放課後

純「じゃあ私、先にジャズ研寄ってからにするから、先行ってて?」

梓「はーい。りょうかーい」

憂「また後でね~」

梓「…純も大変だね」

憂「掛け持ちだもんね…負担は大きいよ…」

梓「よし…憂!頑張ろうね、新歓ライブ!かっこいいとこ見せて、新入部員をたくさん獲得するんだ!」

憂「梓ちゃん…うん、そうだね!頑張ろう!」

梓「目指せ!純がいらないくらい上手で美人なベーシストの獲得!」

憂「おーっ!」

純「ぅおいっ!!」

梓「あ、純いたんだ」

純「忘れ物したから戻ってきてみれば…ひどいじゃん二人とも!」

梓「へへへ…朝のお返しだよん」

純「…意外と根に持つ子だな」

梓「冗談だよ。純の足音がしたから言ってみただけだって」

純「もーっ、今度こそ行くからね?」

梓「わかったわかった。ほら、もう大丈夫だから、陰口とかしないから」

純「じゃあ、また後で音楽室でね」

タタタッ




ひょこっ

梓「大丈夫だから行きなさい!」

純「…はーい」

憂「ふふっ、かわいいね、純ちゃん」

梓「まあ、ね…じゃ私たちも行こうか、部室」

憂「うん。いよいよだね…!」

梓「(部室か…もう、いくら待っても先輩たちは来ないんだよね…)」

梓「(あーっ、駄目駄目!部長初日からこんなんじゃ駄目!落ち込んでちゃ駄目!)」

梓「(先輩たちの意志を継いで、もっともーっと、今までで一番素敵な軽音部にするんだ!)」

梓「燃やせ!部長根性!」

憂「気合いっぱいだね、梓ちゃん!」

梓「ひゃぁっ!?ひ、人の心を読まないでよ!」

憂「声に出してたよ~?」

梓「あ、そう…。うはぁ、またか…」

憂「着いたね…。梓ちゃん、先に入りなよ」

梓「え?」

憂「3年生の部活の第一歩は、やっぱり部長さんが踏み出さないと、ね?」

梓「憂…うん、ありがと」

梓「(ここからだ…ここから私たちの、新しい軽音部が始まるんだ…!)」

ガチャッ

梓「よぉーし!頑張る……唯先輩!?」

憂「えっ!?お姉ちゃんがるいの!?」

さわ子「お~そ~い~!」

梓「あ…さわ子先生…そうだよね、唯先輩がいるわけ…ないんだよね」

憂「梓ちゃん…」

梓「私まだ…先輩たちがいるんじゃないかって…助けてくれるんじゃないかって…心のどこかで甘えてるんだね…」

憂「梓ちゃん…で、でも、それはしょうがないよ…」

梓「しょうがなくなんかない!しょうがなくなんか…ないんだよ…」

憂「…梓ちゃん」

ぎゅっ

梓「う、憂!?」

憂「大丈夫、大丈夫。これからだよ、梓ちゃんも、軽音部も…」

梓「…憂…ありがと」

さわ子「あ、あの…何だかごめんなさい…」

梓「あ、そうだいたんですね、先生」

さわ子「いるわよ!私はいつでもあなたたちのそばにいるわよ!」

梓「…使う時と場合によっては良い言葉ですね、それ」

さわ子「まったくもう、ああ言えばこう言うんだから」

憂「じゃあ私、お茶淹れますね~」

梓「ちょっといきなりそれ!?」

さわ子「待ってました!」

憂「だって、今やるべきことは色々な話し合いでしょう?だったらお茶飲みながらのほうがいいよ~」

梓「ま、まあ…その通りか。うん、じゃあ憂、よろしくね」

さわ子「相変わらず梓ちゃんは固いわね~。もっとやわらか~くやわらか~くしないと駄目よ~?3年生なんだし」

梓「さわ子先生…いつにも増してだらけてませんか?」

さわ子「何だかね~、初担任と初卒業生受け持ちを終えたら妙に力が抜けちゃって…」

梓「そうだ、じゃあ気合を入れてあげます!」

さわ子「え~?なになに~?」

梓「律先輩に頂いたものです」

ぴらっ

さわ子「きゃあああああああああああ!!」

憂「ふぇっ!?なに!?なになに!?どうしたの!?」

さわ子「返しなさい!渡しなさい!」

梓「うわっ!ひったくらないで下さいよ、危ないなもう…。さわ子先生が軽音部だったころの写真だよ」

憂「え~?いいな、私も見たいよ~」

さわ子「駄目っ!これは絶対に駄目なのっ!」

梓「じゃあ、後で見せるね。カラーコピーたくさんとってあるから」

さわ子「あぁー、やっぱりあなた…あの子たちの後輩だわ…」

憂「はい、どうぞ。紬さんにはかなわないけど…」

梓「ありがと。うん、いい香り…美味しいよ、憂」

