居酒屋


律「ぷはーっ!やっぱこういう所は気が落ち着けるぜ」

梓「飲みすぎですよ、先輩」

律「いいじゃん、もう二十歳すぎてるんだし。お前も飲むか?」

梓「私はまだ十九ですっ」

律「細かいこと言うなよ、誰も守ってないって」

梓「もう…」

律「うめー!」ゴクゴク

梓「……」

律「どうした?食べないのか?」

梓「律先輩…実は相談があるんですけど…」

律「バンドに誘われた?」

梓「はい…」

律「入ればいいじゃん」

梓「でも…うまくやってけるか不安で」

律「なんで?」

梓「なんて言うか…どうしても放課後ティータイムと比べてしまうんです」

梓「あの時みたいな感じでまたやれるのかなって…」

律「……」

梓「それにプロを目指すっていっても、イマイチ実感がわかなくて…」

梓「…やっぱり私の中で音楽といったら、放課後ティータイムしかないのかな」

梓「あの頃が音楽やてって一番楽しかったなぁ…」

律「……」

梓「律先輩はどう思います?」

律「ていっ」デコピン

梓「いたっ!?な、なにするんですか!」

律「お前があまりにも年寄りくさくてつい」

梓「は、はい?」

律「あのな梓、お前は思い出に浸るほどまだ大人じゃないだろ?」

梓「えっ…」

律「思い出に浸るぐらいなら、今を楽しく生きろよ」

律「ギターやりたいのかやりたくないのか、どっちなんだ?」

梓「……」

律「昔私に告白してきた時みたいに正直になれよ、梓」

律「どうなんだ?」

梓「……」

梓「…ギターは…やりたいです」

梓「やりたいですけど…やっぱりプロとか自信がなくて…」

律「やりたいことが分かってるなら、それでいいじゃないか」

梓「……」

律「世の中にはさ、自分のやりたい事が分からなくて困ってる連中がたくさんいるんだぜ?」

律「それに比べれば、やりたいことが分かってるお前は幸せ者だよ」

梓「……」

律「やってみろよ、お前まだ十九なんだろ?まだまだ可能性はあるって」

梓「律先輩…」

律「お前は自分が思ってるほどダメな人間じゃないよ…」

律「なんたって梓は、私が一番大切に想ってる人間だからな!」

梓「…ぷっ、なんですかそれ」

律「へへっ、とりあえず今日はめいいっぱい飲もうぜ!」

梓「だから私はまだ十九ですって」



帰り道


律「う~~~…ぎもぢわるい゛~~……」

梓「だから飲みすぎですって、そんなにお酒強くもないのに」

律「うぇ~~…」

梓「間違っても吐かないでくださいね…」

律「くそぅあの男…思い出したらムカムカしてきた…」

梓「何があったんですか…」

律「う゛~~…梓おぶってぇ~…」

梓「あとちょっとなんだから頑張ってください」

律「あ゛ぅ~~…じぬ゛~~…」

梓「…そういえば」

律「あ゛~?」

梓「さっきの事で思い出したんですけど、軽音部の人たちって今どうしてるんでしょうね」

律「あ~~…そういえば澪とも最近連絡とってねえ…ウェップ…」

梓「憂や純とも連絡してないな~」

律「しかたねえよ…ウッ…みんな忙しいだろうし…」

梓「ですよね…でも何だか寂しい…」

律「なんだよぉ…私だけじゃ不満なのか?」

梓「い、いやっ…そういう意味じゃないですけど」

梓「でもこうやってそれぞれの道に進むのって、希望もあるけど悲しいところもあるんですよね」

梓「それが妙に辛くて…」

律「…ま、それが人生ってやつですよ」

梓「先輩は大人ですね」

律「ばーか…私だってお前と同じで大人と子供の中間だよ」

梓「中間かぁ…ていうことはこれから大人にもなれるし子供に戻っちゃうってこともありえるんですね」

律「本人しだいだけどな…オェッ…」

梓「はぁ…大人になれるか不安…」

律「お前は悩んでばっかだなー…もうちょっと気楽に生きろよ」

梓「律先輩が悩まなさすぎなんですっ」

梓「ほら、もうアパートつきましたよ」



部屋


律「あ゛~~…」

梓「先輩、お水ですよ」

律「う゛~…」ゴクゴク

梓「明日は大家さんに家賃まとめて返しましょうね?」

律「あぃ~…」

梓「本当に大丈夫なんですか…」

律「あ~…ちょっと楽になったかも…」

梓「もう寝ましょうか」

律「梓ぁ~」

梓「なんですか?」

律「エッチしよ~」

梓「イヤです」

律「な、なんで~!?」

梓「だってこの前酔っ払った先輩とした時…」


~~~~~

律「うぉっ…おえぇぇぇっ」ビシャビシャビシャ
梓「にゃあぁぁぁぁぁあっ!?」

~~~~~


梓「…裸の私に吐しゃ物吐きかけたじゃないですか」

