唯「それが諦めっていうの!」
梓「ふふ、そう、ですね。諦めているのかもしれません」
唯「そうだよ、もう一度元気になって、学校にいこ? 文化祭でライブしようよ」
梓「だから私は願うんです、ライブが成功することを」
唯「あずにゃんがいないと、ライブだってままならないよ」
梓「身体が動かなくなっても、お願いすることくらいならできます」
唯「あず、にゃん?」
梓「私は夢見てますよ、軽音部のライブを、中学生の時に聴いた、憧れのライブのように」
唯「夢見てるのに、聴いてるの?」
梓「はい、私は夢の中で放課後ティータイムの演奏を聴くんです」
唯「実際に聴こうよ、元気になってさ!」
梓「元気でいられれば、テープか何かで聴けるかもしれませんね」
唯「もう、ほ、本当にダメなの?」
梓「ダメです」
唯「お、で、でも、ほら、医療が進歩してるっていうし!」
梓「宝くじの一等賞が当たるくらいの確率で助かるかもしれませんね」
唯「あ、当たるんでしょ?」
梓「当たりません」
唯「え?」
梓「当たらないです」
梓「諦めてください、唯先輩」
唯「どうして、どうしてそんなこというの?」
梓「私はもう絶対に助かりません、文化祭の前に私は死にます」
唯「そ、んなこと……」
梓「もしかしたら、これが最後の会話になってしまうかもしれませんね」
唯「あずにゃん、どうしてそんなこというの? みんな、みんなあずにゃんが助かるって、信じてるよ?」
梓「二つお願いがあるんです唯先輩」
唯「……なに?」
梓「私が助かることを期待をしないでください」
梓「それと、本当に私が死んでしまうって時には、みんなで見送って欲しいです」
唯「それが、あずにゃんの本当のお願いなの?」
梓「……そう、ですね」
唯「嘘だよ」
梓「嘘じゃ……ないです」
唯「嘘だよ! 絶対に嘘! 演奏したいって絶対思ってるよ!」
梓「私は皆さんの演奏を聴くだけで十分です……できることならですけど」
唯「そんなことない! あずにゃんは私たちの中に入って演奏したいって思ってる!」
梓「それはもう、無理なんです」
唯「無理じゃない、宝くじだって毎年当たってるよ!」
梓「どこかの誰かがですね、私たちじゃないです」
唯「当たる! 絶対に当たるから!」
梓「はい、分かりました、そういわないと唯先輩、認めてくれそうもないですもんね」
唯「分かってくれれば良いんだよ」
梓「……」
唯「あ、それとね」
梓「はい?」
唯「実はちょっと告白しなきゃいけないことがあってね」
唯「実はねー、私あずにゃんの事苦手だったんだー」
梓「あ、やっぱりそうだったんですね」
唯「二言目には練習練習って、あずにゃんは練習村の住人かって話だよ」
梓「はい、厳しかったですよね、反省してます」
唯「でもね」
梓「?」
唯「楽しかった」
梓「え?」
唯「あずにゃんが練習の時にいなくなっちゃったよね、その時ね、私は寂しかった」
梓「寂しく思ってくれたんですか? 清々しませんでした?」
唯「練習練習っていうあずにゃんがいて、澪ちゃんがいて、私とりっちゃんが反応して、ムギちゃんが微笑んでて」
梓「……」
唯「苦手なんかじゃなかった、大好きだったんだよ、みんながいる日常が」
梓「でも、私はもういなくなります」
唯「あずにゃんがいなくなったら、私の大好きな日々が壊れちゃうよ、あずにゃん、お願いだよ、元気に、なって欲しいんだよ」
梓「日常は、永遠じゃないです、いつまでも同じ日々が続くワケじゃないんです」
唯「でも、でも、高校生活は!」
梓「私が仮に病気にならなくても、きっと唯先輩は受験勉強で部活には来られなかったと思いますよ」
唯「楽しい毎日が……続いてたと思うよ」
梓「私がいなくても、きっと楽しいですよ」
唯「楽しくなんかないよ」
梓「いいえ、楽しくなってくれなきゃ困ります」
唯「……」
梓「私の大好きな人たちが、私がいなくなるだけで不幸せになっては困ります」
唯「不幸せになるよ、だってみんなあずにゃんの事が好きなんだよ?」
梓「唯先輩、唯先輩たちはこれからも生きるんです、幸せになるために生きるんです」
唯「幸せに?」
梓「確かに一時は悲しいかもしれませんけど、私は信じてます」
唯「無理だよ」
梓「信じてますから」
?月?日
唯「あずにゃん、みんな来たよ」
澪「梓、約束だもんな」
紬「梓ちゃん」
律「……あー、何言って良いのかわかんね」
憂「律さん、私もですよ」
純「梓……どうしてもっと早く言ってくれなかったの、昨日憂から電話もらってしこたまびっくりしたんだよ?」
