音楽室

梓「……」

梓「一人で泊まり込み……虚しかったなぁ」

梓「……」

梓「先輩達、きっと今頃劇の準備かな」

梓「……」

梓「みんな、楽しんで頑張ってるんだろうな」

梓「……」

梓「……ぐすっ」



舞台袖

律「観客は大入り満員! 主役は私達! はりきって行くぞー!!」

一同「おおおおーー!!」

和(田井中さんに良いとこ取られちゃったわ……)

澪「唯、ちょっと」

唯「あ、うん」


小道具部屋

澪「……その、大丈夫なのか?」

唯「全然平気だよ。声は出るから、台詞もちゃんと」

澪「演技のことじゃないっ! 身体のことだ!」

唯「えっ……」

澪「無理し過ぎなんだよ、唯は……。昨日だって私の家に来てくれた」

澪「私は嬉しかったよ。台詞をちゃんと覚えているか確認できたし、それに……唯との練習は私の楽しみでもあったから」

澪「でも、やっぱり甘えてしまっていたんだ。だから、唯は今日になって体調が……。全部、私が悪いんだっ!!」

唯「……違うよ」

澪「……違わない」

唯「ううん。だって昨日、私は澪ちゃんの頼みを断ることだって出来た」

澪「でも……」

唯「澪ちゃんが私を気遣ってくれてることは、わかってる。でも、ちょっとくらい無理させてよ」

唯「好きな人と二人で一緒に輝ける、素敵な劇のためなんだから。ちょっとくらい張り切りたいよ」

澪「……うん」

唯「だからほら、『涙を拭いて、ロミオ。あなたの顔が曇ってしまったら、世界は真っ暗闇よ』」

澪「……『すまなかった。また君の太陽となるために、この涙を拭う』」

唯「ふふっ」

澪「……あははは!」

唯「そろそろ戻ろう。おめかしもしなくっちゃ」

澪「ああ」


「では、三年生による劇、ロミオとジュリエットです」

びー

澪「唯」

唯「なに? ……!」

ちゅっ

唯「澪ちゃん!」

澪「大丈夫、誰にも見られてない。さ、頑張ってこい」

唯(うぅ、こんなタイミングで、ずるいよ澪ちゃん……)

唯(きっと、意地でも演じきって見せるからね)


観客席

梓「いよいよだね」

憂「うん……」

純「元気ないなー。仕方ない、ぼくのポップコーンをお食べ?」

憂「……」

純「あの、えと……」

梓(うわー、憂のスルーって痛いなぁ……)

憂(お姉ちゃん、あんな高熱で……大丈夫かなぁ)

梓「あ、最初は唯先輩の独白からだ」

憂「しっ!」

梓(わ、唯先輩のジュリエットすごく可愛い!)

憂(お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!)

純(しかしこれ、しょっぱいなー。飲み物欲しくなってきた)

梓(台詞も滑らかで気持ちが入ってる。やっぱり唯先輩って、天才肌かも……)

憂(お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!)

純(この下の部分の破裂しそこねたやつは取り除けないのか? 二十一世紀の科学技術をもってしても!?)

梓(あ、澪先輩も出てきた。掛け合いもすごく魅力的……。相当練習したんだろうな)

憂(お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!)

純(いかんいかん、食べ過ぎた。劇の時間を考えてペース配分しないと)



舞台袖

律「おーつかれ! 良い感じだな」

いちご「いいじゃん」

紬「ご馳走様!」

澪「ああ。自分達でやってて、よく出来てる実感がある」

唯「そうだね」

しずか「セット組み替え終わり! 主役の二人、またよろしくね!」

澪「わかった!」

唯「……ふー……」

澪(体力、本当に最後までもつのか……? いや、信じろ……唯を)

唯「いこっ」

澪「ああ」


……

梓(いよいよ、クライマックス!)

憂(うわあああああああああああああおねええええええええちゃあああ)

純「……zzz」

梓(短剣で自ら命を絶つジュリエット!)

憂(あああああああああ!!!?)

純「……私は…むにゃ……ポップコーンを意識した髪じゃ……zzz」

梓(それを抱きしめて咆哮するロミオ……すごい迫力!)

憂(うわあぁぁああぁぁぁあっっぁあぁ!!!!)

純(はっ、なんかすごい悪夢……って劇が終わってる)

梓「すごかったね!」

憂「お姉ちゃん、お姉ちゃんが……死んじゃったよー!」

純「落ち着きなさいって。あれは劇」

梓「あれ? なんだか下りた幕の向こう、騒がしいみたいだね」



ステージ

澪「おい唯! 唯ってば!」

律「あははは唯、いつまでジュリエットやってるんだよ?」

紬「唯ちゃんなんだか顔が赤い……」

ぴと

紬「す、すごい熱だわ!!」

和「山中先生呼んで! 必要なら救急車を」

唯「だ、大丈夫」

澪「唯! やっぱり、無理は……」

唯「うん。ただ、大事にはしたくないの。さわちゃんには言わないで」

律「……劇は成功だ。だが、みんなにいうべきことがあるんじゃないか?」

澪「おい、唯はいま……」

律「うるさい!」

唯「いいの、澪ちゃん。言わせて。私は体調を崩してるの内緒で、劇に参加してた。ごめんね」

唯「内緒にしてたのは、皆に心配かけたくなかったからっていうのが一つ。もう一つは、絶対にこの劇のジュリエットを演じたかったから」

唯「私、澪ちゃんと演技するのがとっても楽しくて、昨日までの練習も沢山した」

唯「そして今日になって熱が出ちゃって、心配したんだ。私の代わりに、誰かがジュリエットをやるかもしれないって」

唯「いつのまにかロミオを、澪ちゃんを独占したくなってたんだって気付いた。私は、澪ちゃんが好きだから」

唯「……結局、こうして最後の最後に、皆に心配かけちゃった。本当にごめんね」

唯「でも、劇はなんとか成功できたし、私はジュリエットを演じられて本当に幸せだよ!」

唯「ありがとう、みんな! ありがとう、澪ちゃん!」

ぎゅう

澪「……ありがとう、唯」

ぎゅう

律「……見ろ、幕が上がる。万雷の拍手だ」

紬「ありがとう、唯ちゃん、澪ちゃん」



それから会場の拍手は鳴り止まず、演目の進行が20分も遅れてしまう事態となりました。

主演の二人はステージの上で座り込んだまま、ずっとお互いを見つめ合っていました。
ロミオとジュリエットの悲劇の末路の先に、いま小さい新たな恋物語が生まれようとしています。
――――かくして、二人にとって最後の学園祭は生涯の思い出としてそれぞれの胸に深く刻まれたのでした。

梓「あれ、ライブは?」


めでたしめでたし




シェイクスピア先生ごめんなさい。有りもしない台詞書きました。
死ぬ順番はノリで書いて気付かず投下してた。すまない。




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最終更新:2010年08月29日 20:11