梓「さあ。パッパッと学校行きますよ、学校」

唯「えー!?」

テクテク

唯「十字を組んで狙った敵は~必殺技の贈り物~♪」

梓「まさか唯先輩と一緒に登校する日が来るとは思ってませんでしたよ」

唯「あはは、私も」

梓「そういえば」

唯「なに?」

梓「なんでマントなんか着けてるんですか?」

唯「ヒーローだから」

梓「学校でも着けっぱなしでいくんですか」

唯「もっちろん!」

梓「ふーん」

ガラララ

唯「おっはよー!」

律「おはよ」

澪「唯、そのマントは?」

唯「えっへっへ。ヒーローたるものマントは必需品なんだよ!」

澪「へぇー」

唯「どう? かっこいいでしょ?」

澪「そうでもないけど」

唯「赤のマフラーとも迷ったけど夏にマフラーは暑いしねー」

澪「訊いてもないけど」


紬「……」キラキラ

律「どしたムギ、ぼーっとして」

紬「……」キラキラ

律「ムギ?」

紬「……あっ、いや何でもないの」


ガラララ

さわ子「みんなおはよう。それじゃあ出欠を……」

唯「……」バーン

さわ子「平沢さん? そ、そのマントはなに?」

唯「あ、私ヒーローなんでお構いなく」

さわ子「構います!」


澪「それで、先生にマント取り上げられたのか」

唯「うん。でもさわちゃん新しいマントくれたんだよ!」

律「新しいマント?」

唯「なんでも馬鹿には見えないらしくて」

律「澪、見える?」

澪「ああ、私は賢いからな」

律「ふーん。私には見えないや」

紬(……わ、私も見えない)ズーン



1時間目 数学


数学「sinθがcosθで微分積分イイ気分なほんにゃらぺんにゃらたりらりらん」

澪「……」カリカリ

律「zzz」スヤスヤ

唯「……」ボンヤリ

紬「……」カリカリ

数学「じゃあこの問題はー……平沢さん、解いてくれる?」

唯「はい! ……む」

数学「?」

唯「……先生!」

数学「なに?」

唯「心に愛がなければスーパーヒーローじゃあないんです!」

数学「それがその問題とどう関係が?」

唯「私はヒーローだから愛に溢れているので、この問題の解答権をムギちゃんに分け与えることにします!」

澪(……自己愛でいっぱいだ!)



2時間目 体育



イッチニー サンシー ゴーロク シチハチ

律「はぁーあ、準備体操なんてめんどくさいなぁ。早くサッカーがしたい!」

紬「でもちゃんとしないと怪我しちゃうよ?」

澪「そうだそうだ。私は律が怪我するところなんて見たくないぞ」

律「澪……!」


しかし私はわかっていた
このセリフが私を思って発せられたものではないと。怪我による流血が見たくないだけなのだと
私のこの想いが届くことはないのだと
けれど私は諦めない
今日も今日とて、私の"君を想う力"で鮮やかなシュートを決め

律「……なんだこの地の文は」

唯「ヒーローたるもの人々の想いを見透かせなくてはなりませんから!」

律「……それは私のネタだろ!」

ポカッ!

唯「あいたっ」


ピーッ

紬「唯ちゃん、パス!」

唯「オーライ! よーしいくよ!」

唯「ダッシュダーッシュダッシュ!」

タッタッタッタッ

唯「キックエーンドダッシュ!」

ダッダッダッダッ

唯「いつか決めるぜ稲妻シュートー。そうすりゃおーれもスーパヒ

マノーン!

唯「えっ?」

律「りっちゃん必殺スライディングアタッーク!!」ズザーッ!

唯「ああっ!?」

律「いくぞ、澪! すぐ立ち上がらなきゃチャンスは逃げていくんだ!」

澪「う、うん!」

唯「……」



3時間目 国語



なんてなかった



昼休み



唯「やったー! ようやくお昼の時間だね!」

律「テンション高いな」

唯「憂が作ってくれたヒーロー弁当をみんなに見せびらかせると思うと自然と心が躍るってものだよ」

紬「ヒーロー弁当?」

唯「うん。今朝憂が『ヒーローならこれを食べなきゃ』って」

澪「へぇー」

唯「いくよー、ご開帳ー!」

カパッ

モワアアアア

澪「うっ……!」

律「こ、この匂いは……」

紬「カレー!?」

カレー弁当「……」デーン

唯「」ガーン

澪(憂ちゃんのヒーローのイメージってキレンジャー?)ポカーン


……

律「とまあこんなことがあってな」

梓「だから沈んでるんですね、唯先輩」

唯「……アハハ ヒメコチャン ワタシ ノ コト キレンジャー ダッテ ハハハ」

梓「はぁ……」

梓「しっかりしてください。苦境を乗り越えてこそのヒーローでしょう?」

唯「ハハハ」

梓「……」

梓「……あー唯先輩助けてー。命が危険で危ないよー」

唯「ハハ…」ピクッ

梓「早くしないと暴れ出したトンちゃんに私の上腕二頭筋がー」

唯「……」ピクピクッ

梓(もう一押しかな)

梓「わーもうだめだー助けて唯先ぱ

律「へっくしょん!」

澪「風邪?」

律「うーん……。午前中はそんなことなかったけどなぁ」

梓「……」

唯「ハハハ」

梓(あんちくしょう!)

