律「あ、寝癖やば。シャワー浴びようっと。澪は……どうでもいいや」

澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。

律「ん?」

澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。

律「あれ、おい。何か……変だぞ」

澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。

律「ちょ、ちょっと! なんだこの上の文!」

『やあ』

律「あ、てめっ! 昨日のは夢だと思ってたのに」

『ふふ、いいものでしょう。可愛い幼馴染が毎朝起こしにきてくれるのは』

律「毎朝って私にとってはこれが初めてだってーの! 何かもう色々説明しろ!」

『説明しましょう。ここはギャルゲーの世界です』

律「ああ?」

『りっちゃんは晴れてギャルゲーの主人公になったわけです。
 おめでとう。それじゃ』

律「まてこら」

『まだなにか?』

律「説明不足にもほどがある!」

『とにかくりっちゃんが放課後ティータイムの誰かを彼女にしたらいいんですよ。
 そうすれば現実世界に帰れます』

律「しれっと言ってるけど私も奴らも女だからな。なぜ彼女という発想になるのか」

『愚問ですね。それを追求すると話が進まないんで』

律「……。じゃあ聞くけどここはやっぱり仮想空間なのか?」

『そうです。ここはギャルゲーの世界。りっちゃんの行動如何でみんなりっちゃんを好きになるし、逆に嫌われたりもします』

律「ふーん、とにかくうまく立ち回って誰かを彼女にしろと?」

『やっと理解しましたか』ヤレヤレ

律「殴っていーい?」ニコ

律「よし、今すぐ澪に告白してくる。そんで元の世界に帰る」

『あ、告白は決まった時期にしかできないんでよろしく』

律「もおおおおおおおお! マジなんなの!」

『そもそもパラメータ的に告白しても振られてバッドエンドだし』

律「パラメータ?」

『格キャラにパラメータが設定されてるんです。
 うまく立ち回ればパラメータは上がるし変な行動を取れば下がる。
 告白までにいかにパラメータを上げるかが勝負の鍵です』

律「マジでゲームみたいだな……。で、澪のパラメータは?」

『これ』


秋山澪
好き度☆
友達度☆☆☆☆☆☆☆
信頼度☆☆☆



律「ええ!? 好き度低っ!」

『頑張って上げてください』

澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。

律「あ! あとこれなに! 上の文章!」

『それはテキスト。言わばりっちゃんの心の声? みたいな?』

律「待て待て! 私はこんなことこれっぽっちも思ってないぞ! 寝癖直したい!」

『その方がギャルゲーっぽいので。とにかくこの文章を指針に行動してください』

律「私は操り人形かよ……」

『ほらほら、早く行かないとまた澪ちゃんが怒りますよ』

律「や、寝癖が……」

澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。

律「ちくしょう! 行けばいいんだろ行けば!」

澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。

律「わかってるようるせーな! 歯も磨けないのか!」ダダダ

ガチャ

律「澪! お待たせた!」

澪「遅い!」

ゴツン

律「ぐぇあ!」

澪「いつまで待たせれば気がすむんだこのバカ!」

律「のぉぉぉぉおおおおお……」

私は澪のゲンコツに悶絶する。
このゲンコツ、今ではほぼ日課となっている。
澪、いつもそんなに怒ってたら若いうちにシワだらけになっちゃうぜ?

律(現実の澪よりいてぇ……この澪は私のこと嫌いなんじゃないか?)

澪「ったく、髪もボサボサじゃないか」

律「澪が早く来いって言うから……」

澪「仕方ないな……ほら、直してあげるからこっちにおいで」

律「え? お、おお……」

澪は私の頭を掴み、自分の胸元に引き寄せた。

律「ぐお……!」

澪しゃん……おっぱいが……当たりそうです。

澪「律も、い・ち・お・う女の子だからな。こんな髪じゃ人前に出るのは可哀想だ」

一応を強調するな。

澪は鞄からクシを取り出し、私の髪を梳かし始める。
他人に髪を触られるのはなんだかこそばゆい。

澪「律って髪は綺麗だよな。いつも寝癖ひどいけど」

律「う、うるせーやい!」

澪「なんだよ、せっかく褒めてあげたのに」

澪は少し寂しそうな顔で俯いた。
私はなんだかいたたまれない気持ちになり、澪の手からカチューシャを奪い取って脱兎のごとく駆け出した。

律「ち、遅刻するんだろ! 早く行くぞ!」

そしてそれを装着しながら叫ぶ。

澪「ああ! 待ってよ律ぅ!」

私は澪の言葉に耳を貸さず、ズンズンと学校に向けて歩を進めた。

律(くっそ~……)

