本番、私達はいたずらを悪巧みするガキンチョのような表情で舞台袖に待機する。
私達は不思議と緊張しなかった。
律「なんか学祭ライブに初めて参加するのに、何回か参加したような感覚がするんだよな…」
澪「そうだな。あんまり緊張しないよ。どっちかっていうと…懐かしい?」
そう、この学祭ライブ自体なんだか懐かしいのだ。
真鍋「以上で12組目の発表を終わります。」
「そして、最後に軽音楽部のみなさんが演奏を行ないます。」
生徒会役員1「え?そんなのあったっけ?」
生徒会役員2「ま、真鍋さん?」
真鍋さんがこちらを見る。
真鍋「やっちゃえ!」
楽しそうな笑顔だ!
私達もそれに答えるような笑顔で、舞台に飛び出した!
演奏が終わって、気付くと私達は拍手とアンコールの声に包まれていた。
私達はなんだかボーっとしてしまった。
演奏を聞いた生徒たちがどんな反応をするかなんて全く考えてなかった。
「コラー!」
教師達の怒声でやっと我に返った。
琴吹「『TRITON Extreme76』!時間を稼ぎなさい!」
「琴吹家の技術の結晶を見せつけてやりなさい!」
TRITON Extreme76「イエス・マム!」
「戦闘モード 起動 ヘンケイシマス」
TRITON Extreme76(戦闘ver)「Come oooooON !! 」
私達は作戦会議で考えに考えた経路で教師達から逃れて、音楽準備室に潜り込んだ。
ここなら、なかなか見つかるまい。
…ここ数ヶ月間この目的のためだけに狂いに狂った。
達成感と充実感が頭を支配する一方、胸が空っぽになってしまった寂しさを感じていた。
窓から見える空は晴れているのか、曇っているのかよく分からない感じだったが不思議と美しかった。
これで終わりなんだ。後ろ盾が無く、目的も無くしてしまった非公式軽音部はもう私達を束縛してくれない。
律(学祭ライブまでーとか言っちゃったけど、ずっとこいつらと居たい…)
中野(そこらの外バンよりここのが断然楽しいなぁ。もっと続けたい…みんな同じ気持ちなら良いな…)
澪(もう文芸部もやめたし、ここも無くなればいよいよ帰宅部か…律と一緒なら帰宅部でも楽しそうだな…)
平沢(すっごく楽しかったな!ずっとこんなことしてたいな…)
琴吹(はぁ、もっと女の子同士の絡みが見たいわー)
山中先生「おー、居たな悪ガキども。」
なにぃ!
音楽準備室に山中先生がズンズンと侵入して来た。思ったより早く見つかってしまった。
山中先生「全くあんたら大人しくなったと思ったら次はこれか…」
「負けたよ。あんたらには負けた。こんな根性ある連中は野放しにできないわ。あなたたちを正式に軽音部にしてあげるわ。」
「その代わり、アンコールに答えてあげてね。みんなまだ待ってるのよ?」
私達は、山中先生の言うとおりアンコールに答えてふわふわ時間を演奏し生徒たちの前で謎の号泣をして、その後軽音部に昇格した。
ちなみにTRITON Extreme76が大暴れしてボロボロにした講堂は琴吹グループが責任を持って修理することになった。
……
平沢「う~ん…」
琴吹「どうですか?」
平沢「うまい!」
琴吹「良かった~」
数カ月ぶりに音楽準備室に戻ってきた私達は、琴吹の出してくれた紅茶を堪能する。
放課後に部室で優雅に紅茶を飲むだなんて冗談みたいな光景だが、なんだかこの風景が私達の定番という感じがする。
律「これぞ私のイメージしていた軽音楽部、だな」
澪「何を突然言い出すんだ。」
律「なんかこういうの憧れてたんだよ。練習そっちのけでくつろぐのをさ…」
澪「それでも部長か!馬鹿律!」
律「うへへ、また言われちった」
そんなやりとりを見て、平沢は提案をする。
平沢「ねぇねぇ部長。私達もう正式に同じ部員になったわけだし。」
「下の名前で呼び合わない?」
律「そういえばそうだな。えっと平沢の名前は…」
唯「唯だよ!で、部長はりっちゃん!秋山さんは澪ちゃん!琴吹さんは…ムギちゃんだね!」
律「おぉ!なんだかすごいしっくりくる!」
澪「ゆ、唯…」
紬「ムギ!あだ名で呼ばれるのって夢だったの~!」
唯「で…」
「中野ちゃんは、あずにゃんだね!猫っぽいから!」
梓「うへーなんですかそれ…なんか嫌な気はしませんけど…」
律「なぁなぁ次は何やる?」
唯「次って?」
律「次は次だよ。外でライブするとかさ~」
澪「そ、外でライブか…緊張しそう…」
梓「外でライブするなら、私たちのバンドの名前も決めないとダメですね!」
律「そっか!まだ決めてなかったもんな!」
「どんな名前にしようか…」
唯律澪紬梓「うーん…」
律「あ!思いついた!放課後にお茶飲んでるから…」
