唯の自宅(一人暮らし)

携帯のメール着信音。
唯「のどかちゃんからのメールだ」
唯「……唯、この間のこと謝らせて欲しいの。か……」
唯「これで同じ文面のメールが10通、と」
唯「わかってないんだね、和ちゃんは」
唯「私の気持ちの受け入れを拒んだ和ちゃんを私が許すことはない」
唯「のどかちゃんは、そのことを自覚しなくてはいけない」
唯「私たち二人の友情はもう終わったんだ」


和「メールへの返信……」
和「やっぱり来てない」
和「でも一度会って話をしないと。」
和「私は唯を失いたくない」



翌日、唯の大学にて

和「唯!!」
唯「……のどかちゃん」
和「あまり驚いてないわね、唯」
唯「そろそろ来るころだと思ってた。……近くのオープンカフェでいい?」
和「ええ……私はあなたと話し合いたいの」
唯「私には話すことなんてないけどね。でもこれが最後だから。話だけは聞いてあげる」

白いパラソルの下、同色のプラスチック製のテーブルとチェアで統一された瀟洒なオープンカフェ。
初夏の折、薄着になり始めた学生たちの談笑する姿がそこかしこにあった。

唯「……で?」
和「私、この間のこと謝りたくて」
唯「……謝るのは私の方でしょ。気持ちが悪かったでしょ、ごめんね」
和「唯」
和は唯の手をそっと握る。

和「唯……私はあなたのことを気持ち悪いと思ったことはこれまで一度もないわ」
唯「そんな見え見えの嘘、つかなくていいよ。誰だって引くからさ、あたしが空気読めなかったんだ。あんなこと言わなければ、しなければ、よかった」
和「…………」
唯「のどかちゃんと寝たいだなんて、一生心の中に隠しておくべきだったんだ。そうすればずっと友達として」
和「…………ずっと友達の振りをして、アタシのことを『女』として見つめ続けるの?」
唯「!……あはは、今のグサッと来た……。そっかー、やっぱり気持ち悪いよね。ほんっとにごめん。あたし帰る」
立ち上がる唯の、しかし右手はまだ和に握られたままだ。
唯「この手は何よ。気持ち悪いんでしょ。もう離して」
和「確かに、女が性的対象として女を見るなんて私には理解できない。その対象に自分がなるなんて思っても見なかったし、正直気持ち悪いとも思う。
 でも、私は唯を気持ち悪いと思ったことはないわよ」
唯「……だったらなんで、あんな」
和「突然だったし、いきなりキスされたのよ」
唯「……」
和「それにあれは私のファースト・キスだった」
唯「……」
和「初めて、だったのよ、唯。……私の気持ちもわかって」
唯「平手打ちぐらいで済んで、謝らなくちゃいけないのはアタシの方ってことみたいだね」
和「少なくともあれは唯への拒絶ではないの。ただ、私は女の子をそういう対象として見たことはないし、これからも見ることはできない」
唯「……でも、私にとってのどかちゃんは初恋の人だし、永遠にこの気持を変えることなんてできないよ。」
和「……」
唯「ねぇ、私たち、どう、すればよかったのか……な」

和「一つだけ……シアワセになる方法はあるわ。」
唯「え?」
和「あれから、ずっと考えてた。出た答えは一つだけ……」
唯「……和ちゃん……?」
和「私、唯に……」
唯「……」
和の白くて細い指先が、唯の指の先に絡まる。
唯は引き寄せられるように、オープンカフェの白い椅子に再び座り込んだ。
唯「和ちゃん」
和「目をつむって」
唯「……和……ちゃん?」
和は空いている方の手で、唯のまぶたの上を覆った。
ふたたび手を離した時、唯のまぶたは閉じられたままで、
和はそっと立ち上がり半身を乗り出して、唯に顔を近づけた。
唯「……」

