和「皆さん投票し終わりましたね。では、開票します」
和「平沢さん」
和「平沢さん」
和「……平沢さん」
和「平沢さん平沢さん平沢さん平沢さん
平沢さん平沢さん平沢さん平沢さん
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
…
…
…
和「満場一致で木Gの役は平沢さんに決定しました」
唯「やった~♪」
律「そんなに嬉しいものなのか……?」
姫子「おめでと、唯」
唯「ありがと~姫ちゃん。私、絶対に木の役がやりたかったんだ!」
澪「出来るなら変わってほしい……」
紬「駄目よ、澪ちゃん! もう私の中では二人のロミオ像とジュリエット像が出来上がっているんですもの!」
澪「ううっ……」
律「でも、よくクラス全員が唯に投票したもんだよな~」
エリ「唯は木の中でもGって感じだもんね」
アカネ「私も、気づけば唯ちゃんに投票しちゃってたんだ」
いちご「あなたは、しょせん木がお似合い……」
唯「えへへ~」
律「誉めてんのか貶してんのか……、まぁ、私も結局唯に投票はしたんだけどさ……何故か」
和「これで、小中高と木をやることになったわね、唯」
唯「うん、そうなんだ。高校生になってから木をやる機会がなかったけど
やっとそのチャンスが回ってきたよ!」
紬「どういうことなの? 和ちゃん」
和「小学校の時の学芸会でも、クラス全員の一致で唯が木に選ばれたの。
中学の時の文化祭だって、最初は木の役なんてなかったのに
配役を決めようってなったときに、何故か木があったほうがいいかもってなって
結局その木の役に唯がこれまたクラス全員の一致で選ばれたのよ」
律「へ~、なんだか劇では木と縁があるんだな、唯は」
澪「当たり障りのない役に無理矢理押し込められたんじゃ……」
律「あ~、なるほど。唯が台詞ある役やったら劇が潰されるかもってこと?」
唯「も~! 二人とも酷いよ~!」
姫子「私は、唯にこの木の役がピッタリだと思って投票したんだよ
決してそんな後ろめたい理由じゃないってば」
「そうだよ! 頑張って唯!」「期待してるわよ、唯の木G」
「唯だったら、いままでの木の役のイメージを覆してくれると思っているわ!」
「あなたが、どこまで木をやりきれるか……期待してあげてもいいわ」
唯「みんな……。私、頑張るよっ!!」
澪「木一つですごい盛り上がりようだな。まぁ私も唯に投票したんだけど、何故か」
和「この木の役は舞台の演出上重要な位置づけにあるのよ」
唯「なんとっ!?」
律「そ、そうなのか……」
和「ええ。その辺は脚本演出担当のムギに聞いてもらえる?」
澪「ムギ、木が重要な役割って、いったいどういうことなんだ?」
紬「舞踏会で出会い名前を知った二人」
紬「許されない恋とはわかっていても、一度灯った愛の炎は消えはしない」
律「なんか始まった……」
紬「真夜中、バルコニーに出たジュリエットはその苦しい胸の内を吐露するの」
紬「ああ、ロミオ……あなたは何故ロミオなの……。
私を想うなら、あなたのお父さまをすてて、お名前を名乗らないでくださいな。
もしそうなさらないなら、私への愛を誓って欲しいですわ。
そうすれば、私はキャピュレット家の人でなくなりましょう」
澪「は、迫真の演技だな……」
律「もう、ムギがジュリエットすればいいと思う」
紬「そんな愛の告白にも似た言葉を偶然聞いたロミオはジュリエットが立つ