唯「ちょっと待って!多分私も同じ名前思いついたよ!」
澪「私も、多分…」
紬「私もかしら~」
梓「じゃあ、みんなでせーので言いましょうよ!」
「せーの!」
「放課後ティータイム!」
みんなで同じことを言った。私達は同じことを考えていたのだ。
そして、5人とも思い出す。
唯「あ…れ?私達、なんで…」
律「た、確か私達は学祭ライブが終わったあと、部室で話してて…」
澪「私は1年生のころから軽音楽部に居たはずだ!なんで文芸部に…?」
「…ここはどこだ…」
唯「そっか…分かったよ。私がりっちゃんに『もし私たちがいなくなってもまた集めてくれるよね?』って言ったから」
「本当にりっちゃんは探してくれたんだね…!」
「ありがとう…りっちゃん…」ボロボロ
律「泣くなよ~。全く、当たり前だろ?なんてったって」
「なんてったって私は部長だからな…」
困ったような笑顔で部長は言う。
部員たちが泣きながら部長に抱きつく。
嬉しいのかった辛かったのか、いろんな感情がごちゃまぜになって涙が溢れる。
お互いに抱きしめあう5人を包みこむようにあたりが光に飲まれていく。
そして…
唯「…」
「ッハ!」
「…」キョロキョロ
唯「みんなー、起きてー!」バンバン
律「んお?」
澪「…ん」
梓「ふあぁ…げっもう下校時間近いですよ…」
紬「…おはようございます」
みんなが唯の声に起きる。眠そうな4人とは反対に唯は興奮している。
唯「ねぇねぇ!りっちゃん私変な夢見たよ!」
律「あぁ…私はすげーダルい夢見たな…」
梓「私は幸せな夢を見ましたね。みんなが真面目に練習してました。」
紬「私の夢ではキーボードさんが大暴れしてしましたわ。キーボードさんが話すなんておかしいわね、ふふ」
澪「…律!」
突然澪が律に抱きつく
律「ど、どうした?」
澪「あのな、律… もしもな… 私たちがケンカしてもな… すぐに仲直り…しような?」
澪は涙目で律に訴える
律「分かった分かった!だから離れろよ恥ずかしい…」
澪「やだ!律と離れたくない!」キ゛ュ
唯「おぉ~、ラブラブだねぇ」
紬「あらあら~」ボタボタ
梓「ちょ!鼻血が!」
あ~、全く騒がしい部だな。まぁ私はそんな部の部長なんだけどな。
私は
田井中律、桜ヶ丘高等学校の2年生で軽音楽部の部長だ。
軽音楽部で結成したバンド「放課後ティータイム」で毎日楽しくやっている。
このメンバーは本当に最高だ。もし一人でも居なくなれば、私は全力で探し出すだろう。
だってそうだろ?なんってたって私は、軽音楽部の部長なんだからな。
律「みんなー帰ろうぜー」
紬「はーい」
唯「まってー」タタタ
……
下校時間を過ぎ、更に時が経った真っ暗な校内に人影は無い。
パッ
暗い音楽準備室に青い光が浮かぶ。
紬のキーボードTRITON Extreme76の光だ。
ユラ
青い光が激しく揺れ動く
『こちらTRITON Extreme76 作戦コード0912、睡眠型平行世界システムを使用した試験の結果、
桜ヶ丘高等学校軽音楽部は
琴吹紬の育成に適と判断。詳細なデータは後日暗号処理を施し本部へ転送。
この報告をもって作戦コード0912の状況を終了する。以降TRITON Extreme76は通常の護衛任務に移行する。以上、連絡終わり。』
青い光の揺れは波のように穏やかになる。
(……紬お嬢様、桜ヶ丘高等学校軽音楽部はとても良いところですね。)
(私の分析結果が正しければ、あなたはこれから卒業までに笑い、泣き、色々な経験をして楽しい学園生活を送ることができるでしょう。)
『システム タイキモード ヘ イコウチュウ…8、7、6、』
(紬お嬢様の青春に幸あれ…)
『…2、1、 …タイキモード イコウカンリョウ』
…青い光は揺れを止めると少し間を置いて、消えた。
終わり。
※
『律「そりゃあたしは、部長だからな」』を読んで、今回のSSを作成しました。
あの作品の作者ではありません。
紬が死んでかわいそうだったので、似たような話を書いてしまいました。
元作者様に感謝いたします。
ラストは
「琴吹紬がより良い環境で成長できるように、
琴吹グループの開発したシステムを使って
軽音楽部が本当に紬に相応しいかを検査した」
ということです。
あのAIが搭載されたキーボードが、5人を眠らせて
並行世界を見せていました。
簡単に言えば夢落ちです。
ちなみに、夢の中では紬はキーボードにAIが搭載
されているのを知っている感じでしたが、現実の
紬はそのことを知りません。
キーボードの主任務は紬の護衛で、危険が迫った
ときは戦闘モードに変形します。
最終更新:2010年09月24日 02:37