休憩終了

 律「それじゃあ三回目行きますよ! ペダル踏み外さないように注意な! 最初からペダルに足乗せておけ! 私が支えておいてやるから!」

 澪「分かった」

 澪(今度は上手く漕ぎ出して、ちょっぴりでも遠くまで行ってやる!)

 澪「行きます!」

 律「っしゃあ! いけ! 澪!」

 スイー グラグラ バタン

 律「おお、澪! 少しだけ進めたんじゃないのか!?」

 澪「そうかも知れない!!」

 律「やったな!!」
 澪「やったー!!」

 律「それじゃあ少しずつ支えを減らしていこうな!」


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 練習開始から六時間経過、夕暮れも近くなってきた頃

 澪(三回目から全然上手くいかなくなった……)
 澪(全然距離は伸びないし、律の支えなしじゃペダルに足を乗せるのも難しいよ……)

 律「よっしゃぁ澪! 次行くぞ!!」

 澪(律はああ言ってくれてるけど、内心飽きてるに違いないよ……。律は元々飽きっぽいし……)
 澪(私はやっぱり運動音痴だから……きっと上手く出来ないんだよね……)
 澪(もういい時間になってきたし、今日は終わりでいいよ……)

 律「どしたー? 澪?」

 澪「今日はもういい時間だから、そろそろ帰ろうよ」

 律「えー? まだちょっとくらいいいだろ?」

 澪「お母さんに怒られちゃうよ」

 律「それもそうかもなぁ。じゃあ最後に一回くらいやって帰ろうぜ」

 澪「なんでよ。早く帰らないと怒られるって言ってるじゃん」

 律「一回くらいやっても帰る時間が五分くらい遅くなるだけだろ? パンザマストが流れるまではまだ一時間以上あるよ?」


 澪「もう帰ろうって言ってるじゃん!!」
  「律はいいよね! 運動神経が良くて! 私は駄目なんだよ!! 律と違って運動音痴だから!!」
  「律は言ったよね? 二時間くらいで補助輪無しで乗れるようになったって! 私は今日だけで何時間練習した!?」
  「もう二時間なんてとっくに過ぎたよ!! 六時間だよ!!!!」
  「だから無理なんだって……、私はまだ補助輪外せないんだよ……」

 律「なーに言ってんだよ。諦めなければそのうち乗れるようになるって。じゃあ今日はいいけど、明日また練習しような!」

 澪「分かった。だから早く帰ろうよ」

 律「仕方ないなぁ」

 澪「それより律、早く補助輪つけ直してくれよ」

 律「えっ……」アセッ

 澪「もしかして付け方分からない??」

 律「う、うん……」

 澪「どうやって帰るんだよ! 今から歩いて帰ったら間に合わないよ!!」 

 律「うっ……、頑張って付けてみる」

 澪「早くしないと怒られるよ……」

 律「急ぎます!!」


 10分経過

 律「……ごめん、まじで直し方分かんない」

 澪「えぇ~、どうやって帰ればいいんだ……」グスン

 律「こうなったら! あと20分以内に自転車に乗れるようになればいいんだよ!! 補助輪無しの自転車なら30分で家まで着く!!」

 澪「……そんなの無理! 六時間練習して出来なかったものを、20分で出来るようになるわけ無いじゃん!! 無理だよ……」

 律「そうじゃなかったら歩いて帰るか? 一時間以上かかるぞ……」

 澪「そのほうが確実だよ。早く帰ろう」

 律「駄目だ! それじゃ遅刻するのが確定じゃんか!」

 澪「でもだって、それしかないじゃん!!」

 律「少しでも可能性があるなら、それにかけてみなきゃ駄目なんだ!! ってお父さんが読んでた漫画に書いてあったぞ!」
 律「だからやってみろ!!」

 澪「私は無理だって言ってるじゃん!! 今日は絶対に無理だよ!! 諦めが肝心だよ……」

 律「諦めちゃ駄目だ! 諦めたらそこで終わりなんだぞ!!」

 ビクッ

 律「すぐに諦める澪なんて嫌いだ!! だから頑張れ!! 集中してやれば出来るようになるよ!!」

 澪「……嫌っ! 律にだけは嫌われたくないよ!!」

 律「じゃあ頑張れ! 20分で乗れるようにするんだ!」

 澪「出来るか分からないよ……?」

 律「きっと出来る! 駄目だったら私も一緒に謝るから」

 澪「分かった……頑張ってみる」

 律「アドバイスをもう一度しておくぞ。まず肩の力を抜いて、ペダルに足を乗せる。前をしっかり見て、ゆっくり漕ぐんだ」

 澪「うん……」

 澪(肩の力を抜いて、ペダルに足を乗せる。前をしっかり見て、ゆっくり漕ぐ)

