ちょっとだけ、課長バカ一代。


八神「社長、お話というのは?」

松平「うむ。君はこの漫画をしっているかね」

けいおん1巻。

八神「……いえ、こんな子知り合いにはおりませんが」

松平「いや、だから漫画だって。……まあいい、実は今回、我が会社がこのキャラクターをモチーフに商品を開発する事になったのだよ」

八神「この女の子をモチーフに? そんなに人気なんですか、この子は」

松平「ああ、運よくキャラクターの使用権を我が社が競り落とせた。この企画には相当な額の資金が動いている」

八神「うむ……侮りがたいですね」

八神「で、私は何をすればいいんでしょうか?」

松平「このキャラをモチーフに、何かアイデアを考えてきてほしい。誰も彼も匙を投げてな……頼れるのは(バカの)君しかいないのだ」

八神「なるほど……わかりました、引き受けましょう」

松平「おお、頼んだよ。イメージを沸かせるために、この漫画は君にあげよう。利用したまえ」

八神「はい」

松平「頼んだよ」

……。

八神「なるほど、高校生が楽器を使ってほのぼのする漫画か」

八神「ううむ、ここから製品を作るとなると……」

八神「……」

八神「難しいな」

八神「高校生、ほのぼの、夢」

八神「……よし、これでいってみよう」

……。

松平「ほう、もうアイデアがまとまった、と」

八神「はいまずはイメージをハッキリさせるためポスターを作成しました」

八神「ご覧ください」ピラッ

松平「……」

松平「なるほど、確かにメインの5人はしっかりと写っているようだが」

唯『目指せこうしえん!』

松平「なんでみんな野球帽を被ってバットを持っているんだね」

八神「高校生の夢と言えば、甲子園球場でしょう」

松平「いや、楽器だって言ってるだろうが……」

八神「一体何が不満なんですか?」

松平「いや、不満も何も……キャラクターのイメージと言うものがね」

八神「イメージ……」

八神「ではキャラを立たせるにりっちゃんに葉っぱをくわえさせましょうか」

松平「いや、彼女はむしろキャラ立ちしている方だろうが……」

八神「あ、ぐわははは、ってりっちゃんが笑うのは」

松平「だから! それじゃあキャラが変わっちゃうだろうが!」

松平「……まあ、まだ試作の段階でよかった。こんなポスターが採用されていたら、損害もいい所だ」

八神「え?」ゴッチャリ

松平「……そのポスターの束は?」

八神「とりあえず、試作として500枚程」

松平「君の仕事は野球のポスターを印刷する事だったのかね?」

八神「……ハッ」

松平「ようやっと気付いたのかね……」

八神「……すいません、私とした事が」

松平「うむ、わかってくれればいいんだ。早速このポスターを手直しして……」

八神「はい、みんなの口元に葉っぱを印刷して作り直します」

松平「……だから、岩鬼から離れろよ」

松平「……で、肝心の商品は何を作るのかね。ちゃんと彼女たちをイメージしてあるんだろうね?」

八神「はい。こちらが試作品になります」スッ

電気ポット。

松平「……」

八神「これでどんなティータイムでもバッチリです」

松平「……君ねぇ、ちょっとそのポスターを見てみたまえ」

八神「……」

唯『目指せこうしえん!』

松平「で、これは?」

電気ポット

八神「……?」

松平「まったく、野球もイメージも関係ない。これじゃあただの……」

八神「えっ、お茶を飲んで夢を叶える漫画じゃないんですか?」

松平「いや、だからね……甲子園がそもそも間違いなんだってば」


松平「……ふぅ」

松平「やはり、八神君とは言え今回の立件は難しかったか」

ガチャリ

八神「そんな事はありません」

松平「む……どうした、今頃になって。もうアイディアも資金もあるまい。ポスター500枚も刷りやがって」

八神「確かに、それは私のミスでした。しかし、あれから私なりに考えをまとめ……こうして再び参上しました」

松平「ほう、聞かせてもらおうか。君の考えとやらを」

八神「はい」

八神「まず、私自身の反省する部分……それは姿勢が中途半端だという事でした」

松平「ほう」

八神「我が社の製品の出来。そして、借りているキャラクターを活かした販売戦略……この二つが合わさらなければ今回の企画は成功とは言えません」

松平「……うむ」

八神「しかし、そこに野球を掛け合わせた私の販売戦略は見事に的を外していた、と考えざるを得ません」

松平「まあ、女子高生だから……しかも葉っぱまで」

八神「そう、そこです。彼女たちは女子高生……故に、最初から野球を持ってきた私のミス……今回はこれに尽きます」

松平「……」

松平(なんだか、今日の彼はバカに見えないな……)

松平「……それで、君はそのミスをどう補う事にしたのかね」

八神「はい、まずは根本的な部分に戻り考えてみました。彼女たちはまず楽器をやっています」

松平「一番大事な部分だな」

八神「そして我が社はけいおんをモチーフにした製品を作る事を目標にしていました」

松平「うむ」

八神「……そこに、私が個人的な理由から野球を勝手に混ぜてしまいました」

松平「……」

八神「そんなミスは二度と起こさぬよう、今度はちゃんと『ドカベン』の使用権利を獲得しましたので、ご安心下さい」

八神「以上が私のプランになります」

松平「……いや、だから野球じゃなくてけいおんがだね……」


課長バカ一代編 完




最終更新:2010年09月17日 22:31