唯「みんなで、見送るってことだったけど、違うよ」
澪「ああ、梓は絶対に助かる、私は信じてる」
紬「ね、梓ちゃん分かる? たくさんの人が来てるよ、みんな梓ちゃんが大好きなの」
律「この頼りない部長ととある部員のおしりをひっぱたくために目を開けてくれよ、な、梓」
憂「梓ちゃん、私たちお友達だよね、まだお友達らしいこと全然してないよ、ね」
純「梓、休んでておかしいなって思ってて、昨日病気のことを聞いて、今日の昼危篤とか私の気持ち分かる? ねえ、梓ってば!」
唯「ねえ、みんな大きな声出してるよ、うるさいよね、うるさいですって、言って欲しいな」
澪「信じられるか梓、唯がノーミスで演奏したんだぞ、ちゃんと録音だってしてあるんだぞ」
紬「でもね、梓ちゃんがいないと、やっぱりダメみたいなの」
律「そうだぞ、なんていうかなー、しまりがないっていうか、うん……」
憂「梓ちゃん、お願い、目を開けて、もう一度私の名前を呼んで!」
純「梓、私の名前覚えてる? 友達だったって思ってた? 私は梓のこと友達だって思ってたよ?」
唯「あずにゃん! ねえ! あずにゃんってば!」
?月?日
憂「おねーちゃーん、早く行かないとー」
唯「卒業式だから遅刻するわけにはいかないよね!」
憂「そうそう、梓ちゃんに怒られちゃうよ」
唯「うん、怒られちゃうね」
憂「私も後で行くから」
唯「遅刻しちゃダメだよ」
憂「お姉ちゃんこそ」
澪「唯ー!」
律「卒業式まで遅刻ぎりぎりってどういうことだよ」
唯「準備に手間取っちゃってさー」
律「どうせ準備したのは憂ちゃんなんだろ」
唯「すごい、どうして気づいたの?」
澪「これだよ、唯は全然変わらないな」
唯「えへへー」
紬「振り袖、よく似合ってるわ」
唯「そう? 一生懸命選んだからねー」
澪「それじゃあ、式に行くか」
卒業式終了後
部室
唯「この部室ともお別れなんだねー」
律「ああ、軽音部も今年でおしまいかー」
澪「来学年に誰かが復活させたりしてな」
紬「そうね、そうなるといいわね」
唯「でも、私たちみたいにはならないと思うね!」
律「私たちみたいなのが他にいてたまるか!」
澪「そうだな、私たちってどちらかというとオンリーワンだからな」
紬「ティーセットもなくなって、音楽室ってこんなに広かったのね」
澪「まあ、音楽室にティーセットがあるのは変だったけどな」
唯「はっ、今日はもしかしてお菓子は食べられない!?」
澪「食べるつもりで来たのか!」
律「実は私も、ムギが、ムギなら何とかしてくれると」
澪「そんなわけ」
紬「あるわよ♪」
和「……何してるの?」
唯「え、あ」
律「和も食べる?」
和「教室にはいないからどうしたのかと思ったら、あなたたちいつもとやってること変わらないじゃない」
唯「これから変わるんだから、今日まではそのままで良いんだよ」
澪「ん、これが最後、和、大目に見てくれないか?」
和「まあ、酒盛りしてるワケじゃないしね、でも、あまり騒ぎすぎないように」
紬「だいじょうぶだいじょうぶ」
和「……すごく心配ね……」
律「和もいればいいじゃん」
和「あいにく私は新しい生徒会のみんなに呼ばれてるの」
律「裏切り者め!」
和「唯も、憂が探してたわよ」
唯「はっ! すっかり忘れてた!」
憂「お姉ちゃーん」
唯「はあ、ごめんね憂」
憂「大丈夫だよ、それじゃあいこっか」
唯「うん、ちゃんと卒業したっていわないと」
憂「大学の合格の時以来?」
唯「うん、あんまり行かないようにしてるんだよね」
憂「そうなんだ」
唯「憂は行ってるの?」
憂「純ちゃんが毎日行ってるから、私も一週間に一度くらいかな」
唯「純ちゃんは本当に友達想いだねえ」
憂「裏切られたーっていつも言ってる」
唯「きっと純ちゃんが大事だったんだよ」
憂「……そ、うだね」
唯「それじゃあ、あずにゃんに会いに行こう、それで言うの、ちゃんと日常からも卒業したって、寂しくないよってね」
おしまい
本当はもっと長い話になる予定でしたが、保守してもらうのもあれだしなと思っていくらかカットしてあります。
梓と唯はもっと険悪な仲で梓が死んじゃうことになるのを聞いて後悔したりとか、
本当に最後の最後まで唯は食中毒だと思ってたりとか、
文化祭で演奏するシーンとか、
澪と律が梓の病気を知るタイミングが別々だとか、
別にあってもなくても変わらないよね、と思います。
支援とレス等々ありがとうございます。
次回はもっと短い、コメディ系のエロイ話にしたいです。
愛のあるセックスみたいな話が良いです。
最終更新:2010年09月08日 21:21