翌日
唯「あずにゃん来てないね。」
澪「…」
ガチャ
梓「先輩…昨日は本当にすいませんでした。自分勝手な理由で八つ当たりして。」
紬「梓ちゃん…」
澪「私の方こそついカッとなって手を出してごめん。」
唯「あずにゃん、できないところは一緒に練習してできるようにしよ?」
梓「はい!」
唯「では仲直りの…」ギュッ
梓「わっ、もう唯先輩…」
律「もうすっかり仲直りだな。」
紬「お茶にしましょ?梓ちゃんもこっち来て。」
唯「わーい、ケーキ!」
律「私もいただくぜー」
梓「澪先輩。」
澪「どうした?」
梓「私は先輩たちに出会えて本当に幸せです。だからこれからもよろしくお願いします!」
澪「わかった。私もみんなも梓に会えて本当に良かったと思ってる。それじゃあまずはお茶にするか。」
梓「はい!」
純「やっぱ、こうでなくっちゃね…うっ!苦しい…」
純「気のせいだよ…絶対そうだ!」
時が流れ、私たちは二年、先輩たちは三年生になった。
純は後輩たちからも信頼されるいい先輩になっていた。
ベースの腕もよく、次期部長候補とまでささやかれているそうだ。
純は私たちとずっと一緒にいてくれると信じていた。
でも…
梓「純はもう帰るの?ジャズ研は?」
純「今日はちょっと調子悪くて…先輩にはちゃんと断っておいたから。」
憂「お大事にね。」
純「ありがと、さて帰りますかな…っっ!!」ドサッ
梓「純!!」
憂「純ちゃん!!」
純は救急車で病院に運ばれた。
数日後私たちは純の病室を訪れた。
純の両親は私たちをすぐに通してくれた。
純は肌も白く、やつれていた。
そして純は信じられないことを口にした。
梓「癌…!?」
純「そ、また再発したの。それも全身に転移してるって。」
梓「再発って…?」
純「言ってなかったっけ?私、10歳のときに小児癌になってそれからずっと癌と戦ってきたの。でもお医者さんは君の体はもう手術には耐えられないだろうって言ってた。」
憂「そんな!!それじゃあ純ちゃんは…」
純「もうすぐ死ぬね。」
梓「なんで・・・なんでこんな大事な事を言ってくれなかったの!?」
純「さあね。自分でもよく分かんないや。」
梓「こんなことって…信じられないよ!!」
純「私だって信じたくなかった。この幸せな日常がこんなにもあっけなく終わるなんて。」
純「それとこのことはみんなには黙ってて。あんまり騒がれたくないから。」
梓「…わかった。」
憂「純ちゃん…」
梓「純はあとどれくらい生きれるの…?」
純「そうだね。だいたい二カ月くらいかな。」
純「その間にいっぱい思い出作ろ?」
梓「うん、わかった…」
それから私と憂は毎日純のお見舞いに行った。
クラスの事、部活の事、家の事。
色々な話をして笑いあった。
クラスメイトやジャズ研の人たちは純の回復を信じて千羽鶴を折ったり、見舞いに行ったりしてくれた。
真実を知る私と憂は、純がきっと元気になって戻ってくると信じている人たちを見て悲しい気持ちになったが、決して言葉や顔には出さなかった。
休日にはお医者さんの許可をもらい、三人でいろんな場所に出かけた。
服屋、CDショップ、喫茶店、動物園、公園、水族館。
とにかくいろいろな場所へ。
時が経っても色あせない思い出を作るために。
この楽しくも限りある時間はあっという間に過ぎて行った。
そして二ヶ月後
純は行きたい場所があるといった。
お医者さんにはすぐ戻ると断っておいた。
私たちは純を二人で交代で背負って案内してもらった。
純は信じられないほどに軽くなっていた。
彼女はもうすぐ死ぬ。
嫌でもそう確信させられた。
純「ここだよ。」
梓「ここって?」
憂「三人で一緒に夕焼けを見た丘?」
純「正解!」ニッ
その笑顔はとても弱々しかった。
純「私たちが出会ったときはお互い、相手の事をよく考えずにケンカになっちゃったりしたよね?」
憂「うん…」
純「でも今はこんなに仲良し。不思議だね。」
梓「そうだね…」
