――ザーザーザー……

憂「お姉ちゃんこっちだよっ。早く~」コッチコッチ

唯「まってーー、ういー」タタタ

はい、雨が降ってきました。夕立でしょうか。
お姉ちゃんと一緒に買い物に行った帰りに降ってきました。

公園のベンチで雨宿りです。
ベンチに付いている大きな傘が雨を防いでくれます。

お姉ちゃんの方を見ると、息を少し荒くして手でパタパタと扇いでいます。
お姉ちゃんは途中で転んでしまったので、少し服や体が汚れていました。

憂「お姉ちゃん大丈夫?」

唯「うん、平気だよー」

憂「結構走ったもんね」

憂「ベンチに座ろう?」

唯「うん!」

唯「もーやんなっちゃうね。急に降り出してさ」

憂「だね~。服が濡れちゃったよ髪の毛も」

唯「憂、髪の毛額に張り付いてるよ」クスクス

憂「え?本当?やだっ」

唯「ほら、憂こっちおいで」

憂「うん」

お姉ちゃんはハンカチで額を優しく拭いてくれました。
流れで頬や首回りも拭いてくれました。

うなじは――ちょっとくすぐったいですね。

唯「よし、拭いたよー」

憂「ありがとう、お姉ちゃん」

唯「ん~リボンとろっか。こっちも拭いてあげる」

お姉ちゃんがリボンをほどいてくれました。
微かにしっとりと湿った髪が首もとに纏わり付きます。

唯「憂の髪は雨の匂いと、憂の匂いがするね」

お姉ちゃんは髪の毛を優しく拭きながらそう言ってきました。

憂「もう……恥ずかしいよ」

唯「ごめんごめん、でもなんかいい匂いなんだもん」

憂「そうかな……?」

唯「うん、甘いよー」スンスン

憂「やーっ!、嗅がないでよぉ」

唯「ちょっとくらい、いいではないかー」ヘヘヘ

憂「少し汗かいてるからダーメっ」

唯「憂の汗は甘いんだね!」

憂「お姉ちゃんじゃないんだから……」

唯「じゃあ、ぎゅってしていい?」

憂「……うん、いいよ?」

唯「やったー。ではお言葉に甘えて」ギューッ

憂「んっ」

唯「やわらかーい。いいにおーい」ギューギュー

憂「お姉ちゃんもいい匂いするよ」

唯「そうかな~?」

憂「うん。それに少し土の匂いするね」

唯「土?転んだ時に付いちゃったかな」

憂「今度私が拭いてあげるね」

唯「おお、ありがとー」

憂「まず髪の毛だね~」

お姉ちゃんはベンチの上で正座になり
両手を膝の上にちょこんと乗せてます。

準備オッケーだからどうぞ!って感じですね。

憂「ふふ、じゃあ拭いちゃうよ~」

唯「ほーい」

憂「お姉ちゃんドロだらけだよ」

唯「いやあ面目ない」

少し顔を朱くするお姉ちゃん。
お姉ちゃんの顔を見るだけで優しい気持ちになれます。

髪の毛を拭いている間
凝視されているので少しだけ恥ずかしいですね。

憂「お姉ちゃん首を拭くから髪、結んでおくね」

唯「うん!」

お姉ちゃんの背中に回って
私のリボンで髪を結んであげました。
どうせだから私と同じポニーテールです。

憂「はい、完成」

唯「あ、これ憂と同じポニーテールだね?!」

憂「そうだよ~似合ってるよ」

唯「えへへ、憂と同じ、憂と同じ!」

憂「そうだねー」ニコ

唯「ねー」ニコ

結構拭いてあげましたが、ドロの跡は消えませんでした。

憂「結構汚れているから、帰ったらお風呂入ったほうがいいね」

唯「うん、そうしよっかな」

憂「帰ったら準備するからね~」

唯「うん、ありがとねー」


――ザーザーザー……

雨は止みません。
ただただ、ザーザーっと音を出し続けていました。

お姉ちゃんは薄っすら口を開けて空を見上げています。

私は横でお姉ちゃんを眺めていました。
お姉ちゃんはふらふら頭を揺らしているので
ポニーテールも同様にゆらゆら揺れています。

その小さなポニーテールに目から離せませんでした。

唯「雨、止まないねー」

憂「うん、帰れないね」

唯「うん、憂のご飯食べれないよー」

憂「大丈夫だよ。そのうち止むから」

唯「あめーやめーー!」

憂「お姉ちゃん、アイス食べる?ただ待つのもアレだしね」

唯「お、食べる食べるー」

唯「憂も食べよーよ」

憂「食べるよ~」

唯「外で食べるとなんか味が違って感じるよねー」

憂「そうだね~新鮮な感じだよ」


お姉ちゃんは足をブラブラさせてアイスを食べました。

