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梓「し、失礼しま~す……」
和「あら、梓ちゃん。まさか来てくれるとは思わなかったわ」
梓「いえ、そんな……でも私、和先輩のことあまり知らなくて……」
和「確かに。私達って、本当に友達の友達みたいなものだものね。
でもね、私はこれでも、梓ちゃんと仲良くなりたいって本当に思ってるのよ?」
梓「そ、それはその……ありがとうございます」
梓「でも、どうして私と仲良くなりたいんですか?」
和「そうね……憂と唯の共通の友人だからっていうのもあるけど、梓ちゃんもある意味、私と近いからかな」
梓「近い……ですか?」
和「そう。ムギの場合は、友人かどうかっていう不安が私と同じだった。
律はそうね……そういうわたしの気持ちを知って、あえて触れない優しさを見せてくれた。
澪はね、私の気持ちを一番に理解してくれた。今まで実感がなかっただろうに、改めて実感させられて寂しくなるだろうに、それを我慢して、私のことを気遣ってくれた。
唯は、そうやって皆が私の不安を解消してくれるって分かってたから、こんな場を作ってくれた」
梓「…………」
和「だから梓ちゃんは、私と最も近いのよ。
同じでも、気遣ってくれるのとも、理解しあおうとしてくれるのとも、助けようとしてくれるのでもない。
背中合わせでもなく、隣同士にように、近いのよ」
梓「……よく、分かりません……」
和「……そうね……難しく言いすぎたかしら?
まぁ簡単に言ってしまえば、不安なのよ。卒業するのが」
梓「あ……(それって……)」
和「梓ちゃんの場合は、私たちが卒業するのが不安、って言葉に置き換えた方が良いかしら?」
梓(澪先輩や律先輩や唯先輩と話してた時、私が感じたことだ……)
和「卒業して離れ離れになってしまう。そのことに不安を感じてるのよ。
その不安が膨れ上がって、離れ離れになったらもう二度と会わないような気がして……だから、友達かどうかって不安に襲われちゃったのよ、私の場合は」
梓「そういうこと、ですか……」
和「ええ、そういうこと。
だから唯は、軽音部の皆との場を作ってくれたのね。
そんな不安勘違いだよ、って教えてくれるために。
そしてたぶん、梓ちゃんも同じ不安があるんだよって、私に教えるために」
梓「…………」
和「今、学園祭が近いでしょ?
梓ちゃんはソレに真っ直ぐになることで、不安を紛らわせようとしている。
でもそれって、それが終われば一気に不安が押し寄せてくるって事でしょ?
きっと唯は、そういうのを心配してるのよ」
梓「唯先輩が……」
和「そう。現に私は、生徒会長としての引継ぎが始まりだして、不安が爆発しちゃったの。
だから今、こんなことになってるんだし」
梓「爆発って……」
和「まぁ、別に涙を流したりとかじゃないわ。
でも、もう二度と友達と友達でいられなくなるかもしれないって形で、不安が爆発しちゃって、唯に愚痴みたいな形で打ち明けちゃったの」
梓「でもそれを、解消してくれた……」
和「そう。皆、私の要望に答えてくれた。我侭を聞いてくれた。友達として接し続けてくれた。優しいままでいてくれた。
不安で不安で仕方が無いと、打ち明けたわけでもないのに、不安を解消してくれた。
……友達と友達でいられなくなるかもしれないなんていう、私の勘違いを、正してくれた。
ずっとずっと、友達でいてくれると、暗に示してくれた。
だからもう……いえ、まだ不安はあるけれど……きっと卒業するまで消えてくれないんだろうけど……それでも、頑張れるようにはなれた。
友達と、ずっと友達でいられるって、分かったから」
和「……唯達はね、どうしたら梓ちゃんに、今のこの私と同じ気持ちを抱いてもらえるのか、ずっと考えてるのよ」
梓「私に、ですか……?」
和「ええ。言ったでしょ? 私達は近いって。
梓ちゃんだって、唯達軽音部の先輩が卒業するのは不安でしょ?
