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同日!
平沢家玄関前!
エリ「やっと付いたね」
憂「はい。ありがとうございました」
エリ「いやいや、お礼なんか要らないよ」
憂「あの、あがってきませんか?」
エリ「え? いいの?」
憂「はい。何かご馳走します」
エリ「うーん、じゃあ、焼きそばがいいな」
憂「焼きそば、ですか?」
エリ「うん…………駄目?」
憂「いいえ。作れますよ。あ。あがって待っててください」
エリ「うん。わかったー」
エリは平沢家に入った。
エリ「…………なんで壁が凹んでるの?」
憂「あ! 気にしないでください!」
エリ「人形も綿がはみ出てるし…」
憂「気にしないでください!」
平沢家内!
数分して、焼きそばがエリの前に運ばれた。
エリ「うわー、香ばしい匂い! プロを感じるね!」
憂「ありがとうございます」
モグモグ エリ「うん、味も絶品!」 モグモグ
憂「えへへ」
エリ「すごいね、どこかでお料理習ったの?」
憂「いえ。自然と身に付きました」
エリ「へー。才能だねえ」
憂「エリ先輩は、お料理しますか?」
エリ「うん。私は一人暮らしだからね」
憂「そうなんですか?」
エリ「うん。だから、私も自然と身に付いたね」
憂「何のお料理が自信ありますか?」
エリ「焼きそば、と言いたいとこなんだけど……豚肉の洋風旨煮、かな」
憂「何でですか?」
エリ「一番初めに作った料理なんだよ、だからかな」
エリはふと、目を細めた。
数分後
エリ「……、よし、完食! 美味しかったよ!」
憂「ありがとうございます」
エリ「また食べたいなー。今度、来てもいい?」
憂「はい。もちろんです」
エリ「ありがとー。流石、唯ちゃんが出来た妹、と褒めただけあるよ」
憂「…………はい」
気恥ずかしくなった。
エリ「じゃ、そろそろ私は帰るかな」
憂「あ、はい! 今日はありがとうございました!」
エリ「いやいやこちらこそー」
そして、エリは外に向かう。
憂は玄関から、エリの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
また会いたいな。そう思った。
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翌日、朝!
平沢家!
唯「ただいまー。お泊り、楽しかったよー」
憂「お帰り。どうだった?」
唯「修学旅行みたいな感じだよー」
憂「……あ、あのさ、え、えっちぃこと、した?」
唯は首をかしげる。
憂(な、なあんだ。考えすぎだったかぁ)
憂(よく考えたら、付き合って間もないもんね)
憂(でも、良かった)
憂は安堵の息を漏らした。
唯「どうしたの?」
憂「何でもないよ」
唯「あ、私ね、朝ごはん食べてないんだ」
憂「あ、丁度良かった! 今出来たとこ!」
唯「え! 何? 今日は?」
あのね、と憂は語を継ぐ。
憂「――お赤飯だよ!」
終わり
番外編 梓と憂と
教室
憂「おはよう! 梓ちゃん」
憂は読んでいた本から眼を離すと、教室に入ってきた梓に挨拶してきた。
梓「……何よ、憂。気味が悪いほど元気ね」
憂「うん。土曜日にいいことあったんだ!」
梓「あ、その日なら唯先輩と私が……」
憂「うん、知ってるよ」
梓「悔しくないの?」
憂「ううん。むしろ、梓ちゃんたちを応援してるよ!」
梓「……何なのよ、数日前とは別人じゃない」
憂「達観したんだよ」
梓「本当に、何があったの?」
憂「へへ、秘密」
と、そこに純がやってきた。
純「おはよー、みんな」
梓「あ、純。お早う。髪切った?」
純「あ、わかる?」
憂「うん、わかるよ。とても似合ってるよ」
純「へへー。ありがとう」
純は鼻を掻いた。
純「あれ? 憂何読んでるの?」
憂「え、これ? これは――」
憂は本の表紙を見せて、答える。
憂「美味しい焼きそばの作り方って本なんだ」
終わり
番外編 ある火曜日の放課後
唯は梓に、放課後講堂に来てください、と言われていた。
講堂は、放課後は使われない。そのせいか、幽霊が出る、という噂を聞いたことがある。
唯は若干それにおびえながらも、講堂の扉を開いた。
梓がいた。
凛、とした雰囲気を漂わせていた。
梓「――唯、先輩」
梓が唯に詰め寄ってくる。
