数秒後―――。
純「……舌噛んで死ぬかと思った……」
梓「純、涎出てるよ」
純「えぇ? 本当?」
純(もう、二度と乗らない……)
梓「次何にする?」
憂「ジェットコースター?」
梓「うん、そうしよっか」
純「ばけものだ……、あんな気持ち悪くなるの乗って、ジェットコースター乗ろうなんて……」
梓「いいから行くよ。追いてっちゃうよ」
純「……死ねる、これは死ねる……」
ジェットコースター、ミラーハウス、海賊船、
その他さまざまな遊具で遊んで、昼になった。
梓「いやー、楽しかったね」
憂「うん、とても!」
純「つ、疲れた……」
梓「お客さんも増えてきてるね……そうだ、もうお昼ごはん食べない?」
憂「あ、いいね!」
梓「あそこに芝生あるじゃん、そこにしようよ」
憂「うん!」
純「や、やっとお昼だ……うぷ、気持ち悪い」
梓「大丈夫? ジェットコースター乗り終わった辺りからそんな状態だけど」
純「なんとか……」
芝生
純「いただきまーす!」
梓「お昼ごはんになったら突然元気になったなぁ」
純「へへ、立ち直りが早いんだよ」
梓「……そうかなぁ?」
純「細かいことは気にしないー、それにしても、憂のお弁当美味しいね!」
憂「えへへ、ありがとう」
純「もう、完璧! これ売れるよ!」
梓「どれどれ……本当! 美味しい!」
純「でしょ? 憂と結婚できた人は幸せだろうなー」
憂「照れくさいなー」
純「憂食べないの?」
憂「あ、待って。その前にトイレ行ってくるよ」
梓「んー」
憂はとてとてと、トイレに向かう。
梓「美味しいねー、憂の料理」
純「うん」
梓「……………………」
純「……………………」
梓(気まずい……何か話題を……)
純「あ、あのさ」
梓「? 何?」
純「志望校、どこにしたの?」
梓はすこし、既視感をおぼえた。
梓「私は……N女だよ」
純「あ、私と同じ」
梓「へえ、純もなんだ」
純「うん。ねえ、梓」
梓「んー?」
純「大学行っても、仲良くいようね」
梓「もちろんだよ。憂も一緒だしね」
純「うん。また、三人でさ、プール行ったりしようよ」
梓「いいね、それ」
梓(大学行っても、ううん、大人になっても)
梓(ずっと、三人一緒でいよう)
憂「ふいー、混んでたよ、トイレ」
と、そこに憂が帰ってきた。
憂「何の話してたの?」
梓「うん。大学行ってもずっと一緒だって話」
憂「ずっと、一緒かぁ」
梓「うん」
憂「いれるかな? ずっと」
梓「いれるよ。ずっと」
憂「……楽しみだなぁ、大学」
梓「え?」
憂「こうやって、また三人で大学いけるなんて、楽しいことだと思わない?」
純「あー、まあ、確かに」
憂「でしょ? だから、楽しみなんだ」
時刻は12:45
初夏の日差しが、三人を照らしていた。
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昼食をとった三人はその後、まだ遊んでいない遊具に乗った。
遊園地内の遊具をあらかた経験したころには、時刻は4:00を指していた。
憂「まだ、乗ってないのある?」
梓「うーん、あ、あった!」
憂「何?」
梓「観覧車!」
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観覧車に三人は乗り込んだ。
すこしの振動と共に、機体が動き出す。
浮上する感覚。
梓「最後って感じがするね」
憂「うん」
純「あーあ、何かこうしてみるとむなしいなー」
梓「まあ、確かに感傷的になるね」
憂「でもさ、楽しかったよね?」
純「うん、まあ」
純「フリーフォールやジェットコースターさえなければ、かなり良かったよ」
梓「まだ、トラウマなんだね」
純「だって、あれは怖すぎるよ」
梓「何度も乗ってたら、慣れるよ」
純「あれだけは慣れたくないね」
憂「……あ、見て! 綺麗!」
純「どれどれ、お、本当だ!」
観覧車内からは街が見渡せた。
純「あ、あれ私の家かも」
ずっと向こうをゆびさして、純が言う。
憂「じゃあ、私の家はあれかな」
梓「あ――桜高」
純「え? どこどこ?」
梓「ほら、向こう」
純「あ、本当だ!」
摘めそうなほど小さく、桜高が見える。
純「何だか、巨人になったみたい」
憂「うん」
梓(……雄大だなぁ)
梓「あーあ、疲れちゃった」
憂「あ、そうかも。遊び疲れがきたよ」
梓「何せ私は12時間も外にいるからなー。もう腰が痛くって」