唯「ハハハ」

梓「どうしよ……」

紬「頑張って梓ちゃん。強大な敵を前に倒れ伏したヒーローを助けるのはいつだってただの人間よ」

梓「そう言われても……」

紬「大丈夫、梓ちゃんならできるわ」

梓「……」

紬「だって唯ちゃんとたくさん日々を過ごしてたくさんの絆を結んできたじゃない」

紬「一緒に戦ってなんぼなのよ。ヒーローも、人間もね」

梓「……ム、ムギ先輩」

唯「かっこいい―――!!」ガバッ

梓「は?」

紬「えっ?」

唯「ムギちゃんかっこいいよ! 憂鬱なんて吹っ飛んだよ!!」

紬「そ、そんなに褒められても」テレテレ

梓「……」

澪「おーい、ちょっといい?」

紬「どうかしたの?」

澪「みんなごめん。律がなんか風邪っぽいから今日の部活は休みにしようと思うんだけど」

唯「りっちゃんが風邪?」

紬「雨が降ったりしてね」

梓「……」

澪「梓? やっぱり部活したい?」

梓「……休みましょう! さっさと帰っちゃいましょう、唯先輩を置いてけぼりにする勢いで!」

唯「あ、あずにゃん!?」

紬「雨が降るわね」



帰り道



唯「あずにゃん」

梓「……」ツーン

唯「あーずにゃん」

梓「……」フーン

唯「……」

唯「ムギちゃん、あずにゃんが構ってくれないよう」クスン

紬「あ、あはは」

梓「……人の厚意を踏みにじったんだからそのくらい当然です!」

唯「えっ?」

唯「ど、どういうこと?」

梓「ふんっ!」

唯「ムギちゃん?」

紬「えーっと、唯ちゃん部室で落ち込んでたでしょう」

唯「うん」

紬「だから梓ちゃん、唯ちゃんのためにあれやこれや頑張ってたの」

紬「でもあんな立ち直り方しちゃったから……ね?」

唯「!」ガーン!

唯「そ、そんな……私あずにゃんの心を傷つけちゃってたんだ……」

紬「そ、そんなに思い込まなくても!」アタフタ

唯「いいんだよムギちゃん……。私、ヒーローどころか人間失格だよ……」

紬「そんなこと……!」

唯「……みんなを守らなくちゃいけないヒーローが、大事な後輩の心を踏みにじったんだ……」

唯「……最低だよ、私は」

紬「唯ちゃん……」


スタスタ

梓(……唯先輩のばか)

梓(だいたいあれのどこがヒーローなんだか……)

梓(ヒーローっていうのはもっと強くて逞しくてかっこよくて)

梓(唯先輩とは全然別物だもん!)

梓(……唯先輩の、ばーか)

ガアアアアアア!

律「ん?」

澪「どした?……ってああっ!!」

ガアアアアアアアア!!!

律「お、おい梓! 前、前!!」

澪「ト、トラックが!!」

梓「えっ? ……きゃあああああああああ!!!?」


キャアアアアア!

唯紬「?」

ガアアアアア!

唯紬「!?」

紬「あ、梓ちゃんがトラックに!」

唯「あずにゃん!」

唯(……私は今度こそ守ってみせる。それが私に与えられた使命なんだ!)

ダッ!

紬「唯ちゃん!?」


キキイイイイイイイイ!!!

――――ガシャーン!


梓「……」ガタガタ

梓「し、死んだ……絶対死んだ……」ブルブル

唯「……あずにゃん」

梓「……」ガタガタ

唯「あーずにゃん」

梓「……えっ?」

唯「よかった、無事みたいだね」

梓「へっ?」

唯「えへへ。私、ヒーローだから」

唯「トラックを片手で止めるなんて、お茶の子さいさい朝飯前なんだよ?」



あれから
唯先輩にたくさんのありがとうとたくさんのごめんなさいを贈りました
唯先輩もそれと同じだけの笑顔を返してくれました


2ヶ月経った、今
唯先輩にはもうスーパーパワーはないようです
先輩曰わく「私の番はもう終わったからね」とのことですがよくわかりません


でも
スーパーパワーはなくとも唯先輩は紛れもなくヒーローです
だって私は先輩に救われたことをこれからもずーっとずっと忘れることはないんですから

ちなみに
今でも唯先輩の趣味は、世界平和だそうです




おしまい



最終更新:2010年09月04日 20:54