唯「ど、どうしたの? あずにゃん」
梓「私、唯先輩に言いたいことがあったんです……」
唯「な、何?」
梓「はい、それは――」
梓の頬は、柔らかな朱色。
白い肌に美しく、赤が映えていた。
なぜだか唯まで、緊張してしまう。
梓は深呼吸をして、そして。
梓「私、唯先輩のこと大好きなんですっ!!」
まくし立てるように、言った。
唯「へ?」
混乱していた。
梓「な、何度も言わせないでください! 私、唯先輩のことが、大好きで仕方ないんです!」
唯「それって、つまり……」
ごくり、と唯はつばを飲み込む。
唯「……告白、だよね」
梓「……はい」
唯はなんというべきか迷った。
梓「……駄目、ですか?」
梓が何かを懇願するみたいに、見上げてくる。
唯は
唯「いいよ」
明確な意思を持って、答えた。
梓を、かなしませたくなかった。
梓の不安げな表情を、見たくなかった。
唯「付き合おう」
梓「いいん、ですか?」
唯「うん。実は私も、……私も、あずにゃんが好きなんだ」
本音だ。一片の嘘のない、事実だ。
梓「…………嬉しいです」
梓は唯に、ぎゅっと抱きついてきた。
唯「あずにゃん……」
唯は梓を、抱き返す。
梓「……梓って、言ってください」
唯「え?」
梓「梓って、一度でいいから呼んでください」
唯「じゃ、じゃあ……。私のことも、唯って言ってくれない? 一度だけでいいから」
梓「はい。…………唯、大好きです」
唯はすこし、新鮮に感じた。
唯「私も、大好きだよ。……梓」
そう言って、再び熱く抱擁する。
梓の柔らかさを、心地よく感じていた。
終わり
番外編 ひとりずもう
憂(エリ先輩のために、家で作ってきたお弁当……渡すの、恥ずかしいな)
憂(お弁当、早く渡したいんだけどな……)
憂は教室をちらり、とのぞき見る。
憂(楽しく談笑してるし、邪魔するのもな……)
憂(いや、でも先輩は焼きそばパンしか食べてないから。お腹はすいているはずだ)
憂(だから、渡したほうがいい)
憂(でもなあ。教室に入ったら、お姉ちゃんにも見られちゃうし……)
憂(でも、早く渡さないと、お昼休み終わっちゃうよ)
憂(そうだ、渡さなきゃ! そのために朝早くから起きて、作ったんだもん!)
憂(お姉ちゃんに見つかっても、そんなの気にしなければいいんだ! だって、私はエリ先輩に用事があるんだから!)
憂(………………………………でもなぁ)
憂(はずかしいなあ)
憂(三年生のクラス行くだけでも一杯一杯なのに)
憂(その上、お弁当渡すなんて…………絶対変な人だって思われる…………)
憂(どうしよう…………)
エリ「あれ、憂ちゃん?」
憂「うっひゃあ!?」
エリ「あ、やっぱ、憂ちゃんだ。どうしたの? こんなとこで」
憂「あ、あのそれは」(もう吹っ切れて、言ってしまえ!)「え、エリ先輩に、お弁当渡しに
来たんです!)
エリ「え? 渡しに? 私に?」
憂「はい!」
エリ「いいの?」
憂「はい! これどうぞ!」
憂はお弁当の小包を渡す。
エリは受け取る。
エリ「ありがとう。味わって食べるよ」
憂「―――はい!」
エリ「………………」じーっ
エリは憂を見つめている。
憂「え、へ、何ですか?」
エリ「そうやって赤くなっている憂ちゃんて、可愛いなあって」
憂「え、え、え」
ぼんっ、と憂の顔がますます紅潮する。
エリ「じゃあね。お礼に今度、私も弁当作ってくるよ」
憂「え、そんな、悪いです」
エリ「いいっていいって。」
憂は少しばかり悪いなあ、とか思いながらも。
密かに、エリの作ってくる弁当を期待していた。
憂(エリ先輩のお弁当、どんなのだろう……?)
今からわくわくしていた。
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エリ「はい。憂ちゃん」
後日、エリ先輩が弁当を渡してきた。
梓たちのところに戻って、弁当をあける。
中身は――。
梓「…………焼きそばだけ?」
憂「うん、焼きそば、だけ……だね」
憂は、焼きそばのびっしりと詰め込まれた弁当箱を見ながら、エリ先輩らしいなあ、と思った。
焼きそばを口に運ぶ。
憂「美味しい……」
エリ先輩の、味がした。ような気がする。
憂は意識せず、顔を綻ばせていた。
終わり
最終更新:2010年09月19日 21:42