お姉ちゃんの一挙一動がとてもかわいらしいので目が離せません。

憂「お姉ちゃん、アイス美味しい~?」

唯「もっちろん!憂と一緒に食べてるしねー」

憂「よかったあ」

唯「前、家に居たときもこんなに雨が降ってたよね」

憂「うん、リビングでお姉ちゃんと居たね」

憂「お姉ちゃん、ギー太と練習してたよ」

唯「あーそうだったあ。ギー太持ってくればここでも弾けたなぁ」

憂「ギー太大きいから大変だよ~」

唯「うーん、いい子なんだけどなぁ」

唯「重いのが玉にキズだね」

唯「ダイエットさせたいよ」

憂「ふふ、お姉ちゃんがギー太支えられるくらい強くならなくっちゃ」

唯「毎日持ってるからね、強くなるよ!」


――ザーザーザー……

アイスも食べ終わり、気がつくとお姉ちゃんと寄り添う形になっていました。

少し胸がドキドキとするけれど
ほんのりと髪から漂うシャンプーの甘い匂いと
雨に濡れたコンクリートの独特の匂いが、私を落ち着かせてくれました。

そのまま雨が止むまでぼうっとしていましたが
耳を澄ますとお姉ちゃんが何かを呟いていました。

憂「お姉ちゃん、何を歌っているの?」

唯「雨の歌だよー」

憂「雨?」

唯「ほら、前一緒に歌ったじゃん」

憂「ああ、あめふりだね」

唯「雨の日は歌いたくなるもんだよ」

憂「楽しくなるもんね」

唯「よーっしそれじゃあ一緒に歌おうーー!」

憂「うん!」

唯「ギー太が居ないからアカペラだよー」

憂「私、手拍子するね」

唯「うん!頼んだー」


――パチ パチ パチ パチ

唯「あーめあーめ ふーれふーれ かーあさーんがー」

唯憂「じゃーのめーで おーむかーい うーれしーいなー」

唯憂「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラーン」

唯憂「あーめあーめ ふーれふーれ かーあさーんがー」

唯憂「じゃーのめーで おーむかーい うーれしいなー」

唯憂「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン」


唯憂「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラーーン」


唯「……ふ……ふふ」

憂「えへへ……」

唯「あはははははは」

憂「あはあはははは」

唯「もー憂、笑わないでよー」アハハ

憂「お姉ちゃんから笑ってきたよ~」クスクス


そのまま二人して一頻り笑いあいました。
笑いが収まる頃には私達はまた肩を寄せ合っていました。

そして、ふと気が付けば雨も止み、空はすっかり晴れ上がっています。

憂「お姉ちゃん、ほら晴れてるよ」

唯「うん、キレイだねー」

唯「やったー帰れるよおーー!」ダッ!

憂「あっ」

唯「雨上がりさいこーー」

唯「お、虹発見!」ビシッ!

憂「あ、本当だぁ。綺麗だね」

唯「そう言えば、虹の足元にはお宝が眠っているみたいだよー」

唯「お宝って何かなー、アイスいっぱいあるかな。今なら探せるかも!!」

憂「ここからだと相当遠くになるよ」

憂「それにアイスならここにいっぱいあるよ~」

唯「そうだった!憂はお宝いっぱい持ってるねぇー。いい子いい子」ナデナデ

憂「うん……!」

唯「よーしアイスもいいけど、憂のご飯食べに帰るぞーー」

憂「うん!張り切って作っちゃうよ~~」

唯「今日はハンバーグ?オムライス?」

憂「ん~出来てからのお楽しみ!」

唯「ちぇっ。いいもん憂のご飯は何でも美味しいから」

憂「今日もお姉ちゃんの好きな物だからね」

唯「さっすがういーー!」ギュ!

唯「そうと分かれば早く帰ろう!」

憂「うん、慌てちゃダメだよ」

唯「分かってるよー」

憂「はい、お姉ちゃん、手」スッ

唯「うん!」ギュ!

憂「えへへ」ギュ!


雨宿りの短い時間は
私達をいつも以上に幸せな気持ちにしてくれました。

今度お姉ちゃんと一緒に買い物行くときは
雨が降っても大丈夫なように
折りたたみ傘を一本持っていこうと思います。





                         おしまい



最終更新:2010年10月01日 02:42