そんななか一通のメールが届いた
「田井中律」

りっちゃんだ

「8月21日夜7時 桜高の音楽室に来て ギターも持ってきてね」

8月21日…?今は8月10日だ

「ごめん、今年は京都に帰る暇ない、っと」

嘘だ、結局バイトは増やさなかった。逆に夏まで頑張ったからと言って2週間も休みをもらっていた

ブーブーブー
「そんな嘘つかなくていいよ いいから来て」

どういうつもりなんだろう・・・


「まだいけるかわかんない、っと」

ブーブーブー
「とにかく来いよ 部長命令だから」

………

そして8月20日、わたしはギターを持って東京駅にいた

8月21日…?何の日だろう

そんなことを考えて新幹線に乗る

3時間後、新大阪駅についた

やっぱりギターを持ちながらだと目立つなぁ…なんだか恥ずかしい

高校の時は毎日ギターを持って登下校してたんだ

あの頃は人の目なんて全然気にならなかったのに

それから在来線の電車をいくつか乗り継いで実家の最寄駅まで行く

駅から歩くと20分かかるので憂に車で迎えにきてもらった


「お姉ちゃ~ん、こっちこっち!」

「憂~ただいま~あれ?ちょっと大人っぽくなった?」

「えへへ、そうかなぁ?」

相変わらず姉妹の仲は良い。あんまり帰って来ないけど帰って来た時はいっつも憂と出掛けていた。


「ギター持ってきたんだ!」

「うん」

それ以上憂がギターについて触れることはなかった

みんな知ってるのかな?りっちゃんから全部聞いたのかな


「そうだ!アイス買ってく?」

「いいよ、私今ダイエット中だから」

「お姉ちゃん食べても太らない体質じゃなかったっけ?」

「ううん、なんか体質変わったみたいで。リクルートスーツ一着しかないからあんま太れないんだ」

「そうなんだぁ…」

「就活は大変?」

「うん…でも楽しいよ、いろんな発見があるからね!」

「こっちに戻ってくる気はないの?」

「うーん…」

「別に京都じゃなくてもさ!大阪なら家からでも通えるよ?」

「うん…考えておくよ」

それ以上の会話はなかった。


正月以来の実家。懐かしい。

両親は相変わらず不在で今は憂も一人暮らしの状態だ。

夕飯は憂の手料理。

私も料理はするけど週の半分はコンビニ弁当だ


「久しぶりだな~憂の手料理!!」

「うふふ、いっぱい食べてね!」

「いただきま~す!」

ん?あれ?憂の料理ってこんな味だっけ…?

これなら私が作った方がおいしい…


「どう?」

「すごくおいしいよ!!やっぱ憂は料理の天才だね!!」

「そんな~天才だなんて恥ずかしいよぉ」



…罪悪感に駆られずにはいられなかった

食事が終るとすぐに部屋に戻った

持ってきたギターを見る

そういえばもう何年も弾いてないなぁ

りっちゃんもしかして再結成しよう!なんて言うのかなぁ

よっしゃ!こうなったら一夜漬けで練習だ!!

あれ?んと…こうだったけ?

うわ―…ブランクって怖いなぁ…
全然弾けないや…

くそーっ!
ジャカジャカジャカジャカ

コンコン
「お姉ちゃん…あっギター弾いてた?」

「憂、どうしたの?」

「えっ、あの…久しぶりだからもっとお話したいなぁって…邪魔してごめんね!」

「ううん!邪魔じゃないよ!今下行くから待っててね!」

何やってるんだろ私…これから再結成するんだったら嫌でも練習するじゃん
今は憂との時間大切にしよう

「それでさ~」
「あははははは~」

会話が止まる

「あのさ…お姉ちゃん」

「ん?」

「ギターの調子はどう?」

「う~ん、まぁまぁかな!」

「そっか…そうだ!ギターの練習しなよ!」

「えっ?もうお話はいいの?」

「うん!ほら、早く早く!」

「わかった~ありがとう」

憂は優しいなぁ

「お姉ちゃん…」

とりあえず一晩中練習した結果、ふわふわ時間だけはなんとか完璧に弾けるようになった

まぁ眠れなくて一晩中弾いてたんだけど

これで大丈夫だ…

また新しい曲とか作るのかなぁ

そして約束の時間の30分前

「憂~!ちょっと出掛けてくるね!」

「うん!ご飯はいらないの~?」

「大丈夫~じゃあ行ってくるね~」

バタンッ

「……お姉ちゃん」


懐かしいな、この道

よく通ったな~

そういえば二年生の学園祭の時ギター家に忘れて走って戻ったっけ

あの頃みたいに戻れるのかな…


――6時55分、学校の校舎の前

やっと着いた

ここで…ここで過ごした3年間…

その3年間を忘れらなくて今ここにいる

そして失ったその後の3年間を…取り戻したい!