憂「本当?ありがとう~」

さわ子「あー、来た来た…くぅ~っ、この一杯が生きてる証っ!」

梓「先生、もうそのキャラで普段から通したほうが楽なんじゃないですか」

さわ子「誘惑に負けてはお終いなのよ」

梓「そうですか」

憂「はい、お茶菓子もどうぞ」

梓「憂、お菓子まで用意したんだ…私なんか全然気にもしなかったのに」

憂「昨日お姉ちゃんがメールでね、『ちゃんとお茶とお菓子を用意しなさい』って言ってくれたんだ~」

梓「唯先輩が?…気を使ってくれたのかな…」

さくっ

梓「…おいしい」

純「お待たせー。あ、先生もいたんだ」

さわ子「あら純ちゃん。何の御用?」

純「私も軽音部なんです!」

さわ子「やあねえ、知ってるわよ~」

純「…山中先生ってこんな人だったんだ」

梓「まだまだこんなもんじゃないよ」

憂「はい、純ちゃんもお茶どうぞ」

純「あっ、ありがとう憂。…おぉぉう」

梓「何よ変な声出して」

純「いや~、これが噂の放課後ティータイムなんだな~って思ったらさ、なんか感動?」

梓「そういうもんなの?」

純「そういうもんなの!」

梓「ふーん…さてと、全員揃ったことだし、始めますか」

梓「えー、それでは本年度最初の、軽音部ミーティングを始めたいと思います」

さわ子「よっ!部長!」

梓「先生、邪魔するとバラ撒きますよ」

さわ子「ごめんなさいでした…」

梓「えっと、まずは…役職を決めたいと思います。最初に部長ですが…」

純「梓がいいと思いまーす」

憂「私も、梓ちゃんが部長さんをやるのがいいと思います」

梓「あ…じゃ、えっと…私が、部長ということで…よろしくお願いします」

純「がんばれー」パチパチパチ

憂「ふふっ」パチパチパチ

梓「///」

梓「じゃあ次…副部長だけど…どうする?」

純「憂がいいんじゃないかな?私はジャズ研のほうもあるし」

憂「私!?ちゃんとできるかな…」

梓「大丈夫だよ。律先輩が部長で3年間もちゃんとやれてたんだから。まして副部長だしさ」

憂「そっか…うん、じゃあ私、副部長やります!頑張るね!」

純「よっ!副部長!」パチパチパチ

梓「では、ヒラ部員は鈴木さんのみということで」

純「ちょ、わざわざ言わないでよ~!」

梓「あ、トンちゃんがいたか。ヒラ部員は鈴木さんとトンちゃんですね」

トンちゃん「」プクプクプク…

純「…よろしく」

梓「じゃあ次…担当する楽器について」

純「あ…」

梓「ん?どうかしたの?」

純「いや、ちょうど学校来る時に憂とその話したんだよね」

憂「うん、そうなの。結局何も決まらなかったけどね」

梓「そっか。憂はどうなの?何かやりたい楽器とか、ある?」

憂「ううん…やりたい、というか、キーボードなら少しはできるんだけど…」

純「できるんだけど、ね…」

梓「何よ、二人とも煮え切らない言い方」

純「憂が言うにはね、キーボードがいてドラムがいないバンドは変だって」

梓「あー、…うーん…まあ確かにそう言われればそうかも」

憂「…うん、やっぱり私、ドラムやるよ」

純「いいの、憂?」

憂「やっぱりその方が見栄えがよくて、新入生もかっこいいバンドだなーって思ってくれると思うから…」

純「そっか。まあ、憂がそう言ってくれるなら、それでいいのかな」

さわ子「…アンタ達、舐めたこと言ってんじゃ…」

梓「駄目だよ、そんなの!」

純「梓!?」

憂「梓ちゃん…!・」

梓「そんなの駄目!駄目なの!!」

純「駄目駄目って…何が駄目なのさ?憂も自分からドラムやるって言ってるんだよ?」

梓「でも!でもそうじゃないの!軽音部は、そうじゃないの!」

梓「確かに…新入部員は必要だけど…でも、そのためにバンドやったって、意味ないよ!」

憂「梓ちゃん…」

梓「自分がやりたい楽器をやって、楽しいって…そう思えなきゃ、バンド組む意味なんか…ない…!」

純「梓…」

梓「そんな…裏でそんな計算してる人たちの演奏なんかじゃ…誰も感動させられないよ…」

梓「あっ…ご、ごめん憂!違うの、憂を、その、悪く言いたいんじゃなくて、その…」

憂「ううん。わかってるよ。…梓ちゃん、ありがとう」

純「ハァ…まったく梓はいつまでたってもお子ちゃま意見だね…うん、やっぱりバンドはやりたいものやるから楽しいんだよね…忘れてた」