触れ合う頬と頬。
ついばむように、和のくちびるが、唯のくちびるをつまんだ。
一口、二口、三口
和がついばみ、唯が受け入れる。和の熱い吐息が、唯の秘めやかな吐息と交わる。
和が吸い、唯が吸われる。
静かに、永遠のような時が流れる。
二人の女性同士の情熱的なキスを、周囲の学生たちも驚きの表情を顔に貼りつけたまま、凝視していた。
二人のくちびるがそっと離れると、固まった時間が動き始める。
和「……これで、この間の不意打ちのキスはなかったことにしてほしいの」
唯「和ちゃん……どうして」
和「私が唯のことを気持ち悪く思ってないって信じてもらうにはこうするしかないと思って。あと、これが私の本当のファースト・キスだから」
唯「ごめん」
唯が両の小さな拳を膝の上でぎゅっと握った。
唯「あたし、和ちゃんのことを信じてあげられなかった。和ちゃんが私のことを嫌うはずなんてないのに、勝手に決めつけて、自分の気持ちだけで、和ちゃんのファースト・キスとか全部台無しにしちゃった。本当にごめん……」
手の甲の上に、ぽろぽろと水滴が落ち、そこに落とした唯の視界も滲んでいく。

和「もういいのよ、唯。私のことを好きになってくれたことは本当に嬉しい。それは本当なの」
そして、和は立ち上がり、そっと、唯の首に手を回し、耳元にくちびるを寄せて、小声でささやいた。
和「……唯、私をホテルに連れていってくれる?」
唯「……のどか……ちゃん……」
和「私、いつも勉強とかばかりで……こういうことはからきしだから、時間がかかっちゃったけど。でも解決策は一つしかないの。唯と今までどおりの友達でいるには、もう、私が唯のオンナになるしかない」
唯「……」
和「私を唯の女にして。私が女の子のことを愛する対象にできなくても、唯のオンナになることはできる。唯が気持ちをぶつけて、私はそれを受け入れるだけなんだもの」
唯「ほ、本当に、いい……の?」
和「これがきっと運命だったのよ。幼稚園であなたに最初に頼られた時から、ずっとね」
唯「……でも、和ちゃんがそれじゃ」
和「唯と友達でいられなくなるほうがつらいもの。でも、澪たちとの浮気はほとほどにしてね?」
唯「う、うん(全部バレテーラ……)あ、あははは……」
和「うふふふ」

和「けっきょく、唯の部屋に来ちゃったわね」
唯「だってホテルは高いもん。それにこれからはしょっちゅう、こういうことするんだから、節約しなきゃ、だよ!」
和「はいはい。本当に唯はあいかわらずねー」
唯「じゃーん、ここが二人の愛の寝室だよーー!」
和「唯にしては、綺麗に片付けてるわね」
唯「まあ、色々来た人に掃除してもらったりとか……てへへ」
和「本当に唯はモテるわねー。女の子限定だけど」
唯「妬かない妬かない~、のどかちゃん」
和「そして、今晩、またその新たな餌食に私がなるわけだ」
唯「……の、のどかちゃん(ゴクリ)」
和「まさか、男の人ではなく、女の子とこういうことするなんて思っても見なかった」
唯「やっぱり……後悔してる? やめる?」
和「ムリしなくていいわよ。唯は私を抱きたいんでしょ?」
唯「う、うん!!」
和「だったらその気持を素直にぶつけて。女の子とのHは正直、私にはまだ抵抗はあるの。でも唯だから耐えられるし、受け入れられる。
  唯だけが頼りなのよ」
唯「せ、責任重大だ!」
和「そう、重大なのよ。ちゃんと責任を取ってね」
唯「が、合点承知之助。わかりやした!!」
和「もう、相変わらずなんだから」

唯「シャワー……お互い、浴びたし。あとは……」
和「寝るだけ、よ」
唯「うん」
ベッドシーツをあげると、裸身の女性2人が仲良く、そこに潜り込む。
唯「あのね、和ちゃん。あたしね、和ちゃんに最初に出会ったときから、ずっと和ちゃんのことをお嫁さんにしたいって思ってたんだよ」
和「あは、ありがとう、唯」
唯「ほんとのほんとに本当なんだよ!! だから、憂に女の子同士では結婚できないって教えてもらった日の夜はわあわあ泣いちゃった。いつの間にか眠っちゃってたけど」
和「……そ、そこまで。本当に私のことを好きになってくれていたのね」
唯「だって、和ちゃんはなんでも完璧にできるし、お母さんみたいに優しいし、私の理想のお嫁さんなんだモン!」
和「ありがとう、唯……私も唯と違う性別だったらよかったのに、って今なら思うわ」
唯「あたしは和ちゃんと同じ女の子でよかったな。そうじゃなきゃこんなに仲良くなれなかったもの。それに…」
そこで唯が、和の上に勢い良く覆いかぶさって、両腕で身体を支えながら、下になった和をじっと見つめる。
唯「女の子同士が本当に気持ちいいってこと、これから少しずつ、和ちゃんにも教えてあげるから」
和「……よ、よろしくお願いします」
唯「あは。真っ赤になったのどかちゃんも可愛いなー。じゃ、肩の力を抜いて、私に全部任せてね」
和「はい……」

