授業中にて
紬「…………」カリカリ
紬(……うーん、実際のところ、私ってあんまり購買にくわしくないし……)
紬(りっちゃんもあんまり購買には行かないし……)
紬(唯ちゃんも澪ちゃんも購買に行くところはあまり見たことない……)
紬(私は最近、いちごちゃんと行っただけ)
紬(ゴールデンチョコパンは限定品だからそんなに数もないし……)
紬(難しいわね……)
いちご「…………」カリカリ、カリカリ
いちご(……?)チラッ
いちご(上の空って感じ……琴吹さん)
いちご(そんなに真剣に考えなくてもいいのに……)
いちご(なんだか子供みたい……)
いちご(まあ、私のせいか)
いちご(でも、やっぱり変なの)
紬(なにかいい方法はないかしら?)
紬(たとえば……煙幕! とか?)
紬(ううん、お腹痛いですって言って早めに教室を出るとか?)
紬(……さすがにこれはいちごちゃんに迷惑よね……)
紬(……うーん、あ……そうだ!)
いちご(急に笑い出した……変だ。絶対変だ)
いちご(……と、よそ見して注意されるのも面倒だし、板書しなきゃ)
いちご「…………」カリカリ
律「いちご」ボソボソ
いちご「…………なに?」
律「ムギから伝言」ボソボソ
いちご「……ありがと」
律「どういたもーして」ボソボソ
いちご(……紙切れ?なんだろ?)
いちご(……『授業が終わったらすぐに購買に行きましょ。紬より』)
いちご(……それだけ……?)
いちご(返事はしたほうがいいのかな?)チラッ
紬「……」ウインクあんど親指グッド!
いちご(…………しなくていいや)
キーンコーンカーンコーン
いちご「終わっ……」
紬「いちごちゃん、いちごちゃん、早く早くっ!」ソワソワ
いちご「……わかった。ところでどうするの?」
紬「私にいい考えがあるの。大丈夫、安心して沢庵に乗ったつもりでいて!」
いちご「……あっそ」
紬「ふふーふーふーふふ♪」
いちご「楽しそうね」
紬「うん、ワクワクしてる」
いちご「……変なの」
紬「うん、私は変なの」
いちご「…………」
購買前にて
「おばさん、私クロワッサンで」
「じゃあ私はチョココロネ」
「コッペパンを要求する!」
「メロンパン!」
いちご「すごい人」
紬「少し遅かったみたい」
いちご「この調子じゃゴールデンチョコパンは無理……」
紬「いいえ、問題ないわ。私にまかせて。いちごちゃんは普通にパンを買えばいいわ」
いちご「……どうやって?」
紬「こうやって」
いちご「え……?」
三年二組にて
唯「急にムギちゃんといちごちゃん出てちゃったね」
律「ホント、蒼い弾丸みたいだったな」
澪「なんだそれ?」
律「気にしなくていい」
和「にしてもあの二人ってあんなに仲良しだったなんて知らなかったわ」
律「最近みたいだけどな。仲良くなったのは」
澪「そういえば律、さっきムギになにか貸してたよな? なんだったんだ?」
律「秘密のアイテムってことで秘密。まあ時期にわかる」
購買前にて
ぷーぷーぷーぷーぷーぷぷーぷぷーぷーぷーぷーぷーぷーぷぷーぷぷー
「え?」
「これ古畑のテーマ曲じゃん」
「え? なになに? なにこれ?」
「今泉くん、あれは私の曲じゃないかい?」
「まさかこんなとこで聞くことになるとは……」
紬「どうもこんにちはー!
