部屋に戻ってからも、互いに視線を交わす事もなく、ただ時間だけが虚しく過ぎていく
当然だよね…ごめん、憂
私のせいで楽しかったはずの旅行も台無しになってしまった
それだけじゃない
きっと私は憂を傷つけてしまった
こんなの許される訳がない…
後悔に押し潰されそうになる私の背中を、憂が突然優しく抱きしめてくれる
梓「…憂」
どうして…どうしてそんなに優しいの…
熱い雫が頬を伝って落ちた
憂「…梓ちゃん」
抱きしめてくれる憂が、私の頬を伝う涙を優しく口づけで拭う
そのぬくもりをもっと感じたくて…憂の腕の中で身をよじるようにして、正面に向き合う私
…まただよ…また私は憂の優しさに甘えようとしている
17歳の私なんて、ちっとも大人なんかじゃないよ…
憂「えいっ!」
梓「…え!?」
そんな私の悲しい感慨を振り払うように、力強く畳の上に押し倒されてしまった
憂「エヘヘ、梓ちゃんはむはむ!」
…え!…え!?…えーっ!!
ちっ、違う!これはぜったい絶対ぜーったい違うよー!
梓「に、にゃー!う、憂!ダッ、ダメーッ!はむはむしないでーっ!!」
憂「ぜーったいにヤダ!はむはむするっ!」
な、なんなの、この展開!?
こんなのまーったく想定外だよぉー!
梓「ふぁ、やっ、やめてっ、お願いー」
憂「…断るっ!はむはむっ!」
にゃーっ!も、もう…はぅぅ
憂「…ふぅ」
はぁ、や、やっと…ううっ
梓「…ううっ、こんなの酷いよ」
混乱して泣きベソをかく私を、穏やかな微笑みに戻った憂が見つめている
憂「うん、そうだね。私は酷い女の子だよ」
…なにを言い出すの、憂?
憂「あのね、私は我が侭で、意地悪で、性格の悪い嫌な女の子なの」
…そんな訳ないよ
憂がそんな女の子だったら、世界にまともな人間なんていなくなっちゃうよ
憂「嫌いになったかな…梓ちゃん?」
…そうか、これが憂の答えなの
わざと嫌われて終わりにするんだね
こんなの…優しすぎるよ
でも、それが憂の答えなら、受け入れよう
例えそれが憂を更に傷つけてしまう事になっても…
梓「…憂なんて…大キライ」
その言葉は、例えようの無い絶望と喪失感
止めどなく溢れる悔恨の涙…愚かすぎる最悪の終わり
涙で滲んで息が触れ合う距離の憂の顔すら見えないのが、今は救いに思えるほどの暗い世界
憂「そっか。嫌い…なんだね、梓ちゃん?」
梓「…キライ」
もうやめてなんて言えない…悪いのは全部私だから…
憂「うん、わかった…それじゃ、はむはむするっ!」
…な、なに!?なんでっ!!
憂「はむはむーっ!」
今までの絶望や悔恨が吹き飛ぶほどの更なる混乱
も、もう、なにもわからないよ!?
梓「やっ!なっ、なんでっ?なんで、こ…って、やっ、やだぁー!」
もう完全にタダの子供だよ、これじゃ…でも、もうなにがなんだか…取り敢えずやめてーっ!
