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中野家

梓「あ、電話。純からだ」

梓「何だろ、こんな時間に」

ガチャ

純『あ、梓? 夏祭り行かない?』

梓「えー、もう受験生だよ、私たち。もう少しまじめに勉強して……」

純『高校生最後の夏なんだからさ、存分に遊ばないと!』

梓「……まあ、そうかもしれないけど」

純『勉強ばっかに根詰めてたら、頭がパンクしちゃうよ。ね?』

梓「……たまにはいいかも、ね」

純『でしょ? じゃあ決まり! 神社で待ってるねー』 梓「ああ、神社のお祭りね」

純『うん』

梓「わかった。行くから待っててね」

純『了解!』

プッ

梓「じゃあ、着替えようかな……ジャージ姿で行くのもアレだしね」

三十分後

神社  境内

梓「お待たせ」

純「やほー、梓。来ないかと思ったよ」

梓「まさか。一度した約束は、守るたちなのよ。私」

純「えへ、よかったー」

梓「あれ、純一人だけ?」

純「うん。そだよ」

梓「憂は?」

純「唯先輩と一緒にいちゃいちゃしてるって」

梓「ああ、明日で唯先輩、帰っちゃうからね」

純「うん」

梓「もう、来年までは会えないのかな……唯先輩達と」

純「今生の別れじゃあるまいし。大学寮に帰るだけでしょ」

梓「ま、そうなんだけどね」

純「じゃあ、行こうよ。お祭り」

梓「何か、純と二人だけっての初めてな気がする」

純「そうだっけ?」

梓「うん。あまり覚えない」

純「言われて見るとそうかも」

梓「でしょ?」

純「いっつも憂がいたからね」

梓「うん」

純「ま、いいじゃんいいじゃん。二人っきりってのもテンション上がらない?」

梓「上がるね」

純「夏祭りってさ、すごく興奮するんだよね」

梓「わかる気がする」

純「周りの喧騒っての? そういうのに囲まれてるとさ、テンションだだ上がりでさ」

梓「うんうん」

純「やる気みたいのがみなぎってくるの!」

梓「あるある!」

純「あ、早く行かないと!」

梓「うん。行こっか!」


夏祭り会場

純「うわー、人で一杯」

梓「人に酔いそうだね」

梓「なんか、お金とか落としそう」

梓「純、気をつけてね」

純「うん、大丈夫だって。あ、金魚すくいしない?」

梓「うん。いいね」

純「おッちゃん、網ちょうだい!」

屋台の主人「あいよ」

純「よーし、五匹とるぞ!」


数秒後

純「……網破れた」

梓「純、金魚すくいへタだねえ」

純「ち、違うよ! 今回は手元が狂ったんだよ!」

純「次こそは!」


数秒後

純「また破けた……」

梓「はは。私にやらせて。もっとうまく出来るよ」

純「な、じゃあやってみてよ!」

梓「いいよ、驚かないでね?」


数秒後

梓「こういうのが出来ても、将来生きていけないわけで」

純「ほーら、やっぱり出来なかったじゃん」

梓「いや、私は別に? こういうところで才能が開花しても嬉しくないし?」

純「負け惜しみにしか聞こえないよ」

梓「いや、そういうんじゃなくてね。実際問題……」

純「わかったから、次行くよ」

梓「次何するの?」

純「射的でもしよっか」

梓「あ、射的は得意なんだ!」


射的終了後

梓「へへーん。どうよ! キャラメル二個!」

梓「あれ? 純は何もないの?」

純「くぅ! 何も言い返せない!」

梓「へへー、射的は得意なんだ」

純「おかしい、銃身が曲がってたのよ、あれ」

梓「負けを認めなさい、純」

純「悔しい! マジで!」

純「じゃ、じゃあさ、型抜きしようよ! あれなら負けないよ!」

梓「いいけど、泣かないことね!」


型抜き終了後

純「嘘だ……あと一センチくらいだったのに……なんであそこで割れる?」

梓「経験の差ね」

純「くー! 悔しい!」

梓「まあまあ、負けて悔しいのはわかるから」

純「うー! うー!」

梓「あ、りんごアメ食べない?」

純「……いいけど」

梓「じゃ、買おうよ」

純「うん」

純「りんごアメ、二つください」

屋台のおっさん「600円ね」

純(一個300円? 高すぎない?)

