しい高校づくりを私はしたいと思っています!」

唯「私からは以上です」

オー! パチパチパチパチ!

和「……」

司会「えー、ただいまをもちましてディベートを終了します」

司会「それでは、これより投票を行います。投票用紙に名前を書いて……」


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最終更新:2010年08月11日 22:28