律「いや~、至福の時ですなぁ~」
唯「今日のケーキも美味しいね~♪」
紬「ふわぁ・・・・・・」
唯「あれ?ムギちゃん寝不足?」
紬「・・・うん、ちょっと眠いかな」
このところ、考えることが多すぎて眠りが浅いためだろう。
昨日だってきちんと寝なかったから、疲れが取れていない。
律「うーん、じゃあ今日はわかんないとこもそれほどなかったし、これでお開きにすっか」
紬「でも・・・」
律「だーいじょぶだって!ちゃんと家でも勉強するからさ!ムギは家で寝たほうがいいぞ!寝不足はお肌の天敵である!」
律「それに・・・・・・」チラッ
唯「っ!・・・そうだよぉムギちゃん、今日は無理しないほうがいいよっ!」
紬「そう、みんながそう言うなら・・・」
律「ゴミとかは片しとくからさ、あたしたちに任せて今日は帰れって!」
確かに、私がいつにも増してぼーっとしてて、みんなに心配かけちゃったら、それこそ勉強の邪魔になる。
紬「じゃあ・・・お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
私は鞄に荷物を詰め立ち上がった。
律「じゃあな、ムギ。また明日」
唯「ムギちゃんじゃーねー!ケーキ美味しかったよ!」
紬「じゃあね、二人とも。明日もケーキ、持ってくるわ」
・・・・・・
・・・・
・・
律「・・・・・・ふぅ、とりあえずムギは帰ったな。澪は何かいいの見つけられたかな」
唯「澪ちゃんに電話してみようか」
・・・、・・・
唯「・・・でないや」
律「澪はハマりだすと携帯の着信も気付かねーからな・・・。直接行ってみるか」
一面真っ白な世界。
ただただ何もない白い空間に、私と澪ちゃんだけがいる。
澪『ムギ。私はもう、行かなくちゃいけない』
紬『そんなの嫌。澪ちゃん、行かないで』
澪『どうしようもないことなんだ。ごめん・・・』
紬『どうして?どうして一緒にいてくれないの?』
澪『私たちはもう卒業する。卒業したら、けいおん部も無くなる。そうしたら、離れ離れだ』
紬『そんな・・・そんなの・・・嫌よ・・・』
澪『ムギ・・・』
紬『私、みんなと離れるのが怖い・・・』
紬『みんながいたから、私はずっとやっていけたの。みんなが一緒に笑ってくれたから、私は笑っていられたの』
紬『みんなが支えてくれたから、何も怖くなかった。みんなと離れることなんか、考えたことなかった』
紬『みんながいてくれれば、私はなんだって出来るわ。崖から飛び降りることだって出来る。空だって飛べる』
紬『でも、私は、みんながいないと何も出来ない。私が私でいることすら出来ない・・・』
紬『お願い・・・・・・一人にしないで・・・』
私は頭を下げた。
澪『ムギ・・・ごめんな』
澪『ムギがそう言ってくれるのはすごく嬉しい。でも、いつまでも一緒にはいられないんだ』
紬『そんな・・・澪ちゃん・・・・・・』
だんだん澪ちゃんの姿が遠くなっていく。
紬『澪ちゃん、澪ちゃぁん!』
澪『ムギ・・・さよなら・・・・・・』
行っちゃ嫌。お願い。一人にしないで。私を一人にしないで。
耳元で何かが震える音がする。
同時に、真っ白な世界が、歪みながら消えていく――――
・・・・・・
・・・・
・・
目を開けると、色のついた世界が広がっていた。
紬「・・・・・・・・・・・・ゆ・・・め・・・」
頭がぼーっとしている。体が疲れているのがわかる。
確か、帰ってすぐ、ベッドに倒れ込んだんだっけ・・・。今何時だろう・・・。
半ば無意識に携帯を手にとって初めて、携帯が振動していたことに気付いた。
紬「あ、電話・・・」
私は携帯を開け、通話ボタンを押した。
紬「もしもし・・・」
?「お!ムギか!?よかった!繋がった!」
紬「その声は・・・・・・りっちゃん?」
寝ぼけていて、誰からの電話なのかすら見ていなかった。
律「ムギ、大変なんだ!落ち着いて聞け!澪が・・・・・・・・・・・・」
紬「えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私の頭の中は、再び真っ白になった。
