#13
『中学!』
ドシャッ
憂「あっ…」
梓「なにやってるの純!」
純「ご、ごめん!憂のお弁当…」
憂「あはは、気にしないで…落ちちゃったものは仕方ないから」
純「……」
憂「学食行ってくるね」
純「憂に悪いことしちゃったな…」
梓「純の不注意だよ」
純「うぅ…」
梓「……そういえば前から気になってたんだけどさ」
純「え?」
梓「純って中学の頃から憂と友達なんだよね?」
純「うん」
梓「一体どういう出会いしたの?」
純「憂との出会い?そうだねぇ……」
――――
――
―
キーンコーンカーンコーン
純(はぁ…もう中3かぁ…)
純(なんだか実感がわかないな~…)
憂「あの…鈴木さん?」
純「え?」
憂「今日から隣の席だね」
純「平沢さん…」
私たちは特に親しいわけでもなかった。
ただのクラスメイト。
たまたま席が隣になっただけで話をした。
そんな関係。
席が近いからだろうか。
何日かすると、私たちはお互いに打ち解けてきた。
話をするうちに知らなかった事をどんどん発見する。
憂「えへへ、それでね~…」
彼女はいつも自分の姉のことを嬉しそうに話していた。
その解きの笑顔がすごくかわいい。
純「へぇ…」
深くは聞いてないが、楽しそうなのは伝わってきた。
私も笑顔で相槌をうつ。
キーンコーンカーンコーン
お昼休み。
みんなでお昼を食べる時間。
憂と私は別々のグループだったから一緒には食べなかった。
「ところがさぁ…」
純「あはは…」チラッ
憂「ふふっ…」
「でねー…」
すごく微妙な距離感。
仲が良いのか悪いのか…分からない。
なんか気持ち悪い。
けど学校じゃ珍しいことでもなかった。
次の日
奇跡的なことにグループのメンバー全員が風邪で休んだ。
純「そんな馬鹿な…」
純(ていうかお昼どうしよう…)
純「……」
いきなり別のグループに入れてもらうのも、なんか忍びない。
一人でさっさと食べて図書室にでも行こう。
純「……」ガサゴソ
純「…あれ?」
純(まさか…)
お弁当を忘れてた…
純「参った……」
「あははー」
「うそー?」
「マジマジ、本当だって」
「それでさー」
純「……」
純(購買で何か買ってこよう……)
自分の居場所がないだけで不安になる。
私は逃げるように教室から出て行った。
純「はぁ…お腹すいた」チュー
購買で売られているパンは全て完売し、フルーツオレだけが残っていた。
仕方ないのでそれを買う。
教室には戻りたくない。
校庭にあるベンチの片隅で飲むことにした。
純「……」チューチュー
純(さびしい…)
憂「鈴木さん」
純「あっ……平沢さん」
憂「お弁当一緒に食べてもいい?」
純「え?」
憂「一人じゃ寂しいでしょ?」
純「…いいの?」
憂「私も鈴木さんと一緒に食べたかったし」
純「……てか私お弁当忘れちゃったよ?」
憂「じゃあ私の半分あげるね」
純「あっ……」
憂「はい、どうぞ」
純「えっと…ありがとう」
憂「外で食べるとなんか美味しく感じるね」
純「…そうだね」
ビュウゥゥ
憂「…ちょっと寒い」
純「もう冬だし」
憂「そっか…もうそろそろ卒業かぁ」
憂「鈴木さんはどこを受験するの?」
純「え?私?」
憂「うん」
純「私は…私立桜が丘高校かな」
憂「本当!?じゃあ私と同じだ!」
純「そうなの?」
憂「うん!」
純「そっか…平沢さんなら受かるよ、成績も良いし」
純「それにひきかえ私は…」
憂「だ、大丈夫だよ!純ちゃんも受かるって!」
憂「あっ…」
純「なに?」
憂「ごめんなさい…うっかり下の名前で呼んじゃった…」
純「あれ…そういえば」
憂「馴れ馴れしかったよね…ごめんね」
純「別にそんな気にしなくて良いよ、同じクラスなんだし」
憂「本当?じゃあこれからも純ちゃんって呼んでいい?」
純「うん」
憂「えへへ…よかったぁ」
純「!」
あっ…今の笑顔はすごく可愛かったかも……
キーンコーンカーンコーン
憂「あっ…もう時間だ」
憂「教室戻ろっか?」
純「うん……お弁当ありがとね」
憂「ううん、気にしないで」
憂「純ちゃんと一緒にご飯食べれて楽しかったよ」
純「え?」
憂「私…純ちゃんともっと仲良くなりたかったの」
純「私と…」
憂「うん!今日一緒にお弁当食べてそう思った」
純「お弁当食べただけで?」
憂「そうだよ、えへへ」
純(よく分かんないな…)
憂「それより早く戻ろ」
純「あっ…うん」
純(でも…平沢さんといる時間は悪くなかったかも)
純「……」
純(そうだ、お弁当のお返ししなきゃ)
翌朝
いつもより一時間早く起きた。
慣れない手つきで料理を作り始める。
私と憂…二人分のお弁当を準備した。
純母「珍しいこともあるのね、自分のお弁当をつくるだなんて」
純「えへへ、気まぐれだよ」
包丁で何箇所か手を切った。
それでもそんな痛みは出来上がったお弁当を見て吹き飛んだ。
生まれて初めて誰かのために作った料理…
彼女は喜んでくれるだろうか?