純「私はもう満足。悔いはないよ。」
梓「ウウッ…!!」
日が沈み始め、あの頃と同じような夕焼けが現れた。
だけど涙でかすんでよく見えなかった。
純「生まれてきて、学校に行って、ベース始めて、憂と出会って、高校に入って、ジャズ研に入って。」
純「そして梓に出会えてほんとによかった。」
純「こんな素晴らしい人生をくれた父さん母さん、そして神様にものすごい感謝してる。」
純「ありがとう、こんな私の友達でいてくれて。」
憂「そんな…お礼を言いたいのは私たちの方だよ!」
梓「私も憂も純に会えて本当に良かったと思ってるよ!」
純「そっか、ありがと…私って幸せ者だなー」
純は力無くほほ笑む。
純「私の事忘れないでね?そして絶対に私の分まで精一杯生きること。約束だよ。」
梓「忘れないに決まってる!当たり前じゃない!」
憂「もちろん!」
純「なんだかとっても眠いや。ゴメン、もうお別れみたい。バイバイ。」
憂「そんな!」
純「二人は私の親友。たとえ私が死んでもそれは変わらないから。」
純はこれから…死ぬ。
純「梓、憂。」
梓「何…?」
純はそう言って目を閉じた。
憂「純ちゃん!?」
梓「純、じゅん!?じゅーーん!!!」
私たちは純をおぶって急いで病院に戻った。
でも純は目を覚まさなかった。
永遠に。
私たちは思いっきり泣いた。
でも純は笑っていた。
とても幸せそうに。
純の葬式には私たち同級生やジャズ研の人たちが大勢参列した。
皆が止まることのない涙を流していた。
私たちもまた涙を流した。
棺の中の純は花に囲まれ、眠っていた。
とても安らかな顔だった。
純の両親は泣き崩れていた。
そして去年の冬に純から預かった純の家の猫は棺に寄り添い、まるで涙を流してるようにも見える様子で鳴き続けていた。
あずにゃん二号と私が勝手にあだ名をつけてしまったあの猫の、本当の名前を知ることは結局なかった。
純から聞いた気がするがもう忘れてしまった。
「純はほんとに幸せ者だね。こんなにもあなたのために涙を流してくれる人がいるんだよ?」
と独り言を言うと
「ほんとだ。幸せ者だったんだな私って。それじゃあバイバイ。」
と答えが返ってきた。
そんな気がした…
私、
中野梓には友達がいた。
鈴木純。
マイペースなお調子者。
だけど根はとてもいいやつ。
なんだかんだで離れられない仲だった。
この間までは。
だけど今はもうずっとずっと遠くに…
いや違う。
今も純は私の傍にいる。
ずっとずっと。
「そうだよね…?」
純の墓に手を合わせながら墓に向かって尋ねかけた。
するとそよ風が私の髪を揺らした。
「そうだよ。」
まるで純がそう言ったかのように。
また時は流れ、私たちは三年生になり、先輩たちは卒業した。
私は軽音部の部長になった。
私と、入部してくれた憂は新入部員の獲得に奔走していた。
そんなある日
先生「今日は転校生を紹介する。」
先生「三浦、入れ。」
茜「三浦茜です…よろしくお願いします。」
家庭の事情で転校してきたらしい。
後に私の方から積極的に仲良くなり、かけがえのない友達となった。
茜「えっと…中野さん、隣いいですか?」
梓「いいよ。」
憂「お昼一緒に食べよ?」
茜「中野さんのおかず、美味しそうです…」
梓「ありがと。でも最近は朝早く起きるのもなんかだるいんだよねー…」
憂「あはは、梓ちゃん、なんだか純ちゃんみたい。」
茜「純ちゃん?」
梓「ああ、純はね…」
「あれから20年、あっという間だったな…今日が純の命日か。」
「後で墓参りに行ってやるか。」
「ママー早く!」
「わかった今行くよ、純。」
授かった娘に純という名前を付けた。
純はマイペースだけど面倒見がとても良い。
そう、あの純のように。
「高校の卒アルか…懐かしいな。」
「これがママ?」
「そうだよ。」
「この人、ママの友達?私とおんなじ名前だ!」
「そうだよ。私の親友の純はね…」
おしまい
最終更新:2010年09月22日 23:19