澪ちゃんが、交通事故―――――
紬「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
私は走っていた。
行き先は澪ちゃんのいる病院。
りっちゃんが何かを言っていたが、よく覚えていない。
家を出てから気付いたけれど、車で送ってもらえばよかった。
そんなことも考えられないくらい気が動転していた。
澪ちゃん、お願い、無事でいて。
病院に着いて、澪ちゃんのいる病室を聞いた。
病院内は本当は走ってはいけないが、そんなことを気にしてはいられなかった。
私は全速力で澪ちゃんのいる病室へと走り、勢い良く扉を開けた。
紬「澪ちゃん!」
唯「!? ムギちゃん!!」
紬「澪ちゃん!澪ちゃん!!」
梓「ムギ先輩、落ち着いてください!」
律「ムギ落ち着け!澪は無事だ!」
紬「えっ!・・・・・・あっ・・・・・・・・・」
無事、という言葉を聞いて、私は力が抜けてその場で座り込んでしまった。
病室を見回してみると、唯ちゃん、りっちゃん、梓ちゃん、そして・・・澪ちゃんがいた。
澪「ムギ・・・・・・すまないな、心配かけて。でも、足を骨折しただけだ」
紬「よかった・・・・・・私・・・・・・・・・」
律「だからさっき電話で言ったろ、澪は無事だって」
紬「・・・・・・ごめん、なさい・・・気が・・・動転してしまって・・・・・・うっ・・・ひっく・・・」
私は溢れる涙を止めることが出来なかった。
澪ちゃんが、無事で、本当に良かった。
紬「・・・よかった・・・・・・澪ちゃんが・・・・・・いなくならないで・・・良かった・・・」
澪「ムギ・・・」
紬「私・・・みんなと離れ離れになるなんて・・・考えられない・・・・・・」
唯「ムギちゃん・・・」
律「ムギ・・・」
梓「ムギ先輩・・・」
澪「・・・ムギ、大丈夫だ。私たちはどこへも行かない。卒業したって・・・いつだって一緒だ」
紬「・・・・・・澪ちゃん・・・・・・・・・違うの。どこかへ行ってしまうのは・・・私なの・・・」
紬「私、実は・・・・・・・・・・・・海外へ・・・留学するの」
ついに言ってしまった。
みんなが驚いている。当然だろう。
みんなには、私は推薦が通ったという話をしているから。
紬「・・・ごめんなさい・・・・・・私・・・ずっと・・・嘘をついてて・・・・・・」
病室に沈黙が流れる。
少しの静寂の後、澪ちゃんが口を開いた。
澪「ムギ・・・すごいじゃないか!」
紬「えっ・・・?」
唯「うんうん、すごいよ!留学なんて!」
律「いやー驚いたなー!推薦でも十分驚いたけどな!」
梓「ムギ先輩・・・すごすぎです・・・」
私の予想とは裏腹に、病室は明るい雰囲気へと変わっていった。
紬「みんな・・・・・・何で・・・」
紬「・・・何で・・・そんなに・・・明るくいられるの・・・?」
紬「私は、みんなと離れたくない。一人ぼっちになりたくない。なのに、何で・・・」
澪「・・・ムギ・・・・・・」
しばらくみんな黙っていた。病室には私の泣き声だけが静かに響いていた。
ふと、澪ちゃんがゆっくり話し始めた。
澪「ムギ・・・お前は・・・一人なんかじゃない」
澪「確かに、卒業したらみんなと会う機会も減る。特にムギとは減ってしまうかもしれない」
紬「・・・」
澪「でも、私たちは・・・・・・ほら・・・親友だろ?会えなくなるくらいで・・・離れ離れになんか、ならない」
澪ちゃんは私の目をみて、はっきりと、こう言った。
澪「どんなに遠くにいても・・・私たち、放課後ティータイムは・・・いつも一緒だ」
紬「澪・・・ちゃん・・・・・・」
私は一人で勘違いをしていたのかもしれない。
私が離れてしまえば、みんなとはバラバラになってしまうと思っていた。
放課後ティータイムは終わってしまうと思っていた。
でも、そんなことは無かった。
今まで、仲間を、信じていなかった自分を、深く恥じた。
それと同時に、最高の仲間たちに、感謝をした。
