―河原―

梓「ここって…」

唯「そう!ゆいあずのふるさとだよ!」

梓「ふるさとって…」

梓は呆れながらも懐かしく思っていた

ここはかつて演芸大会に向けて二人で練習した河原だった

唯「まあ座りんさい」

唯がしゃがみこみ自分の隣をポンポン叩く

梓「は、はい」

唯「それでその時のりっちゃんがおかしくてさぁ」

梓「律先輩らしいですね。想像しただけで吹き出しそうです。プッ」

唯「あー、駄目だよあずにゃん。先輩は敬わなきゃ!」フンス

梓「唯先輩や律先輩はもっと先輩らしくしてください。下手したら来年私と同級生ですよ」

唯「いいじゃんいいじゃん。あずにゃんと同じクラスになったらたのしそーだし。……ねぇ、唯って呼んでみて?」

梓「!や、やめてください!恥ずかしい」

唯「えぇ~何でぇ?」

梓「何ででもです!」


――――――――――――――


唯「あはは。やっといつものあずにゃんに戻ったね」

梓「え?」

唯「いやー、今日のあずにゃん何かいつもと違うなあって思ってたんだ。うーん、そういえば今日だけじゃなくて最近ずっと元気なかったかも」

穏やかな調子で話す唯の横顔を梓はじっと見つめた

こんな唯の顔を見たのは今回が初めてではなかった

抜けているようでいて人一倍自分のことを思ってくれていることを梓はわかっていた

梓「唯先輩はどうしてたまに先輩らしくなるんですか…」

唯「そりゃあ、一日中あずにゃんのこと考えてますから!」フンス

そう言って唯は梓の背後から抱きつく

梓は拒まない

唯「……ねぇあずにゃん」

梓「はい」

唯「言いたいことは言っていいんだよ」

梓「私は思ったことが口に出るタイプですよ」

唯「そうかな?ちょっと一人でがんばり過ぎちゃう子に見えるよ」

梓は抱きしめてくる唯の腕に手を添える

唯「大丈夫だからね。みんなあずにゃんのことが大好きだから。澪ちゃんもりっちゃんもムギちゃんも憂も純ちゃんも」

梓「……唯先輩は?」





唯「大好きだよ。あずにゃんを好きな気持ちは誰にも負けない」

梓「……」

唯「あはは……私らしくないかな?こんなこと言っちゃうのは?澪ちゃんや憂みたいに頼りになる子の方が私なんかより…」

梓「そんなこと…ウッ…ない…グスッ…です」

唯「あずにゃん?」

梓「唯…先輩、私離れたくありません。ずっとずっと……放課後ティータイムを続けたいです。唯先輩と……一緒にいたいです」

唯「……うん」

梓「父から他のバンドに参加しないかって誘われました。でも私は先輩達とじゃなきゃ嫌でしたから断ったんです」

唯「あずにゃんはもっとレベルの高い音楽をやりたいんじゃないの?私たちなんかよりも」

梓「…前の私ならそうだったかもしれません。でも今は違います。今日先輩達と過ごしてみてよくわかりました。
  例えだらしなくても私が『音楽』をできる場所は放課後ティータイムだけです」

唯「……うれしいな」

既に日は沈みかけていた

ひんやりとした秋の風から身を護るように唯は梓を強く抱きしめた

唯「私たちちゃんと練習しなかったし後輩集められなかったし、いつかあずにゃんに愛想尽かされちゃうんじゃないかって思ってた。
  卒業したら縁が切れちゃうんじゃないかって不安だった。今日練習したのも私たちのことあずにゃんに忘れて欲しくなかったからなんだ。
  やっぱりちょっとグダグダになっちゃったけどね」

梓「そんなこと、ないです。私の方こそ、こんなに思ってもらえてうれしいです」

唯「えへへ~」

梓「ねぇ、唯先輩。私今日もうひとつ気付いたことがあるんです」

唯「なあに?」

梓は体の向きを変えて正面から唯を見据えた

紅潮気味の唯の顔が10㎝足らずの距離にあった。

梓「私唯先輩がいなきゃ駄目みたいです」

唯「あずにゃんは駄目な子じゃないよぉ」

梓「いいえ、駄目なんです。唯先輩に抱きつかれなきゃ駄目だし、唯先輩を世話してなきゃ駄目。
  唯先輩が私の目が届く範囲にいなきゃ駄目」

唯「何だか私が駄目な子扱いされてるみたい…」

梓「いいじゃないですか。駄目な子同士手を取り合って、抱き合って生きていけばいいじゃないですか。そこのけそこのけです!」

唯「うーん、ちょっと複雑な気分。っていうかあずにゃん段々テンション上がってきたね」

梓「私たちにはしんみりした空気は似合わないですよ。あ、私のせいなのにすみません」

唯「ううん、謝らないで。そだねー、ゆいあずは明るくがモットーだからね。でももうちょっとだけこの空気を楽しみたかったなぁ」

梓「どうしてですか?」

唯「だって……あずにゃん、私たちの今の体勢をどう思う?」

梓「…すごく……近いです」

唯「だよねー。せっかくのムチュチュ~のチャンスだったのにまたお預けだよ~」

唯はプイッと顔を逸らす

梓「……」

梓「……」フッ

梓「唯先輩」

唯「…ん?うみゅっ!?」

チュッ


梓「ふふっ、顔真っ赤ですよ唯先輩?」

唯「や、やってくれるねぇこの子は」

梓「やってからいうのもなんですが、唯先輩はその…女の子同士は……」

唯「何言ってるの、あずにゃん。言ったでしょ私は誰よりもあずにゃんが好き。大好き。
  大好きな子と一緒になれてうれしくないはずないよ」

梓「辛い道だと思いますよ。後々ただの先輩、後輩だった頃の方が幸せだったと思うようになるかも」

唯「関係ないよ。だって“今”強く、深く愛してるから!」フンス

梓「あはは、唯先輩らしいですね。そうですね。思い出に浸るのは大人の贅沢です。
  私たちは私たちの道を行きましょう!」

唯「そうともー!私、絶対あずにゃんを幸せにするよ!」

ガバッ

梓「うわっ、唯先輩!いきなり飛び付かないで下さ……」



ムチュ---

梓「もうっ。これだから唯先輩は困るんですよ」

唯「許せあずにゃん……これで最後だ」ニコッ

梓「……」

唯「あずにゃん?」

梓「…最後じゃなくていいです」

唯「いいの?」

梓「いいんです」

唯「ずっと一緒にいても?」

梓「いいんです」

唯「大好きだよ」

梓「私も大好きです」

唯「ありがとう」



お し ま い




おまけ

唯が帰らず携帯も繋がらないことに不安を覚えた憂は軽音部メンバーに当たってみた
しかし梓も行方不明であることが発覚し、軽音部メンバー、憂、和、純、梓の両親は二人の行方を追った

―河原―

憂「ハァハァ、律さんここですか?」

律「しっ、今いいところだから!」憂「えっ」
紬「いいわぁ、二人とも」憂「えっ」
澪「いい詞が浮かんできたぞ」憂「えっ」
さわ子「何よ!見せつけちゃって!」憂「えっ」
和「唯をよろしくね、梓ちゃん」憂「えっ」
純「悔しくなんかないもん!」憂「えっ」
梓母「これがあの子の選んだ道なのね」憂「えっ」
梓父「ロッカーはいつだって“今”やんちゃ盛りだからしょうがない」憂「えっ」


憂の視線の先には―――


憂「寒く…ないのかな? 」


お し ま い






※の所から作者別
最終更新:2010年08月25日 20:09