時計を見ると、もう12時。
そろそろ寝ようかな、と部屋に戻ると、ベッドがこんもりと膨らんでいました。
ベッドに腰掛け、声をかけました。
憂「ふふ、お姉ちゃん、今日も?」
もぞもぞと布団から顔を出して、寝ぼけ眼のお姉ちゃんがこちらを向きます。
唯「ん、うい~?うん、今日も一緒に寝よー……」
もう眠りかけていたのか、目をごしごし擦るお姉ちゃんがかわいかったけど、少し申し訳ない気持ちになってしまいます。
憂「ごめんね、寝よっか」
唯「ん~……ありがと」
わたしも布団に入り、目を瞑ったけれど、視線を感じて横に向き直りました。
唯「……寝ないの?」
憂「見られてたら寝づらいよ」
唯「だめ、寝なさい」
お姉ちゃんはわたしが寝るまで見守っていてくれるつもりのようです。
落ち着くけれど、落ち着かないなあ。
唯「わたしがちゃんと見てるからね!」
さっきまで寝てたのに。
でも断るのも躊躇われ、仕方なくまた目を閉じました。
唯「ふふ~」
憂「……」
唯「寝たかな?」
しきりにほっぺやら鼻やらをつついてくるお姉ちゃん。
さすがにこれは眠れません。
憂「お姉ちゃん……」
唯「わっ起きてた!」
憂「そんな早く眠れないよ。それにそんなにつつかれたらもっと眠れないよ」
唯「え~」
何かを考え込むお姉ちゃん。
いい予感はしません。
唯「そうだ!」
憂「な、なに?」
唯「子守唄歌ってあげる!」
案の定でした。
それはもちろんお姉ちゃんの歌声は聞いていたいけれど、逆に眠れなくなっちゃうよ。
いつまでも聞いていたいから。
唯「じゃいくよ~」
憂「えっほんとに?」
唯「うん、あー、あー……きみをみてると~」
ほんとに始めちゃった。
お姉ちゃんのかわいらしい声が、部屋に響く。
それはとってもわたしを安心させるけど、眠りにさそうには向いてないよ。
唯「いーつもがんばーる~」
憂「お姉ちゃん……」
唯「あっまだ寝てなかったの?ほら目閉じて」
言われるがままに目を閉じて、しばらくお姉ちゃんの歌に耳を傾けます。
綺麗な声。
ずっと聞いていたかったけれど、歌い終わるとお姉ちゃんはそこでやめてしまいました。
でも、また歌ってもらうのも気がひけるので、ここは寝たふり。
唯「うい?寝たかな?」
さっきとは打って変わってささやくようなお姉ちゃんの声。
寝てるよ~なんて言いたかったけれど、無下にしたくなかったので、静かに黙っていました。
頬に何かが触りました。
くすぐったいけど、あったかい。お姉ちゃんの優しい手。
唯「うい……」
起きてるのには気づいていないみたい。
でも、その感触が心地良くて、まだ眠ったふり。
「……」
部屋も静かで、お姉ちゃんの息だけが聞こえます。
あれ?なんだか近づいているような……
頬に、やわらかい感触。
やわらかくて、幸せな気持ちになったけれど、でもわたしの顔は真っ赤になってしまったかな。
お姉ちゃんの唇の感触。
わたしの顔は、暗闇が隠してくれるよね。
唯「えへへ、ちゅーしちゃった」
でもこのまま我慢なんてできなくて、わざとらしく目を開けました。
憂「ん……お姉ちゃん?」
唯「はえっ?」
憂「今、なにかした?」
唯「しっしてないよお!ね、寝るよ!」
隠さなくたっていいのに。
唯「ほら、はやく寝ないとお肌に悪いよ」
憂「お姉ちゃんもね」
でも、お姉ちゃんの言うことを聞いておくことにします。
「……」
また響く、部屋の静けさ。
でも、お姉ちゃんの顔がみたくて、また目を開けました。
唯「あ……」
同時に目を開いたのかな、お姉ちゃんと目が合いました。
憂「えへへ」
唯「……ね、憂」
静かで少し沈んだお姉ちゃんの声。
なんだろう。ちゃんと聞かなきゃ。
唯「ういは、その……」
憂「ん?」
お姉ちゃんの顔はさっきより翳って見えにくい。
唯「す、好きな人とか……いるの?」
憂「わたし?」
唯「う、うん」
なんでそんなこと聞くのかな。
好きな人……好きな人か。
憂「お姉ちゃんは?」
唯「……憂が言ったら、答える」
なんだかするいよお姉ちゃん。
でも、そのお姉ちゃんはとてもよわよわしく見えたので、断るわけににもいきません。
憂「好きな人……誰だろうね」
唯「……いない、の?」
憂「えへへ、お姉ちゃん、かも」
言っちゃった。
ちょっぴり冗談めいていってみたけど、お姉ちゃんの反応にちょっと期待します。
唯「ほんと?」
憂「お姉ちゃんが教えてくれたらね」
唯「わ、わたしは……」
なぜだか胸が高鳴ります。
だめだよわたし。変な期待しちゃ。
唯「う、憂が……すっ好き」
憂「ほんと?」
夢じゃないのかな?
唯「うん」
夢じゃないよね、こんなにお姉ちゃんの息遣いが聞こえるんだもん。
唯「憂は?」
わたしだって、同じだよ。
憂「お姉ちゃんのこと、好きだよ」
なんだか目の前がぱっと明るくなった気がして、そしたら手を握られました。
唯「ほんとにほんと?」
憂「うん」
唯「よかったぁ」
そういうお姉ちゃんの顔はとびきりの笑顔で、わたしもつられて笑います。
唯「じゃあ、これからも一緒に寝ようね」
憂「うん」
唯「もっと抱きつくからね」
憂「うん」
唯「もっと、一緒にいるからね」
憂「うん」
唯「……じゃあ、寝よっか」
あれ?まだ聞くことがあるでしょお姉ちゃん。
憂「ほっぺにちゅーは言わないの?」
唯「えっ」
唯「お、起きてたの……?」
なんのことかな、と言わんばかりに知らん顔。
憂「んー?」
唯「……憂のばか」
そう言っていじけるお姉ちゃんが、かわいくてたまりません。
今度はわたしから手を握ります。
憂「ごめんね、嬉しかったんだよ」
唯「そ、そう……」
憂「だから、今度はわたし……」
恥ずかしそうにするお姉ちゃんのほっぺ。
とってもとってもやわらかいんだ。
ましゅまろみたいなその肌に、
今度はわたしがキスをした。
おわり。
最終更新:2010年09月07日 21:06