唯「あれ? 澪ちゃん、ケーキ食べないの?」
澪「う、うん。ちょっとね。良かったら私の分も食べていいよ」
唯「やった~♪」
紬「澪ちゃん、どうしたの? このケーキ好みじゃなかった?」
澪「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
『じつは、私、最近体重が増えちゃって……、だからダイエットしなきゃいけないの』
唯「そっか~、ダイエットか~」
澪「……おい、律」
律「あ、私だってバレちゃった?」
澪「当たり前だ!」
唯「あれ? さっきのってりっちゃんだったの!?」
紬「りっちゃんって、澪ちゃんの心の声をよく代弁するわよね」
律「まぁな、澪の考えてることだったらなんでもお見通しだぜ!」
梓「じゃあ、ダイエットっていうのも本当なんですか?」
澪「デタラメだ!」
澪「ちょっと、虫歯っぽくってさ。甘いものはキツイかも、って」
律「なんだ~、虫歯かよ~」
紬「それは、早いうちに治しておいた方がいいわね」
澪「うん。明日にでも、歯医者に行こうと思ってるんだ」
梓「なんで、今日行かなかったんですか?」
澪「ああ、それは……」
『私、痛いの苦手だし、高校生にもなって歯医者さんで泣いちゃうの恥ずかしいし
覚悟を決める時間が欲しかったの』
唯「あ~、その気持すごくわかるよ、澪ちゃん! 私もできるなら歯医者になんて行きたくないよ」
澪「もう! 律いい加減にしろよ! 唯もそんな簡単に騙されるなって」
唯「はっ!? またしても……!!」
澪「私の行きつけの歯医者、今日の午後は休診なんだよ」
梓(正直、澪先輩のことだから、あながち律先輩の言い分も間違ってないかもって思ってしまった……)
唯「りっちゃんって、澪ちゃんの考えてることがよくわかるね。超能力者?」
律「私くらいになれば、そんなものは朝飯前ですわよ!」
澪「いや、全然当たってないから」
唯「私が、今思ってることもわかる?」
律「ちょっと待ってろよ。今唯の心の中に入り込む準備をするから……」
紬「わ~っ、なんだかドキドキしちゃうわね」
律「しっ! 静かに。今、精神統一してるから」
紬「あ、ごめんなさい」
澪「インチキな奴はこうやって形から入りたがるんだよ……」
律「むむむっ!?」
唯「!?」
律「きたきた!!」
律「唯は今『澪ちゃんには悪いけど、ケーキが二つ食べれて嬉しいな』って思ってる!」
唯「ドンピシャだっ!!」
梓「それくらいだったら、私にだってわかりますよ……」
唯「そういえば、和ちゃんもりっちゃんみたいに私の心の中がわかるみたいなんだ」
紬「さすが、幼なじみね」
唯「今朝も、宿題やってくるの忘れたからノート写させてもらおうと思って
和ちゃんのところに行ったら、私まだ何も言ってないのにノート出してくれたし」
唯「お昼のときも、私が和ちゃんのお弁当の玉子焼き美味しそうだな~って思ってたら
私、見てただけなのに『玉子焼き食べる?』って聞いてくるんだよ!」
唯「それが、毎日のようにあるんだから、和ちゃんってすごいよね!!」
澪「毎日あるから、和も唯の行動パターンが読めるんだろ……」
律「まぁ、さすがの和も唯の心しか読めないだろうな
その点私は、澪だけじゃなくって、他の人の心も読める超能力があるから!」
澪「おいおい……」
梓「また、そんなこと言って……」
律「じゃあ、梓が今思ってることも言い当ててやろう!」
梓「いいですよ! 当てれるもんなら当ててみろです!」
律「うむむ……!! はにゃほらふにゃ……」
澪「さっきとやり方が違うじゃないか……」
律「出ましたっ!!」
律「梓は、『ムギ先輩にトンちゃんの餌持ってきて下さいって言わなきゃ』って思ってる!」
梓「!?」
唯「合ってるの? あずにゃん」
梓「み、認めたくありませんが……そのとおりです……」
紬「りっちゃんすごい!」
澪「ま、マグレだろ、マグレ」
律(今日、珍しく私がトンちゃんに餌あげようと思ったら、もう無くなりかけてたからなぁ)
紬「じゃあ、りっちゃん。私もお願いします!」
律「うむ! 任せるがよい!」
唯「なんだか風格が漂ってきてるよ!」
律(ムギは何考えてるのか全然わかんねぇぞ……)
律(まぁ、そろそろ飽きてきたし、適当でいっか……)
律「では……。んん~~~~、ホゲホゲポーン!!」
澪「なんじゃそりゃ……」
律(もう最後だし、あり得ないこと言ってやれ
で、澪に「結局デタラメだろ」って突っ込まれて終りだ)
律「出ました! ムギは私にまた叩かれたいと思っている!