琴吹紬です! 今からハーモニカでもう一曲演奏しまーす!」
「これ、軽音部の曲じゃない?」
「あ、ホントだ!」
いちご「ゴールデンチョコパンください」
「はい、毎度ありー!運がよかったね。残り一個だったんだよ、そのパン」
いちご「そうですか」
紬「やったねいちごちゃん!ゴールデンチョコパンゲットよ!」
いちご「……」
紬「いちごちゃん?」
いちご「……呆れた」
紬「え? なにかおかしかったかな?」
いちご「だいぶ。まさかあんなところでハーモニカで演奏しだすなんて思わなかった」
紬「りっちゃんに借りてきたの」
いちご「……そう」
紬「それよりせっかくだしゴールデンチョコパン食べて」
いちご「……」
紬「食べないの?」
いちご「……食べる」
いちご「……はい、これ」
紬「私に半分くれるの?」
いちご「お礼。……ハーモニカ演奏のおかげでこのパン食べれるわけだし」
紬「……ふふ、ありがとう」
いちご「べつに。今はダイエット中だからついでにってこと」
紬「じゃあ半分もらうね」
いちご「うん……いただきます」
紬「いただきます」
いちご「…………おいしい」
紬「うん、おいしいね」
いちご「……食べれてよかった」
紬「うん、私もそう思う」
紬「ごちそうさまでした」
いちご「……ごちそうさま」
紬「また食べたいね」
いちご「うん」
紬「じゃあ、教室に戻ろっか」
いちご「………………」
いちご「ねえ」
紬「なあに?」
いちご「今度どこかに行かない?」
紬「…………?」
いちご(え……私なにを言ってるんだろう)
いちご(脈絡がなさすぎる)
いちご(……というかなんでこんなことを口走った?)
紬「…………?」
いちご「…………」
いちご(なにも言ってくれない……)
紬「ええ!」パシッ
いちご「……!」
いちご(わざわざ私の手をとった……)
紬「ぜひ行きましょ!」
いちご「……うん」
紬「また購買へ!」
いちご「…………」
紬「どうしたの? いちごちゃん」
いちご「なにも」
紬「じゃあ今度こそ教室に戻りましょ」
いちご「うん」
いちご(自分で予想外のことを言ったら予想外の答えが帰ってきた)
いちご(……でも、機嫌よさそう。私も……彼女も)
紬「次はなんのパンを食べる?」
いちご「……なんでもいい」
いちご(変な人の側にいると自分も変になるのかも……)
放課後の教室にて
いちご(たとえばの話。
私は実は密かにとある女の子と友達になりたいと思っていたとする。
べつにそれは変なことじゃない、と思う。
でも実際どうなんだろう。私は愛想が悪い。この前も誰かに指摘された。
この前はまるで気にならなかった。
どうでもよかった。うん、どうでもよかった。
じゃあなんで私はそんなことを今さら気にしてるんだろ?
気になっている彼女が私と真逆だから?
……ありえなくもない。いや、そもそもなんでこんなに私は深く考えてる?
よくわからない。そう、よくわからない。
こういう気持ちははじめてだから…………)
律「お、いちごじゃん」
いちご「……律」
律「まだ部活行ってなかったんだ」
いちご「……まあね」
律「ムギから聞いたよ。ゴールデンチョコパン食ったんだって?」
いちご「うん」
律「いいなあ。私も食べたかったなあって。今度は私にも食べさせてくれよ」
いちご「琴吹さんに頼めば?」
律「ムギにはいつもお世話になってるからなあ」
いちご「仲良いんだ」
律「まあ、私ら軽音部は仲良しだからな」
いちご「じゃあ……琴吹さんのこともよく知ってるんだ」
律「うん。ムギと遊びに行って駄菓子屋について色々教えてあげたこともあるぜ」
いちご「…………」
いちご(うらやましい…………となぜか思った)
律「と、ノート取りにきたんだった。いけね」
いちご「ねえ、律」
律「ん?まだなんかあるの?」
いちご「琴吹さんってどんな人?」
律「どんな人……どんな人って……ムギかあ」
いちご「なんでもいいから聞かせて」
律「ムギは優しくていいやつだよ。ちょっと、ていうかだいぶ天然入ってるけど」
いちご「それだけ?」
律「いや、それ以外にも色々あるけどさ。結局、そういうのってズレがあるじゃん」
いちご「ズレ?」
律「いちごから見たムギと私から見たムギはきっと違うと思う……みたいな?」
