放課後 部室
梓「こんにち……」
梓「まだ、誰も来てない……か」
唯「……」
梓「唯先輩、今日も帰ってこないのかな……」
唯「……」
梓「憂も元気ないし……」
唯「……」
梓「ところで、この部室にある木はいったい誰のだろ?」
唯「……」
梓「こんなところにあったら練習の邪魔になってしかたないし……」
唯「……」
梓「こんな変なイタズラする人なんて唯先輩以外に考えられないけど今はいないし……」
唯「……」
梓「唯先輩……早く帰ってきてください……私……」
唯「……」
梓「唯先輩に会いたい……」
唯「……私もだよ、あずにゃん」
梓「き、木が喋った!?」
唯「やだな~あずにゃん、私だよ」パッ
梓「唯先輩! えっ? どうやって化けていたんですか!?」
唯「うん。ほら、こうやってじっとしてたら……」スッ
梓「木になった!」
唯「で、動くと」パッ
梓「すごいです! すご過ぎです唯先輩!!」
律「おい梓、さっきから部室の外にまで声が響いてたぞ」
澪「なにそんなに、はしゃいでるんだ?」
梓「あ! 唯先輩が帰ってきたんですよ!」
紬「唯ちゃん? どこ?」
梓「ここですよ! ここ!」
律「木しかないじゃん。それにしても邪魔な木だなぁ」
澪「ほら、部室の外に出すから梓も手伝ってくれ」
唯「みんな! ただいま!!」
律澪紬「木が喋った!!」
・ ・ ・ ・ ・
律「ほぇ~~~」
澪「本当に唯なんだな……」
紬「し、信じられないわ……」
唯「屋久島まで行った努力の結果です!」
梓「でも、例え見た目が木みたいになっても澪先輩を支えることが出来なければ駄目なんじゃ……」
澪「大丈夫だ梓! 以前の私と比べたらりんご3つ分は軽くなってるはずだ!」
律「キティちゃんかよ……」
紬「唯ちゃん、大丈夫?」
唯「任せてよ!!」
澪「じゃあ、行くぞ……」
唯「いつでもどうぞ!」スッ
唯「本物の木に登るみたいにしてもいいよ」
澪「よ、よし!」グッ
律「澪がしがみついて地面から足を離したのに……!!」
梓「唯先輩はビクともしないっ!」
紬「まるで本当に地面に根を張っているかの如く!」
澪「すごい……とても安定している……」
澪「やっぱりダイエットの成果があった!!」
律「行ける……行けるぞ唯!!」
梓「私、感動しました! 唯先輩!!」
紬「あの澪ちゃんの重さにも顔色一つ変えない
やっぱり木Gは唯ちゃんしかいないわっ!!」
律紬梓「ゆ~い! ゆ~い! ゆ~い!」
澪「……」
律「でも、よくそこまでになれたもんだよな」
紬「よっぽど屋久島で得たものがあったのね」
唯「うん。でも憧れの縄文杉さんの近くまで行って会うことは出来なかったんだけどね」
梓「そうだったんですか」
唯「でも、屋久島についた瞬間に私の『木の魂』の部分が反応したんだよ」
唯「そして気づいた……。今まで私は木を演じようってばっかり考えていた」
唯「屋久島にある木さん達はそんな私に
『木は演じるものじゃない。そのにあるものだ』
って話しかけてくれたんだ!」
唯「木はこの地球のすべての生き物を支えている」
唯「ときには、呼吸するための酸素を供給し
ときには、草食動物の食糧としてその身を犠牲にし
そして、人間の住む家の原料として」
唯「だから木になるために木を演じる必要なんてなかったんだよ」
唯「軽音部のみんなを助けたい……憂や和ちゃんの力になりたい……」
唯「そんな誰かを支えたいっていう気持ちが、私を木にさせてくれるんだよ!」
「・・・・・・」
唯「あれ? みんな?」
律「あ、ああ、ごめん……。
ちょっと私たちの理解の追いつかないとこに行っちゃってるっていうかさ……」
紬「で、でも、なんだかすごいことだっていうのは、わかった気がするわ」
