放課後、私は探りを入れてみることにした

紬「今日ね、私梓ちゃんの作った遊園地に行く夢を見たの♪素敵だったわ~♪」

律「どんな夢だよ…」

澪「お前が言えることじゃないだろ」

唯「遊園地か~、行きたいな~」

梓「…」オドオド

どうやら梓ちゃんで間違いないようだ

紬「それでね~、鯛焼き屋さんが…」

梓「ムギ先輩!そんな話より練習しましょう、練習!」

唯「えー、もっとその話聞きた~い」

律「練習したくな~い」

澪「お前ら…」

紬「ごめんね、梓ちゃんで勝手に妄想しちゃって、この夢の話はもうやめるわ」

誰の夢だったかを知ることができればそれでいい
これ以上言って梓ちゃんを傷つけるわけにもいかない

紬「その夢になる前に…昨日と同じ夢を見たの」

律「…廃墟から突然遊園地になったのか?」

紬「あ、そういうことじゃなくて…私が真っ暗な部屋にいて、突然光に包まれて、
  気が付いたら別の夢になってるの、
  それのおかげで今回は初めから夢だってわかったわ」

澪「明晰夢ってやつか」

唯「メイセキム?」

澪「夢の中でこれが夢だって自覚がある夢のことだよ」

唯「あ、それ私なったことある!」

律「えー、なんだよそれ、それじゃあ夢を楽しめないじゃねーか」

澪「明晰夢は夢の内容を自分の思い通りにできて、空を飛んだりとかもできるらしいよ」
律「え!マジで!唯、ムギ、飛んだの!?」

紬「ええ、ジャンプしただけで10mとか」

梓「!」

唯「私は~…と、飛んだよ!びゅーんって!」

律「二人ともうらやましいな~」

唯「…」

律「そういえば同じ夢見たって言ってたよな」

紬「ええ」

律「同じ夢を見るって言えば『猿夢』って知ってるか~」

唯「お猿さんの夢?」

律「猿夢っていうのはな~…」







律「…と、こういう話だ!」

澪「キコエナイキコエナイ…」

唯「うわー、今日はその夢見ちゃいそうだね…」

澪「ミタクナイミタクナイ…」

梓「私その話聞いたことあります」

律「お、梓は怖い話とか好きなのかぁ?」

梓「違います、たまたま見かけただけです」

梓「ほら、澪先輩大丈夫ですよ、練習してこんな話忘れましょう」

澪「うん…」

実際は梓ちゃんが忘れたい話があるからだろう
でもここは澪ちゃんを泣き止ませる梓ちゃんが見れたし、黙っておこう


今日の練習はボロボロだ

ケーキ不足でヘナヘナな唯ちゃん
いつも通りに走り気味なりっちゃん
怖い話を忘れられず手が震える澪ちゃん
なんだかヤケクソな梓ちゃん

まぁ、たまにはこういう日もあるだろう
それより今日は誰の夢に行けるのかなぁ…

澪「おいムギ、手が止まってるぞ!」

紬「あ、ごめんなさい」


……

二日連続で他人の夢を見ることができたのだから、きっと今日もいけるだろう
その期待が逆に私を寝かせてはくれなかった

でも寝ないわけにはいかない
仕方がないので斉藤に言って睡眠導入剤を服用した

これで今日も…

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────

真っ暗な空間
初めは恐怖の対象だったが、今ではまるで夢のハブ空港のように思える

私は光が出るのを待った
私が待ち遠しく感じているからか、光はなかなか姿を見せない

退屈になり、私は目を瞑った
光は探さなくても勝手に私を包んでくれるのだ
眩しくなる前に瞑っておいてしまおうと思ったのだ

目を瞑っても同じ世界
真っ暗で何もない

と、音が聞こえた
ガタンゴトン、ガタンゴトン

電車?光が来なくても人の夢に行けるのだろうか
私はゆっくり目を開いた

「 次は活けづくり~活けづくりです。」

私は電車の座席に座っていた
後ろを振り向くと一番後ろの男性が活けづくりのようになっていた
景色は白黒だったので、あまり気持ち悪くはなかった

私は後ろから4番目…3番目は…

紬「澪ちゃん!」

澪「…うぁ…ムギィ…私殺されるよぅ…挽肉にされちゃう…」

そうか、これは澪ちゃんの夢
でもあの話の再現度が高すぎる、それだけ深く心に残ってしまったのだろう

紬「大丈夫、私がいるから!」

「大丈夫」に根拠はないが、昨日のように明晰夢の力で押し切れると思ったのだ

澪「ありがとう…ムギ…」

澪ちゃんが私を頼ってくれている顔はとても可愛らしい
写真に収めたいぐらいだが、生憎ここは夢の中である

「 次はえぐり出し~えぐり出しです。」

紬「やめなさい!そこの小人さん!」

私はアナウンスと同時に威勢よく立ち上がり、怒鳴りつけた
しかし小人は、いや、標的の女性さえも私の声に気付いてはいないようだった

紬「仕方ないわね…」

私はりっちゃんの夢に出てきた銃を思い浮かべた
すると、私の手元にその銃が現れた

紬「喰らいなさい!」

しかし小人には全然効いていない
小人は私の銃撃を無視して女性の目をえぐり出し始めてしまった

澪「いやああああああああああ!!やっぱり無理なんだよ!私は死んじゃうんだ!」

そうか、これは澪ちゃんの悪夢
澪ちゃんが「この小人には敵わない」と思っている限りは倒すことができない

紬「澪ちゃん、落ち着いて!今は澪ちゃんの協力が必要なの!」

澪「わ、私なんか役に立たないまま死んじゃう…」

紬「澪ちゃんはとにかく私を信じて!小人は倒せるって信じて!」

澪「うん…わかった…」

紬「今度こそ…」

私は銃を乱射する
女性はすでに死んでいたので気兼ねなく撃つことができる

小人は気持ち悪い奇声をあげて倒れる
二度と復活しないように、原型を留めなくなるまで撃ち続けた

小人を全滅させると、電車は停車した

澪「あ…か、勝ったのか!?」

紬「ええ、もう大丈夫よ♪」

澪「お礼に何か…」

紬「じゃあ、私のこと叩いてほしいの♪」

澪「え…?」

紬「私、叩かれるのが夢だったの♪」

澪「じゃ、じゃあいくぞ…」

澪ちゃんが腕を振り上げて、それを私に向けて落とす
その手が私の目の前にきた瞬間、私は目が覚めた

紬「いつもいいところで終わっちゃうのね…」


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最終更新:2010年09月03日 22:18