唯「まずはキスなんだけど」
和「う、うん」
唯「和ちゃんには同性同士のキスだってこと、ちゃんと認識してほしいの」
和「え?」
唯「あずにゃんなんかは必死で目をつむって、女の子同士のキスだって事実から目を背けようとしているけど、和ちゃんは強い子だから、大丈夫なはずなの。だから!!」
唯は猛禽のようにいきなり、和を襲撃し、そのくちびるを奪う。
くちびるだけでなく、口腔粘膜を舌先で蹂躙するようなキス。
和(エエッな、何……これ。それに、梓って……澪たちだけじゃなく、梓まで唯の毒牙に?)
惑乱する思考が整理できないままに、和の口腔は犯される。唯の舌が、和の舌を絡めとり、くちびるとくちびるのキスだけではなく、舌と舌でのキスを強要される感覚は、いままでの2回のキスとは完全に別種のものだった。
和「うんんッッ、うんッ、ゆ……ゆいぃ!」
唯「ほ、ほろかひゃん……のおくちのなか、おいひいよぉ……これ、もうあたしのものだ……だれにもわたさないっ」
和「ひ、ひたが、ゆいのひたがわたしのひたをおかしてっ……い、いやっ、わたし、」
唯「ほろかひゃん、もうあたしの……したもくちもぜんぶっ」

唯「ねっ、ノーマルな女の子だと、女の子同士のキスってやっぱり、かなり気持ち悪いでしょ」
和「う、うん……やっぱりディープなのは、まだキツイものがあるわ……」
唯「そこがポイントです!!」
和「へっ!?」
ちょっと涙目になって呆けている和のくちびるを、唯は不意討ちのように再び、んちゅ、んちゅとついばむ。
和「や、やだ。キツイって言ってるところを……また、キスして……」
唯「上書きちゅーだよー、同性同士のキスの嫌悪感を、和ちゃんは忘れないで!!」
和「??? ど、どういうこと…?」
唯「だから、変態でもないのに同性愛を強要されて、キスをさせられているという感覚を忘れないで欲しいのです!」
和「……で、でも、それじゃいつまでも慣れないでしょ」
唯「初心忘るるべからずです! 私への友情・愛情と、私のオンナという性への嫌悪感を共存させるのです!!」
和「そ、それはどうして」
唯「その方が燃えるからです! 私も和ちゃんを襲ってる感じで燃えるし、のどかちゃんも無理やり感が燃えるようになるよ!」

和「はぁ、ずいぶんマニアックな世界なのね」
唯「だから私は基本的に男の子役用の道具とかも使いません! オンナの指先で蹂躙するので、それを素直な感情で受け止めて」
和「分かったわ。でもね……唯」
唯「ん?」
和「私は今日、嫌悪感を感じていても、それは本能によるものだからしょうがないとしても、段々唯のやることを好きになっていく確信があるわよ。
 だって唯にされることなんだもの」
唯「……のどかちゃん」
和「たぶんそうやって私の中のあなたへの気持ちは、段々と深い愛情へと変わっていくんでしょうね。違和感が残ったとしても、それがあなたへの気持ちを揺るがせることは決して無いわ」
ぶわっと、唯の二つの下まぶたに感動の涙滴がたまる。
唯「ありがとうぉ~~……のどかちゅぁん~~」
和「こ、こら、そんなにくっつかないで!! 乳首やヘンなところが擦れてるからっ」
唯「だってもう和ちゃんは、ヘンなところまで含めて、全部私のものなんだよ~~ 和ちゃんの身体が夜泣して、男の人を求めても永遠に抱かせないし、平沢唯が独占するんだからあ!!」
和「ふぅ~~まぁ、もう決めたことだからそれでいいけど……困ったものねぇ、唯にも……」
唯「申し訳ありませんが、和ちゃんは男の人が欲しくなったら、オンナの私とのセックスで我慢してください!!」
和「……だったら、今ここで、私が男の人と、ディープキスがしたいと言ったらどうする?」
唯「へ?」
和「まだまだキモチワルイ、ディープなキスをよろしくね」
そう言って、和はちょっと頬を薄く染めて、ゆっくりと両目を閉じた。


以上でのどか編終了です。



最終更新:2010年08月13日 23:24