……いえ、どちらかというと、怖い、かな?」
梓「…………」
和「その恐怖をどうにかしてあげたいって、唯達は思ってる。
だから近い私の悩みを聞いて、放っておけなかったのよ。
それぐらい、私と梓ちゃんは、近い。
だから私は、梓ちゃんと仲良くなりたいのよ」
梓「……まだ意味が、分かりません」
和「そうね……不安に押しつぶされそうになったら打ち明けてもらえる、梓ちゃんにとってのそんなお姉さんに、私はなりたいのよ。
だって梓ちゃんは……私と一緒で、一人で抱え込んで頑張る子だから」
梓「……っ!」
和「軽音部の先輩はもとより、憂にだって相談できないでしょ? この不安に関しては。
憂だって、唯のこととかで色々と抱えてるものね。
友人としてそういうのが分かっちゃうと、相談できないでしょ?」
梓「でも……それは、和先輩だって、おんなじです」
和「同じじゃないわよ。私はあなたや憂より、一つ年上なんだから」
梓「そんなの……年齢だけじゃないですかっ」
和「後輩わね……先輩に迷惑を掛けても良いって言われたら、いくらでも迷惑をかけていいものよ。
それに私と梓ちゃんは、これから友達になるんだもの。
だったら別に良いじゃない。
相手側が迷惑をかけても良いって言うんなら、いくらでも迷惑かけたら」
梓「……私、沢山甘えちゃいますよ?」
和「構わないわよ。そういうのは、唯や憂で慣れてる。
それに私は今日、皆に沢山甘えたもの。これから、梓ちゃんにだって甘えるもの。
だから……思いっきり泣きなさい」
ギュッ
梓「の、和先輩……」グスッ
和「ほら、こうして強く抱きしめたら、多少なら皆に泣き声が聞こえることは無いでしょ?
それと、制服が汚れることなら気にしなくて良いわ。
だから……ね?」
梓「……はい」
ギュッ…!
和「……今まで、よく頑張ってきたわね」ポンポン
梓「っ~~~!!!」
和「偉いわね、梓ちゃんは」ナデナデ
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唯「なんだかんだ言って、和ちゃんは世話焼きだからね。
あずにゃん見たら、自分と近いって分かってくれると思ったんだよ」
律「和と近い……?」
唯「うん」
澪「確かにそうだな……梓にとっての後輩は入ってきてないし、このまま私たちが卒業したら、梓は一人ぼっちだもんな」
紬「その不安が無いのは、確かにおかしいものね」
唯「私達で何とかしてあげたいけど……でも、私達だからこそ出来ないことってのもあるでしょ?
だから、それを和ちゃんにお願いしたかったの」
澪「でもさ……和も不安だったんだろ?
その、私達と友達じゃない――いや、卒業したら、私達と友達じゃなくなるかもしれないって」
律「友達じゃないかもしれないって不安は、結局のところ、卒業したら疎遠になってしまうかもしれない、って不安が原因だもんな~……」
唯「でも、それを解消した後だったら、和ちゃんはあずにゃんのこと分かってくれると思ったんだよ。そして、支えてくれるとも……」
律「世話焼き、だからか?」
唯「それに、可愛いしねっ」
紬「卒業して、私達と今みたいに会えなくなるかもしれない……確かに、和ちゃんと梓ちゃんは同じよね」
澪「違うところは学年だけか」
唯「だから、近かったんだよ」
律「なるほどな。ま、これで二人共友達になってくれれば」
唯「うん。あずにゃんも、私たちが卒業するまで不安に押し潰されることは無いと思う」
律「後は……」
澪「そうだな……私達で、梓に出来ることを」
紬「考えること、だけね」
唯「うんっ! 和ちゃんにやったみたいに、私達じゃないと出来ないことを、ね」
帰り道
唯「ありがとう、和ちゃん」
和「なにが?」
唯「あずにゃんと友達になってくれて。これで、卒業まであずにゃんは大丈夫だよ」
和「何言ってるのよ。お礼を言いたいのはこっちよ。
私の愚痴を聞いてくれて、叶えてくれて、梓ちゃんと友達になれる機会まで作ってくれて……ホント、良いことだらけだったわ。
あっ、でもちゃんと、あなた達軽音部で梓ちゃんに出来ること、考えておきなさいよ?
このままだと、卒業と同時に梓ちゃん、悲しむだけだからね」
唯「うん。ちゃんと、それからのあずにゃんの支えになるようなこと、不安を解消できるようなこと、皆で考えとくよ」
和「ええ。皆と梓ちゃんが、ずっと繋がってるって証明……ちゃんと、作ってあげなさいよね」
唯「もちろん!!」
唯「あっ、そうだ和ちゃん」
和「ん?」
ギュッ
唯「えへへ~……」
和「どうしたの? 急に腕に抱きついてきたりして」
唯「だって、私だけ和ちゃんに抱きしめてもらってなかったんだも~ん」
和「だって唯は、卒業してもずっと友達だって分かってるし、信じられるからね」
唯「と言うことは、皆は信じられなかったの?」
和「そうよ。でも、今日の出来事で信じられたから、もう大丈夫よ。
と言うより唯、そういうのが分かってて、私を無理矢理軽音部に連れて行ったんでしょ?」
唯「へへ~……バレた?」
和「バレバレよ。でも――」
ギュッ!
和「――ありがとね、唯」
唯「……ううん。こちらこそ、いつもありがとうだよ、和ちゃん」
和「これからも、友達でいてくれる?」
唯「もちろん。私も――軽音部の皆も、和ちゃんと友達だよ」
和「……ありがとう。それじゃあ私――」
和「――明日からこうして、皆を抱きしめたりしていきたいわ」
終わり
最終更新:2010年10月02日 22:36