野中「……という漫画を描いたんだけどどうかな?」

編集「……いや、ダメに決まってるじゃないですか」

野中「どうして?」

編集「どうしても何も、他誌のキャラクター出ちゃってるじゃないですか」

野中「名前だけだよ、俺描いてないし」

編集「いや、八頭身のけいおんキャラなんて見たくないですよ」

野中「いや、だから俺描かないってば」

編集「いや、だからそういう問題じゃなくてですね……」

野中「……」

野中「じゃあよ、一体どうすればこれは本誌に載るんだよ」

編集「とりあえず、けいおんキャラの名前がある時点でダメですよ。許可って言っても、他誌ですからやはり……」

野中「……」

野中「け○おん、とか」

編集「いや、○使ってる時点で本物名指ししている状態ですから……」

野中「……」

野中「漫画ってめんどくせーな」

編集「けいおんキャラにこだわらなければ大丈夫ですってば」

野中「いや、だから八頭身のけいおんキャラなんて描かないよ」

編集「ああっ、もうっ!」


話進まねえ。





藤本「……」

生徒「でよお、澪ちゃんが最高なんだって!」

生徒「いやあ、そこはやっぱり律だろー」

藤本(いつの間にかうちのクラスでもけいおんがブームになってしまっている。それもこれもアイツが漫画なんぞを買って広めるから……)

アイツ「いや、唯に決まってるだろ! 憂も最高だし、マジ半端ねえよ!」

生徒「いやあ、お前がけいおん薦めてくれたお陰だよ」

アイツ「はははっ、俺敏感には流行なんだよ」

藤本(くっ……なにが敏感だ。もうアニメは二期までやっているのに、つい最近けいおんを知ったばかりじゃねえか!)ピリピリ

生徒「なあ、藤本もけいおん読んでみろよ」

藤本「……!」

ドガッ!

生徒「い、いてえ!」

アイツ「バカだな、藤本はけいおんが嫌いなんだよ。それに、藤本がけいおん読むわけないだろ~」

藤本(違う……俺はけいおんが嫌いじゃない。むしろ大好きなくらいだ)

藤本(既に、アニメ一期は保存用と鑑賞用で購入済み。最近漫画でハマった貴様らとはワケが違うんだ)

アイツ「ほら、こっちで唯の素晴らしさについて語ろうぜ!」

生徒「おっ、けいおん談義か、いいねー」

藤本(……出来る事なら、俺も交ざりたい、が)

アイツ「だから唯ちゃんがよ~」

生徒「あずにゃん最高に決まってんだろ!」

藤本(……今さらキャラについてこいつらと語り合う気にはなれん)

藤本(だが、こいつらをニワカと笑ってはいけない。あいつらにはあいつらの楽しみ方がある)

藤本(俺は俺で、一人けいおんの魅力を噛み締めるだけだ)

藤本(しかし、アニメで見るとやはりまた違った魅力があるものだ。最近は楽器を購入する事を考えているくらいだ)

生徒「はははっ」

アイツ「……なあ、ちょっと相談があるんだけどよ」

生徒「ん、どうしたよ?」

アイツ「せっかくけいおんにハマったんだからよ、俺たちもバンド組まねえか?」

藤本「……!」

生徒「お、いいねえ!」

生徒「じゃあ俺、あずにゃんのマスタングやるぜ!」

アイツ「じゃあ俺レスポールゥ!」

藤本(……バカ野郎、マスタングじゃなくてムスタングだ。それにアイツがレスポールだと!)


藤本(俺の欲しい楽器と被っている……)

アイツ「よおし! 早速今日の放課後、楽器を見に行こうぜ!」

藤本(な、なに! もう楽器を買いに……くっ、このままでは俺が楽器を手に入れたとしても、二番煎じみたいになってしまう)

藤本(……それだけは嫌だ!)