律「…そんなことあったっけ?」

梓「ありましたっ!後始末が大変だったんですからね!!」

律「あ~…言われればあったような~…」


梓「とにかく、酔っ払ってる先輩とはしませんからねっ!」

律「しょんな~…」

梓「明日に備えて早く寝てください」

律「……」

梓「律先輩?」

律「やばい…ゲー出そう…」

梓「えぇっ!?ちょ、ちょっと待ってください!今ビニール袋持って…」

律「もう無理…」ビチャビチャビチャ

梓「あぁ!?もうっ!!」

律「あ~…食ったモン全部出た…」

梓「ゲロ先輩…今後はお酒は禁止ですよ」

律「誰がゲロ先輩だ…」

梓「はぁ~~~…これどうするんですか…」

律「掃除するしかないな…手伝ってやるよ」

梓「先輩が吐いたんでしょうがっ!!」

律「しゅみましぇん…」

梓「ちゃんと綺麗にしておいてくださいね」

律「はーい…」

梓「はぁ…まったく」

律「うぅ…まだ気持ち悪い…」

梓「……」

梓(憂に…久しぶりにメールしてみようかな…)

梓「……」

梓(まぁいっか…遅いし…)



翌朝


梓「律先輩、起きてください。シャワー浴びないんですか?」

律「う゛~…頭痛い…」

梓「今朝食作りますから早くしてくださいね」

律「あ゛~い」

梓「あっ、それとポスト見てきてください」

律「はいはーい…今行きまーす」

律「あ゛~…しんどい…」テクテク

律「もう決めた…二度と酒なんか飲まねえ…」テクテク

律「…でもまた飲んじゃうんだろうな~」tクテク

律「おっと、それよりポストポストっと…」カラッ

律「何か来てるかなぁ…………お?」

律「梓ーーーっ!!」ドタバタ

梓「ど、どうしたんですか?」

律「見ろよコレ!さわちゃんから手紙来てるぜ!!」

梓「えっ…」

律「はさみ、はさみ貸してくれ!」

梓「あっ、はい」

律「よし…」チョキチョキ

律「開いた!」

梓「何が書いてあるんですか?早く読みましょうよ」ワクワク

律「待ってろ、今手紙広げるから」

パサッ

律「どれどれ…」

律「お久しぶりです、りっちゃん、梓ちゃん」

律「実は私、結婚する事が決まったのでそのご報告に…」

律「……」

梓「……」

律「はあぁぁぁぁぁあっ!?」

梓「えぇぇぇぇぇぇえっ!?」

律「さ、さわちゃん結婚するんだ…」

梓「驚きです…」

律「よく相手が見つかったな…さわちゃんなのに」

梓「それは本人の前で言わないほうがいいですよ」

律「いやー、たぶん今年最大のサプライズだぜ」

梓「式はいつなんですか?」

律「ん?…また追って連絡するってさ」

梓「幸せになれるといいですね、先生…」

律「よし、私たちも結婚するか!」

梓「ゲロ吐く人とはイヤですっ」

律「なんだとこの~っ」ギュ~ッ

梓「きゃー♪」

梓「そういえば…」

律「うん?」

梓「結婚式に行けばみんなに会えるかもしれませんね」

律「あぁ…そっか」

梓「…みんな自分の人生頑張ってるんでしょうね」

律「まぁあいつらの事だから、そうだろうな」

律(唯は心配だけど…)

梓「…私、決めました」

律「なにを?」

梓「バンド、やってみます!」

律「おっ、ついに決断したのか」

梓「はい。もしみんなに会ったとき、自分の人生を胸張れるようにしたいんです」

梓「だから…やれるだけやってみます!」

律「へぇ…成長したな、梓」

梓「律先輩もいい加減に成長してくださいよ」

律「なんだと中野ォ!」ギュ~ッ

梓「きゃー♪」

律「ま、お前のいう事にも一理あるわな」

梓「律先輩はちゃんと人生設計とかしてるんですか?」

律「う~ん…梓のお嫁さんにでもなろうかな」

梓「は?」

律「お前がプロのギターリストになって、私がそのお嫁さん。完璧だろ!」

梓「何言ってんですか…」

律「じゃあお婿さんにするか?」

梓「そういう問題じゃありませんっ!」

律「へへっ」

梓「はぁ…マジメに生きてくださいよ」

律「おう、マジメに必死に生きるぜ!」

梓「…まぁ」

律「うん?」

梓「律先輩と一緒に、このままずっと暮らすっていうのは悪くないですね」

律「梓…」

梓「ほ、ほら!ご飯作りますからシャワー浴びてきてください!」

律「オッケー!そしたらベッドで待ってるぜ!」

梓「何言ってるんですか、学校に行くんでしょ!」

律「はーい」

梓「…ふふっ」

律「へへーっ」

梓「律先輩…」

律「なんだ?」

梓「愛してます」

律「私も愛してるぞ、梓」


おわり



最終更新:2010年08月23日 21:38