バルコニーの近くにある木によじ登りジュリエットのもとに行く」
紬「そして二人は結婚の約束をするの……。ああ、素敵……」
律「あの、もしかしてそのバルコニーへ行くためによじ登る木っていうのが……」
和「木はA~Gまであるんだけど、そのバルコニーに一番近い木が唯のやるGなのよ」
澪「木あり過ぎだろ……」
和「一応場面としては果樹園の近くってことになってるし」
澪「そこまで忠実に庭に木を多く生やす必要もないと思うけど……」
律「いやいや、問題は、その木をやってる唯にしがみついてバルコニーに登らなきゃいけないってことだろ」
澪「そうだ、何もジュリエットがいるバルコニーまで登らなくてもいいんじゃ……」
紬「私は、そんなロミオの必死さを表現したいのよ!」
律「でもさ~……。和も何か言ってやってよ」
和「演出はムギに一任してるから」
律「そうは言っても……」
唯「大丈夫だよ、りっちゃん」
唯「今までの木役人生は、このときのためにあったと言っても過言じゃないっ!」
和「いい心意気ね唯。だけど、今までの木と今回の木は比べ物にならないわよ」
唯「!?」
和「小学校の時の学芸会はうさぎとかめ」
和「唯の木役人生の最初の一歩はゴール地点の丘の一本杉」
律「なんだ、意外と目立ってるじゃん」
和「……のとなりのとなりに生えている
なんの変哲も特徴もない小さな木が唯の木役人生の始まりだったわ」
律「要らないじゃん! そんな木!」
澪「もっと言うならゴールのとなりの木も必要ないだろ!」
唯「あのときは本当に苦労したよ……」
澪「苦労する要素が思い当たらないんだが……」
和「そして、中学のときの文化祭は、オリジナルの作品」
紬「へ~、なんだかすごいわね」
和「その当時、クラスで飼っていたヤゴがトンボに成長するまでの期間
クラスであった出来事を描いたノンフィクション」
和「なかなかの評価をもらったと自負しているわ」
律「へ~、じゃあ、生徒がそのままその役でやってるってわけか」
澪「……ちょっと待て、じゃあなんで唯は木の役で出てるんだ?」
和「教室に観葉植物があったほうがいいって意見が出て」
唯「それに私が選ばれたんだよ! 皆は自分の役だけど、私だけ自分以外の役だったんだ」
和「それだけ、唯には自分以外の何かになりきる役者の魂があったってわけよ」
和「その劇を公開した当時、あの隅っこで突っ立っているのはいったい何なんだ?
って話題にもなったわ」
律「木として理解されてないじゃん……」
澪(むしろそれってイジメなんじゃ……)
和「そして、今回のロミオとジュリエット」
和「数ある木の中でも、一番重要な木G」
和「唯には今までの木役人生で得た全てをここでぶつけてもらいたいわ!」
澪「むしろ、G以外の木は要らないんじゃ……」
風子「!?」
風子「しくしく……」
律「あー、秋山さんが木C役の高橋さんを泣かせた~
い~ややこやや せ~んせいに言うた~ろ~」
澪「あっ……ごめんね、高橋さん。私そんなつもりじゃ……」
風子「ううん、いいの。私なんてしょせん台詞のない木がお似合いなんだから……」
唯「風ちゃん! そんなこと言っちゃあ駄目だよ!」
風子「えっ……」
唯「だったら、風ちゃんは他の木役の子もそんな風に思ってるの!?」
風子「そんなこと、ないよ……」
唯「なら、もっと木役に自信を持とうよ!」