律(な~んか調子狂うな……普段の澪なら)

ポワワーン

澪「おい律。寝癖」

律「ん? あ、ホントだ」

澪「……そんな頭で外出とか……女として終わってないか?」クスクス

律「ぐぬ……こいつ!」

ポワワーン

律(ってな感じかな)

澪「はあはあ…・・・待ってよ律ぅ~!」

律「お、おぅ」

澪「ひどいよ律! 一人でどんどん先に行っちゃうんだもん! おかげで汗かいちゃったろ!」

澪の髪が汗で頬に張り付いている。
その姿が妙に色っぽく見えた。

律「ち、遅刻しちゃうからな! 急ぐぞ澪!」

澪「ちょ……!」

私は澪の手をとり、学校に向かって走り出した。



せいもん!

律「とーちゃく!」

澪「はあはあ……走るの速すぎ……」

律「遅刻するよりましだろ!」

澪「まあそうだけどさ」

律「……ちょ! あ、汗でシャツが透けてる!」

澪「え?」

ほう、今日の澪は水玉ブラか。
なかなかどうして。

律(ふ、ふざけんな! 私はこんな変態じゃない!)

澪「ど、どうしよ律……」オロオロ

律「どうするったって……そうだ! 私ベスト持ってる! 待ってろ!」

私は大急ぎで鞄をひっくり返し、ベストを取り出した。

律「ほら、これ着ろ!」

澪「ありがとう律!」

澪はベストを受け取ると、すぐにそれを着る。

律「ふう……なんとかなったな」

澪「ん……」

律「どしたー? ポケーっとして。疲れた?」

澪「や、このベスト……律の匂いがするなぁって……」

律「ぶーーーーっ!」

澪は俯き加減で頬を紅潮させながらモジモジしている。
世の中の男共がこの姿を見たら一発で澪の虜になることは想像に難くない。
実に女の子らしい仕草だ。
私も見習いたい。

律「お、おまっ……! 変なこと言うな! 顔を赤らめるなー!」

澪「だ、だって……」


唯「おっふたりさーん! おはよー!」

向こうからよたよたと駆けてくるのは、軽音部ののんびり妖精平沢唯~!

律「お、おお唯。ちょっと今……」

唯「何かあったの? あれ、澪ちゃん顔真っ赤だよ! 熱でもあるの!?」

澪「へ!?」

唯に指摘され澪の頬はますます紅潮する。

律(あーもう! 澪の奴、一体何をそんなに意識してんだよ!)

澪「なんでもない! なんでもないから!」

いかにもなんでもありそうなアタフタ具合に、唯の目ですら誤魔化せなかったようだ。

唯「澪ちゃん! 今すぐ保健室に行こ!」

澪「ほけ……! ホントになんでもないってば!」

唯「りっちゃん、澪ちゃんを保健室に連れてってあげて!」

澪「え……」

律「私が?」

唯「うん、だって澪ちゃん本当に風邪っぽいんだもん。悪くなったら大変だよ」

律「でも大丈夫だって、澪が」

澪「行こうかな…・・・保健室」

律「えっ!?」

唯「うんうん、そうしなよー。私は宿題を写さなきゃいけないのでさらば!」

唯は私達に向かって敬礼をして一目散に玄関まで駆けていった。
何故言いだしっぺが何もしないのか、謎だ。

律澪「……」

律「…行くか、保健室」

澪「うん……」

律(えっと、ちなみに唯のパラメータは……)

【平沢唯】
好き度☆☆
友達度☆☆☆☆☆☆☆☆
隊員度☆☆☆☆

律(澪よりは全体的に高いのかな。……隊員度……? って何……?)

澪「律……」

律「お、おお。じゃあ行こっか、保健室」

澪「うん……」

【秋山澪】
好き度☆☆
友達度☆☆☆☆☆☆
信頼度☆☆☆☆

律(お、澪のは信頼度と好き度があがってる)


そんなわけで私達は保健室にやってきたのだった。

律(どんなわけやねん……もうテキストに突っ込むのも面倒になってきた)

澪「はは……別に具合なんて悪くないのにな……なんで来ちゃったんだろ」

じゃあ戻ろうか、って言うのは野暮だよな。

律(野暮じゃないし……なんともないなら教室行こうよ、マジで)

澪「とりあえず服脱いで汗拭きたいんだけど」

律「うん、拭けば?」

澪「……」

律「ん?」

澪「あっち向いてろー!」

ゴツン!

