律「な、なんで澪がこんなところにっ!?」
澪「なんでって……、私の家もこっちなんだけど……」
律「あ、そうだった」
澪「それよりも、部活はどうしたんだよ。まだ終りの時間じゃないだろ?」
律「お前こそ!」
澪「私は歯医者の帰りだ」
律「あ、そうだった」
澪「まったく……、部長がサボってどうするんだよ」
律「う、うるさいっ!」
澪「ほら、サボってしまったものはしょうがないから帰るぞ」
律「ついてくんな!」
澪「どうしたんだ?」
律「澪は私のことウザイって思ってるんだろ!」
澪「ああー、さっそくか」
律「何がだよ」
澪「うん、ウザイ」
律「うっ……」
澪「そうやって、少し注目を浴びたからってすぐに調子に乗っちゃうところや」
澪「出来もしないのに、出来る! なんて言っちゃうところが」
澪「ウザイ」
律「へっ?」
澪「律はさ、そうやって後先考えずに突っ走っちゃうだろ?」
澪「確かに、それが律のいいところでもあるんだけどさ」
澪「でも、社会に出たら、謙虚さが求められるんだよ」
澪「もし、そんな性格が災いして、律が失敗して辛い思いをしたら」
澪「きっと私だってとても辛い……」
澪「だから、今この時期に痛い目に遭ったらきっと律も少し自重することを覚えてくれるかな~って」
律「あの……、どういう……」
澪「律が心が読めるなんて皆思っちゃいないよ」
律「へっ? そうなの?」
澪「大方、調子に乗って引込みがつかなくなったんだろ?」
律「よ、よくわかったな」
澪「何年一緒にいると思ってるんだよ」
律「おっしゃる通りで」
澪「お前があまりにも調子に乗ってるから、ちょっとお灸をすえてやろうと思ってさ」
澪「昨日、皆にそんな内容のメールを送ったんだ」
澪「でも、ちょっと効きすぎたらしいな」
澪「もしかして、泣いてたのか?」
律「なんだ……そりゃ……」
澪「ん?」
律「なんなんだよ! お節介な奴だな!」
律「私がどんな気持ちで部室から飛び出してきたのか!」
律「お前にはわからないだろうな!!」
澪「律だって……」
律「な、なんだよ」
澪「律だって、私以外の人の心を嬉しそうに読みとろうなんかしてさ!」
澪「律が心を読んでいいのは私のだけなんだ!!」
律「み、澪?」
澪「……はっ!?」
律「あの、もしかして……妬いてたの?」
澪「////」カァァァァァァ
律「へっへ~」ニヤァ~
律「そっかそっか~、澪ちゅわんったら寂しくなっちゃったのね」
澪「ち、ちが……」
律「も~、そうならそうと言ってくれれば、構ってあげたのに~♪」
律「なんたって、私は澪の心の故郷だから!」
澪「だから、そうやって調子に乗るところが駄目だって言ってるだろ~!」
律「いや~、冗談冗談」
澪「まったく……」
律「それにしても、唯たち結構迫真の演技だったな~」
澪「律がトイレ行ったりしてたあいだは、唯とムギで打ち合わせとか熱心にしてたからな」
律「そこまでして、私を陥れたかったのか……」
澪「でも、いい教訓になったろ?」
律「へいへい、これからは謙虚さを兼ね備えたスーパーりっちゃんにバージョンアップだぜ!」
澪「ぜんぜん、反省してないっぽいな……」
律「私、誉められて伸びるタイプだからっ!」
澪「社会に出たら、きっとそんな甘い考えは通用しないぞ。
一度、現実と向き合う努力をしてみたらどうだ?」
律「見えない聞こえない~」
澪「もしかして、それって私のマネ……?」
翌朝
律「……で、なんで私たち手を繋いでるの?」
澪「仕方ないだろ。ムギたちに協力してもらう代わりに
朝登校するときに手を繋いでくるようにって言われて約束しちゃったんだから」
律「だからって、本当に手を繋いで登校しなくったって……」
澪「こうやって、律と手を繋いで登校なんて小学校以来かもな」
律「道行く人に見られまくってる……」
澪「確かに、ちょっと恥ずかしいかも……」
律「じゃあ、離すか」
澪「待って! これはムギのたっての願いだから。その約束を破るわけには……」
律「はぁ~……」
澪「……律」
律「わかったよ、これで登校すればいいんだろ」
澪「うん」
律「私の手、汗っぽくない?」
澪「大丈夫」
律「……そっか」
律「このくらいの強さで握ってても痛くない?」
澪「全然平気」
律「わかった」
律「もうちょっと元気よく手を振ってもいい?」
澪「ご自由に」
律「……よし」
律「あっるっこ~♪ あっるっこ~♪」ブンブン
澪「ち、ちょっと律、元気よすぎ」
律「あ、ごめん……」
澪「いったいどうしたんだよ、さっきから」
律「いや~、手を繋ぐっていったいどうしてたっけな~と思ってさ」
律「最近手を繋いで歩くなんてご無沙汰だったから」