純「梓、おばあちゃんみたい」
梓「なにおー! 失礼な!」
純「でも、確かに疲れたね」
梓「でしょ?」
純「うん」
憂「また、勉強の毎日かぁ」
純「受験生だからね」
憂「憂鬱だなぁ。ずっと、遊んでいたいよ」
梓「唯先輩みたいなこと言うね」
憂「姉妹だからね」
梓「ふうん」
やがて、観覧車が地上へゆっくりと落下していく。
憂「終わっちゃうね」
純「うん」
梓「いやいや、帰るまで楽しもうよ」
憂「あ、確かにね」
梓「帰るまでが、遠足なんだしさ」
憂「遠足じゃないけどね」
梓「小っちゃいことは気にしない」
三人は観覧車から出る。
憂「日が長くなったね。まだ夕日じゃない」
純「うん」
梓「帰るころには夕日だよ、きっと」
憂「かもね」
三人はフレンズランドの出口へと向かった。
電車に揺られておよそ1時間。
三人は見慣れた桜駅に到着した。
純「おお、梓の言ったとおり、もう夕焼けだ」
梓「でしょ?」
憂「結構綺麗だねー」
梓「うん」
純「あれ? みんなどうやって駅に来たの?」
梓憂「徒歩」
純「私だけ自転車か……」
梓「押してけば?」
純「うん、そうするよ」
純は駐輪場へ向かい、数秒して自転車を持ってきた。
純「じゃ、行こうか」
梓「うん」
赤く染まった道を、三人はゆっくりと歩く。
梓「また行こうね」
憂「うん」
純「今度はフリーフォールなしね」
梓「えー、つまんなーい」
憂「あ、それでさ。夏になったらさ、プール行こうよ」
梓「あれ? そういえば夏になったら唯先輩たち戻ってくるの?」
憂「あ、うん。帰省してくると思うよ。楽しみだなぁ」
梓「そのとき、教えてよね」
憂「もちろんだよ」
純「……なんかさ、来年は大学生になるって言う実感がわかないなぁ」
梓「確かに、ね」
梓「あ、でも浪人してるんじゃないの?」
純「うう、それは考えたくないなぁ」
梓「ま、私も頑張らなきゃね。N女行くんだから」
憂「あ、そうそう。いつの間にN女にしたの? 朝の時点では音大にしようか悩んでいるって言ってたのに」
梓「だって、先輩達が待ってるんだもん。N女を選ぶよ」
憂「よかった、お姉ちゃん喜ぶよ」
純「みんなで、絶対現役合格しようね」
梓「うん。絶対」
憂「……あれ? でも、そんなうまくいくかな? よく考えたら」
梓「うまくいくよ。私たちなら」
純「そうだよ。何しろ私たちだもん!」
憂「理由になってないような気がするけど……自信が出てくるよ」
梓「大丈夫だって、信じれば夢は叶うって言うじゃん」
純「そうだ、合格したらパーティ開こうよ! 三人でさ、美味しいもの食べるの」
梓「いいね! それ」
憂「楽しみー」
梓「――あ、そういえば。もう少しで修学旅行あるね」
純「修学旅行かー」
憂「京都だよね、行くの」
梓「うん」
純「京都で何食べようかなー」
梓「純は本当、食べるの好きなんだね」
純「へへ、まーね」
純「あ、私こっちだから。じゃあね」
梓「あ、うん。また学校で」
憂「じゃあね、純ちゃん」
梓「……二人だけになっちゃったね」
憂「うん」
梓「ねえ、梓」
憂「なぁに?」
梓「私たち、純も憂も私も、――ずっと親友でいられるかな?」
梓「社会に出ても、ずっと、一緒かな?」
憂「社会に出ても一緒、かどうかはわからないけどさ」
梓「けどさ、何?」
憂「月に一度はこうやって、三人で遊ぼうよ。週に一度だっていいや」
梓「いいかもね、それ」
憂「三人でね遊ぶんだよ。楽しくさ」
憂「大人になっても、ずっと、ずっと」
梓「――――そうだね」
憂「いつまでも子供じゃいられないけどさ。そうやって遊ぶのって、悪くないと思うんだ」
梓「今日みたいに、遊園地行ったり?」
憂「お酒飲んだり、ね」
梓「今からわくわくするよ」
憂「私もだよ」
憂「まずは、N女に入ろうね。みんなで」
梓「うん。皆で」
憂「――頑張ろうね」
梓「うん」
梓(勉強、頑張らないとなぁ……)
梓(純たちと、同じ大学行って、そして……)
梓(そのためにも!)
気がつくと、声に出していた。自分をいきり立たせるように。
梓「目指せ、N女現役合格、おー!」
梓はいきなり手を振り上げた。
それを見た憂も。
憂「おー!」
と、手を振り上げた。
それを見ながら少しばかりの嬉しさを感じる。
きっと私たちなら大丈夫――梓はそう思うことにした。
終わり
最終更新:2011年10月18日 01:51