2010年 10月18日

朝―

唯「おはおー…はぁはぁ」

律「おはよ。また走ってきたな」

紬「おはよー」

澪「おはよ、遅刻ギリギリだぞ」

和「おはよう。唯、また寝坊?」

唯「違うんだよ。昨日遅くまでTV見てて、寝るのが遅くなっちゃったの。それで朝起きれなかったんだよ」

律「それを寝坊と言うのだよ。」

和「まったく、憂も大変ね…」

さわ子「はーい、みんな席ついてー。ホームルーム始めまーす。」

唯「あわわわ」

さわ子「明日は文化祭です。みんな遅くまで残るのは構わないけど、最低下校時間までには―」

唯「(ん…?あれ?そういえば昨日りっちゃんおかしなこと言ってたよね…あれ?後で聞いてみようっと)」

唯「(未来から来たりっちゃん成人だー!星人じゃないぞ成人だ!とかなんとか。ぷぷっ変なのー)」


―放課後―

澪「唯ー!部室行くぞー」

唯「あーちょっと待って……ギー太を…よっと…よし!」

澪「もう律とむぎは行ってるみたいだから」

唯「うん!明日のために今日はむぎちゃんのお菓子食べてからたくさん練習しないとね!」

澪「どっちみちお菓子は食べるんだな…」

唯「(あれ?…りっちゃんに昨日のこと聞くの忘れてた…後で聞いてみよう…)」

―部室―

紬「今日のお菓子はシュークリームよー」

唯「おお!でかい!!これはうまい!!」

梓「まだ食べてないのに…」

唯「食べなくてもわかるんだよ!このサクサクしてそうな生地、そしてこのボリューム感!」

律「さー食べようぜー」

梓「明日は文化祭ですからね!食べ終わったらすぐ練習ですよ?」

唯「わーかってるよ~あずにゃ~ん」

唯「あー、そういえばさ、りっちゃん」

律「んー?何?」

唯「昨日さ、電話で―」

律「あー、そういえば…ごめんごめん、何回かかけなおしたんだけど繋がらなくてさ」

唯「え?」

律「また明日のお菓子の話だろうと思って、まあいっかって」

律「あ、そういえば2人とも予想外れたな。絶対今日はクッキー系が来ると思ったんだけどな~」

唯「違うよりっちゃん、その後の話だよ」

律「へ?その後って……だから電話が切れちゃって…んでかけなおしても繋がらなかったからって今―」

唯「え?私がかけ直したらりっちゃん出たじゃん。」

律「え?いつ」

唯「いや、その後すぐだよ」

律「何を言ってるんだい?君は?」

唯「あー!りっちゃんずるいー!!そうやって私を馬鹿者扱いするんだ!ぶーぶー」

律「いや待て待て、あたしは唯の言ってる事の意味がわからないぞ。昨日はあれで電話終わっただろ?」

唯「えっ?」

律「唯、記憶がおかしくなってないか?夢でも見てたのか?」

唯「なっ!記憶喪失だったのはりっちゃんのほうじゃ~ん」

律「はい?」

唯「未来から来たー!とか言って」

律「いや、言ってない。」

澪「なにさっきから訳のわからないこと言ってるんだよ2人とも」

唯「違うんだよ澪ちゃん、りっちゃんが私は大学生で23歳になったんだとか言ってたんだよ」

澪「律、お前寝ぼけて電話取ったんじゃないか?」

律「いや、待てって、あたしはそんなこと……本当に言ったのか?」

唯「そうだよ。なんか昨日りっちゃんおかしかったよ?大丈夫?」

律「あーうん、大丈夫だけど…(あれー?おっかしーな…本当に記憶喪失になっちまったか?)」

梓「さあ、食べ終わったなら練習しますよー」

唯「えー!まだ食後の一服タイムが残ってるよ!」

梓「そんなおじさんみたいなこと言ってないで練習しますよ!」

唯「えー!!」

梓「みなさん先輩方にとっては最後の文化祭ですよ?必ず成功させましょう!」

紬「そうね!頑張りましょう!」

澪「そうだな!」

律「よーし、やるか……(なんかおかしいなぁ…)」

唯「むーん」

この時唯は、律がふざけて冗談を言ったものだと完全に思った。

律の記憶がおかしくなっているものだと思った。

しかし、

この時2人とも正常。

2人とも間違ったことは言っていない。

おかしいのは、昨日起きた、怪奇現象だった。


5人はいつも通り、音楽準備室で明日の文化祭に向けての練習を始めた。




2015年 10月18日


律「くっそ…あれから何度も電話してるのに…繋がらない…っ!」

律「昨日のはいったい何だったって言うんだ!?確かに着信履歴も残ってる…っ」

昨日のこの不可解な出来事を1日中考えていた。
しかし、電話が繋がらない以上何をどうすることもできない。
昨日のアレは夢だったのではないか。と考えるも、着信履歴を見れば夢じゃなかったことがわかる。