生徒「あ、悪い。今日は俺都合が」

生徒「俺もちょっと用事があって、悪いな」

アイツ「……じゃあ、今日は俺もいいや。明後日みんなで行こうぜ!」

全員「おう!」

藤本(……チャンス)

付き人「……」



楽器屋

藤本「……というわけで楽器を見に来たわけだ」

付き人「……」

藤本「なるほど、実物を見るとやはり胸から込み上げてくる物があるな」

藤本「さて、ギターのコーナーは、と」

付き人「……」

……。

唯『唯のギターだよっ♪』

藤本「フッ、等身大ポップか、なるほど。さすがブームだけあるってもんだ」

藤本「しかし、これで探す手間が省けたというものだ。さて、気になる値段だが……」

『30万円』

藤本「うむ。けいおんに書いてあった通りだ」

付き人「……」

藤本「……よく考えたら、アイツにこれをポンと買えるだけの金があるとは考えられないな」

藤本「フッ。けいおんで言えば、どこかのお嬢様がこのギターを値引きして数万円にしてくれたりするんだろうが」

藤本「まあ、俺はそんな妄想はせずに地道に貯めた金でこいつを買う事ができる」

藤本「……まあ、本当は最新のパソコンを買うための資金だったんだが」

藤本「しかし、今日は買うつもりが無かったので持ち合わせが無い。次の休みでいいか……」

藤本「どうせアイツらもこんなに高いギターはすぐには買うまい」

藤本「よし、決めた。今日はパンフレットだけ貰って帰ろう」

付き人「……」



二日後

アイツ「よし、今日から早速練習するぜ!」

ピカピカ

藤本「な……」

藤本(あ、あれは……間違いない。楽器屋にあった、唯と同じレスポール! アイツ、買いやがったのか)

アイツ「うおお、なんか興奮するぜ! よおし、早速コードを覚えて……」

生徒「すげえイキイキしてんなあ」

生徒「ああ、周りの俺たちまで楽しくなってきたぜ!」

藤本(……)

スッ

アイツ「うっ、藤本……」

生徒「ふ、藤本が……あんな険しい顔をしてるぞ」

生徒「アイツ殺されるんじゃねえか?」

藤本(……)