 律「それじゃあ行くぞ!!」

 律「いっけぇー!!」

 チャリチャリ スイースイー 

 澪「おわっ、ほっ」

 律「初めてこんなに漕いでる!!」

 澪「うわっ、すごいよ! 律!! 私ちゃんと漕げてるよね!!」

 律「おう! すごいぞ澪! よし、そこでゆっくり曲がってこっちに戻ってくるんだ!!」

 澪「分かった!」

 律「ハンドルを切りすぎるなー! 一気に切るとバランスを崩すぞ!!」

 澪「頑張る!!」

 澪(ハンドルをゆっくり切って、もしかして体重をこっちに上手くかければ曲がれるのかな?)

 スイーッ シャーッ

 律「うはーっ!! やったじゃん澪! ちゃんと曲がってるよ!!!!」

 澪「すごいすごい!! 私、補助輪無しで自転車に乗れてる!!」

 律「よし、こっちまで戻って来い!!」

 澪「う、うんっ!」

 シャーッ シャーッ

 律「あれ、澪さん、そろそろブレーキかけてもいいんじゃないですか? ちょ、ちょっと待った! 止まれぇええええええええええ」

 ガシャーン

 澪「律! 大丈夫か!? 律!?」

 律「お、おう……なんとか大丈夫だ……」

 澪「良かったぁ……」

 律「ブレーキはちゃんとかけてください……」

 澪「ごめん、漕ぐのに夢中でブレーキかけるの忘れてた……」

 律「……次から、気をつけてください」

 澪「ごめん……」


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 律「ってなわけで、澪はパンザマストが鳴るギリギリのタイミングで家に帰ることが出来たというわけさ」

 唯「へー! じゃありっちゃんは澪ちゃんの自転車の師匠ってことだね!!」

 律「おうよ! 師匠と呼びたまえ!!」

 澪「師匠なんておこがましいんだよ! ただの根性論を語っただけだろ!!」ゴチン

 律「なっ! その根性論のおかげで澪は自転車に乗れるようになったんだろ!!」

 梓「でもその根性論ってどうかと思いますよ? それに補助輪付けれなかったのは誰ですか」

 律「う、うるさいっ! 私ですよ! 私が補助輪を付けれなかったんですよ!」

 紬「でも二人の仲の良い所聞かせてもらってちょっと嬉しいかも~」

 唯「だねー」

 梓「そういえば律先輩は、どうしていきなり澪先輩に補助輪を外させようとしたんですか?」

 律「んー、なんでだったかなぁ」

 澪「律のことだから咄嗟の思いつきだろ」

 唯「りっちゃんならそうかもね!」


 律「あ、そうだ。思い出した。澪が補助輪取れたらさ、二人一緒に、今までより遠い場所に行けるだろ? 私、澪と一緒にサイクリングがしたかったんだよ。」
 律「二人で一緒に思い出作りたいなーってな」

 紬「あらあら、二人共お熱いわね!」

 澪「なっ! 律!! そんなこと一言も話してくれなかっただろ!!」

 律「あれー? 言わなかったかなぁ……」

 唯「本当に二人共仲良しさんだね!!」

 梓「羨ましいくらいです」

 律「何言ってんだよ、今はお前らも大事な友達だろ?」

 唯「りっちゃん……!!」
 梓「律先輩!!」
 紬「りっちゃん……」
 澪「律……!!」

 澪「一人でカッコいいこと言ったつもりになってるな!!」カァーッ

 ゴッチン!!

 律「痛っいなぁ!!!!! 何すんだよもう!!!!!」

 こうして今日の放課後も、練習時間がどんどんと減っていくのであった。
 おしまい。





 唯「ところでパンザマストって何?」

 律「パンザマストって言ったら児童の帰宅時間を知らせる放送だろ」

 梓「そんな言葉聞いたことないです」

 紬「私も無いわねぇ……」

 澪「えっ! みんなパンザマストって言わないのか!?」

 唯「言わないよぉ」

 梓「ですね」

 紬「無いわね」

 澪・律「ええええええええええええええ!!!!!!!!!???????????」

 おしまい。



最終更新:2011年10月18日 02:05