律「明日…明日なんだよ…っ!もし、本当に過去の…2010年10月17日の唯と電話が繋がっていたんだとすれば…」

律「教えてあげることができた…っ!のにっ!くそっ!!」

律「何故昨日言わなかったんだ…っ!文化祭の日の朝は気をつけろって…くそっ!!!」

激しく後悔した。
しかし、改めて考えてみると…

律「待てよ…。仮に過去の唯に、この交通事故の事を教えて、その日は事故に会わずに助かったとする…」

律「するとどうなる…?」

それもそうだが、他にもいくつかの疑問点はあった。
まず、昨日電話が繋がった5年前の2010年10月19日の唯の世界では、その日の朝に本当に交通事故は発生するのだろうか。
次に、仮に5年前の事故を未来の律が教えてあげたとして、それをはたして回避できるのか。
そして……もし、その事故を回避した場合、唯はどうなる?唯は2010年10月19日に死んだことにはならない…のか。
死んだことにならなかった場合、今はどうなる?過去が変わった場合…未来はどうなるんだ?

考えるだけ無駄だった。
こんな前代未聞の現象、いくら考えたって答えが導き出せる筈がなかった。
律は最後にもう一度、唯の番号に電話をかけて繋がらないことを確認して、携帯電話をそっと机の上に置いた。

律は立ち上がり、部屋を出ようとしたその時、机の上にあった携帯電話が唸りだした。

ヴー、ヴー、ヴー

律「!?」

律は激しく期待、興奮し、携帯電話を開く。
しかし、そこにあったのは律の期待したものではなかった。

秋山 澪
080 XXXX XXXX

律「なんだ、澪か…」

心の興奮がまだ治まっていなかったが、とりあえず電話に出た。

律「もしもし澪?」

澪「おー律久しぶり、明日どうする?」

律「へ?明日?なんもないけど…」

澪「なに言ってるんだよ。明日は唯の命日だろ?お墓参り行くだろ?」

律「ああ、そうか…」

律は完全に唯の墓参りの事など忘れていた。
何せ、その唯から昨日、電話がかかってきたのだから。

澪「ったく、忘れてたのかよ。私今日は仕事まだ残ってるから、後で皆に連絡頼むぞ?」

律「ああ。」

澪「私は仕事休みもらったから、私らは昼頃合流でいいよな。その後予定合えばみんなでご飯でも食べよう。詳しい時間とか後でメールしてくれ」

律「わかった…でも、どっちみち車出すから待ち合わせはうちでいいだろ…って、あのさ、澪」

澪「んー?」

律は昨日の事を澪に言うか言わまいか迷った。
はたして言ったところで信じてもらえるだろうか。
しかし、ここで言わないでいつ言うんだ…っ!

律「昨日…さ、唯から電話がかかってきたんだ…」

澪「はっ?」

律「いや、あの、過去の唯から。5年前の唯から何かわかんないけど電話がかかってきたんだ…それでっ」

澪「っはははは、なに言ってんだよりつー」

律「いや、本当なんだって!信じてくれ!」

澪「夢だろ?なんだかんだで唯の命日近かったから頭の中で考えちゃってたんだろう」

律「ち…違うんだっ!!」

澪「律、最近疲れてんのか?せっかくだしストレス発散に今度休みの日飲みにでも行こうよ」

律「だーかーらー、そうじゃなくて、本当に夢じゃないんだ」

澪「学校の子たちと飲みに行ったりしないのか?」

律「いや、そりゃたまにはあるけど…いま金欠なんだ。」

澪「そうか…学生だもんな…」

澪「じゃあまた後で時間だけメールくれよ。電話でもいいけど。」

律「ああ、わかった………って、そんな話じゃなくて本当にっ」

ツーツーツー

律「切れてやがる…………まぁ、普通そうなるわなぁ~」

こんな感じで軽くあしらわれることも薄々わかっていたが、信じてもらえなかったのは少しショックだった。
まあ、こんな漫画のような話、いきなり聞かされて信じろと言うのも無理があるが。

