澪「律!私、律とキ、キスがしたい!」
律「へ?」
余りに唐突な澪の言葉に、一瞬わけが分からなくなった。
家に帰って、うちに澪が来てチョコレートを渡す、っていつものパターンじゃないのか?
澪「ダメ?」
上目遣いが可愛くて、次の言葉が出てこなくなった。
いいよ、たった一言でいいのに。
律「えっと、あのさ……」
澪「や、やっぱりなんでもない。ごめん!!帰る!!」
律「あ、ちょ……澪!」
しまった。
き、嫌われた。絶対嫌われた!
バカか私は。いきなり何の脈絡もなくキスがしたいなんて。
だいたい律は別に女の子のことが好きなわけじゃない。
ずっと一緒にいるからって付け上がって……。
なんで成功するって前提でチョコレートなんか作ったんだろう。
謝りにいこう。
親友としての律まで失うのはイヤだ。
律「澪?」
澪「……」
律「ったく。家に行ってチャイム鳴らしても誰も出ないし、ケータイは繋がらないし、どうしたのかと思ったぜ」
澪「り、律!さっき言ったことは忘れてくれ!」
律「無理だよ」
や、やっぱり嫌われてる……。
律「なぁ、澪」
澪「……」
律「キスしたい、ってことはさ。もしかして、恋人になりたいってこと?」
澪「……そ、そうだよ!キスしたり、手つないで買い物行ったり、え、えっちなこともしたいの!」
言っちゃった。全部言っちゃった。
おわた。人生おわたよ。なかったことにするつもりだったのに。
あとで2chで相談しよう。
『バレンタインに同性にフラれたけど、質問ある?』とかってな。ふふふ。
叩かれるかな。いや、vipは意外と暖かい。そう信じよう。
律「無理だよ、忘れるなんて。あんな可愛い澪。私だって、ずっと澪とキスしたかったのに」
澪「…………。……はっ?」
律「ぷ、ふふっ。あははっ。あー面白い」
澪「おいなんだよ、律。からかってるのか」
律「ごめんごめん。あんな唐突にキスしたいなんて真顔で言われたら、誰だって一瞬言葉失うって」
澪「ご、ごめん。えっ……」
気づくと律の顔がすぐ目の前にあって……
唇を奪われました。
律「これでいいか?」
澪「り、りりり。りつ……いま、き、ききキス……」
律「なんだよ、キスしたかったんだろ?」
澪「うぅ」プシュー
律「両思いになった記念に、私からチョコレートのプレゼントだ」
律がバレンタインにチョコレート。
初めてだ……嬉しい。
澪「え、あ、ありがと。あの、これ私からチョコ……」
律「ふーん。私さぁ、ずっと澪のこと好きだったんだぞ」
澪「私の方が好きだった!!!」
律「だからさ。チョコレートより……澪を食べちゃいたいなーって」ガバッ
澪「ちょっ、おい律!」
律に押し倒された。少し硬いカーペットの感触が背中に冷たい。
拒絶の言葉を発しようとした口が、律の唇で乱暴に塞がれる。
澪「りっ……ん、あっ……」
律「続きもしたい。いいだろ?」
澪「……律になら。いいよ。」
澪「……っ。あっ……」
律の手がブラウスの袖にかけられたその時。
ピンポーン
あ、誰か来た。
律「あ、やっべー。今日宅配便届くんだった!悪い、ちょっと出てくる。続きは後でな!」
生殺しだよ。
りつぅ……
こんばんは!平沢憂です!
今日はとってもハッピーです。
まだ報告ないけど、お姉ちゃんと梓ちゃんがうまく行かないはずはないし。
紬さんの話を聞いてみたら、いろんなカップルが成立してて、みんな幸せなんだって。
憂「みんなが幸せなのって、いいよね~」
憂「登場人物がみんな幸せになるっていう、著者のけいおん愛が感じられるよね」
憂「私はお姉ちゃんと梓ちゃんがくっついて幸せだし、紬さんもテカテカしてたし」
憂「テカテカしすぎて、光が乱反射してたんだよ」
憂「明日から梓ちゃんとお姉ちゃんの、かわい~い生態を観察する日々が――」
純「憂……」
憂「どうしたの、純ちゃん?」
純「一人だけ、まだ幸せになってない人がいるの、気づいてた?」
憂「え……あっ!忘れてた!!」
純「ずっと隣にいたっつーの」
憂「あわわ……純ちゃん!好きな人、いないの?恋人にしたい子」
純「いるよ」
憂「そっか。どんな子?」
純「料理がうまくて、家庭的で、誰にでも優しい子」
憂「じゃあ早くその子にチョコ渡しに――」
純「はい」
憂「え?」
純ちゃんに黄緑の紙袋を渡されました。
純「好きな人を振り向かせるために、特別なチョコレートを作るんでしょ」
憂「これって……」
純「特別なチョコレート、だよ」
『ほんとに大事なものは、意外と近くにあるのよ』
『ほんとは気づいてるんじゃないの?』
そっか。
私、純ちゃんのこと……
こんばんは、平沢唯です!
恋人記念日!ってことで、あずにゃんと駅前にお出かけです。
唯「あ、純ちゃんと憂だ~」
梓「こんばんは、二人でおでかけ?」
純「そっちこそ。ラブラブで羨ましい限りですねぇ」
唯「えへへー。あ、報告するね。私たち、今日から恋人になりました!」
梓「よ、よろしくお願いします」
純「梓、照れてるー。可愛いなぁ」
憂はなんだか元気がなさそう。
どうしたのかなぁ。
唯「あ、もしかして……二人は付き合うことになった、とか?」
純「そんなことないですよ。私が――」
憂「そうなの!」
純「へ?」
憂「純ちゃんと付き合うことになったの!だから……よろしくね!」
そっかぁ。
憂も大人になったんだね。うんうん。
お姉ちゃんは嬉しいような悲しいような複雑な気分だよ。
唯「じゃあ、これからうちでお鍋パーティしようよ!」
梓「いいですね!純と憂は、このあと大丈夫?」
憂「うん。材料買いに行かなきゃね」
純「なんだかよく分かんないけど、まいっか」
憂「純ちゃん。ちゅーしよっか?」
純「へ!?」
ちゅ。
唯「あらあら。妬けますなぁ」
憂「えへへ。みんな幸せ、だよ!」
chocolate days // substories – fin -
最終更新:2010年09月16日 23:21