梓「憂…純…」

憂「私…私のやりたい楽器をやるよ!…いいよね?」

純「もちろん!」

梓「…うん。で、憂は…何をやりたいの?」

憂「えっと…あのね?…その…」

純「なに~?ハッキリ言いなさいよ~!」

憂「うん、その…ギターをやりたいんだけど…」

梓「ギター?キーボードじゃないんだ?」

憂「うん…だって…お姉ちゃんといっしょだし…」

梓「あぁー…なるほどね…まったくこの子は」

憂「えへへ…」

純「ツインギターにベースか…珍しいバンド構成だねこりゃ」

憂「やっぱり変だよね…」

純「こりゃあリズム隊の責任重大だね、腕が鳴るよぉ~!」

憂「純ちゃん!」

梓「…うん、じゃあ、担当楽器はこれで…決まりだね」

純「あ、そういえばさっき先生何か言いかけてませんでした?」

さわ子「へっ?ああいいのいいの!言おうとしたことはあらかた梓ちゃんが言ってくれたから。うん、うん!」

梓「先生…うん、じゃあ…次は曲、どうしよっか」

憂「曲かぁ…ライブまで時間はあんまりないし、今から作るのは難しいよね」

純「梓、何か曲のストックとかないの?今まで密かに作ってました~みたいな」

梓「…面目ない」

純「そっか…あっ!先生!先生なら今から曲のひとつやふたつ…」

さわ子「さ~て、そろそろ職員室に戻ろうかしらぁ」

純「…まあ、そうでしょうね」

梓「今回は、曲はふわふわとかふでペンとかにするしかないね…後で澪先輩に使用許可もらっとこ」

純「あっ!ボーカルは!?」

梓「あ、そうか…それも考えなきゃか。じゃあ純お願いね」

憂「よろしく~」

純「えぇ!?いやいやいやいや何でいきなり任命!?」

梓「うぅん、どうしようか。私はあんまり自信ないなぁ」

憂「私もそんなに得意じゃないかな…」

純「わ、私だって苦手だよ!」

梓「でも…ベースかつボーカルってまさに澪先輩のポジションなんだよね…純の憧れの」

純「むぅ…梓め、卑怯な子になりおって…」

梓「あ、でもその伝でいけば憂がボーカルでもいいんだ。唯先輩のポジションだもん」

憂「ふあぁ~!お姉ちゃんと同じかぁ…それはいいよねぇ~」

梓「(扱い易いな…)」

梓「まあ…ボーカルは一旦おいておくとして…とりあえずこんなもんかな。あと何か決めることはある?」

さわ子「はいっ!」

梓「…えーと、部員の方で何かご意見のある方は…」

さわ子「はいっ!!」

梓「…さわ子先生」

さわ子「お茶とお菓子の担当についてですが!」

梓「先生、もう少し顧問らしい発言はできないんですか…?」

さわ子「あなたたちが今まで私に顧問らしさを求めなかったからこうなったのよ?」

梓「…ああ、そりゃどーも」

純「そういえば今まではお茶やお菓子は部費から出してたの?」

梓「ううん、何もかもむぎ先輩が用意してくれてた。お菓子なんか毎日色んなもの持ってきてくれてたよ」

純「毎日?はぁー…うらやましい」

さわ子「でも、もうむぎちゃんはいないのよね…」

梓「この際、お茶もお菓子も一切なしにするというのは」

さわ子「…あなたがそれでいいなら構わないけど…我慢できる?」

梓「もちろんですよ!…まあでも、たまには少しくらいは…」

さわ子「へぇ~」ニヤニヤ

梓「うぅっ…」

純「毒されたね~あんたも」

梓「ま、まあお茶とお菓子はありでいいとして、問題はどうやって用意するかですね」

憂「私が全部用意するよ~」

さわ子「あら!ありがとう助かるわ~」

梓「…駄目でしょうどう考えても」

憂「え?駄目かな…」

梓「駄目だよ、お金すごくかかっちゃうよ?」

憂「で、でも手作りなら安い材料費でたくさん作れるし…」

梓「結局手間も時間もお金もかかっちゃうよ。駄目駄目、憂だけに負担はかけられないよ」

純「じゃあ部費から出せば?」

梓「毎日のお菓子代に回せるほどの余裕はありません!」

さわ子「じゃあどうすればいいのよ~!」

梓「あ、そうか。じゃあ先生、毎月2万円出してください」

さわ子「へぇっ!?何それ!?」


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最終更新:2010年10月05日 00:11