純「はい、600円」

屋台のおっさん「毎度」

純「はい、どうぞ」

梓「ありがと、純」

純「うーん、甘すぎる」

梓「それがいいんじゃない」

純「私辛党なんだよね」

梓「え? いらないならちょーだい!」

純「やだよ! 私のだもん!」

梓「えー! けちー」

純「それはそうと、次何する?」

梓「くじ引きとか?」

純「あれってはずれしかはいってないんだよ。一回もあたったことないもん」

梓「うーん、じゃあ食べまくる?」

純「いいね! そうしよっか」

梓「まずは焼きとうもろこしね」

純「その後は焼き鳥、綿アメ!」

梓「焼きそば、チョコバナナ!」

純「いいねえ、じゃあ、早速買いに行こうよ!」

梓「うん!」


数分後

純「全部買ったけど……どこで食べよっか」

梓「あ、あそこの石段のところでいいんじゃない?」

純「あ、そうだね。そこにしよっか」

梓「じゃあ、早く行こう。溶けちゃうよ、チョコ」


石段

梓「食べきれるかな?」

純「大丈夫だよ! 明日から頭にカロリー使うんだから。今のうちに蓄えないと!」

梓「そうだね。では」

純梓「いただきまーす!」

純「うーん、やっぱり綿アメおいしい!」

梓「辛党じゃなかったの?」

純「綿アメは別格だよ」

梓「ふーん、あ、焼きとうもろこし美味しい」

純「去年唯先輩さ、リスみたいにそれ、食べてなかった?」

梓「ああ、げっ歯類みたいにね」

純「あれは笑ったな~」

梓「あれ、憂直伝の食べ方らしいよ」

純「へー、平沢家ではあーやって焼きとうもろこし食べるんだ」

梓「うん。憂がやってる姿想像したらおっかしくてさー」

純「あー、確かに」

梓「実際、あーやって食べる方が難しいよね」

純「だね」

純「チョコバナナは……普通だなぁ」

梓「あ、焼き鳥はうまい! いいね、このタレ」

純「あ、本当だ。すごい美味!」


梓「憂も誘えばよかったねー」

純「本当だね」

梓「憂と一緒に食べたら、あの食べ方見れたかな?」

純「あー、みれたかもね。つくづく惜しいことをした!」

梓「来年は誘おうね!」

純「うん。来年は――」

純(来年、か)

純(私たち、大学生になってるんだ)

純(想像できないなぁ)

純(来年、また来れるかな?)