澪「私なんかのダイエットの努力より、よっぽど苦労したんだろうな
その達観ぶりは、まるで仙人のようだぞ」
梓「お願いですから変な宗教だけは始めないで下さいね」
唯「やだな~あずにゃん。木は誰に対しても平等なんだからそんなことはしないよ~」
梓「そ、そうですよね。あははは……(もうその発言がどことなくヤバい)」
唯「それにね、私重要なことに気づいたんだ」
紬「重要なこと?」
唯「うん。『光合成』と『高校生』って似てない?」
律「えっ?」
学園祭当日 講堂
和「そろそろ木の出番よ。みんな準備出来てる?」
風子「あの……真鍋さん。まだ平沢さんが……」
和「ち、ちょっと唯! 早く段ボールで作ったその木の衣装着なさいよ!」
唯「和ちゃん。私にそんなものは必要ないんだよ」
和「何言ってるの、もう時間が無いんだから早いとこ着ちゃいなさ……」
紬「和ちゃん、大丈夫よ。唯ちゃんを信じてあげて」
和「ムギ?」
紬「きっと観客は唯ちゃんの木に釘付けになるわ」
和「……わかったわ。頼んだわよ唯!」
唯「うん!」
…
律「ああロミオ、あたなはどうしてロミオなの」
梓「ぷっ」
純「梓~笑っちゃ失礼だよ~。……ぷっ」
憂「……もう、二人とも」
\クスクス/ \プークスクス/ \プププッ/
律(ちくしょー……)
「ねぇ、木も生えすぎじゃない?」
「舞台上、殆ど木で埋まってるよね」
「可笑しい」
「これってお笑いロミジュリなのかな?」
「それにあの子なんか、制服のまま舞台に上がってきてるよ」
「ホントだ、いったい何役なのかしら? 変なの」
唯「……ふぅ~~~~っ」スッ
観客一同「!?」
「お、おい。さっきまであそこにいた子は……?」
「木に……なった……?」
「それも、ただの木じゃないわ!」
「ああ、なんて雄大で、なんて美しく、そしてなんて優しさに充ち溢れた木だろう……」
「ご神木じゃ~。ありがたやありがたや~」
「ユグドラシル……。世界はあの少女によって支えられていたんだ……」
ざわ… ざわ…
「皆で、あの木を崇めよう!!」
純「ち、ちょっとちょっと。この人達どこから出てきたのよ」
梓「まぁ、学祭は一般の人も入ることができるから……」
憂「お姉ちゃんすごい!!」
澪「もう、劇どころじゃない……」
・ ・ ・ ・ ・
和「みんな、お疲れ様。とても良かったわよ」
澪「一時はどうなることかと……」
律「ずっとアドリブとムギの即興脚本のカンペで進行してったけど……」
紬「ユイドラシルのもとに集まったロミオとジュリエットが
アダムとイブになり世界を創造し直す」
紬「舞台上の雰囲気が変わったから急遽方針を変更したけど
逆にオリジナリティが出ていいものになったわね!」
律「いったいどんな話なんだよ……」
唯「ごめんね。まさかあそこまで私の木オーラが出るとは思ってもみなくて……」
和「謝ることなんてないわよ。木GのGはまさしく『GOD』の『G』になったわね!」
唯「えへへへ~」
「ちょっといいかな?」
和「どなたですか?」
「私はこういう者で……」
和「映像制作会社?」
「ところで、さっき木の役をやっていたのは……?」
唯「はい、私ですけど……」
「おお! 君か!」
「君には、ぜひ我々の作る作品に出演してもらいたいんだ。木役として!」
律「ええっ!? それって映画とかドラマとかってこと!?」
「君以外に我々が考えるあの木役をこなす人間はいない!」
澪「わざわざ木を人間でやる映画なんて聞いたことないぞ!?」
「もちろん主役だ!」
紬「すごいわ! 唯ちゃん! 木が主役のドラマなんて前代未聞よ!」
和「ちょっと待って! 唯、あなたはどうなの?」
唯「私?」
和「これはあなたが決めることよ、出たいの? 出たくないの?」