律「しょうがないか…明日みんなに話してみよう。着信履歴を見れば…きっと信じてくれる」




2010年 10月18日

律「じゃあ、また明日なー」

澪「唯、明日は遅刻するなよー」

唯「わかった!大丈夫!!じゃあね~ばいばーい」

唯と紬と梓の3人は、いつもの交差点で、2人を見送って別れた。

唯「明日楽しみだねー。むぎちゃん、私たちにとったら最後の文化祭だよ!緊張するね~」

梓「全然緊張してる風に見えないですけど…」

紬「そうね、なんだか寂しい感じもするけど、悔いを残さないように頑張ろう!」

唯「うん!!」

そして3人は駅前の交差点についた。いつも紬と別れる所だ。
紬は軽音部の5人の中で唯一、電車通学なのだ。

唯「じゃあむぎちゃん、また明日ね~」

梓「お疲れ様でしたー」

紬「うん。ばいばーい!また明日ね~」

2人は紬を見送った後ゆっくりと歩き始めた。

梓「なんか天気があやしくなってきましたね…」

唯「ひとっぷり来るかもね!」

梓「なんでちょっと嬉しそうなんですか…」

梓「雨降ってこないうちに早く帰りましょう」

唯「そだね」

2人は自然と早歩きになった。
早歩きと行っても、いつもの歩くスピードの1.5倍くらいだろうか。

唯「トンちゃんにもライブ見せてあげたいね」

梓「さすがに講堂には持って行けないですよ」

唯「だよね~。せっかく最後のライブだからトンちゃんにも演奏見せてあげたいのにな~」

梓「トンちゃんも軽音部の一員ですからね!でも、私たちの演奏なら毎日部室で聞いてますよ」

唯「そっか~ならいっか~」

くだらない雑談をしているうちに、梓と別れるポイントまで着いた。雨は降ってこなかった。

唯「じゃあね、あずにゃん。また明日ね~」

梓「はい!それじゃまた明日です。先輩、遅刻しないでくださいよ!」

唯「わかってるよ~。ばいばーい」

ポッ―ポッ―ポッ―。

唯「げっ!雨降ってきた~?」

唯「走れー!」

ザ――――――――――――――――――

唯「ぎゃあああああああああああ」

唯「ギー太っ!ギー太が濡れるううううっっ!!」

唯「サビるうううううう!!ごめんねギー太!!」


唯はギターケースを両手で抱えながら走った。
まるでバケツに溜まった水をひっくり返したかのような大雨。

いつも朝走り慣れていたせいか、ものの数分で家に着いた。
しかし、走っても走らなくても同じだったかもしれない。
唯の身体はもう既にびしょ濡れだった。

唯「ふええええぇぇ、ただいまぁ…うい~」

憂「お姉ちゃん雨大丈夫だった!?ってびしょびしょだよ!」

唯「ギー太がぁ…」

憂「早く上がって!お風呂沸かしておいたから入っておいで」

唯「ありがと~うい~」

憂「ギー太はちゃんと拭いといてあげるからね」

唯「うん、ありがとう。行ってくるね~」

憂「うん!……ってああ!お姉ちゃんタイツ脱いでーっ!」

憂は、おもむろに脱ぎ捨てられた唯の靴を綺麗に並べた後、洗面所からタオルを持ってきた。
そしてギターケースから唯の愛用のレスポールを取りだした。

憂「あれ?そんなに濡れてないよ?」

唯が体で守って走ってきたおかげか、レスポールはあまり濡れていなかった。
憂は、きっと唯が体を張ってギターを守ったんだなと思い少し苦笑した。

すこし湿っていた部分をタオルで拭き取り、レスポールを唯の部屋に立て掛けてて置いてきた。
ギターケースを乾かそうと、リビングに戻ると

憂「あれ夕陽が………。雨……止んでる……」

雨はもう降っていなかった。ちょうど唯が帰ってくるときに、たまたま雨雲が桜が丘を通過した
ただの夕立だった。

憂「あっ……綺麗な虹だぁ…」


ガチャ―。

唯「ふふふふふふふ、ふふふふーふふふふふ♪」

憂「お姉ちゃん、ギー太拭いて部屋に置いておいたよー」

唯「ありがとうい~」

憂「ご飯7時だから」

唯「うん。わかった~!明日文化祭だから練習してくるね~」

憂「うん、頑張ってね~」

唯は階段を上り3階の自分の部屋に向かった。

唯「ギー太!…濡れてなかった?憂にお礼言わなきゃだね~」

レスポールを抱き上げ、ベッドの上に座ると、早速明日演奏予定の「ふわふわ時間」を弾き始めた。
このふわふわ時間、唯は1年の頃から弾いている曲、軽音部に入って初めて作った曲ということもあってか、一番得意な曲だった。
しかし、家にギターアンプがなかったため、さほど綺麗な音は出なかった。

唯「寝ちゃお寝ちゃおー(そー寝ちゃおー)あーあーかーみさーま」

曲がちょうど最後のサビに入ったところで2階から憂の声が聞こえた。

憂「お姉ちゃーん、電話鳴ってるよー!鞄持っていかなかったのー?」

唯「あっ!忘れてた!」

唯はレスポールをベッドの上に置いて部屋を出た―。


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最終更新:2010年09月04日 23:46