唯「どこかのおじさんも言ってるよ! 『モリハ、イキテル』って
『モリハ、ココロヲユタカニスル』って!!」
唯「そんな森は木が沢山あって初めて森になるんだよ!」
唯「木が自信をなくしちゃったら……森は泣いちゃうよ……」
風子「!?」
唯「私は、そんな想いで今までずっと木の役をやってきたんだよ!」
風子「ごめんね、平沢さん……。私……一生懸命に木をやり抜くわっ!」
唯「うん! 一緒にがんばろうね!」
和「ふふっ、唯ったら。木をやることでこんなに成長しちゃって」ホロリ
律「親の心境か……」
紬(唯ちゃんの言ってることが良く理解出来ないのは私だけかしら……)
唯「ちなみに憧れの木は屋久島にある樹齢3,000年と言われている縄文杉さん!!」
唯「将来なってみたい木は日立の気になる木!!」
律「でもさ~、唯が木Gだとしたら、澪が唯にしがみついて登らなきゃいけないんだぜ」
律「はたして唯に澪が支えきれるかどうか……」
澪「それって、私が重いってこと……?」
律「あれ? 他にどう聞こえる?」
澪「律っ!!」
律「いや~冗談冗談。だけどさ、このクラスにはそんな木にピッタリな人がいるじゃん」
律「酒屋の娘で、押しても引いてもビクともしなさそうな……」
信代「もしかして、ワシのことかの~?」
律「そう! 信代を置いてそんな木役にピッタリな人はいないはず!」
信代「残念じゃの~。ワシはもう岩役に決まっとるんじゃ。ガッハッハッハ~!」
紬「ロミオとジュリエットが一緒に困難を乗り越えようと、重い岩を力を合わせて動かす
そんな二人の共同作業の重要な場面だからノブちゃんをこの岩役から動かすわけにはいかないの」
澪「そんな場面ってあったっけ……?」
和「それに、もうクラスの全員が唯に木Gをやってもらいたいって結果も出てるし」
律「それも、そうだな~。私も唯に投票した一人だしな」
澪「で、でも……」
唯「大丈夫! 毎日重いギー太で練習してるんだし、力だって相当ついてるはずだから
澪ちゃんなんて軽々と持ち上げることが出来るよ!」
律「じゃあ、試しにおぶってみたら?」
唯「余裕余裕」
澪「だ、大丈夫かな……」
律「おや? 自分は重いかもって自覚があるのかな?」
澪「そ、そんなことはない! 唯! しっかりと私を支えてくれ!」
唯「ラジャー!!」
澪「ふぅ~~~~~~~~っ」
律「息吐いてその分軽くしようという試みですか?」
澪「行くぞ唯」
唯「いつでも!」
澪「よいしょ……っと」
唯「うぐっ!?」
ドサッ プチッ
澪「ちょ!? 唯! 大丈夫か!?」
律「大変だー!! 唯が澪に潰されてペラペラになったー!!」
律「誰か! 誰か空気入れを持ってるお客様はいらっしゃいませんか!!」
和「そんなマンガみたいになるわけないでしょ」
和「ほら、唯もふざけてないで早く立ち上がりなさ……」
和「……ちょっと、唯?」
姫子「そんな……、唯……」
澪「えっ? ええっ!?」
紬「大変! こんな時はあれよ! 人工呼吸よ!」
和「そ、そうね。じゃあ、幼なじみでもある私が……」
姫子「ちょっと待って、唯は私になついてるんだからここは私が……」
和「何を言ってるのよ。たまたま隣の席ってだけでしょ!」
姫子「あんたこそ、たまたま幼なじみだったってだけでしょ!」
゚・,从・゚;.バチバチ
和 ──wwヘ√レvv──*──wwヘ√レvv── 姫子
バチバチ.;・゚.W'゚・;.