唯「私、私は────」
数週間後
憂「あ、みなさん、いらっしゃいませ。お姉ちゃん待ちわびてましたよ」
律「いや~、お招きに預かり光栄です」
澪「なんでそんなにかしこまってるんだよ」
律「だって、もう唯はドラマにも出る女優だぜ」
澪「木役だけどな……」
梓「それでもすごいです! テレビですよ、テレビ!」
紬「そうね。それに木役でも主役って言ってたし」
律「でも、どんな作品か唯ったら全然教えてくれないもんな」
澪「だからOAされる今日、こうやって唯の家に集まってみんなで見るんだけど」
梓「木が主役のドラマっていったいどんなドラマなんですかね?」
紬「楽しみだわ~♪」
唯「あ~みんな~、あがってあがって~」
律「これはこれは大女優の唯様。ご機嫌麗しゅう」
唯「りっちゃんおかしいよ~」
澪「まさか友人がテレビに、しかもドラマに主役で出るなんて本当に誇りに思うよ」
唯「ありがとう、澪ちゃん」
紬「次は銀幕デビューね、果てはハリウッド」
唯「ムギちゃん、それは言い過ぎだよ~」
紬「うふふ、でも期待してるわ」
梓「なんだかとても遠くの存在になっちゃった気分です」
唯「そんなことないよ~、私はいつもあずにゃんの側にいるよ~」
梓「どさくさに紛れて抱きつかないで下さい!」
澪「やっぱりいつもと変わらないかもな」
憂「あ、お姉ちゃんそろそろじゃない?」
唯「うん、そうだね。それじゃあスイッチオン!」
律「うわ~、なんかドキドキしてきた~」
澪「なぁ唯。そろそろどんな内容のドラマか教えてくれないか?」
唯「見ればわかるよ~」
澪「そ、それもそうか」
紬「なんだか私、緊張してきちゃった」
梓「私もです、自分が出るわけでもないのに」
唯「も~、みんなそんなに緊張することないのに~。は~い、リラ~ックス」
律「すでに大物だな」
・ ・ ・ ・ ・
律「……なぁ、唯」
唯「なぁに?」
律「いつになったらお前のドラマが始まるんだ?」
唯「そんなにあわてなくても、もうすぐだよ~」
澪「主役って言ってたよな」
唯「そうだよ、めっちゃ主役!」
紬「でも……、さっきからテレビに映ってるのは……」
梓「世界ふしぎ発見ですよね……」
唯「ほら~もうすぐ私の出番だよ~」
律「出番ったってCMじゃん……」
澪「まさか……!!」
唯「私の夢が叶ったよ~♪」
._
\ヽ, ,、
`''|/ノ この木 なんの木 気になる木
.|
_ | 名前も知らない 木ですから
\`ヽ、|
\, V 名前も知らない木になるでしょう
`L,,_
|ヽ、) ,、
/ ヽYノ この木 なんの木 気になる木
/ r''ヽ、.|
| `ー-ヽ|ヮ なんともふしぎな木ですから
| `|
|. | なんともふしぎな木になるでしょう
ヽ、 |
ヽ____ノ
, ' ´/ ` ヽ この木 なんの木 気になる木
/,∠ / | .ト、 ', ヽ
/ / フ'´⌒| .|`マ .', ', ヽ 見たこともない 木ですから
/ {__/ | .| ∨ ', ', }. ',
j .∧{γぅ \|γぅ } }/ l } 見たこともない花が咲くでしょう
{ / l弋_ノ 弋_ノ∨ / .| .| j
∨ j xxx xxx/W j) レ' 花が咲くでしょう
{ ( ヘ { ./ /| !
{ ヽ |/ / ,' |
∨ ∨> r―┐´{ / /\ | HITACHI
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/{ //x仆、 〉 | ヽ ┼ヽ -|r‐、. レ |
/ ヽi//ハ」/iー┘ } d⌒) ./| _ノ __ノ
最終更新:2010年08月19日 00:44