キーンコーンカーンコーン
お昼休み
私と憂はいつも通り別々のグループで食事を取ろうとする。
その前に、このお弁当だけは渡さないと。
純「あ、あの…平沢さん」
憂「どうしたの?」
純「その……」
純「!」
目に付いたのは彼女の手にあるお弁当。
そこで気づいた。
そうだ…彼女だって自分のお弁当を用意してるんだ。
これを渡しても意味がない…逆に迷惑?
純「……」
どうしようか…
メールで連絡すればよかった。
あっ、そもそも彼女のアドレスを知らない。
憂「?」
どうしよう…今さら渡せない。
彼女の料理と比べたら私のなんて…
…諦めよう。
憂「純ちゃん?」
純「えっと…その…」
純「これからはさ…憂ちゃん、って呼んでいい?」
憂「!」
憂「も、もちろんだよ!」
純「そっか…よかった」
その場しのぎで適当に言った言葉。
それでも彼女は喜んでくれたみたいだ。
私は嬉しいような、お弁当を渡せなくて寂しいような…
複雑な気持ちだった。
憂「そうだ、まだ携帯の番号知らないよね?」
憂「交換しようよ」
純「うん」
その日以来、タイミングをつかめず
お弁当はまだ渡せていない。
―――――
―――
――
純「……」
梓「純」
純「……」
梓「ねぇ純ったら!」
純「あっ……ごめん何?」
梓「何じゃないよ…私が質問したのに急にボーっとしちゃって」
純「あはは、ごめんごめん」
純「それで…なんだっけ?」
梓「なんだっけって……憂との中学時代の話だよ」
純「あぁ、それね!」
純「まぁ色々あったんだよ」
梓「なにそれ…」
純(そういえばお弁当まだ渡せてないなぁ…)
純「……」
純(そうだ!)
純「ね、ねぇ梓…」
梓「なに?」
純「明日さ…お昼軽音部の人たちと食べてくれない?」
梓「はぁ?」
純「お願い!」
梓「…なんでそんな仲間はずれみたいなこと」
純「仲間外れとかじゃなくて…その、何て言うか…」
純「どうしてもやりたいことがあるの!」ウルウル
梓「……分かったよ」
梓「そこまで頼まれちゃったら仕方がないね」
純「ありがとう梓!愛してる!!」
梓「気持ち悪い…」
夜
平沢家
唯「う~い~、あいす~」
~♪
憂「あっ…」
憂(純ちゃんからメールだ)
ポチポチ
憂「……え?」
翌日、お昼休み
ガラッ
梓「失礼します」
唯「あっ、あずにゃん」
梓「今日…先輩達といっしょにご飯食べてもいいですか?」
澪「いいけど…いきなりどうしたんだ?」
唯「そんなに私と食べたいんだ~、愛い愛いしい後輩め」
梓「唯先輩は食べ終わったら特訓ですよ」
唯「へ?」
梓「今月は文化祭でライブがあるじゃないですか!それの強化特訓です」
梓「そのためにここに来たんですから」フンス
唯「えぇ~、そんな~!」
憂「梓ちゃん、どこ行ったんだろう?」
純「今日は三年生に用があるから向こうで食べるらしいよ」
憂「そうなんだ……それより純ちゃん」
純「なに?」
憂「昨日のメール…言われたとおりにしたけど…」
純「えへへ、よかった」
純「はいこれ」
憂「?」
憂「これ…」
純「憂の分のお弁当」
憂「純ちゃんが作ったの…?」
純「うん、そうだよ」
憂「そんな…わざわざ」
純「だって昨日私のせいで憂お弁当食べれなかったし…」
純「そのお詫びだよ」
憂「……」
純「憂?」
憂「手…怪我してるの?」
純「あぁ、これ?」
純「あはは、未だに料理は苦手で…」
憂「…ごめんね、純ちゃんに気を使わせちゃって」
純「だからいいって、それより食べてみてよ」
純「けっこう自信作だし」
憂「…うん!」
パクッ、モグモグ
憂「…これ純ちゃんが作ったんだよね」
純「そうだよ、100%私」
憂「100%純ちゃんかぁ…すごく美味しいよ」
純「本当!?」
純「やった……ようやく食べてもらえた」
憂「?」モグモグ
純「あっ、気にしないで」
憂「…うん?」モグモグ
純「……」
憂「……」モグモグ
純「…来年も同じクラスだといいね」
憂「そうだね…」
純「……」
憂「……」
純「あっ…そういえばさ、具の中で何が一番美味しい?」
憂「うーん…純ちゃんが作ってくれたの全部かな」
#13
『中学!』 おわり
最終更新:2010年08月18日 02:07