私を、けいおん部に入れてくれて、ありがとう。
溢れる涙は、いつの間にか、嬉し涙へと変わっていた・・・。
澪「それに今は、携帯やインターネットもある。連絡したければ、いつだって出来るさ」
澪「なんなら、ムギに直接会いに行くことだって出来る。留学先が宇宙ってことはないだろ?」
紬「・・・イギリスよ」
唯「わ~、イギリス、いいねぇ~。何かカッコイイよ~」
律「今年は『放課後ティータイムライブ in イギリス』で決定だな~」
梓「外国でライブなんて・・・出来るわけないじゃないですか」
こんな簡単なこと、何で今まで言えなかったんだろう。
たとえ、世界のどこにいても、世界が崩壊しても、放課後ティータイムはいつまでも一緒だ。
みんながいてくれるから、私は、いつまでも頑張れるんだ。
紬「みんな・・・・・・・・・ありがとう」
数日後
早々に退院した澪ちゃんに連れられて、私たちはアクセサリーショップへとやってきた。
澪「ふぅ・・・やっと着いた」
紬「澪ちゃんお疲れ様」
唯「松葉杖ってちょっと楽しそうだよね~」
澪「全然楽しくなんかないぞ・・・疲れるだけだ」
律「そうだぞ唯、なんせ澪は自分の足の骨を折って痛い痛~い思いして松葉杖をついてるんだからな~」
澪「見えない聞こえない」
梓「馬鹿なことやってないで、さっさと中に入りますよ」
澪「確かこの辺に・・・・・・・・・おっ、あった。これこれ」
澪ちゃんが手にしたのは、ティーカップの形をしたストラップだった。
梓「うわぁ、可愛いですね」
律「へー、いいじゃん、これ」
唯「さすが澪ちゃん、センス抜群だね!」
澪「よし、じゃあこれを、5つ買おう」
紬「え?5つ?」
澪「・・・実はな、あの事故に会った日の前日、みんなで相談してたんだ」
澪「ムギをどうにか元気付けてやれないかって」
知らなかった。
私が落ち込んでいたのが、もうみんなにはとっくにバレていたんだ。
澪「で、みんなで何か一緒のものを買おうって私が提案したんだが・・・」
澪「下見に行ったらこのストラップを見つけてさ、すっごく可愛いと思ったんだ」
澪「でも・・・前に旅行のお土産でストラップ買ったし、かぶっちゃうなって考え事しながら歩いてたら・・・車にぶつかっちゃったよ」
紬「澪ちゃん・・・」
澪「前のは旅行のお土産だけど、今度のは、みんなの卒業記念として、このストラップ、買わないか?」
紬「・・・聞くまでもないわ。みんなと一緒なら、私、何だって嬉しい」
「ありがとうございましたー」
唯「えへへ、さっそくつけちゃった」
律「おっ、あたしだって負けるかー」
梓「勝ち負けってあるんですか・・・」
澪「ムギもつけたか?」
紬「うん・・・すっごく可愛い・・・」
澪「これで、私たちはいつまでも一緒だ」
紬「澪ちゃん・・・みんな・・・本当にありがとう」
その後、みんなでお喋りしながら帰った。
けいおん部のこと、受験のこと、卒業した後のこと。
久しぶりに、本当に久しぶりに、心から笑うことが出来た。
その日の夜、私はストラップを握り締めながら眠りについた。
いつもより、よく眠れた気がした。
3月末
唯ちゃんとりっちゃんは無事受験を突破し、澪ちゃんと同じ大学への進学が決まった。
そして、いよいよ私が旅立つ日。
空港には、みんなが見送りに来てくれた。
紬「それじゃ、ここでお別れね」
律「ムギ、向こうでも元気にやれよ!」
唯「ムギちゃ~ん、遊びにいくからね~」
梓「ムギ先輩、頑張ってくださいね」
澪「ムギ・・・いつでも連絡して来いよ」
紬「みんな、ありがとう。またね!」
私はみんなと別れを告げ、飛行機に乗り込んだ。
でも、私は寂しくない。
みんなは、いつも側にいてくれる。
ティーカップのストラップを握り締める。
飛行機が離陸し、日本がどんどん小さくなる。
でも、みんながいるから、私は、何も怖くない。
手の中にあるストラップを見つめながら、私はつぶやいた。
終わり
最終更新:2010年09月24日 23:15