さらに今度は頭じゃなくて、お尻を思いっきり叩かれたいと熱望している!」
紬「!?」
澪「そんなわけないだろ」
律「ですよね~」
澪「やっぱりデタラメ……」
紬「りっちゃん……。やっぱり、私の気持ちに気づいてくれていたのね……」
律「えっ!?」
紬「それなのに、なかなか叩いてくれないなんて……罪な人……」
律「いや、あの、その……」
唯「すごいっ! 命中したっ!」
梓「これはいよいよ本物じゃありませんか!?」
澪「おいおいムギ。お尻叩かれたいとか、冗談だろ?」
紬「ううん。私、今まで一度もお尻ペンペンされたことなくって
誰かにお尻叩かれるのに憧れていたの」
紬「でも、こんな事誰かに頼むなんてさすがに恥ずかしくてできないし……」
紬「だけど、前に一度だけ頭叩いてくれたりっちゃんにならって思って……」
紬「でもやっぱり、お尻叩いて下さいなんてなかなか言えないし……」
紬「今までずっとムラムラしてたの! だから、私の気持ちを汲んでくれて嬉しい!」
澪「マジか……」
律(うわぁ、やべぇ……。まさかムギがここまで変態だったとは……。
逆に読めなかった……)
梓「ここまで、的確に当ててくるなんて。律先輩って本当に……」
唯「お尻叩かれたい! なんて普通思わないもんね」
紬「りっちゃんって、実はすごい能力の持ち主だったのね!」
律「だ、だから言っただろ? 私には超能力があるって!」
唯「その超能力使ったら、疲れたりしないの?」
律「あ、ああ。今日はちょっと乱発しすぎて疲れちゃったかな……」
唯「だったら、このケーキ食べてもいいよ!」
律「へっ? いいのか?」
唯「うん、疲れたときには甘いものだよ」
律「いや~、助かるよ。心読むのは精神的な摩耗が激しくってさ~」
律(あれ? なんだかちやほやされてる? もうちょっとこのままでもいいかもな♪)
澪「……」
紬「じゃあ、そのケーキ食べ終わってからでいいから、とりあえず。はい」プリンッ
律「お、おい! なにケツ出してるんだよムギ!」
紬「叩いてくれるんじゃないの……?」
律「……あ、そっか」
紬「思いっきりどうぞ!」
律「いや、今はちょっと……」
紬「りっちゃん……、叩いてくれないの?」ウルウル
律(あーもー。めんどくせぇ……)
律「そうじゃなくってさ。やっぱり、お尻ペンペンってのは悪いことした後にやるもんだろ?
この状況でやるなんてなんか違う気がしてさ……。
だから、例えばムギが、私の紅茶に砂糖じゃなくて塩を入れるなんてイタズラをしたあとだったら
スムーズにお尻ペンペンなんてお仕置きができるんだけど」
紬「りっちゃん……。私、本当に嬉しい!
今、私が思い描いているお尻ペンペンシュチュエーションと全く同じよ!」
律(おおぅ……)
紬「そうなの! イタズラっていう段階を踏まえるのが重要なポイントなのっ!」
梓「ムギ先輩、とりあえずパンツ穿きましょう」
唯「またもや、ムギちゃんの心の中を読み取った!」
律「へ、へへん! どんなもんだ!」
律(正直、私自身もこの的中具合は恐いな……)
律(それに、さっきの話だと、私の紅茶に塩が入る日もそう遠くない……)
梓「律先輩って、ふざけてるように見えて実は一番私達のことをよく見てくれてるってことですかね?」
紬「そっか。だから私たちが何考えているのかもお見通しってわけなのね!」
唯「さすが部長だー!」
律「ま、まぁな! なんせ部長だからな!」
律「いつも、皆が何を思い、何を感じて練習しているのかっていう心配りを忘れたことはないからな!」
律「そんな努力の賜物だな、こうやって皆の考えていることがわかるのは」
律(はははっ、言ってやった、言ってやった)
唯「りっちゃんカッコイイ!!」
澪「……」
帰り道
紬「また、明日ね~」
梓「失礼します」
唯「じゃあね~」
律「唯~、家でアイス食べ過ぎるなよ~」
唯「はっ!? またしても心を読まれたっ!