律「お、おい! こんなときに火花散らしてどうするんだよ!」
澪「おい唯! 頼むから目を覚ましてくれ~!!」
唯「う……うぅ……」
唯「ムギ……ちゃん……」
紬「何? 唯ちゃん」
唯「ムギちゃんのお菓子、今日はまだ食べてなかったから……力が出ない……」
澪「みんな、聞いたか!? 私が重いせいじゃないって!」
いちご「必死ね、見苦しい……」
澪「!?」
律「まったく、人騒がせな奴だなぁ」
唯「えへへ、ごめんね」
紬「じゃあ、部室でケーキ食べた後にもう一度挑戦ね」
唯「今度は倒れたりしないよ!」
澪「本当に頼むぞ!!」
和「唯は、私が作る玉子焼きがこの世で一番好きなのよ」
姫子「唯は、私の長くてフワフワした髪が宇宙で一番好きだって言ってくれたし」
和「私は、唯の全身のホクロの数を知ってるのよ!」
姫子「私は、唯が授業中寝てる時に垂れた涎を舐めたこともあるし!」
和「昔はよく唯が『将来は和ちゃんと結婚する』って言ってたのよ!」
姫子「うぐっ!? 昔か……くそっ……幼なじみの強み……」
和「じゃ私生徒会行くね」フフン
姫子「あ! コラ! 勝ち逃げするな!」
律「何やってんだよ……」
放課後 部室
梓「先輩たちのクラスはロミオとジュリエットやるんですか」
紬「そうなのよ。私が脚本と演出で」
澪「私が……ロミオ……」
梓「宝塚歌劇団みたいなの期待してます!」
澪「あ、あんまりプレッシャーをかけないでくれ///」
律「で、私がジュリエット」
梓「吉本新喜劇みたいなの期待してます!」
律「うをいぃぃぃっ!! 中野ぉぉぉぉっ!!」
唯「そして、私は木G!!」
梓「G?」
唯「木GのGは『GOD』の『G』!!」
梓「そうなんですか~、へ~、すごいですね~(棒)」
唯「もう! あずにゃんったら!」
梓「すみません。でも興味がないのも事実なんで」
紬「梓ちゃん、今回の唯ちゃんの木Gは物語の中核をなす役なのよ」
梓「木なのにですか!?」
紬「ロミオがジュリエットと愛を誓い合えるかどうかは唯ちゃんの木Gにかかってるの!」
律「そこまでのことか!?」
紬「もし、唯ちゃんが澪ちゃんの体重に耐えきれずに倒れたりなんかしたら……」
紬「その時点で物語は終りを告げるわ……」
唯「せ、責任重大だね……!!」ゴクリ…!!
澪「なんでそこまでして……」
紬「じゃあ、ケーキも食べたことだし、早速澪ちゃんをおぶってみる?」
唯「ムギちゃんのケーキを食べたら元気100倍だよ!」
律「おやおや? 澪はケーキ食べないのか~?」
澪「わかってるくせに聞くな!」
唯「さぁ! 澪ちゃんどうぞ!」
澪「よ、よし」
唯「むふふ……澪ちゃんの胸が私の背中に」
澪「変なことを言うな!」
唯「じゃあ、立つよ」
紬「がんばって! 唯ちゃん!」
唯「ふんっ!!」
澪「わわわっ!?」
律「おおっ! 立ち上がれるか!?」
唯「う、ううぅ……」プルプル
梓「唯先輩! 中腰の方がしんどいですよ!」
紬「そうよ唯ちゃん! しっかりと立ってしまった方が」
唯「うぐぐ……」プルプル
澪「頑張れ唯! 立つんだ!」
律「立つんだ! 唯ーーーー!!!!」
唯「駄目だ~~~~」バターン
澪「うわっ!?」
律「あ~……、やっぱり駄目だったか~」
澪「唯! もっと頑張れ! 持ち上がらないわけないだろ!」
律「おい、澪、落ち着け」
澪「服か!? 服が重いのか!? 脱ぐか!?」
梓「澪先輩! 気持ちはわからないでもないですが、とりあえず脱ぐのはやめましょう!」
紬「唯ちゃん、大丈夫?」
唯「……」
梓「唯先輩?」
唯「私……悔しいよ……」
唯「みんなが期待して私に木Gを任せてくれたのに……」
唯「澪ちゃんを持ち上げられないばっかりに……」
唯「そんな私は木G失格だよ!!」ダッ!!
紬「ああっ! 唯ちゃん!?」
ガチャ バタン
梓「……行っちゃいましたね」
最終更新:2010年08月19日 00:47