ポンッ

アイツ「え……」

藤本「いいギターじゃねえか。お前をちょっと見直したぜ」

アイツ「藤本……」

藤本「30万もするギターをポンと買っちまうなんてな。お前のレスポールに対する情熱には頭も下がるぜ」

アイツ「藤本……お前、楽器が好きなのか」

藤本「……」

スッ

アイツ「ま、待てよ。それなら一緒にバンドしようぜ!」

藤本「……俺が?」

アイツ「ああ、このギターの値段を知っているくらいだ。興味あるんだろ?」

藤本「……」

アイツ「な、藤本!」

藤本「俺もレスポールを弾くぞ?」

アイツ「いいじゃねえか。とにかくみんなで集まって楽器をやればいいんだ! 被りなんて気にするなよ」

藤本「……」

藤本「わかった」

アイツ「藤本……」

ガシッ

生徒「藤本が握手か」

生徒「あいつも楽器が好きだったなんて意外だな」

藤本「じゃあ、次の日曜日に早速俺もレスポールを買ってくる」

アイツ「ああ! その前によ……これ、ちょっと弾いてみないか?」

藤本「それはお前のレスポールだろ。俺が触るわけにはいかない」

アイツ「遠慮すんなって、ほら!」グイッ

藤本「……」

藤本「これがレスポールか……なるほど、確かな重量感。素晴らしい……」

アイツ「だろ!」

藤本「……しかし、よく30万も金があったな」ギュイーン


藤本「しかし、お前30万もよく金があったな」

アイツ「……ああ、実はそのギターそんなに高くなかったんだよ」

藤本「なに?」

アイツ「いやあ、昨日みんなで楽器を見てたらよ、いかにもお嬢様、って子が俺たちに声掛けてきてよ」

藤本「……」ピクッ

アイツ「俺がレスポール見てたら、その子が店員に何か話してくれたみたいでよ。このギター5万円で買えたんだよ」

藤本「……」

アイツ「ほら、こいつのムスタングも5万円だぜ」

生徒「本当にラッキーだったよな」ギュイーン

アイツ「はははっ、じゃあ、藤本は30万のレスポールで来週から一緒に練習を……」

藤本「そんな漫画みたいな話あるわけねえだろ!!」バキッ

生徒「……いや、あったんだってば」

生徒「わざわざ30万なんて言うから」

藤本、それレスポール。



藤本宅

藤本「……と言うわけで、今俺の手元には30万円があるわけだ。これでレスポールは買える」

藤本「だが、アイツの言葉が気になる……楽器を見ていたらお嬢様が値引きしてくれた、だあ?」

付き人「……」

藤本「馬鹿馬鹿しい、そんな事本当にあるわけが……」

藤本「いや、だがアイツは確かに、お嬢様と言った。もしかしたらあの楽器屋には本当にムギちゃんみたいなお嬢様が来るのか?」

藤本「……」

藤本「よし」

店員「あ、いらっしゃ……」

藤本「おい店員。ちょっと聞くが」

店員「はい?」

藤本「先日、この店でレスポールとムスタングを買った学生がいただろう」

店員「……あ、はい。お知り合いですか?」

藤本「いや、そいつらはどうでもいい。そいつらに楽器を値引きしてくれたお嬢様について聞きたい」

店員「?」

藤本「唯と同じレスポールを値引きしたん人間がいるんだろう?」

店員「い、いえ……あの、そのレスポールならまだ売れてませんよ?」

藤本「なにい?」

店員「あの学生さんが買ったのは確かにレスポールですけど……ほら、唯のやつはあそこに」

藤本「……」

店員「あの学生さんは、アレと同じやつでもっと安いのは無いか、と聞かれただけなので」

店員「レスポールは似た色合いの物が多いですからね。パッと見ただけでは、素人さんにはちょっと見分けられないでしょうね」

藤本「……では、声をかけてくれたお嬢様と言うのは?」

店員「さあ……確かに、その日は女子高生も来てましたけど、最近は珍しい事じゃないので」

藤本「ほう?」

店員「やはりけいおんの影響ですかね。最近はこの店のスタジオを借りる女子高生も増えてるんですよ」

女子高生「キャッキャッ」

藤本「……確かに、いるな」

店員「何かちょっとしたきっかけで雑談した後に、カウンターの僕のところまで来たとか?」

藤本「……なるほど、漫画の見すぎで勘違いしたパターンか」

店員「多分……その学生さんもギターに詳しくなかったみたいで、唯と同じギターだ、と興奮してましたからね」

店員「それに、そんなお嬢様がいたら本当にムギちゃんじゃないですか」

藤本「うむ、俺もそれが気になってな。こうして聞きにきた……そしてあのレスポールを買いに来たんだ」

店員「あ、そうなんですか!」

藤本「また何かあったら呼ぶ。ちょっと待っててくれ」

……。

藤本「……」

『30万』

藤本「ふふっ、ついに唯と同じレスポールを買えるのか」

藤本「しかし、まだ趣味にもなっていないギターに30万もかけるなんて……俺もすっかりHTTの一員だな」

付き人「……」

藤本「しかし、本当に俺にもムギちゃんみたいな子が声をかけてくれたり……ははっ、そんなわけないよな」

ポンッ

藤本「……ん? 誰だ」クルッ

ゴリラ「……」

藤本「……」

店員「あ、ゴリラさん。来てたんですね」

ゴリラ「……」コクッ

店員「……あ、頼まれていた楽器揃ってますよ、はい」

ゴッチャリ

藤本「な……あんなにたくさんのギターやアンプにマイクを……。あのゴリラ、まさか……」

ゴリラ「……」スッ

店員「……はい、ちょうど40万。ありがとうございます」

藤本「なんて奴だ、あれだけの大金をポンと……あいつは富豪か?」

ゴリラ「……」ツイッ

藤本「お、俺の方を指差して……これはまさか」

店員「え、え……あ、はい。わかりました」

ダダダダッ

藤本「む、店員がこっちに来る、これはもしや本当に……」

店員「あ、あのすいません」

藤本「どうした。まさか……あの富豪ゴリラが本当にこのレスポールを値引きしてくれるのか?」

店員「いえ、唯ちゃん等身大ポップと写真が撮りたいみたいで……」

藤本「……」

ゴリラ「ンゴ」

店員「あ、はい、じゃあ撮りますよ。藤本さん、もう少し真ん中寄って下さい」

藤本「……」スッ

店員「はい、チーズ」カシャッ

店員「じゃあ、写真できたら学校に届けますね」

ゴリラ「ンゴ」

藤本「……」


ベンチ

藤本「なんで俺まで一緒なんだ……」

いい笑顔。


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最終更新:2010年09月17日 22:10