澪「ご無沙汰って……」
律「なんか妙に緊張しちゃって」
澪「普通でいいよ」
律「その普通がさ」
澪「そういえば、小学校のときは、こうやって律と手を繋いで登校してたけど
躾のなってない犬の散歩みたいに、私が律に引っ張られてたっけ」
律「そ、そうだったっけ?」
澪「律が歩くのが早くってさ、ついていくのが大変だったんだ」
澪「『ほらほら澪ちゃん、早く行かないと遅刻だよ!』って」
澪「律がいつも家出るの遅くって、私が待たされてた結果そうなってたのにな」
律「なんか、思い出してきた」
澪「だから、こうやって同じスピードで
並んで手を繋いで歩くのって、実は初めてかも」
律「そっか……、だから何か違和感があったんだ……」
澪「本当は小学校のときだって、手を繋いでゆっくりと並んで歩きたかったんだ」
律「……澪」
澪「でも、今日は私が引っ張って行っちゃおうかな」
律「ちょ! 澪、早いってば!」
澪「昔の律はこんなもんじゃなかったぞ!」
律「もっとゆっくり行こうよ~」
澪「だ~め! 遅刻しちゃうぞ」
律「ちぇっ、なんだよ~」
澪「ふふふっ」
律「……へへっ」
教室
紬「あっ! 唯ちゃん窓の外を見て」
唯「なになに?」
紬「ほら、校門のところ」
唯「あ~、澪ちゃんとりっちゃん手繋いで登校してきてる~」
紬「と、いうことは、昨日上手くいったってことね」
唯「なんだか早起きして来たかいがあったよ」
紬「私も、高性能な双眼鏡を持ってきたかいがあったわ!」
唯「二人とも嬉しそうだね」
紬「そうね。それに、確かに手を繋いで来てとは言ったけど……」
唯「だね~。普通に繋げばいいのに、なにも恋人繋ぎまでしなくてもね~」
紬「見てるこっちまで恥ずかしくなっちゃう……///」
唯「見せつけてくれますな~」
放課後
律「まったく、お前ら趣味悪ぃぞ!」
唯「ごめんね、りっちゃん」
紬「澪ちゃんから、りっちゃんを更生させるためにどうしてもって言われて……」
澪「朝からずっとそれだな」
律「だって、お前らが私に対して心の中で何を思っていたのかすっごく恐かったんだからな!」
梓「でも、それに関して言えば、律先輩が変な見栄を張るのが悪いんですよ」
律「うっ……、それは……」
紬「りっちゃんは、本当に心が読めなくてもちゃんと私たちのことを考えてくれているわ」
唯「そうだよ! だって、部長さんだもんね!」
律「うん。まぁ、ご迷惑をお掛けすることも多々あるとは思いますが……」
澪「おお、ちゃんと学んだみたいだな」
梓「いつもだったら『当然だ!』みたいになるところですけどね」
律「昨日の今日だからな~」
紬「そして、なによりも、りっちゃんと澪ちゃんの愛情がまた一段と深まった出来事でもあったわ!」
梓「愛情? 何ですかそれ」
唯「今日澪ちゃんとりっちゃんが登校してくるときに、二人は手を繋いで仲良く登校してきたんだよ」
梓「ええっ!?」
唯「しかも恋人繋ぎで!」
梓「指と指を絡め合っていたんですか!?」
唯「なんだか、イヤラシイよね~」
律「お前らが、そうやって手を繋いで登校しろって言ったんだろ!」
紬「でも、恋人繋ぎまでだなんて指定はしてないわよ」
律「あれ? だって、澪が……」
澪「////」
紬「あらやだ///」
唯「ごちそうさま~」
梓「お幸せに」
律「や、やめれ~」
澪「まぁ、いいじゃないか」
律「お前が言うな」
澪「律だって満更でもなかっただろ?」
律「////」
梓「唯先輩、ムギ先輩。この部屋の室温やけに高くないですか?」
紬「仕方ないんじゃない?」
唯「そうそう、恋のフェーン現象発令中だよ!」
梓「意味わかりません」
律「もう! からかうなって!」
唯「ごめん、ごめん」
紬「今、桜ヶ丘に住む幼なじみの二人が熱いっ!!」
律「うるせー!!」
律「って、叫んだら本当に暑くなってきた……」
紬「ふふふっ。ごめんねりっちゃん。でも仲が良いことは大変素晴らしいと思うわ」
律「まぁ、険悪な仲よりは全然いいけどさ」
紬「でしょ?」
律「うん。にしても喉渇いた……」
紬「そう言うと思って、はい、アイスミルクティー」
律「おっ! サンキュー。なんだかんだ言ってムギも言わなくたってちゃんとわかってるよな」グビッ
律「!?」ブッ!!
律「って!? なんだこれ!! しょっぺー!!」
紬「っしゃー!! ばっちこーい!!」プリンッ
律「おらぁー! お仕置きだべー!」ペシーン!!
紬「あふんっ///」
澪「!?」
帰り道で何故か不機嫌な澪
その理由がわからず、おろおろとする律だったが、それはまた別のお話
おしまい
最終更新:2010年08月14日 22:59