そして放課後────

梓「連れてきましたッ!」
純「(ジャズ研より面白そうだしこっち来て正解だよね!)」

澪「あれ? 純ちゃん? どうして軽音部に…」

律「私が呼んだんだ。ありがとう、梓」

梓「いえ…あれ? 和先輩まで…」

和「申請用紙を回収するついでにお茶をもらっちゃって…(私のフォローが必要かもしれないしね。心配で生徒会の仕事に手がつけられないわ)」

唯「今日大人数だねッ!」

紬「お菓子ならいっぱいあるから大丈夫よ唯ちゃん!」

律「(さて…役者も揃ったことだし始めるか…。)」

純「(憂…来なかったね」
梓「(うん…。憂なりに唯先輩に気を遣ったんじゃないかな。唯先輩にあれこれ言いたくないんだよ。自分が寂しくなったとしても…ね」

律「みんな、聞いてくれ」

唯、澪を始め
紬、和、梓、純も律の方を向いた。

律「今日は言っておかなきゃいけないことがあるんだ。私と唯、澪のことだ」

律「私と唯は付き合ってる」

全員知ってる為当然誰も驚かない。ただ澪は聞くのを嫌そうに目を附せた。

唯「りっちゃん…、内緒にしとくんじゃなかったの?」クネクネ

嬉しいに辺りを気にしながら言う唯、そんな唯を一瞥した後、律はこう続けた。

律「けど、それも今日で終わりだ」

唯「えっ…」
澪「!!」

和「……」

純「(まるでブレーキの壊れたトロッコみたいに下ってくしかないんだね…もう!」

梓「(純ちょっと静かにして」

唯「それってどういうこと…?」

律「言葉通りの意味だよ、唯。別れよう…。」

唯「な……んで…?」

今にも泣きそうな顔で問いかける唯。

律「(このまま唯に嫌われたっていい…元のままなんて甘いことはもう考えてないよ…和。)」

律はチラッと和の方に目を向けると、和はただコクリと頷いた。

紬「(別れるなんてダメよっ…って言いたいけどりっちゃんから黙って見守ってくれって言われたから…。りっちゃん…信じてるからね)」

律「このままじゃ軽音部が軽音部じゃなくなるからだよ、唯」

唯「じゃあ部室ではちゃんとしてるからぁ…」じわぁ

律「そういうことじゃないんだ、唯」

唯「やだよっ! りっちゃんと別れたくない…別れたくないもん」

律「(いっぱい泣かせてごめんな、唯。私の思いついた冗談なんかで…そんなに思わせてごめんな。嫌いになってくれて構わない…私は唯のこと…ずっとずっと大好きだけど…っ)」

律「唯……お前が好きなのは……」

どんなに嫌われたって我慢するから……
だから……終わりにしよう

律「私じゃない。唯が好きなのは男の格好をした私、なんだ。でもそれは本当の私じゃない。本当の私は普通の女の子なんだよ、唯」

唯「……そんなこと知ってるよ」

和「それはどうかしらね」

唯「和ちゃん…」

和「今日律がお弁当を作って来たとき唯、あなた嫌がってたわよね?」

唯「っ! …それは」

和「あなたは律が本当の彼氏になればいいのにって思ってたんじゃない? だから女の子っぽい律を嫌がった…違うかしら?」

唯「そんなことないもんっ……そんなこと…」

和「唯。律はね、普通の女の子なの。私達と同じね」

唯「……」

和「あなたは勘違いしてたのよ…。確かにけしかけたのは律の方からだけど、そこまで本気になるなんて誰も思わないじゃない?」

唯「……」

和「だからね、唯。もうあの律のことは忘れて…今の律を、元の二人に戻って。それが軽音部みんなの為なの」

唯「忘れ……」

『あ~わた…俺のやるから! ちょっとこれ持って先に座ってろ。係員の人にゴミ袋もらってくるから』

唯「忘れるなんて……」

『気にすんなよ。あ~泣くな泣くな。』ナデナデ

唯「出来ないよぉ……」ポロポロ

律「唯……」

和「甘えるのもいい加減にしなさい、唯」

唯「うっ…ぅぇ……?」

和「律はね、今のあなたよりもっともっと悩んで、みんなに相談もして…それでもやっぱり軽音部が捨てられなくて…辛くて辛くて仕方なくても唯にこう言うしかなかったのよ。その気持ちをわかってあげなさい」