律「なんでー!?」

澪に促されるまま、私は一人廊下側を向いた。
一体なぜ殴られたのか、追求はしないことにした。

律(私は完全に男扱いかい……まあギャルゲーだから仕方ないのか)

澪「よし! もういいよ。こっち向いても」

振り返ると澪はベッドの上に腰掛けている。

澪「律も座れば?」

律「は?」

澪は自分の座るベッドを指差した。


私は戸惑いつつも澪の隣に腰掛ける。
ギシ、という音と同時に澪の体が揺れる。

澪「ん……」

律「な、なに」

澪「別に……」

律「……」

澪「……」

なぜか沈黙する澪。
私はこういう雰囲気が一番苦手だ。

律「何か喋れよ……」

澪「律こそ……」

律「そもそも澪が座れって言ったんだろ……」

澪「そうだけど……」

律「……」

澪「……」

沈黙。
沈黙の保健室。

律(って、やかましわ!)

澪「何か久しぶりだな、こういうの」

不意に澪が口を開いた。

律「こういうのって?」

澪「ん、二人っきりの静かな時間がさ」

律「ああ、軽音部入ってからは私ら二人っきりってのはだいぶ減ったな」

澪「5人でいるほうが楽しい?」

律「へ、変な質問するな!」

澪「別にいいだろ。私と律の仲だし」

律「はは、まあそうか」

澪「ふふ」

何が可笑しいのかよくわからなかったけれど、私達は向き合いながら笑いあった。

なんだかすごく懐かしい気分だ。
そういえば、昔はよくこうしてなんでもないことで二人で笑いあってたっけ。

澪「そういえばさ」

ひとしきり笑いあった後、澪は神妙な面持ちで喋りだした。

律「ん? どした?」

澪「律は進路どうするか決めた?」

律「ああ、いやまだ」

未だに進路未定は私と唯だけ。
軽音部から二人も……。
情けない限りである。

律「そうだな~。じゃあたこ焼き屋さんでもするか!」

澪「バカ! 真面目に考えろ!」

律「おい、その言い方はないだろ。全国のたこ焼き屋さんに謝れ!」

澪「いや、そういう意味でなく……」

律「じゃあどういう意味かな~。ん? 言ってごらんなさぁい?」

人をイラつかせる口調に定評のある私である。

澪「だからそれは……ん~もう!」

イジワルはこれくらいにしといてやるか。

律「にょほほ、冗談だって。私はまだ未定だよ。澪は推薦だっけ?」

澪「あ、うん……」

律「さすが優等生は違うね。澪なら合格するよ。私が保障する」

澪「別に律に保障してもらわなくても元から落ちるつもりなんてないし」

律「ほ~、大層な自信ですこと」

澪「ふん! 当たり前だろ!」

律「でもさ、そしたら澪とは離れ離れか。なんか……アレだな」

澪「アレって?」

律「ん~、現実感がないっていうか。ほら、今まで澪とはずっと一緒だったろ?
  だから……あー、なんて言うのかな。離れるのかーって感じ。
  うー、うまく言えん」

澪「ぷっ、つまり私がいなくて寂しいってことか?」

律「はんっ! 2、3日もすりゃあケロっとしとるわい!」

澪「そっか」

私に返答しながら澪は少し寂しそうな顔をする。
笑ったり寂しそうにしたり、本当に起伏の激しい奴だ。
ま、そんな素直なところが澪のいいところなんだよな。
こんな澪だからこそ私達はずっと親友でいられたんじゃないかと思う。

澪「律もさ……頑張って……」ゴニョゴニョ

律「は? なに?」

澪「り、律も頑張って勉強して私と同じ大学を受験しないか!?」

律「ほぇ?」

思わず情けない声が漏れてしまった。
だって仕方ないだろう。
こんなこと言われると思ってなかったし、そもそも澪の受験大学は宮廷で、およそ私が頑張ってどうにかなるレベルではないのだから。

律「いや、だってなぁ……」

1 そうするか!
2 バカ言うな。無理に決まってんだろ。
3 お前と同じ大学なんて行きたくない。キモオタのダッチワイフが気安く私に近づくな、妊娠してしまうだろうが。

律「え?」

律「な、なんじゃこりゃああああああああああ!?」

澪「律、どうなんだよ」

律「いや、ちょ……」

律(この選択肢なに!?)


3
最終更新:2010年08月28日 23:18