さて、私はHTTの新曲のために歌詞を書かなくてはならない。

今日は気分を変えて、部屋じゃなく雰囲気の良いコーヒー屋に来ている。

とはいえ、私は苦いものは得意でないので、お供はかなり甘めのミルクコーヒーだけど。

創作には糖分が必要なのだ。ダイエット中だけど仕方ないのだ、決して言い訳ではなく。

この静かな状況と美味しいミルクコーヒーのおかげで作詞もはかどる……はずだった。

でも、横には何故か――――――


律「ペン止まってるぞー。ぱぱっと書いちゃってくださいよ、澪センセ」

澪「うるさいっ!気が散るだろ!」

鉄拳制裁。

澪「第一、なんでついてきたんだお前は!せっかく静かな所に来たというのに!」

律「だって暇だったんだもん」

澪「どうせ家の手伝いから逃げてきたんだろ」

返事がないところを見ると図星のようだ。


憮然としながらも静かになった。

どうやら私のルーズリーフを一枚取って落書きしてるようだ。

澪(しかも何故かサイダー飲んでるし。せめてコーヒー飲料にしろよ……)

まあ、邪魔さえしなけりゃ好きにしてればいい。

澪(うーん……ここの「は」の代わりに「が」を使ったほうがいいかな)

カシャン

澪(あー…この表現どっかで聞いたぞ。パクリになってしまう……)

カシャン

澪()

カシャン

澪「うるさーい!!!」

澪「さっきから何をやってるんだお前は、律!」

律「いやあ、ペン回しがうまくいかなくってさ、何回も落としちゃったんだよね」

澪「もういい、じっとしてろ!」

律「へーい。そういやさ、今書いてるやつ以外にできた歌詞はないの?」

澪「あるけど……」

律「見せて見せてー!」

澪「ほら」

律「ありがと。うわあ、相変わらず背中がかゆくなるような歌詞だな」

澪「悪かったな」

律「『愛するあなたは私のもの 素敵な素敵な王子様』ってお前なあ」

澪「うるさいうるさいっ!」

律「……でもさ、澪の歌詞、好きだよ」

澪「へ?」

律「まあ背中かゆくなるし、見てるこっちが恥ずかしくなるけどさ、なんか澪らしいじゃん」

律「私は澪がだーいすきだからな!澪らしいってことはつまり好きなんだよ」

律「まあ、なんつってもこのりっちゃんさまが好きなんだから、誰だって澪の歌詞が好きに決まってるな!」

澪「なんだそれ」

そう言い返しながらも頬は緩む。

恥ずかしいから言わないけど、そんな台詞も律らしいよ、なんて思ったり。

律「なあ、澪、『私の律』って呼んでよ」

しばし、間。

澪「はああああああああ!?そんな恥ずかしいこと言えるか!」

律「『愛するあなたは私のもの』だろ?澪ちゅわんは私のこと愛してないのー?」

そう言ってイヒヒと笑う。

時々、律はずるい。

澪「そりゃ……好き……だけどさ」

律「ううっ……言ってくれないの……?」

澪「嘘泣きするな!……わかったよ、言うから!」

本当に、ずるい。

律「やったー!澪大好きー!」

澪「全く……」

律「ほらほら早く早く」

くそ、にやにやするな。

バカ律!

澪「……しの……つ」

律「きこえなーい」

澪「私の律!!!」

律「よくできましたー。じゃあ次は『律は私のものだ!』ね」

澪「な……ふざけるな!それくらい言わなくたってわかって……!」

律「ふぇ?」

しまった。

律まで固まってる。

ああもう、さっきまで散々恥ずかしいこと言ってたのはお前だろうが。

……何でお前が赤くなってるんだ。

とはいえ、たぶん私も顔が真っ赤になっていることだろう。

正直恥ずかしくて意識が飛びそうです。

女二人で顔を赤くして黙り込む。

他にお客がいたら切腹ものだ。

律「……なあ、澪」

澪「な、なんだよ!」

律「これからも、一緒にバンドやろうな」

澪「……なんだよ、いきなり」

思わず吹き出してしまう。

多分、律なりの愛情表現なんだろう。

いつもはふざけてるくせに、こんな時には案外恥ずかしがりだったりする。

律「わ、笑うなよな!私は真剣なんだぞ!」

澪「ああ、悪い悪い。今さらだなって思ってさ」

律「だって、無理やり文芸部入るのやめさせちゃったし……」

澪「なんだ、まだ気にしてたのか。本当に嫌だったら辞めてるさ」

澪「これからもずっと歌おう。一緒にな」

澪「歌って歌って歌って……ずーっとだ。辞めるなんて言ったら怒るぞ?」

さっきの律に対抗して、私もイヒヒと笑ってみる。


律「バカ、そんなこと言うわけねーだろ」


律「これからもよろしくな。大好きだよ」

澪「……ありがとう」



―――――やっぱり、律は、ずるい。



おしまい!



最終更新:2010年09月02日 21:54