律「和…」

唯「でもぉ…でもぉ…」

律「唯……(駄目だ…ここでまたあの時みたいに優しくしたら駄目なんだ。私の優しさが唯を苦しめてたってまだわからないのか私はっ!)」

梓「唯先輩。私だって…唯先輩のこと、大好きです」

唯「えっ…あずにゃん?」

純「(よ、予定にあったっけそんなの!」

紬「私も唯ちゃんのこと好きよっ!」

唯「ムギちゃん…」

和「勿論私もよ、唯。唯はずっと律を見てたのかもしれないけど、唯のことを見てる人もいるのよ。なのに振り向いてもくれないなんて、寂しいじゃない?」

唯「和ちゃん…」

和「だからね、唯…」


純「わっ、私も唯先輩のこと好きですっ」

純「(あれ…なんか乗り遅れた…)」


澪「私も…唯のこと嫌いになったわけじゃないから」

唯「澪ちゃん…」

律「私もだよ、唯。大好き、だけど付き合うとか…そういうのじゃないんだ。私はいつまでも唯にいないものを追い続けて欲しくないんだ。いくら男の格好したって…あれは私で…」

唯「りっちゃん…」

律「戻ってこいよ、唯。前にいた場所はそんなにつまらなかったか?」

唯はしばらく目を閉じると、何かを思い出したように目を開けた。

唯「ううん。とっても楽しかった。りっちゃんと澪ちゃんとムギちゃんとあずにゃんと……みんなで過ごして来たこの場所を…私は壊そうとしてたんだね」

律「そんな言い方するなよ。唯だけが悪いわけじゃないんだから」

律「だから澪、お前の返事も…NOだ」

澪「……そっか」

律「勘違いしないでくれよ。私はいつまでも一緒にいられる幼なじみの澪を選んだんだ。付き合ったりじゃ別れて、それでおしまいなんて嫌だからな」

澪「律……! うん、私も…いつまでも一緒の幼なじみの方がいい」

純「それに女の子同士で付き合うなんて変ですしねっ! うんうん!」

紬「(やっぱり変なのかしら私…)」

純「(出番終わったし…というかなんでムギ先輩落ち込んでるのッ!?)」

和「これで一件落着かしら、じゃ……私、生徒会…行くから」

律「ありがとう…和。」

和「気にしないで」ニコリ

バタンッ

律「あっ…申請用紙忘れてる」

澪「持っていってくるよ。和が忘れ物なんて珍しいな」

律「ああ見えて一番いっぱいいっぱいだったのかもな」

唯「……」

律「唯、私のこと嫌いか?」

唯「そんなことないよ。……りっちゃん」

律「そっか(この溝は…私が埋めないと。どれだけかかっても…絶対に)」

純「(ふ~なんとかなったね~梓」

梓「……」

純「(梓?」

そうして軽音部はまた元通り、になったのかは不明だが、解散の危機は間逃れたのだった。

後日──────


屋上─────

純「あっ、いたいた。梓~探したよ?」

梓「純。どうしたの?」

純「どうしたの? じゃないでしょ~? お昼ご飯も食べないでこんなとこ来てさ」

梓「うん…ちょっと考え事してた」

純「考え事ね~、風つよっ」

屋上の周りには安全対策の為か腰ぐらいまでの柵があり、梓はその柵の上に両肘をつけながら、遠くを見ていた。
ビュービューと強い風が梓の髪を遊ぶように揺らしている。

純はその横に同じように肘をかけ、梓の方に向き直る。

純「なんかあったの? って言うかあの時から何か変だよ~梓」

梓「うん…。恋って難しいなって、思ってた」

純「何を言い出すのかと思えば…梓の口から恋、だなんて。鯉の方があってるよ! 梓猫っぽいし食べちゃって…」

梓「好きなだけでも駄目なんだよね…」

純「シカトかいっ。まあね~」

梓「唯先輩も澪先輩もただ律先輩が好きだっただけなのに…それで壊れてしまうものもあるんだなって……」