憂「やめて欲しいの?」
梓「だ、だって、こんなの訳がわかんないもん!やめて、お願い」
憂「じゃあ『憂が大好き』って言って」
梓「ふ、ふぇ?」
憂「そうしたら、やめてあげる」
梓「で、でも、そんなのって…え、あ、ま、またっ!?」
憂「言ってくれるまではむはむするもん!はむはむっ!」
もう混乱に次ぐ、混乱の嵐
気付いた時にはもう…
梓「す、好きっ!大好きっ!憂が大好きっ!」
憂「…やっと言ってくれたね、梓ちゃん」
梓「はぁ、はぁ…な、なに…が?」
もうただただ憂を見つめるだけ、他になんにも思いつかないよ…
そこにいたのは、透明感溢れるいつもの穏やかで優しい…私の大好きな憂
憂「これが私の答え、だよ、梓ちゃん」
梓「…え?」
憂「続くはずのない永遠ならそれでもいいよ。終わる度にもう一度、私が始めさせてあげる」
梓「何度…で…も?」
憂「うん。梓ちゃんが私の事を嫌いになったら、また好きにさせてみせるよ」
梓「…憂」
憂「永遠に変わらないなんて、つまんないよ。だから、変わってもいいよ。ううん、変わろうよ」
梓「それが憂の答え…なの?」
優しい微笑みを称えたまま、それでも凛とした強さを持って憂が答える
憂「そうだよ、これが私の答え」
「続くはずのない永遠」と「終わらない永遠」
そして憂の選んだ答えは
「変わり続ける永遠じゃない永遠」
…やっぱり憂にはかなわないよ、まったく
訳の分からないまま大混乱に過ぎた時間も、終わってみれば幸せ時間
今は落ち着いて、二人並んだお布団でおやすみモード
憂「ねぇ、梓ちゃん」
梓「ん、なに?」
憂「私がなにを考えてるか分かるかな?」
…分かるよ、そんなの。だって私の考えてる事ときっと一緒
梓「えっと…お邪魔します」
憂のお布団に潜り込んでみたりする
ハズレてたら…恥ずかしすぎるぞ、私!
憂「エヘヘ、はぐはぐ」
…やめて、一瞬ドキッとしちゃったよ
それでも抱きしめてくれる憂のぬくもりには逆らえないよ
でも、はむはむはもうやめてね…
憂「そうだ、幸せの数え方だけどね」
梓「う、うん」
…期待しちゃうよ、今度こそ
憂「はむはむの回数なんてのも、ありじゃないかな?」
梓「…絶対に嫌」
今の私の幸せは憂のはむはむ〇回分
なんて、私は毎回カウントするの?
梓「ぜったい絶対ぜーったいヤダッ!」
憂「全力で否定されちゃった」
梓「もう、はむはむは禁止ですぅ」
憂「それは私が断固拒否します」
梓「…憂のイジワル」
憂「あははっ、梓ちゃん可愛い」
梓「…拗ねるもん」
憂「ふーん、それじゃそんな梓ちゃんは私が嫌いになっちゃおうかなぁ」
え!そっ、それは困る!困っちゃうよ?
梓「そ、そんなの絶対ダメッ!」
憂「なんで?」
梓「だって…私が憂に嫌われたら、どうしていいかわかんないもん」
いつもの穏やかな…ううん、いつも以上に優しく穏やかな微笑みを浮かべた憂が、そっと囁く
憂「そんなの簡単だよ。梓ちゃんが何度でも、私を好きにさせてくれればいいだけだよ」
梓「それってハードルが高すぎるよ、私には…」
憂「大丈夫だよ…だって私はきっと何度でも梓ちゃんの事を好きになると思うから」
梓「…そうだといいけど」
憂「エヘヘ、ちょっぴり我が侭かな、私?」
…そんな可愛いのは、世間では「わがまま」なんて言わないよ、まったく
憂「こんな我が侭な子は嫌いになっちゃったかな?」
…やめて、瞳をキラキラさせながら、そんな危険な罠を張るのは
梓「分かったよ。全力で頑張るから、ね」
憂「約束?」
梓「うん。あの日教会で誓ったよね。
平沢憂に永遠の愛をって」
憂「だったら、今度は私が誓う番だね」
元々ほんの少しだった距離を縮めて、憂の唇が私の唇に優しく重なる
憂との4度目のキスは「変わり続ける永遠じゃない永遠」を誓うキス
つまり今の私の幸せは憂とのキス4回分
私は…私達は幸せです
お し ま い
最終更新:2010年09月25日 21:13