律「だからいちご自身の目で判断すれば?ムギと仲良くなりたいんだろ?」
いちご「……」
律「あ、いや、あんまり深く考えないで。思ったことを言っただけだから」
いちご「…………ううん」
律「え?」
いちご「ありがと、律」
律「え……ああ、いや、まあ気にしないで」
律(不覚にもかわいいと思ってしまった……)
いちご「……私自身、か。律」
律「う、うん?」
いちご「一つおねがいがある。頼んでいい?」
律「合点!」
いちご「じゃあ……」
部活終了後、教室にて
いちご「……結局、部活をサボってしまった」
いちご「まあたまにはいっか」
いちご「…………」
いちご(ていうかなにしてるんだろ、私)
いちご(わざわざ教室に残ってまで)
いちご(……足音が近づいてくる)
紬『いちごちゃん、いる?』コンコン
いちご「いる」
がらがら
ひゅー、すとん
紬「……あ、いたっ」
いちご「黒板消しのいたずら成功」
紬「え?」
いちご「黒板消しのいたずら」
紬「?」
いちご「今朝やられたぶんの仕返し」
紬「え?」
いちご「やっぱりパンだけじゃ許せなかったから」
紬「はぁ……」
いちご「でも。これで満足」
紬「そうなの……?」
いちご「おあいこだから」
紬「……そう?」
いちご「でも、今この瞬間にまた気が変わった」
紬「?」
いちご「お詫びをさせて」
紬「え?べつに……」
いちご「させて」
紬「うん、じゃあお詫びしてもらっていい?」
いちご「うん」
いちご「だから今度、一緒に遊びに行こう」
紬「遊びに?」
いちご「うん。今度は私がおいしいパン屋を教えてあげる」
紬「本当!?」
いちご「うん……だから」
紬「うん」
いちご「琴吹さん……ううん」
いちご「ムギちゃん、遊んでくれる?」
紬「……はい! よろこんで!」
遊びに行く日、当日
いちご「……まだかな」
紬「いちごちゃーん」
いちご「あ、来た」
紬「お待たせ……ふわあ」
いちご「眠いの?」
紬「昨日から楽しみで眠れなかったの。さあさあ、早く行きましょ」
いちご「よかった」
紬「え?」
いちご「……ムギちゃんが楽しみにしてくれてよかった」
紬「ふふ、当たり前。だっていちごちゃんが誘ってくれたんだもの」
いちご「……そう。じゃあ行こっか」
紬「うん」
パン屋にて
紬「うわあ、すごーい。パンがいっぱーい」
いちご「パン屋ははじめてなの?」
紬「ううん、はじめてじゃないけど、ここのパン屋に来るのははじめてなの」
いちご「そう……私のオススメはこれ」
紬「うわあ、すごくおいしそう!」
いちご「これもなかなか」
紬「これは!? こっちは!? これはあれはそれは!?」
いちご「落ち着いて」
紬「もう全部買っちゃおうかしら?」
いちご「……好きにすれば?」
紬「うんそうする!」
いちご「…………」
いちご(楽しそう)
紬「ふふ、いっぱい買っちゃった」
いちご「買い過ぎ……」
紬「だから一緒に食べよ」
いちご「二人で食べるにしても多い」
紬「気にしない、気にしない♪」
いちご「……まあ、いっか」
紬「それじゃあ、あそこで食べましょ」
いちご「……うん」
いちご(結局、気づいたらパン屋以外にも色々なところに行ってたな)
いちご(楽しかったからいいけど)
紬「いちごちゃん」
いちご「なに?」
紬「また行こうね」
いちご「……うん」
いちご(いつか、また)
その日の夜
ラララーキミトテヲツナイデ-ラララーアケスケニダイブ
いちご「ムギちゃんからだ」
いちご「メール……」
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From:ムギちゃん
件名:今日はありがとう
本文:夜分に失礼します。本当に今日は楽しかったです
また一緒に遊びに行こうね。今度は絶対に違うとこに行こうね
―――――――――――――――
いちご「……私も楽しかった、送信、と」
いちご「また一緒に遊びに行きたい……な」
いちごにメールが送られる三分前
紬「……」
紬「やっぱり、食べすぎたのか太ってる……」
紬「……」
紬「いちごちゃんには今度行くときは違う場所にしてもらおう」
紬「絶対に違うとこに行こうね……送信、と」
紬「……はあ」
紬「まあ、楽しかったからいい、かな?」
おわり
最終更新:2010年09月10日 00:54