◆(梓目線+後日談)

澪先輩に告白した。
朝、悩んで悩んで迷った末、私は澪先輩に呼び出しのメールを送った。
澪先輩はちゃんと来てくれた。
私は言った。ずっと心に溜めていた想いを澪先輩に打ち明けた。
これですっぱりと澪先輩を諦められると思った。

けど、やっぱり心のどこか奥底では少しだけ、期待していた。
諦めなきゃ、諦めなきゃと思うほど、頭は澪先輩のことでいっぱいになった。

だから澪先輩が私を受け入れてくれたとき、素直に嬉しかったし幸せだと思った。
でも澪先輩は違った。澪先輩の表情は固くて、私の好きな澪先輩の笑顔を見せてくれなかった。

無理してるんだと悟った。正直、これならちゃんと振ってもらえばよかったと
思った。それでも私は澪先輩が好きで。大好きで。

休憩時間、友達に聞いた律先輩と澪先輩の喧嘩話。澪先輩が泣いていたと聞いて
急いで部室へ行くとそこには澪先輩を泣かせた張本人と、乱れた格好の澪先輩。
澪先輩は何度も「ごめん」と謝った。これでいいんだって何度も自分に言い聞かせた。
私はそのとき、初めて本気で律先輩を妬んだ。けどそれ以上に律先輩が羨ましいと思った。

その後のことは良く知らない。

私はまだ誰も居ない部室で、トンちゃんの水槽を指で突きながら溜息をついた。
まだ少し、傷は癒えてない。
律先輩は今日も澪先輩のお見舞いに行っているそうだ。

澪先輩は一ヶ月前、交通事故で重症を負った。命を落とさなかったのが奇跡的
と言われるくらいの事故だったらしい。一時期意識不明の重態だったが今は
『愛の力』(律先輩談)らしきもので順調に回復に向かっているらしい。

律先輩、最近本当に幸せそうだ。きっと、病院にいる澪先輩も同じなんだろう。
私はあれから一度も病院を訪れていない。まだ笑って会える自信がないから。

「梓ちゃん?」

何の気配もなかったから、心臓が飛び出るほど驚いた。驚きすぎて声も出ない。
いつのまにか、背後にはムギ先輩が立っていた。

「む、ムギ先輩っ!」

辛うじてそう声を発すると、ムギ先輩は一瞬きょとんとしてから驚かせちゃったー?と
いつもどおりのふんわりとしながら笑った。

そういえば、ムギ先輩もつい昨日、唯先輩と「失恋しちゃったの」とか話してたっけ。
「失恋しちゃったの」があまりにも明るい言い方だったからてっきりその時は冗談かと
思ったけど、今よくムギ先輩を見てみるといつもより元気がないように思えた。
相手はきっと、律先輩だ。

ムギ先輩は定位置に座りながら「どうしたの?」と言った。
私は突然とわれ「は?」と間抜けな顔をして返した。そしてそういわれたのは自分が
じろじろとムギ先輩を見てたからだと気付いて「あ、いえ」と慌てて首を振った。

ただ、……ムギ先輩も辛いのかなって。そう思ってただけ。
ムギ先輩はうーん、と顎に手をあてる名探偵お馴染みのポーズをとると、
「澪ちゃんかりっちゃんのことでしょ?」と言った。

「へ?」

違うとも違わないとも言えない。今考えてたことはムギ先輩のことだけど、けど
その二人もある程度関係していて。
ムギ先輩は私専用のカップにお茶を淹れると、「はい」と私の前に置いた。
「ありがとうございます」とお礼を言い、一口紅茶を啜った。
今日の紅茶は少し苦かった。

「ねえ、梓ちゃん」

「はい?」

私は熱いお茶を冷ますのに苦労しながらムギ先輩のほうを見た。
ムギ先輩は至って普通の顔で爆弾発言をしてくれた。


「私たち、付き合っちゃいましょうか」



――はい?


お茶を噴出さなかったことが澪先輩の命が助かったことより奇跡に思えた。
いや、勿論こんなことと比べるなって話なんだけど。

「つつつ、付き合うって……!?」
「だって、唯ちゃんと和ちゃん、それからりっちゃんと澪ちゃん、軽音部で残った
の私たちだけじゃない。お試し期間で誰かと付き合うの、夢だったのー」

いや、それ、何の漫画見たんですかムギ先輩。
ムギ先輩は私を見ながら「ダメ?」と訊ねてきた。その様子があまりにも捨てられた
子犬みたいで、私は思わずいいえ、と首を振っていた。



未完



最終更新:2010年10月05日 21:40