――音楽室前

ふぅ…ここを開ければ…

みんなに会える!

「おーっ!唯!」

りっちゃん…

「来たか~唯!」

澪ちゃん…

「お久しぶりね、唯ちゃん」

ムギちゃん…

「唯先輩…」

あずにゃん…

「みんな…またあの頃みたいに戻れるんだね!?」

「残念だけど…それはできない」

「えっ?じゃあなんで今日はここに?」

「今日は…唯の卒業式だ」

「卒業式?」

「悪いけどあたしたちは唯の期待に沿えることはできない…」

「だから放課後ティータイムは今日で正式に解散だ!」

「正確には一日だけ復活して解散だ」

「唯ちゃんはギターだけじゃなくてボーカルの才能だってあるんだから…音楽続けなければもったいないわ」

「卒業…式…」

「唯?」

「そんな…そんなことにために呼び出したの!?嫌だよ!!」

「そんなことって…今日のためにムギはわざわざアメリカから来てくれたんだぞ?」

「関係ないよ!そんなの嫌だ!!」

本当は嫌じゃなかった、私だっていい加減にふっ切りたかった

でも私の中の、高校生の私が最後の抵抗をした


「私…帰るね」

「唯!」

「唯ちゃん…」

素直になれない自分が本当に嫌だ

「待ってください!」


「梓…」

「梓ちゃん…」

「私が…悪いんです……私が全部悪いんです…唯先輩に期待させておいて…」
「結局約束も果たせなくて…」

「だから恨むなら私だけにしてください!」

「恨んでなんかいないよ…だから顔をあげて?」

私は最低だな…あずにゃんが悪くないのなんてわかってる

それにあずにゃんだって最近おばあちゃんが亡くなって悲しいはずなのに

「みんな…ありがとう…卒業式……やってくれる?」

「よっしゃー!!じゃあ始めるか!」

「でも卒業式って何するの?」

「私たちは軽音部だぞ?演奏するんだよ演奏」

「何か演奏したい曲ないのか?唯」

そういえばいろんな曲があったなぁ…
でも今の私にできるのはあの曲しかない

「じゃあふわふわ時間!」

憂が気遣ってギターの練習させてくれたのはこの為だったんだね…


「じゃあ行くぞー!1,2,3,4!!」

放課後ティータイムとしての最後の演奏

わたしは力いっぱい歌って弾いた

3年ぶりだから高校時代みたいにうまくはいかなかった

他の4人もそうみたい

もうこの歌を歌うこともないんだろう

そう思うと自然と涙が止まらなかった

♪あぁ神様お願い 二人だけの…ドリ…ム…タイ…ム………くだ…さ……

「唯!泣くのは終わってからにしろ!」

うん…ありがとう…
そう言ってくれないと今すぐ泣きそうだ


♪ふわふわタイム ふわふわタイム ふわふわタイム


終わった…

アンコールもなければ観客もいないただの音楽室

そこで一つのバンドが終わった

「りっちゃん、澪ちゃん、、ムギちゃん、あずにゃん…ありがとう」

「おう!これであたしたち友達だな!」

「うん……」

「お、どうした唯?泣きそうか?」ニヤニヤ

「か、からかわないでよ~」

「唯先輩…泣いていいですよ」


「…あず…にゃん…あずにゃ~ん…」

「いい子いい子…」


あずにゃんの胸で私は10分以上泣き続けた

泣いた後はすがすがしい気持ちになった

「でもなんで8月21日なの?」

「お前薄情もんだな~あたしの誕生日だよ!」

「あぁ、そうだっけ!」

その後りっちゃんの誕生会のためにお店に移動した

憂やさわちゃんも呼んでみんなで盛り上がった

ムギちゃんは明後日アメリカに戻るため先に帰っちゃったけど…



みんなが酔いつぶれて眠った後に酔っ払ったりっちゃんが話しかけてきた

「あたしが東京に会いに行ったことあったじゃん?あれホントは就活のためなんかじゃないんだ」

「知ってた、だってりっちゃん関西離れる気ないんでしょ?」

「ばれてたか…でもさ、唯があんなこと考えててびっくりしたよ。」

「…」

「もっとさ…私たちに頼れよ…?」

「うん…」

「唯が全然連絡くれなくてさ、みんな落ち込んでたんだよ?」

「うん…」

「悲しいことがあったら電話くれよ、こっち帰って来いよ」

「ありがとう…」

「あーやべ!泣きそうだからあたしも寝るわ!おやすみ~!!」

「うん…おやすみ…」

その後東京に戻った私はまたギターを始めることにした 

まだバンド組む気はないけどいずれは組みたいと思ってる

長期の休みは必ず地元に帰りみんなと会うようにしている

だってみんな友達だもん!



終わり





最終更新:2009年12月10日 04:32