梓「――どうしたの? 純」

純「ううん。なんでもない」

梓「あ! 花火!」

純「え? どこどこ?」

梓「向こう向こう! ほら!」

純「あ、本当だ!」

梓「行ってみようよ、あっち!」

純「え、ちょっとまっt――

純が制止するより早く、梓は純の手を引いて走り出していた。

梓「早く早く!」

純「わかったから! 手を離して!」

梓「あ、ごめんごめん」

純「もー、せっかちだなぁ」

梓「えへへ」

純「歩いていこうよ。なくなるわけでもないし、ここからでも見えるし」

梓「そうしよっか」

純「あー、でもいきなり引っ張られるんで驚いたよ」

梓「どっか怪我した?」

純「ううん。大丈夫」

梓「よかった」

けたましい音を立てて、花火が燃え盛る。

赤、青、緑。様々な色の花が、夜空を彩る。

梓「綺麗だね」

純「うん、とても」

自然に感想がもれる。

梓「でも、花火って何か寂しくならない?」

純「え?」

梓「すぐに終わっちゃうところとかさ、何か寂しいな」

純「あー、わかるかもしれない」

梓「ま、だから綺麗なんだけどね。一瞬で終わっちゃうから」

純「――だよね」

梓「夏、終わっちゃうね」

純「そんな感じがするね」

梓「あーあ、本格的に受験勉強やらないとなー」

純「悪夢のような日々だね」

梓「まったく」

純「ま、それで大学は入れるんなら、お安いものなのかな?」

梓「落ちたら悲惨だね」

純「浪人は嫌だなー」

梓「なのにお祭りなんか行ってるんだからね」

純「ま、今日くらいは休んでもいいんじゃない?」

純「明日から本気出すし」

梓「明日もそれ言わないでよ」

純「どんどん上乗せしてくんだ」

梓「いまに破産するよ」

純「そうかな?」

梓「多分ね」

純「でもさー、不安になってくるなー。受かるかどうか」

梓「いくら勉強しても、そればかりはね」

純「もー、大学も義務教育にして欲しいな」

梓「だったら楽だよね」

純「でしょ? 将来偉くなって、大学も義務教育にするんだ!」

梓「応援してるよ」

純「私が偉くなって……そのときは、梓を秘書にしてあげるね」

梓「夢のような話だね」

純「まあね、確かに」

でもさ、と純は語を継ぐ。


純「子供のうちしか、夢は見られないんだよ」

純「今のうちに夢見といた方が得じゃない?」

梓「あと二年しか、夢を見られないのかー」

純「大人になったら、今度は夢を叶えるんだ」

梓「なるほどー」

純「あ、花火もクライマックスに近づいてきたね」

梓「本当だ。どんどん大きくなってるからね」

純「あーあ、もう終わっちゃうよ。私の安息」

梓「まあね。でもさ、受験終わったら毎日がパラダイスじゃない?」

純「まだ半年もあるよ……」

梓「あ、本当だ」


数十分後

梓「花火、終わったねー」

純「うん。帰ろうか」

梓「うん。帰ろう」

二人は神社を出た。


純「お祭りの騒がしさがさ、まだ耳に残ってるよ」

梓「うん。いきなり静かになったから、耳がきーんってなる」

純「耳鳴りみたいだね」

梓「そうだね」

純「明日には直ってるだろうけどさ」

静寂に包まれた夜の道は、なんだかとても気味が悪い。

純「なんか、怖くなってきちゃった」

梓「不気味だよね」

純「ねえ、手繋がない?」

梓「うん。繋ごっか」

純「あー。手、繋いでると何か安心するよ」

梓「確かにね」

純「明日で、唯先輩たちともお別れかぁ」

梓「しんみりとする話題、ふってこないでよ」

純「でもさ、むなしくない?」

梓「うん、むなしいって言うか、寂しいかな?」

純「あーあ、これといったこと何も出来なかったなー」

梓「そうかな? 楽しんでくれたと思うよ」

純「そうかな?」

梓「そうだよ。それにさ」

純「何?」

梓「唯先輩達にとって、私達と再開できたことが何よりも嬉しいんだと思うよ」

純「……うん」

純「そうかもね」

梓はつい、と空を見上げる。

溢れんばかりの星空。

梓「夏っぽい夜空だね」

純「あ、本当だ」

梓「あ、あれ火星じゃない?」

純「あの赤いの?」

梓「うん」

純「ああ、火星だね」

梓「何か、イイね」

純「うん。何かね」

梓「――ねえ、純」

純「何? 梓」

梓「来年も、また来ようね」

純「今度は、皆で」

梓「うん。皆で――」

空を見ながら二人は、ゆっくりと歩いていく。

より長く一緒にいられるよう、ゆっくりと歩いていく。

梓の手の暖かさに、純はひたっていたかった。
                               終わり



最終更新:2010年10月01日 02:26