今日はスーパーでアイスの安売りだから、憂が沢山買ってきてくれる約束なんだ」
律(はいはい、スーパーでアイス安売り知っております。私もあとで聡にパシらせるか)
紬「まさに、エスパー律ね!」
梓「いっそ、テレポーテーションにでも挑戦してもらいたいです!」
律「ビーズが飛び出すハート型のブローチも無いし。
それにうちの親は、娘の裸なんて書かないからなぁ~」
澪「……」
・ ・ ・ ・ ・
律「いや~、まさかあの唯からケーキを貰う日がくるなんて思いもしなかったな~」
澪「……」
律「これも、私の隠れた才能のおかげかな、なんちゃって……」
澪「……」
律「さっきから、黙ってどうしたんだよ、澪」
澪「あのね……」
律「うん?」
澪「あれだけ他人の心が読める律のことだから
ずっと一緒にいる私の心の中なんて全部お見通しだと思うとなんだか恥ずかしくなっちゃって……」
律「へっ?」
澪「いつも私が律に抱いてる感情が、律に対して筒抜けだったなんて思うと……
なんだか、ドキドキが止まらないんだ……」
律「えっ……、そ、それって……」
澪「言わなくたって、律には全部わかってるんでしょ?」
律「えっ……、ああ……うん」
律(な、なんだ! この展開はっ!?)
澪「そういえば、もしかして小学生のときに初めて話しかけてくれたときも
実は、私の心の中が読めてた……とか?」
律「そ、そうなんだ! 実はそのころからなんとなくわかっちゃってたんだよな。あ、あはは……」
律(おいおい、いい加減止まれ! 私!)
澪「ずっと、独りで本読んでたけど、実はもっと友達と遊びたかったんだ」
澪「でも、人一倍恥ずかしがりだったから、自分から話しかけるのもできなくって……」
澪「だけど、そんな私の思いを受け止めてくれた律が私に話しかけてくれた」
律「そうそう、澪の心の叫びが聞こえて居ても立ってもいられなくなってさ~」
律(こうやって調子に乗っちゃうところが、私の駄目なところなんだよな……)
澪「でね、そのころから私、実はずっと律のこと……」
律「み、澪?」
澪「いや……、言わなくったって伝わってるし、いいや」
律「な、なんだよ! 気になるだろ?」
澪「そんなこと言って、本当はわかってるくせに。私の口から聞きたいだけなんだろ?」
澪「私の気持ちなんてずっと前からわかってるくせに。ずるいよ、律は……」
澪「私だって、律が私に対してどんな気持ちでいるのか、知りたいな~」チラッ
律(あれ? なんだか今日の澪はいつも以上に可愛いぞ……)
律「ま、まぁ、そうだな。私も澪のこと……」
澪「ストップ!」
律「へっ?」
澪「私が何も言わなくても、律は、私が律に対して思っていることがわかっちゃう」
澪「だからやっぱり、私も律が何も言わなくても律の気持ちが理解できるようになりたいんだ」
澪「だって、悔しいもん。律ばっかり私のことわかっちゃうの」
澪「そんな何も言わずとも気持ちが通じ合う二人になりたいんだ。律とは」
律(こ、これはっ!?)ドッキーン!!
澪「じゃあな、律」
律「えっ?」
澪「もう、家の前」
律「あ、ああ。うん……」
澪「……」
律「な、なに?」
澪「なに?って、今、心の中でまた明日って言ったんだけど……」
律「あ、ああ! もちろん聞こえたよ!」
澪「ふふっ。早く私も律と以心伝心な関係になってみたいよ」
律「えへへ」
澪「……」
律(ま、また何か心の中で念じているのか?)
澪「やっぱり、まだ、私には律の心の中が見えないな……」
澪「悪いけど、律は言葉で伝えてくれないか?」
律「き、気にするなよ! また明日な!」
最終更新:2010年08月14日 22:58