純「うちは女子校だからそういうのはないけど、共学ならあるんじゃない? 同じ部活で付き合っててさ、けど別れて居ずらくなって…結局どっちかが部活やめちゃうみたいな」

梓「別れたりしたらその二人の空気で全体の空気が歪むもんね…。」

純「そうそうー」

梓「ほんとに良かったのかな…あれで」

純「さあね。でも同性で付き合うってことはそんな簡単なことじゃないと思うよ。あのままあの二人のどっちかと付き合ってたら…きっと辛い思いをしてたんじゃないかな」

梓「なんか純詳しいそうな感じがしたんだけど気のせい?」

純「気のせい気のせい。さっ、ご飯食べにいこう」

梓「うん」

純「梓、私達はずっと友達だよね」

梓「…どうかな?」

純「いけず!」

梓「来年軽音部入ってくれるならいいよ」

純「う~ん迷う~」

───────

─────

憂「お姉ちゃん料理やめたんじゃなかったの?」

唯「うん~。せっかく覚えたのに勿体無いかなって」

憂「そっかぁ…」

唯「憂、好きって難しいね」

憂「うん…。」

唯「憂は私のこと好き?」

憂「うんっ。大好きだよお姉ちゃん」

唯「私もぉ。うん、これでいいんだよねっ」

憂「??」

───────


ある日の日曜日───

ブーンブンシャカブブンブーン♪

律「ん~誰だ?」

律「もしもし」

唯『わたしだよんっ』

律「唯か? どした?(あれ以来あんまり話してないんだよな…)」

唯『澪ちゃんもムギちゃんもあずにゃんも和ちゃん用事あるからって。だからりっちゃんに電話したの! 暇ならデートしましょうぜぃ?』ふふふ~

律「えっ…(唯のやつ諦めてないのかな…)」

唯『勿論普通の格好でいいから! じゃああの公園に12時ね!』

律「おいゆっ…」

ガチャプッープッー

律「どうしよっかな…行かないわけにもいかないし…またあんなことにはならないと思うけど…」



公園────

律「唯、待ったか?」

唯「前は15分前だったのに今日はギリギリなんて酷いよりっちゃん!」

律「ごめんごめん…」

唯「じゃあとりあえずお弁当から食べよう! 私作って来たんだぁ」フンスッ!

律「(唯のやつどういうつもりだ…? これじゃまた前と同じことに…)」

律「あのな、唯…」

唯「りっちゃん、私考えたんだ。好きって意味」

律「…へぇ。で、答えは出たのか?」

唯「簡単だよぉ。一緒にいる→楽しい→この人と一緒にいたら楽しい、それは=好きなんだよ!」

律「なるほどな」

唯「同じ好きでもいっぱい意味があって。付き合うとか…愛してるとか、前のは多分そう意味だったんだと思うの。私は男の格好をしたらりっちゃんを愛してたんだと思う」

律「そっか…」

唯「でも今は違うの。軽音部の部長であるりっちゃんが好きなの! ただ一緒にいて楽しくて…だから好きなの。これはいけないことなのかなぁ…?」

律「…ううん。私も多分、いや、みんなが他の軽音部のみんなを思う好きも、そんな感じだと思う。だから間違ってないと思うぞ!」

唯「そっかっ! 良かった! じゃあお弁当食べようっ」

律「おぅ! タコさんウインナー襲撃ーっ」

唯「タコさんが~っ」

そうだ、私は難しく考え過ぎてたんだ。
今回のことはちょっと好きって言う種類が変わったり、求めすぎて溢れたりしただけだったんだ。
好きなことがいけないわけじゃないのだ。

そしてそれが正しいのか、悪いのか、その答えはこんなにも近くにあったのだから

律「唯~映画見に行こうぜっ」ベイブレードなっ
唯「いいよっ」フンス

私達の日常の中にいつも、いつも、好きが満ちている

おしまい



最終更新:2010年08月19日 21:39